音楽マンション事件 知財高裁平成29年5月17日判決 

 本件は、商標「音楽マンション(標準文字)」(以下、「本件商標」とする。)の商標法3条1項6号該当性について争われた事件です。
 本件訴訟の原告は、平成14年8月30日に、本件商標と同じ文字から構成される「音楽マンション」について商標登録出願を行いましたが、商標法3条1項各号・4条1項16号を理由とする拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求しなかったことから拒絶査定が確定しています。
 しかしながら、原告の拒絶査定が確定後に被告が本件商標を出願し登録されてしまったため、原告は商標法3条1項6号を理由とする無効審判請求を行いました(無効2015-890094号)が、本件審判の請求は成り立たないとの審決謄本が原告に送達されました。原告はこれを不服として、本件訴訟を提起しました。
 原告の審決取消事由は、①審決認定の誤り、②平等原則,禁反言の原則,信義則の各違反の2点です。
 知財高裁は、①については、本件商標「音楽マンション(標準文字)」は識別力があり商標法3条1項6号に該当するものとは認められない、②については、原告は、不服審判請求をするなどして正しい判断を求めなかったのであるから、原告の主張は、失当であるとして原告の請求を棄却しました。
 知財高裁の判断内容は以下の通りです。

知財高裁の判断
取消事由1 審決認定の誤りについて
「本件商標は,『音楽マンション』という文字から構成されているところ,音楽という文字とマンションという文字をそれぞれ分離してみれば,前者が『音による芸術』を意味し,後者が『中高層の集合住宅』を意味するところ,両者を一体としてみた場合には,その文字に即応して,音楽に何らかの関連を有する集合住宅という程度の極めて抽象的な観念が生じるものの,これには,音楽が聴取できる集合住宅,音楽が演奏できる集合住宅,音楽家や音楽愛好家たちが居住する集合住宅などの様々な意味合いが含まれるから,特定の観念を生じさせるものではない。そうすると,『音楽マンション』という文字は,原告が使用する『ミュージション』と同様に,需要者はこれを造語として理解するというのが自然であり,本件商標の指定役務において,特定の役務を示すものとは認められない。したがって,『音楽マンション』という文字は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものとはいえない。」

取消事由2 平等原則,禁反言の原則,信義則の各違反
「原告は,本件商標と同一の文字からなり同一の指定商品又は指定役務に属する『音楽マンション』につき,特許庁は過去において拒絶査定をしたにもかかわらず,本件商標を登録査定したのは,平等原則,禁反言の原則,信義則にそれぞれ違反するなどと主張する。しかしながら,前記2のとおり,『音楽マンション』という文字は,本件商標の指定役務において,特定の役務を示すものとはいえず,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものとはいえないから,本件商標は,商標法3条1項6号に該当するものとは認められない。そうすると,上記拒絶査定は,どのような資料に基づいて判断されたかは必ずしも明確でないものの,商標法3条1項6号該当性についての判断に誤りがあるものといわざるを得ないから,これに対する不服審判請求に係る審決等において取り消されるべきものと解される。それにもかかわらず,原告は,不服審判請求をするなどして正しい判断を求めなかったのであるから,原告の主張は,失当であるというほかない。」

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