ウエンガー事件 知財高裁平成29年6月8日判決 

 本件は、不使用取消審判の被請求人であった原告が使用証拠を提出しなかった為、取消審決がされたことに対する審決取消訴訟事件です。
 本件訴訟において注目されたのは、原告が使用証拠として提出したベルトに通すことにより腰に装着することが可能な収納用具が指定商品である、第18類「small
personal leather goods」(革製の小さな身の回りの物)等に該当するのか、それとも被告の主張するとおりナイフ専用のレザーケースとして第8類の商品となるのかということです。

 知財高裁は、原告商品は第18類「smallpersonal leather
goods」(革製の小さな身の回りの物)に該当するとの判断をし、原告は、要証期間内に日本国内において、本件商標の通常使用権者が、商標登録取消請求に係る指定商品の一部に、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用していたことを証明したものと認められるから原告の請求には理由があるとして審決を取消す判決を出しました。

知財高裁の判断
「本件商品1~3は,いずれも,革製で略直方体のケースである。蓋の表面には,本件商標が刻まれ,その右側に『WENGER』の欧文字が刻まれ,さらにその右肩に『®』が刻まれている。(甲9,10,18)本件商品1は,『エヴォグリップS54以外の85mmナイフに適合する革ケースです。』,本件商品2は,『130mmのスイスアーミーナイフに適合する革ケースです。』,本件商品3は,『ネイルクリップを含む全ての65mmナイフに適合する革ケースです。』と説明されている(甲16)。上記『85mmナイフ』『65mmナイフ』は,ビクトリノックス日本支社において取り扱っている商品である,85mm,65mmの『スイスアーミーナイフ』を意味しており,上記『130mmのスイスアーミーナイフ』を含む『スイスアーミーナイフ』は,刃物であるナイフ及びその他のさまざまなツール(爪切り,爪ヤスリ,爪そうじ,ドライバー,栓抜き,穴あけ,つまようじ,ピンセットなど)をまとめて携帯することができるものである(甲18)。...本件商品1~3は,革製のケースであって,スイスアーミー ナイフに適合するものとして販売されているものの,その形状は略直方体であってスイスアーミーナイフ以外の物を収納することも可能であること,その販売形態は,収納物を伴うことなく本件商品1~3のみで購入することが可能であること,スイスアーミーナイフには,刃物であるナイフ等以外に,栓抜きやつまようじなど,他の物も組み込まれていることからすると,第18類「small
persona l leather goods」(革製の小さな身の回りの物)に該当するということができる。」

音楽マンション事件 知財高裁平成29年5月17日判決 

 本件は、商標「音楽マンション(標準文字)」(以下、「本件商標」とする。)の商標法3条1項6号該当性について争われた事件です。
 本件訴訟の原告は、平成14年8月30日に、本件商標と同じ文字から構成される「音楽マンション」について商標登録出願を行いましたが、商標法3条1項各号・4条1項16号を理由とする拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求しなかったことから拒絶査定が確定しています。
 しかしながら、原告の拒絶査定が確定後に被告が本件商標を出願し登録されてしまったため、原告は商標法3条1項6号を理由とする無効審判請求を行いました(無効2015-890094号)が、本件審判の請求は成り立たないとの審決謄本が原告に送達されました。原告はこれを不服として、本件訴訟を提起しました。
 原告の審決取消事由は、①審決認定の誤り、②平等原則,禁反言の原則,信義則の各違反の2点です。
 知財高裁は、①については、本件商標「音楽マンション(標準文字)」は識別力があり商標法3条1項6号に該当するものとは認められない、②については、原告は、不服審判請求をするなどして正しい判断を求めなかったのであるから、原告の主張は、失当であるとして原告の請求を棄却しました。
 知財高裁の判断内容は以下の通りです。

