iロゴ商標事件 知財高裁平成27年10月29日判決

原告は、第36類「銀行業務、ミューチュアルファンド投資に関する助言」等を指定役務とするアルファベット「i」の文字をロゴ化した商標について商標登録出願を行いましたが、3条1項5号に該当するとして拒絶査定を受けました。 原告はこれを不服として拒絶査定不服審判を請求(不服2014-4145号) しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

本件訴訟の争点は、【1】商標法3条1項5号該当性についての判断の誤り、【2】商標法3条2項該当性についての判断の誤りの2点です。

知財高裁はこの2点について、それぞれ以下のように判断致しました。

【1】商標法3条1項5号該当性についての判断の誤りについて 知財高裁は、「本願商標は、アルファベットの『i』一文字をデザイン化して、特定の緑色の単色で着色したものである。その形状は、直線のみで構成されていて、上部に位置する点の部分が正方形であって、下部の縦線部の幅が上部の点の幅とほぼ同じであり、下部の上端左側と下端左右にセリフ部分がついている。セリフを持つ書体で欧文字を表すことは一般的に行われており、欧文字『i』をセリフ書体で表す場合に、縦線部に対して一定の太さを持つセリフにより表すことも通常行われている。また、『i』の上部の点を四角形とすること についても、しばしば行われているといえる。さらに、四角形の点と一定の太さのセリフを兼ね備えた書体(例えば、『Memphis』書体。)も存在する。そして、色彩も、看者をして通常の黄緑色の範囲内であると認識させるものを、単色で用いているにすぎず、本願の指定役務を提供する業界においても、緑色を基調とする色彩は広く用いられている。したがって、本願商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものと認められ、その指定商品及び指定役務との関係でみても、格別自他商品識別力を有するとはいえず、特定人による独占的使用を認めるのに適しているともいえない。」として3条1項5号に該当するとの判断に誤りはないとしました。

【2】商標法3条2項該当性について 知財高裁は、「認定事実からすれば、本件審決時である平成26年9月16日において、原告が提供する役務である上場投資信託『iShares』は、その売上高が極めて大きいことからして、金融商品の需要者・取引者によく知られているものと認められるが、一方、本願商標は、その使用期間が1年2か月程度と短く、新聞や雑誌に本願商標を用いた広告(その立体的置物を含む。以下同じ。)を掲載したのは7回にすぎず、トレードショーなどで本願商標を用いたと認められる事例は本件審決後を含めても5回に限られ、しかも、本願商標は、原告の役務名である『iShares』や、原告の名称を表す『byBLACKROCK』と共に使用されるのが通例であり、本願商標単独で使用されるものとは認められない。そうすると、本願商標が指定役務とされる役務に使用されたか否かの判断はひとまず措くとしても、本願商標は、その使用の結果、需要者が原告の業務に係る役務であることを認識することができるに至ったとは認めるに足りない。」として、3条2項に該当しないとして、原告の請求を棄却しました。

湯ーとぴあ事件(控訴審) 知財高裁平成27年11月5日判決

被控訴人(原告)は、役務「入浴施設の提供」について「ラドン健康パレス\§湯~とぴあ」の商標権を持っており、「§湯~トピアかんなみ\IZU KANNAMI SPA」の標章を使用する控訴人(被告)に対し、差止請求及び損害賠償請求を行い、原審では、被控訴人の請求のうち、標章の使用差止や、損害賠償のうち1234万9069円及び内金1088万1892円に対する平成25年5月25日から、内金146万7177円に対する平成26年11月1日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却しました。控訴人はこれを不服として控訴しました。尚、控訴人(被告)は「§湯~トピアかんなみ\IZU KANNAMI SPA」について、「飲食物の提供、温泉施設の提供」を指定役務とする商標権を持っています。

