美ら島事件 知財高裁平成25年11月27日判決

原告は、平成23年11月1日に「美ら島」(標準文字)からなり、第29類「乳製品」、第30類「茶、コーヒー及びココア」及び第32類「清涼飲料、果実飲料」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願をしましたが、商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当するとして平成24年7月4日付けで、拒絶査定を受け、不服審判請求を請求しましたが拒絶審決を受けました。本件は、その拒絶審決に対する審決取消訴訟です。
知財高裁は、「『美ら島』は、沖縄の方言で『美しい島』を意味する語であるが、食品等を中心とする商品等の宣伝広告及び紹介記事において、商品の原産地等が『沖縄』であることを指すものとして、『美ら島』が使用される例が数多く存在すること、また、各種記念行事、時事の報道、特産品、観光名所を報道・紹介等する新聞記事等において、『美ら島』が『沖縄』の県名ないし地域を指すものして使用される例も数多く存在すること等から、『美ら島』は、『沖縄』の県名ないし地域を指す語として、広く認識されるに至ったということができる。 そうすると、『美ら島』との本願商標に接した取引者・需要者は、本願商標を沖縄を意味するものと理解すると解するのが相当である。
...原告は、『美ら島』の文字が沖縄を意味するとしても、本願商標に接した取引者・需要者は、『海に囲まれた美しい島』という抽象的な意味を有する表記として理解し、認識するにとどまり、沖縄県産の商品又は沖縄県産の原材料を用いた商品であると認識できない等と主張する。しかし、原告の上記主張も、採用の限りでない。...取引者・需要者が、本願商標『美ら島』に接すれば、当該商品の産地、販売、原材料等を記述するものと、認識、理解すると解するのが相当である。したがって、本願商標は、商品の産地又は品質を表示するものとして認識されるとした審決の判断に誤りはなく、この点に関する原告の主張は採用の限りではない。 」として原告の訴えを棄却しました。

浅間山事件 知財高裁平成26年6月30日判決

原告は、平成24年4月24日に「浅間山」の文字を標準文字により表してなり、第32類「ビール、清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、ビール製造用ホップエキス、乳清飲料」を指定商品(以下、「本願指定商品」)として出願しましたが、平成25年2月5日付けで、「本願商標を本願指定商品に使用するときは、『長野・群馬両県にまたがる活火山である浅間山の地域』で生産、販売されているものであることを認識させるとみるのが相当であり、本願商標は、単に商品の産地・販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから、商標法3条1項3号に該当する」として拒絶査定を受けたので、同年5月8日に審判請求(不服2013-8335号)をしました。 特許庁は、平成25年10月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同審決謄本は同年11月12日に原告に送達されました。原告はこれを不服として、本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「観光地では各種の土産物や特産品が生産、販売されるが、その際、商品の種類にかかわらず、当地又は近隣の観光名所の名称を付して商品を生産、販売したり、当該観光名所ないしその近郊を商品ないし主原材料の産地として宣伝したりすることは、一般的に行われている。実際、長野県・群馬県境にある浅間山の山麓及び周辺地域で生産された商品等を提供、販売する飲食店や販売店は、当該商品等の販売や宣伝に当たって、商品ないし主原材料の産地を表すものとして「浅間山」の名称を使用している。本願指定商品である地ビールやミネラルウォーター、その他の清涼飲料水についても、同様である。そして、山岳名を使用して、その山麓や周辺地域の商品の販売や宣伝が行われているのは、群馬県吾妻郡嬬恋村と長野県北佐久郡軽井沢町・同郡御代田町にまたがる浅間山地域に限られない。そうすると、本願指定商品の種類、性質からして、その取引者、需要者は一般の消費者であると考えられるところ、これらの者が本願商標を付した商品に接した場合、長野県・群馬県境にある浅間山の周辺地域で製造された商品と認識するにとどまるというべきである。他方、本願商標は『浅間山』の文字を標準文字により表してなるから、『普通の用いられる方法』で表示されている。したがって、本願商標は、単に、商品の産地、販売地を表示するにすぎないことになるから、商標法3条1項3号に該当すると認められる。」として原告の請求を棄却しました。