知財高裁の判断
取消事由1 審決認定の誤りについて
「本件商標は,『音楽マンション』という文字から構成されているところ,音楽という文字とマンションという文字をそれぞれ分離してみれば,前者が『音による芸術』を意味し,後者が『中高層の集合住宅』を意味するところ,両者を一体としてみた場合には,その文字に即応して,音楽に何らかの関連を有する集合住宅という程度の極めて抽象的な観念が生じるものの,これには,音楽が聴取できる集合住宅,音楽が演奏できる集合住宅,音楽家や音楽愛好家たちが居住する集合住宅などの様々な意味合いが含まれるから,特定の観念を生じさせるものではない。そうすると,『音楽マンション』という文字は,原告が使用する『ミュージション』と同様に,需要者はこれを造語として理解するというのが自然であり,本件商標の指定役務において,特定の役務を示すものとは認められない。したがって,『音楽マンション』という文字は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものとはいえない。」

取消事由2 平等原則,禁反言の原則,信義則の各違反
「原告は,本件商標と同一の文字からなり同一の指定商品又は指定役務に属する『音楽マンション』につき,特許庁は過去において拒絶査定をしたにもかかわらず,本件商標を登録査定したのは,平等原則,禁反言の原則,信義則にそれぞれ違反するなどと主張する。しかしながら,前記2のとおり,『音楽マンション』という文字は,本件商標の指定役務において,特定の役務を示すものとはいえず,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものとはいえないから,本件商標は,商標法3条1項6号に該当するものとは認められない。そうすると,上記拒絶査定は,どのような資料に基づいて判断されたかは必ずしも明確でないものの,商標法3条1項6号該当性についての判断に誤りがあるものといわざるを得ないから,これに対する不服審判請求に係る審決等において取り消されるべきものと解される。それにもかかわらず,原告は,不服審判請求をするなどして正しい判断を求めなかったのであるから,原告の主張は,失当であるというほかない。」

エマックス事件 平成29年2月28日 第三小法廷判決

 本件は、米国法人であるA(以下「A社」という。)との間で同社の製造する電気瞬間湯沸器(以下「本件湯沸器」という。)について日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し,「エマックス」,「EemaX」又は「Eemax」の文字を横書きして成る各商標(以下「被上告人使用商標」と総称する。)を使用して本件湯沸器を販売している被上告人が,本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売している上告人に対し、被上告人使用商標と同一の商標を使用する上告人の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するなどと主張して、その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求めた事案です。
 上告人と被上告人は、かつて販売代理店契約を締結していましたが、その後、上告人と被上告人との間に紛争が生じ、平成18年6月に提起された上告人の被上告人に対する損害賠償請求訴訟において、平成19年5月25日に販売代理店契約が同日現在において存在しないことの確認等を内容とする訴訟上の和解が成立しました。
 上告人は、「エマックス(標準文字)」(第4895484号)、「エマックス\EemaX」(第5366316号)の商標権について登録を受けました。
 平成21年7月、被上告人の上告人に対する不正競争防止法に基づく差止等請求訴訟が提起され、その控訴審において、平成23年7月8日、上告人が「エマックス」という商品名を使用しないことを誓約することなどを内容とする訴訟上の和解が成立したが、上告人は,その後も、被上告人使用商標と同一の商標を使用して本件湯沸器の販売を継続していました。
 被上告人は、平成24年12月、本件本訴を提起し、平成25年12月、上告人から本件反訴を提起されました。
 本件訴訟の争点は、被上告人の、①商標法47条1項の除斥期間の経過後に無効の抗弁(商標法39条において準用される特許法104条の3第1項)が認められるのか、②権利濫用の抗弁(民法1条3項)は認められるのかです。

争点①商標法47条1項の除斥期間の経過後に無効の抗弁が認められるか
 最高裁は、不正競争の目的がある場合を除き、除斥期間の経過後は無効理由の抗弁は認められないとしました。最高裁の判断は以下の通りです。

「商標法47条1項は,商標登録が同法4条1項10号の規定に違反してされたときは,不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き,商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経過した後はその商標登録についての無効審判を請求することができない旨定めており,その趣旨は,同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが,商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決・裁判集民事217号317頁参照)。そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。」

争点②権利濫用の抗弁(民法1条3項)は認められるのか
 最高裁は、自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者については、権利濫用の抗弁が認められるとしました。最高裁の判断は以下の通りです。