控訴審の争点は、原告商標と被告標章の類否についてです。
知財高裁は、「原告商標の外観は、『ラドン健康パレス』の文字及び『湯~とぴあ』の文字を上下二段にそれぞれ横書きして成り、上段の『ラドン健康パレス』の文字は、細いゴシック調で色は青色であり、下段の『湯~とぴあ』の文字は、丸みを帯びた太いフォントのポップ体で、やや立体感を持たせた黄色の文字を青地でふち取って表されており、上段の文字の約7、8倍大きく、また、『湯~とぴあ』の『湯』の文字が『とぴあ』の文字よりも大きく強調されている。原告商標は、上記の上下二段の文字から、全体として、『ラドンケンコウパレス ユートピア』との称呼を生じる。そして、上段の『ラドン健康パレス』の部分は、元素の一つである『ラドン』、身体に悪いところがなくすこやかなことを意味する『健康』及び『宮殿、御殿。娯楽又は公益のための建築物』の意味を持つ『パレス』という一般的な単語を繋げたものであり...それらの単語が持つ個々の意味合いを併せた『ラドンを用いた健康によい温泉施設』という程度の一般名称的な観念が生じるものということができる。また、原告商標の下段の『湯~とぴあ』の部分は、『理想郷、理想社会』などを意味する英単語『utopia』(ユートピア)の『ユ』を『湯』に置き換えた造語であって、『理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じるということができる。そうすると、この上段部分と下段部分の意味上のつながりから、原告商標を全体として見ると、『ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じるということができる。...原告商標は、その外観上、上段の『ラドン健康パレス』の部分と下段の『湯~とぴあ』の部分とから成る結合商標と認められるところ、その文字の色及び大きさの違い、その配置態様によって、一見して明瞭に区分して認識されるものであるから、これらの二つの部分は、分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできない。そして、下段の『湯~とぴあ』の部分は、前記アのとおり、「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であり、しかも、その文字が上段の文字よりもはるかに大きく目立つ色彩、態様で示されている。しかしながら...認定事実によれば、『ゆうとぴあ』(「ユートピア」)と称呼される語は、『湯』の漢字を含む場合であると、『湯』の漢字を含まない場合であると、いずれの場合であっても、入浴施設の提供という役務においては、全国的に広く使用されているということができる。したがって、原告商標のうち、下段の『湯~とぴあ』の部分は、入浴施設の提供という指定役務との関係では、自他役務の識別力が弱いというべきであるから、取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず、この『湯~とぴあ』の部分だけを抽出して、被告標章と比較して類否を判断することは相当ではない。...原告商標の上段部分の『ラドン健康パレス』及び下段部分の『湯~とぴあ』の各部分は、指定役務との関係では、いずれも出所識別力が弱いものであって、両者が結合することによってはじめて、『ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設』であることが明確になるものであるから、原告商標における『ラドン健康パレス』と『湯~とぴあ』は不可分一体として理解されるべきものである。したがって、原告商標については、上段部分の『ラドン健康パレス』と下段部分の『湯~とぴあ』の部分を分離観察せずに、全体として一体的に観察して、被告標章との類否を判断するのが相当である。被告標章の外観は、上段に『湯~トピアかんなみ』の文字を横書きし、下段に、3枚の葉を伴う1輪の花の図形と、その図形の左右にそれぞれ『IZU KANNAMI』と『SPA』の極めて小さな欧文字を横書きに配して成る。上段の文字は、いずれも毛筆様のもので書いたように濃淡や太さに変化を持たせたデザインの字体(なお、『湯』の字の中の『日』の部分は、その中央の『-』が赤い丸に置き換えられて表現されている。)となっているが、このうち『湯~トピア』の部分は黒色(上記赤い丸を除く。以下同じ。)で、『かんなみ』の部分は緑色でそれぞれ表されており、『湯~トピア』の『湯』の文字が『~トピア』の文字よりも大きく強調されており、また、下段の花の図形は、上段の一文字と同程度かそれより小さく描かれ、下段の欧文字は、上段の文字に比して極めて小さいフォントで、黒色で記されている。...被告標章の上段部分のうち、『湯~トピア』及び『かんなみ』の各部分は、同様の字体で、1行でまとまりよく記載されている上に、いずれも出所識別力が弱いものであって、両者が結合することによってはじめて、『函南町にある、理想的で快適な入浴施設』であることが明確になるものであるから、被告標章における『湯~トピア』と『かんなみ』は不可分一体として理解されるべきものである。...原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である『湯~トピアかんなみ』とを対比すると、原告商標からは、『ラドンケンコウパレスユートピア』の称呼及び『ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じ、被告標章の『湯~トピアかんなみ』の部分からは、『ユートピアカンナミ』の称呼及び『函南町にある、理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じることが認められるから、原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分とは、称呼及び観念を異にするものであり、また、外観においても著しく異なるものであることが明らかである。」として両商標は類似しないから、被告標章の使用は商標権の侵害にあたらないとの判断をしました。