湘南二宮オリーブ事件 知財高裁平成27年1月28日判決

訴外Uは、平成24年5月30日「湘南二宮オリーブ」の文字を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」とします。)の登録出願(商願2012-43423号)をしました。その後、商標登録出願により生じた権利は原告に承継され、本願商標の指定商品は、最終的には、第29類「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」に補正されました。本願商標は、商標法3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けたため、原告は拒絶査定不服審判を請求しました。特許庁は、不服2013-15303号事件として審理した結果、平成26年5月13日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月23日にその謄本を原告に送達しました。
原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「本願商標は、『湘南二宮オリーブ』の文字を標準文字で表してなり、その指定商品は『湘南地方二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル』である。...、本願商標のうち『湘南二宮』の部分は、『湘南地方の二宮町』を表したものと理解される。また、本願商標のうち『オリーブ』の部分は、指定商品を含むオリーブオイルとの関係では、果実の『オリーブ』であることを意味し、オリーブオイルの原材料を表したもの、と広く理解される語である。...オリーブオイルを含む食用油の分野では、他の多くの食品分野と同様に、その原材料がどのようなものであるかについての需要者の関心が高く、食用油の原材料や原材料の産地を、商品名の一部としたり、商品説明に記載しているという取引の実情が認められることからすれば、本願商標である『湘南二宮オリーブ』を指定商品に使用しても、取引者及び需要者は、本願商標の表示は『湘南二宮産のオリーブ』を意味し、当該指定商品が『湘南地方の二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル』であることを表したにすぎないものと理解するのが自然である。」との判断を示しました。

IGZO事件 知財高裁平成27年2月25日判決

原告は、商標「IGZO」(標準文字)の商標権者です。被告は、原告商標の指定商品の一部の登録について、商標法3条1項3号に該当するとして商標登録無効審判請求をしたところ、特許庁が登録を無効とする審決をしたので、原告がその取消を求めたというのが本件訴訟になります。
知財高裁は、「『IGZO』の語は、平成7年に、新規な物質として公表された『In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)及びO(酸素)からなる酸化物』(本件酸化物)を指す語として紹介され、使用されるようになった・・・『IGZO』の語は、本件商標の登録査定時には、技術者だけではなく、ディスプレイや半導体を用いる分野のエレクトロニクス業界に属する企業等の事業者において、新規な半導体材料である『インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(本件酸化物)』を意味する語として、広く認識されていたものといえる。...本件商標「IGZO」が、その指定商品である『液晶テレビジョン受信機』、『ノートブック型コンピュータ』、『ノートブック型コンピュータ、タブレット型携帯情報端末を除くコンピュータ』、『タブレット型携帯情報端末』、『スマートフォン』、『携帯電話機』について用いられた場合、これらの指定商品は、いずれもその構成部品の一つとしてディスプレイパネルを含むのが通常であり、また、ディスプレイパネルの性能が商品の品質に重要な影響を及ぼすものであるから、これらの指定商品に係る商品を製造、販売する企業等、すなわち、これらの指定商品の取引者であり、また、需要者の一部にも含まれる者である事業者は、本件商標の表示する本件酸化物が、各指定商品のディスプレイパネルに使用されているものと一般に認識するものといえる。」等として、本件商標は商標法3条1項3号に該当するとの判断を示しました。

しあわせ牛事件 知財高裁平成27年1月29日判決

原告は、平成24年11月16日に「しあわせ牛」の文字を標準文字により表してなる商標(本願商標)について、第29類「牛肉、牛肉製品」を指定商品(本願指定商品)として登録出願をしましたが、「千葉しあわせ牛」を引用され、拒絶審決を受けたので、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