「商標法4条1項10号が,商標登録の出願時において他人の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という。)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標につき商標登録を受けることができないものとしている(同条3項参照)のは,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品等の出所の混同の防止を図るとともに,当該商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている者の利益と商標登録出願人の利益との調整を図るものであると解される。そうすると,登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に,当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも,商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは,特段の事情がない限り,商標法の法目的の一つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして,権利の濫用に当たり許されないものというべきである。(最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当である。」

ZOLLANVARI事件 平成29年(ネ)第245号 商標権侵害差止等請求控訴事件(原審 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第5578号)

 本件は、ZOLLANVARI 社(以下「ゾ社」という。)と日本において総代理店契約を締結し、ゾ社の同意を得て、日本国内において商標権を有する控訴人が、被控訴人を商標権侵害で訴えた事件です。
 本件では、被控訴人の行為が真正商品の並行輸入に該当するかどうかが争点となりました。

 並行輸入については、フレッドペリー最高裁事件がありますが、この高裁判決でもフレッドペリー事件が引用されています。
 フレッドペリー最高裁判決で示されている真正商品の並行輸入の要件は以下の通りです。

「商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は,許諾を受けない限り,商標権を侵害するが,そのような商品の輸入であっても,① 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,② 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,③ 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には,いわゆる真
正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解される」(フレッドペリー事件最高裁判決)

 大阪高等裁判所は、被控訴人の行為は真正商品の並行輸入に該当するので、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものであるとして控訴人の請求を棄却しました。
 大阪高等裁判所の判断は以下の通りです。

大阪高等裁判所の判断

「・・・被控訴人標章1が記載された被控訴人タグは,ゾ社によって被控訴人商品に付されたと認められる。・・・ゾ社は,イランにおいて,『ZOLLANVARI』をペルシア文字で表記した商標の登録を出願したが拒絶され,『ZOLLANVARI』に関する商標について商標権を取得していないことが認められる。しかし,証拠によれば,ゾ社は世界各地に直営店を設けている中で,日本においては,控訴人が,ゾ社の総代理店として,直営店と同じ扱いと待遇を受けていると認められる。それに加えて,控訴人は,前記のとおり,ゾ社から権限を授与されて初めて控訴人商標の登録を受けることができたのであるから,ゾ社がイランにおいて商標権を有している場合と実質的には変わるところがないといえる。そうすると,被控訴人が,被控訴人標章1が付された被控訴人商品を輸入した上,これを販売し,販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為は,控訴人商標の出所表示機能を害することがないといえる。本件の証拠上,ゾ社と控訴人との間の総代理店契約において,控訴人が控訴人商品の品質管理に直接関与していることを示すものはなく,控訴人商品の品質管理は,基本的にはゾ社において行われているものと認められる。これに対し,被控訴人商品については,前記2のとおり,ゾ社から,被控訴人が日本国内で販売することを前提として販売されたものであると認められるから,被控訴人商品の品質については,これが日本において販売されることを前提としてゾ社において管理しているものと認められる。そうすると,ゾ社が外国における商標権者でなくても,控訴人商品につき,控訴人商標の保証する品質は,控訴人がゾ社を通じて間接的に管理をしていて,そのゾ社が,控訴人商品と同じく日本に輸出して日本において販売される商品として被控訴人商品の品質を管理しているのであるから,被控訴人商品と控訴人商品とは,控訴人商標の保証する品質において実質的に差異がないといえる(本件は,被控訴人商品と控訴人商品のいずれも,ゾ社の下で製造されているという点において,フレッドペリー事件最高裁判決の事案と異なるということがいえる。)。・・・控訴人商品についても,その品質管理を実質的に行っていると認められるゾ社自身が,控訴人商品と同じく日本に輸出して日本において販売される商品として被控訴人商品を被控訴人に販売している以上は,被控訴人商品と控訴人商品とは,控訴人商標の保証する品質において実質的に差異がないとの評価は左右されず,被控訴人商品と控訴人商品の品質が同一とまではいえなくても,控訴人商標の品質保証機能を害することはないというべきである。そうすると,被控訴人が,被控訴人標章1が付された被控訴人商品を販売し,販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為は,控訴人商標の品質保証機能を害することがないといえる。前記ア及びイのとおり,被控訴人が,被控訴人標章1が付された被控訴人商品を販売し,販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為(前記(1)ア②の行為)は,控訴人商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく,また,以上に述べたところによれば,商標を使用する者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうものでもないから,商標権侵害としての実質的違法性を欠くというべきである。」