養命青汁事件 知財高裁平成27年10月29日判決

原告は、指定商品を第5類「野菜を主原料とする液状・粉状・顆粒状・粒状・錠剤状・ゼリー状・クリーム状・ペースト状・カプセル状の加工食品、青汁を主原料とする液状・粉状・顆粒状・粒状・錠剤状・ゼリー状・クリーム状・ペースト状・カプセル状の加工食品、青汁及び野菜を主原料とする液状・粉状・顆粒状・粒状・錠剤状・ゼリー状・クリーム状・ペースト状・カプセル状の加工食品、サプリメント、食餌療法用飲料、食餌療法用食品、乳幼児用飲料、乳幼児用食品」とする登録第5649775号「養命青汁(標準文字)」(以下、「本件商標」とする。)の商標権者です。
被告は、「養命酒」を引用商標として本件商標に対し、無効審判を請求しました。特許庁は、本件審判請求を無効2014-890033号事件として審理し、その結果4条1項15号に該当するとして「登録第5649775号の登録を無効とする。」との審決をしました。
原告は審決を不服として本件審決取消訴訟を提起しました。本件訴訟の争点は、【1】引用商標及び本件商標から「養命」部分を分離抽出した認定の誤り、【2】混同を生ずるおそれの判断の誤りの2点です。
争点【1】について知財高裁は、「原告は、引用商標が、一種独特の筆文字の同じ書体、同じ大きさ、等間隔で書された漢字3文字をもって、外観上、まとまりよく一体的に表されているものであるから、『養命』部分を抽出することはできない旨主張する。しかし、引用商標は、『養命酒』を漢字で横書きにしたややデザイン化された毛筆体から成るもので、一語一語は同じ大きさの同一書体であり、意匠的な図案として、3文字の配列の中から一部を取り出すことができないような特殊なものではない。そもそも、引用商標は、被告商品の名称として永年使用された結果、高い著名性を獲得したものであり(この点は当事者間にも争いがない。)、そのデザインや書体の独自性に着目する原告の主張は失当である。」として原告の主張を退けました。
争点【2】について知財高裁は、「原告は、薬事法の点から、本件商標の指定商品と被告商品は、同一ドラッグストアで販売されるとしても、分離した陳列状態(異なる陳列棚に陳列)において需要者が接するから、密接な関係があるとはいえないと主張する。しかし、被告商品は、薬事法の適用があるものではあるが、第2類医薬品であり、一般家庭用医薬品として、医師による処方箋や、薬剤師による説明を要せずに購入できるものであり、ドラッグストアなどにおいて、他の日用品や食品、飲料等と共に販売されており、消費者が自らの選択によって手にとって直接購入することができるのであるから、陳列棚が異なるとしても、出所の混同の生ずるおそれがあるというべきである。また、原告は、被告商品は、『第一類医薬品以外で、副作用等によって、日常生活に支障をきたすほどの健康被害が生じるおそれがある医薬品』である第2類医薬品に当たり、健康に影響を及ぼす商品であるため、需要者は、特に慎重に商品を吟味して購入するものであると主張する。しかし、前記のとおり、被告商品は処方箋や薬剤師による説明なしに、一般消費者が手にとって購入できるものであり、ドラッグストアなどにおいて、他の日用品や食品、飲料等と共に販売されるものであるから、このような商品を購入する需要者である一般消費者に要求される注意力の程度がさほど高いということはできない。原告は、被告商品は、アルコールを含む商品であり、アルコールを受け付ける体質の成人に限る特殊性を有する商品であり、商品を購入するに当たって、購入者が、アルコールを含む被告商品とアルコール全く含まない本件商標の指定商品とを間違えるおそれは皆無というべきであると主張する。しかし、本件で問題とするのは、出所の混同のおそれであって、商品自体を誤認して購入するか否かを問題としているものではなく、失当である。...本件商標は、自他識別性を有し、最も注目される『養命』部分が商標の冒頭に付されており、この『養命』とは、『命を養う』との観念を生じ、『養生』や『健康』を連想させるものであるから、このような連想と結び付くような普通名称等が末尾に付加された場合には、『養命酒』の姉妹品であるなどとして、被告あるいは被告と緊密な関係にあるグループ会社の出所によるものであると誤認するおそれが高いといえる。」として、原告の請求を棄却しました。

養命茶事件 知財高裁平成27年10月29日判決

原告は、指定商品を第30類「茶飲料、粉末茶、植物を主原料とする混合茶、穀物を主原料とする混合茶、植物と穀物を主原料とする混合茶、その他の混合茶、その他の茶、茶を加味した菓子、茶を加味したパン、茶を主原料とするブロック状・顆粒状・粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状又はゼリー状の加工食品、茶エキスを主原料とするブロック状・顆粒状・粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状又はゼリー状の加工食品、穀物を主原料とするブロック状・顆粒状・粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状又はゼリー状の加工食品、穀物エキスを主原料とするブロック状・顆粒状・粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状又はゼリー状の加工食品、茶を加味した穀物の加工品」とする登録第5643664号「養命茶(標準文字)」(以下、「本件商標」とする。)の商標権者です。
被告は、「養命酒」を引用商標として本件商標に対し、無効審判を請求しました。特許庁は、本件審判請求を無効2014-890032号事件として審理し、その結果4条1項15号に該当するとして「登録第5643664号の登録を無効とする。」との審決をしました。
原告は審決を不服として本件審決取消訴訟を提起しました。本件訴訟の争点は、【1】引用商標及び本件商標から「養命」部分を分離抽出した認定の誤り、【2】混同を生ずるおそれの判断の誤りの2点です。

