特殊の商標 - 記事一覧

防護標章登録制度(商標法第64条)とは

 商標法によって保護を与えられる商標権の範囲は、いわゆる専用権とよばれる商標法25条で規定される範囲と、いわゆる禁止権とよばれる37条1項の範囲です。
 しかしながら、著名商標の場合は、その登録商標の指定商品・指定役務と非類似の商品・役務について使用される場合であっても出所の混同が生じることが有り得ます。
 例えば、「SONY」は日本の著名なブランドで、メイン事業である電化製品以外にも、銀行、保険、映画会社など幅広い分野にグループ企業を有していますので、例えば、「SONYドーナツ」のようなものを全くの他人が販売していたら、ソニー株式会社が新規事業を始めたのかなとか、ソニー株式会社の関連企業によるものなのかしら等と思ってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そうすると出所の混同が生じていることになり、ソニー株式会社としては、せっかく築き上げた業務上の信用を害されてしまうことになります。
 つまり、商品・役務の類似する範囲と、商品・役務の出所の混同が生じる範囲とは必ずしも一致するとは限らないということになります。
 しかしながら、自分が使用していない非類似の範囲について商標権を取得しても、3年以上継続して不使用だと不使用取消審判で取消されてしまいますので、あまり効果的な方法とは言えません。
 そこで、登録商標が使用によって著名になって、商品・役務が非類似の範囲においても出所の混同を生じるおそれが存するようになったら、防護標章登録制度の活用を検討しましょう。
 防護標章登録を受ければ、他人がその防護標章と同一の標章を指定商品・指定役務に対して使用することを禁止することができます。
 また、防護標章登録は不使用取消審判の対象外なので、使用していなくても取消されることはありません。
 防護標章登録の権利の存続期間は、設定登録の日から10年となっています(第65条の2)。更新したい場合は、更新登録の出願により更新することができます。
 防護標章登録の登録料については、分割納付制度は採用されていません。これは、「防護標章登録に基づく権利は、著名商標を他人が非類似商品について使用して混同が生ずることを防止するためのものであり、その権利の性格上一〇年の存続期間の途中で権利の維持を見直すという必要性はないと考えられる」(特許庁編:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕)とされているからです。

団体商標

 パリ条約第7条の2で、同盟国は団体商標を保護することが義務付けられており、我が国においては、商標法第7条で規定がされています。
 団体商標とは、「事業者を構成員に有する団体がその構成員に共通に使用させる商標であり、商品又は役務の出所が当該団体の構成員であることを明らかにするもの」(工業所有権法逐条解説〔19版〕P1394)をいいます。
 つまり、同じ団体商標が付されていれば、共通の性質を有する物であると認識されるので、当該団体に所属している各構成員は、相互に努力して、当該団体商標のブランド力を高めようとしますので、地域おこしや特定業界の発展に貢献するのではと期待されています。

団体構成員等の権利(第31条の2)

 団体商標(第7条)及び地域団体商標(第7条の2)については、通常の商標権と性質が異なり、団体自身でなく、その構成員が使用するものです。団体構成員等の権利については、第31条の2において規定がなされています。
 第31条の2第1項では、団体構成員、地域団体構成員は、当該団体の定めるところにおいて、指定商品又は指定役務について団体商標又は地域団体商標を使用することでできる旨を規定しています。
 団体商標又は地域団体商標は、もともとその構成員に使用させるための権利ですので、通常使用権などのように個別の使用許諾によって使用を認めるのではなく、団体構成員、又は地域団体構成員の地位に連動して使用する権利が認められています。
 「当該法人又は当該組合等の定めるところにより」と条文で規定されているので、例えば当該団体が商品の品質等の基準を満たしている場合についてのみ当該商標の使用を認める規定を設けているような場合は、この基準に反する構成員に対して登録商標の使用を認めないということもできます。
 第31条の2第1項但書は、団体商標については、専用使用権の設定登録が認められているため、専用使用権の設定があった場合は、団体構成員であっても商標が使用できない旨を明確にするためのものです。
 第31条の2第2項では、団体構成員等の権利は、移転することができない旨が規定されています。団体構成員等の権利は、構成員であることの地位に連動するものであるので、構成員の身分と切り離すことができないので、一般承継も含めて一切の移転ができません。
 第31条の2第3項は、第31条の2第1項で、団体構成員、地域団体構成員に登録商標の使用を認めていることに伴い、第24条の4〔商標権の移転に係る混同防止表示請求〕 、第29条〔他人の特許権等との関係〕、第50条〔商標登録の取消しの審判〕、第52条の2、第53及び第73条〔商標登録表示〕の規定の適用については、通常使用権者とみなす旨を規定しているものです。
 第31条の2第4項は、いわゆる中用権について、団体構成員や地域団体構成員にも認める旨を規定したものです。