知財高裁平成28年4月12日判決「フランク三浦」事件

本件訴訟の原告は、手書き風のカタカナと漢字からなる「フランク三浦」(以下、「本件商標」とする。)について、第14類「時計、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、キーホルダー、身飾品」を指定商品として平成24年3月27日に出願し、平成24年7月31日に登録査定を受け、平成24年8月24日に商標権の設定登録を受けました。

本件訴訟の被告は、登録第4978655号商標「フランク ミュラー(標準文字)」(以下、「引用商標1」とする。)、登録第2701710号商標「FRANCK MULLER」(以下、「引用商標2」とする。)、国際登録第777029号商標「FRANCK MULLER REVPLUTION」(以下、「引用商標3」とする。)の商標権者です。

被告は、本件商標は、被告が所有する引用商標1から3に類似するので商標法第4条1項11号他の無効理由を有するとして、平成27年4月22日に無効審判の請求をしました。

特許庁は、本件請求について無効2015-890035号事件として審理し、平成27年9月8日、「登録第5517482号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を行いました。

原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、本件商標と被告の引用商標1~3の称呼は類似するものの、「三浦」は日本人の一般的な姓、「フランク」は、外国人の一般的な名前であることから本件商標からは「フランク三浦」との名ないしは名称を用 いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対し、引用商標1~3からは、外国の高級ブランドである被告商品の観念が生じるから、両者は観念において大きく相違し、また外観において明確に識別し得るから本件商標は、引用商標1~3のいずれとも類似するとはいえない商標であるとして特許庁の審決を取消しました。

知財高裁平成28年1月20日判決「REEBOK ROYAL FLAG」事件

原告は、平成25年7月4日に「REEBOK ROYAL FLAG」の欧文字を標準文字で表して成る商標(以下「本願商標」とする。)について、指定商品を第25類「履物、運動用特殊靴、帽子・その他の被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、仮装用衣服、運動用特殊衣服」として、商標登録出願をしました。

本願商標は、引用商標「ROYAL FLAG」に類似するので商標法4条1項11号に該当するとして、拒絶査定を受けたので、原告は拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けたので、原告は本件審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、本願商標の内、「REEBOK」の部分は、指定商品である第25類「履物、運動用特殊靴、帽子・その他の被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、仮装用衣服、運動用特殊衣服」の分野において、原告の商標として広く知られていること、及び英語で「王の、王室の」等を意味する「ROYAL」と、「旗」を意味する「FLAG」はいずれも我が国において広く知られている外来語であることから「ROYAL FLAG」の部分は本願商標の指定商品の品質、内容等を直接表示するものではないとしても、取引者、需要者が日常において接するありふれた一般語であって、見る者に対して商品出所識別標識として格別に強い印象を与えるものではないとして、本願商標は「REEBOK」の部分か、または「REEBOK ROYAL FLAG」の商標全体で類否判断すべきであるとした上で、本願商標と引用商標「ROYAL FLAG」は非類似であるとの判断を行い、特許庁の審決を取消しました。