争点【1】について知財高裁は、「原告は、引用商標が、一種独特の筆文字の同じ書体、同じ大きさ、等間隔で書された漢字3文字をもって、外観上、まとまりよく一体的に表されているものであるから、『養命』部分を抽出することはできない旨主張する。しかし、引用商標は、『養命酒』を漢字で横書きにしたややデザイン化された毛筆体から成るもので、一語一語は同じ大きさの同一書体であり、意匠的な図案として、3文字の配列の中から一部を取り出すことができないような特殊なものではない。そもそも、引用商標は、被告商品の名称として永年使用された結果、高い著名性を獲得したものであり(この点は当事者間にも争いがない。)、そのデザインや書体の独自性に着目する原告の主張は失当である。」として原告の主張は失当であるとしました。
争点【2】について知財高裁は、「原告は、薬事法の点から、本件商標の指定商品と被告商品は、同一ドラッグストアで販売されるとしても、分離した陳列状態(異なる陳列棚に陳列)において需要者が接するから、密接な関係があるとはいえないと主張する。しかし、被告商品は、薬事法の適用があるものではあるが、第2類医薬品であり、一般家庭用医薬品として、医師による処方箋や、薬剤師による説明を要せずに購入できるものであり、ドラッグストアなどにおいて、他の日用品や食品、飲料等と共に販売されており、消費者が自らの選択によって手にとって直接購入することができるのであるから、陳列棚が異なるとしても、出所の混同の生ずるおそれがあるというべきである。また、原告は、被告商品は、「第一類医薬品以外で、副作用等によって、日常生活に支障をきたすほどの健康被害が生じるおそれがある医薬品」である第2類医薬品に当たり、健康に影響を及ぼす商品であるため、需要者は、特に慎重に商品を吟味して購入するものであると主張する。しかし、前記のとおり、被告商品は処方箋や薬剤師による説明なしに、一般消費者が手にとって購入できるものであり、ドラッグストアなどにおいて、他の日用品や食品、飲料等と共に販売されるものであるから、このような商品を購入する需要者である一般消費者に要求される注意力の程度がさほど高いということはできない。原告は、被告商品は、アルコールを含む商品であり、アルコールを受け付ける体質の成人に限る特殊性を有する商品であり、商品を購入するに当たって、購入者が、アルコールを含む被告商品とアルコール全く含まない本件商標の指定商品とを間違えるおそれは皆無というべきであると主張する。しかし、本件で問題とするのは、出所の混同のおそれであって、商品自体を誤認して購入するか否かを問題としているものではなく、失当である。」として取消理由2についても理由がないとしました。