牛肉の業界においては、「県名又は地域名の表示+○○牛」という商標があった場合に、県名又は地域名の表示を省略して、「○○牛」の部分のみを使用するという取引実情があることから、知財高裁は、「本願商標と引用商標の外観は、『千葉』という文字の有無について差異があるが、引用商標の要部である『しあわせ牛』の部分の構成文字は同一である。そして、本願商標と引用商標の要部からは、『シアワセギュウ』又は『シアワセウシ』の称呼が生じ、これらの文字は、『幸せな牛』との意味合いを想起させる点でも同一である。他方、本願商標の指定商品である『牛肉、牛肉製品』は、引用商標の指定商品である『牛肉』と対比すると、『牛肉』部分で同一であり、『牛肉製品』の部分で類似する。」として、本願商標は商標法4条1項11号に該当するとの判断を示しました。

喜多方ラーメン商標事件 知財高裁平成22年11月15日判決

原告は、平成18年4月1日、指定商品及び指定役務を第30類「福島県喜多方市産のラーメンのめん、福島県喜多方市産の即席ラーメン」及び第43類「福島県喜多方市における又は福島県喜多方市を発祥地とするラーメンの提供」とし、商標法7条の2の地域団体商標として、本願商標の登録出願をし、その後、平成19年5月25日までに複数回の手続補正を行って、その指定商品を削除し、指定役務を第43類「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」に減縮したが、平成20年3月31日、本願商標は、商標法7条の2第1項の要件を具備しないとの理由で、拒絶査定を受けました。

原告は、これを不服として拒絶査定不服審判を請求しましたが、平成21年11月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。そこで原告は、本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「原告又はその構成員が『喜多方ラーメン』の表示ないし名称を使用し、喜多方市内においてラーメンの提供を行うとともに、指定役務『福島県喜多方市におけるラーメンの提供』に関する広告宣伝活動を積極的に行っていたとしても、喜多方市内のラーメン店の原告への加入状況や、原告の構成員でない者が喜多方市外で相当長期間にわたって『喜多方ラーメン』の表示ないし名称を含むラーメン店やラーメン店チェーンを展開・運営し、かつ『喜多方ラーメン』の文字を含む商標の登録を受けてこれを使用している点にもかんがみると、例えば福島県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間において、本願商標が原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、広く認識されているとまでいうことはできないというべきである。なお、喜多方市内の製麺業者によるラーメンの麺の販売実績等を考慮しても、この結論が左右されるものではない。」として原告の訴えを退けました。

eAccess事件 最高裁判決平成17年7月14日第一小法廷判決

原告・被上告人であるAは、商標「eAccess」を商標登録出願しましたが、商標法4条1項11号で拒絶査定を受けました。

Aは拒絶査定不服審判を請求しましたが、請求は認められませんでした。Aは審決取消訴訟を提起後、商標法10条1項に基づき分割出願を行い、その後本件出願の指定役務を「建築一式工事」に減縮する手続補正書を提出しました。

本件訴訟の争点は拒絶審決取消訴訟係属中に出願分割を行い原出願の補正を行った場合、補正の効果が遡及するのかどうかということです。
最高裁は、「拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合には、商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされは、もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには、その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなくは、審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。」との判断を示しました。

正露丸事件 東京高裁昭和46年9月3日判決

本件は、「正露丸」が普通名称に該当するか否かについて争われた事件です。

東京高裁は、「本件商標を構成する『正露丸』の語は、『征露丸』の語から転化したものといつてさしつかえなく、『征露丸』『正露丸』『せいろ丸』『セイロ丸』『セイロガン』は、すべて同一の事物を指称する語として一般に認識されており、これらは、『征露丸』の命名および本件医薬品の創製の前記特殊事情にもとづき、もともと商品の出所表示力に乏しい語として誕生し、しかも、その後多年にわたり、不特定かつきわめて多数の業者により全国的に本件医薬品の名称として使用された結果、これらの語は、おそくとも本件商標の登録当時、 なんら出所表示力のない、本件医薬品自体の一般的な名称として国民の間に広く認識されていたものというべきであり、したがつて、ごく普通の書体で『正露丸』の文字に『セイロガン』の文字を振り仮名のように付記したにすぎない本件商標は、その指定商品中の本件医薬品に関しては、商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示したにすぎない標章であり、それ以外の商品に関しては、その商品が本件医薬品であるかのように誤認を生ずを虞れのある標章であるといわなければならない。」として普通名称に該当すると判断しました。