知財高裁平成27年11月30日判決「肉ソムリエ」事件

原告は、平成25年10月7日に第29類「食肉」、「肉ソムリエ(標準文字)」について商標登録出願を行いましたが、本願商標は3条1項3号に該当するので、登録することができないとして拒絶査定を受けました。原告は拒絶査定不服審判を請求ましたが、請求は棄却されました。原告は、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「本願商標は,『肉ソムリエ』の文字を標準文字で表してなるものであり,本願商標から『ニクソムリエ』の称呼が生じる。大辞林第三版(平成18年10月27日発行。乙1及び2)によれば,本願商標を構成する『肉』の語は,『【1】動物の骨や植物の種子に付着した柔らかい部分。【2】食用とする鳥獣のにく。【3】からだ。【4】生身のからだだけで器具を用いないこと。【5】血縁であること。【6】印肉のこと。』を意味し,『ソムリエ』の語は,『ワインに関する専門的知識をもち,レストランなどで客の相談に応じてワインを選ぶ手助けをする給仕人。』を意味することが認められる。そして,本件審決日以前にウェブサイトに掲載された情報として,【1】『現在日本ではワイン以外でも○○ソムリエと,様々な専門分野に特化した専門家を○○ソムリエと呼ぶ事があります。』との記載に続き,『資格を取得出来るソムリエやまた,ソムリエと同じく専門特化している資格等』の例として,『日本酒ソムリエ』,『焼酎ソムリエ』,『コーヒーソムリエ』...などが紹介され(2012年(平成24年)10月27日付け『777NEWS』。乙3)...加えて,市民講座『丸の内朝大学』の2013年(平成25年)度秋学期クラス一覧(乙16)に,食肉の選び方,買い方や保存法,調理法等を学ぶ講座として開講される『No Meat No Life 肉ソムリエクラス』が挙げられていること,2013年(平成25年)4月16日付け日本経済新聞朝刊(乙17)に,『丸の内朝大学』が開講する講座に関し,『食肉の選び方や料理法などを,食べながら学ぶ【肉ソムリエ】が一番の人気だ。』との記事があることが認められる。そうすると,本件審決日当時,『肉』の語と『ソムリエ』の語を結合させた『肉のソムリエ』の語が,食肉業者間で『食肉技術専門士』の別称として用いられ,また,『肉ソムリエ』,『肉のソムリエ』,『お肉ソムリエ』などの語が,食肉の選択や品質管理等についての専門的知識を有する者を意味する語として用いられる例があったことが認められる。本願指定役務である『肉食を中心とすることで健康を維持・促進するための肉の選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなど』に関する資格検定試験の実施,資格の認定及び付与,資格検定試験に関する情報の提供,資格取得に関する知識の教授に係る事業の取引者,需要者には,食肉の選択や調理等についての専門的知識の修得に関わる食肉業者や一般消費者などが含まれるところ,前記(2)認定の事実によれば,本願商標を構成する『肉ソムリエ』の語は,本件審決日当時,かかる取引者,需要者によって,『肉(食肉)に関する専門的知識を有する者』を意味する語として,一般に認識されるものであったことが認められる。そして,『資格検定試験の実施』,『資格の認定及び付与』などの役務においては,『資格』の内容は,当該役務の質(内容)を構成するものといえる。そうすると,本願商標は,本件審決日当時,本願指定役務に使用されたときは,当該『資格検定試験の実施,資格の認定及び付与,資格検定試験に関する情報の提供,資格取得に関する知識の教授』に係る資格が,『肉(食肉)に関する専門的知識を有する者』に関するものであるという本願指定役務の質(内容)を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他役務識別力を欠くものというべきである。加えて,本願商標は,標準文字で構成されているから,『肉ソムリエ』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるというべきである。」として、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するとの判断をしました。

「湯~トピアかんなみ」事件控訴審 知財高裁平成27年11月5日判決

本件は、東京地方裁判所平成25年(ワ)第12646号「湯~トピアかんなみ」事件の控訴審です。原審では、原告商標の「湯~とぴあ」の部分と被告標章の「湯~トピア」の部分がそれぞれ要部であるとされ、被告標章は、原告商標に類似すると判断され、被告標章の使用差止と損害賠償請求が認められました。被告側は、これを不服として控訴しました。

知財高裁は、入浴施設の提供という指定役務の分野において「ユウトピア」の称呼を含む施設が国内において相当数あることから、原告商標の「湯~とぴあ」の部分と被告標章の「湯~トピア」の部分の自他役務識別力は弱いので、原告商標は「ラドン健康パレス\湯~とぴあ」、被告標章は「§湯~トピアかんなみ\IZU KANNAMI SPA」のうち、「湯~トピアかんなみ」の部分で類否判断するべきであるとしました。