ハイガード事件 知財高裁平成27年9月30日判決

原告は、指定商品を第17類「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート、繊維と貼り合わせたプラスチックシート」等とする登録第5041167号「ハイガード\HIGUARD」(以下「本件商標」とする。)の商標権者です。
被告は本件商標に対し、商標法50条1項による不使用取消審判(取消2013-300258号事件、以下「本件審判請求」とする。)を請求しました。特許庁は、本件審判請求について審理し、「登録第5041167号商標の指定商品中、第17類『繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート、繊維と貼り合わせたプラスチックシート、シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品、その他のプラスチック基礎製品』については、その登録は取り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本が原告に送達されました。取消の理由は、原告は「ハイガード」及び「High-guard」の商標又は「ハイガード」のみの商標は使用していましたが、これらの商標の使用は本件商標と社会通念上同一のものの使用とみられないとの判断によるものでした。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。本件審決取消訴訟の争点は、「ハイガード」及び「High-guard」の商標又は「ハイガード」のみの商標の使用が「ハイガード\HIGUARD」と社会通念上同一の商標の使用と言えるかです。
知財高裁は、「本件商標は、いずれもゴチック体による、片仮名文字の『ハイガード』を上段に、欧文字の『HIGUARD』を下段に配してなる商標である。これに対して、本件使用商標2及び3は、片仮名文字の『ハイガード』のみからなる商標である点において、本件商標と外観上の相違が認められることは明らかである。一方で、本件商標の上段の『ハイガード』の4文字の片仮名文字と下段の『HIGUARD』の7文字の欧文字は、欧文字1文字の大きさが片仮名1文字の約8割程度の大きさであるが、上段と下段との間隔は近接し、それぞれの文字部分の左右の幅は同一であり、その両端の位置がそろっており、全体として上段及び下段の文字部分がまとまりよく配置されていること、『GUARD』(guard)の語は、『警戒。監視。防御。』等の意味を有する英単語として我が国において一般的に認識されており、『HIGUARD』の欧文字中の『GUARD』の部分から『ガード』の称呼が自然に生じることからすると、『ハイガード』の片仮名文字は『HIGUARD』の欧文字の表音を示したものとして、両者は一体的に把握され、本件商標全体から『ハイガード』の称呼が生じるものと認められる。また、本件使用商標2及び3から『ハイガード』の称呼が生じることは明らかである。そうすると、本件商標と本件使用商標2及び3の称呼は同一であることが認められる。そこで、本件商標と本件使用商標2及び3から生ずる観念の異同について検討する。...しかし、『ハイ』の部分は、英語の『high』に由来し、『程度の高いこと。高度。高級。』などの意味を有する外来語として、また、『ガード』の部分は、英語の『guard』に由来し、『警戒。監視。防御。』などの意味を有する外来語として、いずれも一般的に使用されていること(広辞苑第六版)、また、片仮名の『ハイ』は、例えば、『ハイスピード』、『ハイジャンプ』、『ハイクラス』などのように、その後に続く外来語と結合して一連表記され、『高い○○』、『高度な○○』の意味で使用される用例が一般的にみられること(広辞苑第六版)からすれば、本件審判請求に係る指定商品である第17類「繊維布地を合成樹脂で挟んでなる積層シート、繊維と貼り合わせたプラスチックシート、シート状・フィルム状・フォイル状・テープ状のプラスチック基礎製品、その他のプラスチック基礎製品」に係る取引者、需要者が、片仮名の『ハイガード』からなる商標に接した場合には、これを上記のような意味を有する『ハイ』の語と『ガード』の語が結合した用語として認識すると考えられる。そして、これを前提とすれば、片仮名の『ハイガード』からなる商標からは、『高度な防御』といった観念が生ずるというべきであり、更には、これが上記指定商品に使用されることを想定すると、これらの商品の用途や性能等に関連した印象が生ずることの結果として、『物を保護する程度が高い。』といった観念が生ずるものと認めることができる。片仮名の『ハイガード』からは、上記のような観念が生ずるといえるところ、本件商標は、片仮名の『ハイガード』の下に『HIGUARD』の欧文字が配されていることから、これらを全体としてみた場合にも、上記と同様の観念が生ずるといえるかが問題となる。...本件商標の上段の『ハイガード』の片仮名文字は下段の『HIGUARD』の欧文字の表音を示したものとして両者は一体的に把握されるものといえるから、本件商標に接した取引者、需要者においては、欧文字の『HIGUARD』について、片仮名の『ハイガード』の『ハイ』の語に相応する『HI』の語と、片仮名の『ハイガード』の『ガード』の語に相応する『GUARD』の語とが結合したものであることを自然に認識するというべきである。そして、このうち、『GUARD』の語が、『警戒。監視。防御。』等の意味を有する英単語として、我が国においても一般的に認識されている...『HI』の語については、『やあ。』などの呼び掛けを表す間投詞に当たる英単語としての用例が一般的ではあるが、そのような間投詞が他の用語と結合して一連表記される用例は一般的ではないから、上記のように『GUARD』の語と結合して一連表記された『HI』の語が、間投詞の『HI』の語であると認識されることは考え難い。他方、『hi』の語には、『高い。高度な。高級な。』等の意味を有する英単語『high』の略語としての意味もあり(甲34)、しかも、『hi』の語には、例えば、高品位テレビジョンの日本方式の愛称として『hi-vision』、高度先端技術を表すものとして『hi-tech(technologyの略)』などのように、その後に続く英単語と結合して一連表記され、『高度な○○』の意味で使用される用例が、我が国においても一般的にみられるところである。以上のような『HI』の語及び『GUARD』の語に対する我が国における一般的な認識を前提とすれば、上記のような観念が生ずるものと認められる片仮名の『ハイガード』の下に配された『HIGUARD』の欧文字から構成された本件商標に接した本件審判請求に係る指定商品の取引者、需要者においては、これを上記用例と同様に、『HI』は『high』の略語として認識し、あるいは『HI』の語から『high』の語を想起又は連想し、本件商標は、『high』の語を表す『HI』と『警戒。監視。防御。』等の意味を有する英単語の『GUARD』とが結合して一連表記されたものであって、上段の『ハイガード』の片仮名と同様の意味を有するものとして認識するというべきである。してみると、本件商標からは、片仮名の『ハイガード』単独の場合と同一の観念、すなわち、『高度な防御』あるいは『物を保護する程度が高い。』といった観念が生ずるものと認めるのが相当である。本件使用商標2及び3は、片仮名の『ハイガード』からなる商標であるから、これからは、前記のとおり、『高度な防御』あるいは『物を保護する程度が高い。』といった観念が生ずる。また、本件商標からも、これと同一の観念が生ずることは、前記イのとおりである。したがって、本件商標と本件使用商標2及び3は、そこから生ずる観念が同一であるというべきである。」として、原告は本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることが認められるので、審決の判断には誤りがあるとして審決を取消しました。