VO5事件 東京高裁昭和49年6月26日判決

本件は、商標「VO5\ブイオーフワイブ」が商標法3条1項5号に該当するかどうかについて判断がされた事件です。

 東京高裁は、「『VO5』のように、欧文字二字と数字一字とからなる標章が商品の種別、型式などを表示するものとして取引上、本願商標の指定商品である化学品、薬剤等を含む種々の商品部門において、普通に使用されている事実を肯認しうべく、これを左右するに足る証拠はないから、右『VO5』の部分は、欧文字二字と数字一字とを組み合せた標章である意味において、前記法条にいう『ありふれた標章』の範疇に属するものとみるを相当とする。原告は、右部分のように欧文字二字と数字一字を組み合せたものの中には、取引上、商品の規格、型式等を表示する記号を意味するもののあることを認めつつも、少なくとも本願商標の指定商品の取引分野においては、このような組合せの標章が商品の種別等を表示する記号として使用される例はない旨主張するが、その主張が事実に添わないものであることは前認定の事実に徴し明らかであるのみならず、前記法条にいう『ありふれた標章』に当たるかどうかは、必ずしもその指定商品と係りのないことであるから、原告の前示主張は、採用しうべき限りではない。」として本件商標は3条1項5号に該当すると判断しました。

FLAVAN事件 知財高裁平成17年6月9日判決

原告は「FLAVAN\フラバン」の二段書き商標について、商標登録出願を行いましたが、商標法3条1項3号及び4条1項16号で拒絶査定を受けました。 原告は、これを不服として本件訴訟を提起しました。

知財高裁は商標法3条1項3号該当性については、「『フラバン』は『植物界に分布する物質であるポリフェノールに属する水溶性の植物性色素であるフラボノイド系に分類される一つの物質群』 を表すことは、審決記載のとおりである。...化学物質の一般名称は、取引の実際の場において、商品の原材料を表示するものとして普通に使用されるものであって、健康志向が高まっている我が 国の社会的状況に照らすと、一般の消費者においても強い関心を抱くことは疑う余 地はなく、ひいては需要者の購買意欲を高める一手段となることも明らかである。そして、『FLAVAN』又は『フラバン』が、今はまだ少ないながらも、現実に健康食品の原材料名として表示されている事実が存在することは、インターネット上のホームページの記載などから明らかである。...以上によれば、『FLAVAN』及び『フラバン』の語が、化学物質の名称を表すものであって、健康食品の原材料として使用され得ることは、商品の研究開発者、取引者などの間において知られており、その語自体、自他商品の識別機能を有しないものであることは明らかである。」として本願商標は、商標法3条1項3号にいう「原材料」に該当すると判断しました。

商標法4条1項16号該当性については知財高裁は、「本願商標は、ポリフェノールに属するフラボノイド系化合物フラバンなる化学物 質の名称を表すものであり、取引の実際において、商品の原材料として使用されているものであるから、仮に審決の時点で一般の消費者に化学物質の一名称として広く認識されていなかったとしても、一般の需要者がその名称を認知し、原材料表示 であると理解するにさほど時間を要しないことは、明らかである。そうすると、本願商標を、その指定商品のうちポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする商品以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきである」として本願商標は商標法4条1項16号に該当すると判断しました。

お気軽にお問合せください!

お問合せ・ご相談

主な業務地域
日本全国

連絡先 お問合せフォーム