知財高裁は、「原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である『湯~トピアかんなみ』とを対比すると、原告商標からは、『ラドンケンコウパレスユートピア』の称呼及び『ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じ、被告標章の「湯~トピアかんなみ』の部分からは、『ユートピアカンナミ』の称呼及び『函南町にある、理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じることが認められるから、原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分とは、称呼及び観念を異にするものであり、また、外観においても著しく異なるものであることが明らかである。その上、前記(4)のとおり、全国の入浴施設については、同一の経営主体が各地において同様の名称を用いて複数の施設を運営することがあり、原告商標及び被告標章にはいずれも『ユートピア』と称呼される『湯~とぴあ』又は『湯~トピア』の文字部分が含まれていることを考慮しても、原告商標と被告標章との外観上の相違点、原告施設及び被告施設以外で、『湯ーとぴあ』又はこれに類する名称を用いた施設が全国に相当数存在すること、被告施設の所在地、施設の性格及び利用者の層などの事情をも考慮すれば、原告商標と被告標章とが、入浴施設の提供という同一の役務に使用されたとしても、取引者及び需要者において、その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。」として、原告商標と被告標章は非類似であるとしました。

サンローラン事件 平成27年12月10日知財高裁判決

被告は、指定商品を第3類「人造じゃ香、その他の香料類(薫料・香精・天然じゃ香・芳香油を除く。)、吸香、におい袋、香水、その他の香水類、フケ取り香水、香油、髪膏、おしろい、化粧下」とするカタカナ文字を書してなる商標「サンローラン」(以下、「本件商標」とする。)について、商標権を有しています。

原告は、本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないとして特許庁に対し商標法50条1項に基づき不使用取消審判を請求しました。特許庁は本件を、取消2013-301103号事件として審理しました。

特許庁は、売上伝票、払込取扱票及び美容室の代表者の購入確認書等から使用が認められるとして「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「被告が、平成25年11月25日、ローナ美容室に対して販売した『商品コード/品名:オーデトワレ(フローラルグリーン)』の商品パッケージは、ローナ美容室の代表者であるA作成・提出に係る購入確認書記載の写真に掲載されたものであって、商品パッケージの裏面には『サンローラン』の表示がされていることが認められる。そして、同表示は、本件商標と社会通念上同一の商標ということができる。また、商品である『オーデトワレ(フローラルグリーン)』は、香水の範ちゅうに属するものと認められる。...(被告の)各行為は、商標法2条3項2号の『商品の包装に標章を付したものを譲渡し』に当たるというべきである。」として、被告は本件商標と社会通念上同一と認められる商標使用しているとしました。
原告は、被告が提出した証拠は、被告との関係性の強い取引先の代表者の購入確認書であり、「極めて主観的で証拠価値の認められない、いつでも容易に準備作成可能な証拠」であり、客観性を欠くとの主張をおこなっていますが、これに対して知財高裁は、「被告取引先の各代表者の作成・提出に係る購入確認書(乙13、14)は、その体裁、内容及び作成名義等について、特段、疑義を生じさせるものではなく、同購入確認書の記載内容に従って事実認定をすることができないとする根拠はない。原告は、上記購入確認書について、その信用性を疑わせるに足りる具体的事実を何ら主張立証しないのであって、その証明力を弾劾する主張立証活動も行うことなく、被告取引先の各代表者が作成・提出したものであり、容易に準備作成可能な証拠であるとの理由だけで、同購入確認書を、極めて主観的で証拠価値の認められないものであると主張するものにすぎない。」として原告の主張を退けました。

肉ソムリエ事件 知財高裁平成27年11月30日判決

原告は、「肉ソムリエ」(標準文字)(以下、「本願商標」とする。)の商標について出願しましたが、3条1項3号に該当するとして、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判の請求と同日付で指定商品及び指定役務を補正しました。尚、補正前後の指定商品・指定役務は以下の通りです。