ノンマルチビタミン事件 知財高裁平成27年10月21日判決

原告は、第5類「サプリメント」を指定商品とする商標「ノンマルチビタミン」(標準文字)について商標登録出願を行いましたが、本件商標は「複数のビタミンを含まない商品」であることを表示するものにすぎないとして商標法3条1項3号及び4条1項16号を理由として拒絶査定を受けました。 原告はこれを不服として、拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けたので、本件審決取消訴訟を提起しました。 本件審決取消訴訟の争点は、【1】商標法3条1項3号該当性の判断の誤り、【2】商標法4条1項16号該当性の判断の誤りの2点です。 知財高裁は【1】、【2】について以下のような判断を示しました。
【1】商標法3条1項3号該当性の判断の誤りについて知財高裁は、「本願商標は、『ノンマルチビタミン』の片仮名文字を標準文字で横書きに書してなる商標であり、各構成文字が同じ大きさ、等間隔で表されており、外観上一体のものとして把握されるから、本願商標からは『ノンマルチビタミン』の一連の称呼が生じる。...本願商標を構成する「ノン」の語に関し、...接頭語として、『非、無、不、などの意味を表す。』...『マルチ』の語に関し、...『(接頭語として)【多数の】【複数の】【多面的】の意を表す。』...本願商標を構成する『ビタミン』の語に関し...『栄養素の1。動物体が正常な生理作用を営むために必要な微量の有機化合物。体内合成が不可能な物質で、A、B、C、D、E、H、K、L、Pなどのほか、B群にはニコチン酸、パントテン酸、葉酸、コリンがある。』...との記載がある。本願商標は、その指定商品のうち『複数のビタミンを含まないサプリメント』、すなわち、『1種類のビタミンを成分とするサプリメント』又は『1種類のビタミン及びビタミン以外の成分からなるサプリメント』に使用されたときは、『複数のビタミンを含まないサプリメント』という商品の内容(品質)を表示するものとして、取引者、需要者によって一般に認識されるものであって、取引に際し必要適切な表示であるものと認められるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他商品識別力を欠くものというべきである。加えて、本願商標は、標準文字で構成されているから、『ノンマルチビタミン』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるといえる。したがって、本願商標は、その指定商品のうち『複数のビタミンを含まないサプリメント』に使用されたときは、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。」として3条1項3号に該当するとしました。
【2】商標法4条1項16号該当性の判断の誤りについて知財高裁は、「本願商標をその指定商品中、『複数のビタミンを含まないサプリメント』に使用した場合、これに接する取引者、需要者によって『複数のビタミンを含まない商品』という商品の品質を表示したものと認識されるから、本願商標を上記商品以外の指定商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。」として4条1項16号に該当するとの判断に誤りはないとし、原告の請求を棄却しました。