地域団体商標

 地域団体商標制度は、平成17年の商標法の改正時に設けられた制度で、地域の名称と商品名・役務名などからなる商標について一定要件化で保護をする制度です(商標法第7条の2)。
 従来、「地域の名称+商品名・役務名」からなる文字商標については、当該事業を行うものであれば、何人も使用を欲するので独占適応性がない、多くの事業者により使用されるので自他商品・役務識別力を認めることができない等として、第3条第1項第3号該当性を理由として登録されず、登録されるには第3条第2項の適用を受けるしかありませんでした。
 しかしながら、第3条第2項の適用を受け、登録を受けるまでは第三者による便乗使用を排除することができず、また便乗使用により自他商品・役務識別力の獲得が困難になるという悪循環が生じており、地域ブランドの適切な保護が図られていませんでした。
 「地域の名称+商品名・役務名」からなる商標であっても、文字部分を特徴的な書体にしたり、図形を付加するなどしたりして、商標が全体として自他商品・役務識別力を有していれば登録を受けることができますが、他人が文字部分は一緒だが、図形部分が大きく異なる商標を使用していたような場合には、通常、商標は非類似ということになり、このような商標について登録を受けても、他人の便乗使用を効果的に排除するという事ができませんでした。
 そこで平成17年の改正時に、地域ブランドの保護をするという観点から、「地域の名称+商品名・役務名」からなる文字商標について、法人格を有する事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合等で構成員たる資格を有する者の加入を不当に制限してはならない旨の規定がある者に限り、一定要件下で、第3条第2項よりも登録要件を緩和した地域団体商標制度の導入が行われました。
 特許庁では、地域団体商標の普及活動に力を入れていて、毎年セミナーを行ったり、活用事例集などをまとめたりしています。
 下記に特許庁の地域団体商標に関するURLを掲載しますので、興味のある方はご確認下さい。

特許庁 「地域団体商標制度」
https://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou.htm

地域団体商標に対する先使用権(第32条の2)

 本条は、平成一七年の一部改正において、地域団体商標制度が新設されたことに伴い、地域団体商標に対するいわゆる先使用権について規定されたもので、他人の地域団体商標と同一又は類似の商標を同一又は類似の商品又は役務について不正競争の目的でなく使用している者は、その商標が周知となっていなくても、その商標を使用する権利(先使用権)を有する旨を規定しています。
 本条では、周知性を要件としていないところが、第32条と異なっています。
 同一の地域において同様の商品を生産・販売する者や役務を提供する者であれば、地域団体商標の出願前から同一又は類似の商標を使用している可能性がありますが、このような場合に、地域団体商標の出願人に該当する団体に加入していない他の事業者に対して周知性を獲得していないから、使用を認めないとすると、団体に加入していない他の事業者は当該商標を使用することができず、地域団体商標の権利者と第三者の利益の衡平を失してしまうと考えられますので、地域団体商標に対する先使用権については周知性を要件としていません。
 また、第32条の2第2項では、先使用権を認められた者に対する混同防止表示請求ができる旨が規定されていますので、地域団体商標の商標権者は、混同防止表示請求をすることができます。

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