(補正前)
第29類「食肉」

第41類「食に関する資格検定試験の実施、資格の認定及び付与、資格検定試験に関する情報の提供、資格取得に関する知識の教授」

(補正後)
第29類「食肉」

第41類「肉食を中心とすることで健康を維持・促進するための肉の選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなどに関する資格検定試験の実施、肉食を中心とすることで健康を維持・促進するための肉の選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなどに関する資格の認定及び付与、肉食を中心とすることで健康を維持・促進するための肉の選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなどに関する資格検定試験に関する情報の提供、肉食を中心とすることで健康を維持・促進するための肉の選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなどに関する資格取得に関する知識の教授」(以下、この指定役務を「本願指定役務」ということがある。)特許庁は、上記請求について不服2014-19333号事件として審理し、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

本件訴訟の争点は、本願商標の3条1項3号該当性です。

知財高裁は、「本願商標は、『肉ソムリエ』の文字を標準文字で表してなるものであり、本願商標から『ニクソムリエ』の称呼が生じる。大辞林第三版(平成18年10月27日発行。)によれば、本願商標を構成する『肉』の語は、『【1】動物の骨や植物の種子に付着した柔らかい部分。【2】食用とする鳥獣のにく。【3】からだ。【4】生身のからだだけで器具を用いないこと。【5】血縁であること。【6】印肉のこと。』を意味し、『ソムリエ』の語は、『ワインに関する専門的知識をもち、レストランなどで客の相談に応じてワインを選ぶ手助けをする給仕人。』を意味することが認められる。そして、本件審決日以前にウェブサイトに掲載された情報として、【1】『現在日本ではワイン以外でも○○ソムリエと、様々な専門分野に特化した専門家を○○ソムリエと呼ぶ事があります。』との記載に続き、『資格を取得出来るソムリエやまた、ソムリエと同じく専門特化している資格等』の例として、『日本酒ソムリエ』、『焼酎ソムリエ』、『コーヒーソムリエ』...【2】『ソムリエといえば客の好みや料理に合わせてワインを選ぶ人のことをいいますが、最近では『専門的な知識を持っている人』という意味として使われることも増えています。その中でも今回は、ワイン以外のものに関係する食べ物のソムリエをいくつかご紹介しましょう。』との記載に続き、資格の認定等が行われている例として『オリーブオイルソムリエ』、『だしソムリエ』...【3】資格の認定等が行われている例として『タオルソムリエ』、『温泉ソムリエ』...が紹介されている(同月7日付け『マイナビニュース』。)ことからすると、本件審決日当時、『ソムリエ』の語の前に商品や食品、事柄を表す語を結合した語は、当該商品等についての専門的知識を有する者を意味する語として、一般に理解されていたことが認められる。さらに、食肉業者や肉料理を提供する飲食店においては、食肉技術専門士協会の認定資格である『食肉技術専門士』を『肉のソムリエ』と称することがあるほか、商品である食肉の選択や品質管理等についての専門的知識を有する者を指す語として、『肉のソムリエ』、『お肉ソムリエ』、『肉ソムリエ』、『ビーフソムリエ』の語を用いている例があることが認められる。...そうすると、本件審決日当時、『肉』の語と『ソムリエ』の語を結合させた『肉のソムリエ』の語が、食肉業者間で『食肉技術専門士』の別称として用いられ、また、『肉ソムリエ』、『肉のソムリエ』、『お肉ソムリエ』などの語が、食肉の選択や品質管理等についての専門的知識を有する者を意味する語として用いられる例があったことが認められる。... 本願指定役務である『肉食を中心とすることで健康を維持・促進するための肉の選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなど』に関する資格検定試験の実施、資格の認定及び付与、資格検定試験に関する情報の提供、資格取得に関する知識の教授に係る事業の取引者、需要者には、食肉の選択や調理等についての専門的知識の修得に関わる食肉業者や一般消費者などが含まれるところ、前記(2)認定の事実によれば、本願商標を構成する『肉ソムリエ』の語は、本件審決日当時、かかる取引者、需要者によって、『肉(食肉)に関する専門的知識を有する者』を意味する語として、一般に認識されるものであったことが認められる。...加えて、本願商標は、標準文字で構成されているから、『肉ソムリエ』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるというべきである。したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。」として知財高裁は原告の請求を棄却しました。

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