オルガノサイエンス事件 知財高裁平成27年8月6日判決

被告は、第1類「芳香族有機化合物、脂肪族有機化合物、有機ハロゲン化物、アルコール類、フェノール類、エーテル類、アルデヒド類及びケトン類、有機酸及びその塩類、エステル類、窒素化合物、異節環状化合物、有機リン化合物、有機金属化合物、化学剤、原料プラスチック、有機半導体化合物、導電性有機化合物」、第40類「有機化合物・化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」を指定商品・指定役務とする第5325691号「オルガノサイエンス(標準文字)」(以下「本件商標」とする。)の商標権者です。原告は、指定商品を第1類「界面活性剤、化学剤」とする第1490119号「オルガノ」(以下「引用商標」とする。)の商標権者です。
原告は、被告の商標は商標法4条1項11号及び15号に該当するとして無効審判を請求(無効2014-890019号)しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受ました。原告は、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「原告は、昭和21年に株式会社日本オルガノ商会として設立され、同41年に現商号である『オルガノ株式会社』に商号変更した。原告は、純水製造装置、超純水製造装置、排水処理装置、発電所向けの復水脱塩装置、官公需向けの上下水設備等の製造、納入、メンテナンスといった水処理装置事業と、水処理薬品、イオン交換樹脂、食品添加物等の製造、販売といった薬品事業を主に行っており(甲7、8)、本件商標の登録出願時(平成20年)には資本金が約82億円に達し該期の売上高は735億9200万円(そのうち、水処理装置事業が581億7200万円、薬品事業が154億2000万円)に及ぶ(甲10)。特に、超純水製造装置は、水処理事業の主力商品であり、市場シェアの3割以上を占める(甲15)。...以上より、引用商標及び使用商標は、本件商標登録出願時には、原告及び原告の事業ないし商品・役務を示すものとして相当程度周知となっており、原告の事業は水処理関連事業であるが、これには薬品事業が伴うものと認識されていたものと認められる。」として、原告の引用商標ないし使用商標は、原告の薬品事業を含む原告の事業ないし商品・役務を示すものとして相当程度周知であったとしました。
その上で4条1項11号該当性について知財高裁は、「引用商標『オルガノ』は、本件商標登録出願当時、相当程度周知であったものと認められる。本件商標『オルガノサイエンス』は、『オルガノ』と『サイエンス』の結合商標と認められるところ、その全体は、9字9音とやや冗長であること、後半の『サイエンス』が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること、前半の『オルガノ』は、『有機の』を意味する『organo』の読みを表記したものと解されるものの、本件商標登録出願時の広辞苑に掲載されていない(甲133)など、『サイエンス』に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものとは考えられないことが認められ、さらに、上述のような引用商標の周知性からすれば、本件商標のうち『オルガノ』部分は、その指定商品及び指定役務の取引者、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ、他方、『サイエンス』は、一般に知られている『科学』を意味し、指定商品である化合物、薬剤類との関係で、出所識別標識としての称呼、観念が生じにくいと認められる(最(二)判平成20年9月8日、裁判集民事228号561頁参照。)。したがって、本件商標については、前半の『オルガノ』部分がその要部と解すべきである。本件商標の要部『オルガノ』と、引用商標とは、外観において類似し、称呼を共通にし、一般には十分浸透しているとはいえないものの、いずれも『有機の』という観念を有しているものと認められる。したがって、両者は、類似していると認められる。本件商標の指定商品と、引用商標の指定商品とは、いずれも『化学剤』を含んでいる点で共通している。」として原告主張の取消事由1には理由があるとして、審決を取消しました。

加護亜依事件 知財高裁平成27年7月30日判決

原告は、第41類「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作、海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する情報の提供、インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育に関する情報の提供、英語教育に関する情報の提供、海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する企画及び運営、英会話の教授、インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育、高校卒業資格取得講座における知識の教授、通信教育による知識の教授」を指定役務とする登録5287159号「加護亜依(標準文字)」(以下「本件商標」とする。)の商標権者です。被告は、原告の指定役務の内、第41類「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作」(以下、「本件指定役務」とする。)について商標法50条1項に基づき不使用取消審判を請求しました。特許庁は、この審判請求を取消2014-300394号として審理し、「登録第5287159号商標の指定役務中、第41類『演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作』については、その登録は取り消す。」との審決をしました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「原告が、本件取消審判請求において提出した『navi☆Road USA』と題するウェブページ(乙1の1添付資料)の作成者と思われる『アメリカ留学 ナビロード」という団体又は会社が本件商標の商標権者、専用使用権者又は通常使用権者であるとは認められない上に、『加護ちゃん的・・・』という記載や加護亜依の写真の掲載しかなく、これらの記載等が、本件商標と同一又は社会通念上同一の商標の使用とは認められず、本件指定役務のいずれかに関する使用ともいえない。また、原告の了解を取得せずにテレビ番組に出演したことに関して交わされた、原告と株式会社C.A.Lとの間の合意書(乙1の1添付資料)における『加護亜依』という記載は、原告に所属するタレントの氏名を明らかにするために使用されただけであって、本件指定役務である『放送番組の制作』に関し、出所識別標識として表示されたものではなく、商標法2条3項各号に定める『使用』のいずれにも該当しない。さらに、原告は、本件取消審判請求において、商標不使用の正当事由として、加護亜依が商標権使用に協力的でなかったことや、加護亜依のスキャンダルのために使用ができなかったことを主張したが(乙1の2)、これらは、いずれも原告の所属タレント自身ないし同人と原告との関係に関する事情であって、いわば、原告の内部的な紛争にかかわる事情にすぎないから、本件商標の不使用がやむを得なかったといえる事情には該当せず、本件商標の不使用についての正当な理由とは認められない。」として、原告の請求を棄却しました。

雪中熟成事件 知財高裁平成27年9月17日判決

原告は、指定商品を第29類の「加工水産物、食用魚介類(生きているものを除く。)」(以下「本件指定商品」という。)とし、「雪中熟成」の文字を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願をしたが、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判を請求しました。特許庁は、原告の審判請求を不服2014-2226号事件として審理しましたが、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するとして、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下、「本件審決」とする。)を行いました。原告は、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「本願商標は、...『雪中熟成』の文字を標準文字で表してなる商標であり、『雪中』の文字と、『熟成』の文字とを結合して一連表記した商標である。そして、本願商標は、上記のとおりの外観を有することから、普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものということができる。本願商標を構成する『雪中』の語義について、乙1の1(広辞苑第六版)には、『雪が降る中。雪の積もった中』と記載されていることが認められる。また、本願商標を構成する『熟成』の語義については、乙1の2(広辞苑第六版)には、『蛋白質・脂肪・炭水化物などが、酵素や微生物の作用により、腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発すること。なれ。』と、乙3の1(大辞泉増補・新装版)には、『魚肉・獣肉などが酵素の作用により分解され、特殊な風味・うま味が出ること。発酵を終えたあとそのままにし、さらに味をならすこともある。なれ。』と、それぞれ記載されていることが認められる。...果物、野菜、食肉、味噌、アルコール飲料等の飲食料品関連の業界分野においては、本件審決時(平成27年3月24日)までに、新聞やインターネットのウェブサイトにおいて、本願商標と同じ『雪中熟成』の語や、本願商標を構成する文字のうち『雪中』又は『熟成』や、これと同義の『雪の中』又は『雪の中で熟成』等の語について、その製造・販売に係る商品の品質又は生産の方法を示すものとして、雪の中又は雪氷室ないし雪室で熟成させた商品との意味合いで用いられていることが認められる。...認定した事実によれば、本願商標を構成する『雪中熟成』の語は、本件審決当時、『雪の中で熟成すること』等の意味合いを有する語として、本件指定商品の取引者、需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。したがって、本件審決当時、本願商標は、本件指定商品に使用されたときは、『雪の中で熟成された商品』といった商品の品質又は生産の方法を表示するものとして、取引者、需要者によって一般に認識されるものであり、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと判断されるものであり、自他商品の識別力を欠くものというべきである。そして、本願商標は、前記2(1)のとおり、『雪中熟成』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。以上によれば、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。」として原告の請求を棄却しました。

Kami No Suna事件 知財高裁平成27年9月29日判決

原告は、指定商品を第21類の愛玩動物用排泄物処理材とする商標「Kami No Suna」(標準文字)について出願をおこないましたが(以下「本願商標」とする。)、登録第1914369号商標「紙の砂」を引用商標として商標法4条1項11号で拒絶されました。原告は、拒絶査定不服審判(不服2014-15437号)を請求しましたが、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本が原告に送達されました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本願商標は、『Kami No Suna』の欧文字を標準文字で表してなるところ、該欧文字は、その文字構成に照らし、『Kami』、『No』及び『Suna』の3語を組み合わせてなるものと容易に認識されるものである。この構成からして、それぞれ、日本語の音をローマ字表記(綴り)したものと認識されるところ、『Kami』は『紙』、『神』又は『髪』を想起し、『Suna』は『砂』を想起し、『No』は両者をつなぐ意味での各助詞の『の』を意味するものと考えられる。ところで、本願指定商品である第21類『愛玩動物用排泄物処理材』は、原告も主張するとおり、愛玩動物の排泄物を処理するために用いられるものであって、このうち、猫用のトイレに敷設される砂は、一般に『猫砂』と称されており、紙、ベントナイト、木(おがくず)等の原材料を砂のような粒子状に加工してなるものが広く製造、販売されている。そうすると、本願商標をその指定商品、とりわけ『猫砂』と称される商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、これを構成する『Kami』、『No』及び『Suna』の欧文字部分から、それぞれ、商品の原材料の一つとして用いられている『紙』の語、格助詞の『の』及び商品の性状を比喩的に表した『砂』の語を容易に連想、想起し、その構成全体をもって、『紙の砂』の日本語の音を欧文字を用いてローマ字表記してなるものと理解、認識するといえる。してみれば、本願商標は、その構成文字に相応して、『カミノスナ』の称呼を生じ、『紙の砂』すなわち、紙を材料とする砂粒の意味合いを認識させるものである。引用商標は、『紙の砂』の文字を横書きしてなるものであるから、『カミノスナ』の称呼を生じ、「紙の砂」の意味合いを認識させるものである。本願商標と引用商標とを比較すると、本願商標は、『Kami No Suna』の欧文字を標準文字で表してなるものであるのに対し、引用商標は、『紙の砂』の文字を横書きしてなるものであるから、両商標は、外観において、相違するものである。しかしながら、本願商標は、上記のとおり、取引者、需要者をして、『紙の砂』の音を欧文字を用いてローマ字表記してなるものと理解、認識されるものであり、引用商標との比較において、『カミノスナ』の称呼を同一とし、『紙の砂』の意味合いを認識させる点においても共通するものである。したがって、本願商標と引用商標とは、外観においては相違するものの、『カミノスナ』の称呼及び「紙の砂」の意味合いにおいて同一のものであるから、これらを総合勘案すれば、両商標をそれぞれ同一又は類似する商品に使用したときは、その商品の出所について相紛れるおそれがあるというべきである。」として原告の請求を棄却しました。

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