エコルクス事件 知財高裁平成22年12月15日判決

原告は、第4595453号「エコルクス」(標準文字)(以下、「本件商標」とする。)の指定商品のうち「LEDランプ」について不使用取消審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。原告は、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
本件訴訟の争点は、【1】商標法2条3項1号に基づく本件商標の使用の有無について、【2】商標法2条3項8号に基づく本件商標の使用の有無について、【3】商標法50条2項ただし書の「正当な理由」の有無についての3点です。
知財高裁は、各取消事由について以下のように判断しました。まず争点【1】については、「商標法2条3項1号所定の『商品の包装に標章を付する行為』とは、同号に並列して掲げられている『商品に標章を付する行為』と同視できる態様のもの、すなわち、指定商品を現実に包装したものに標章を付し又は標章を付した包装用紙等で指定商品を現実に包装するなどの行為をいい、指定商品を包装していない単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は、商標法2条3項1号所定の『商品の包装に標章を付する行為』に当たらないものと解するのが相当である。これを本件についてみると、前記認定のとおり、被告は、本件請求登録日以前から、本件容器に本件商標を付して販売するための準備を進めていたところ、被告が平成21年4月10日に外部会社から受領したものは、本件容器のパッケージデザインの電子データであるにすぎない。したがって、被告が上記電子データを受領し、これを保持することになったからといって、これをもって商標法2条3項1号所定の『商品の包装に標章を付する行為』ということはできない。」として、本件審決の解釈及び適用は誤りがあるとしました。
次に争点【2】商標法2条3項8号に基づく本件商標の使用の有無については、「商標法2条3項8号所定の標章を付した広告等の『頒布』とは、同号に並列して掲げられている『展示』及び『電磁的方法により提供する行為』と同視できる態様のもの、すなわち、標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれることをいい、標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれていない場合には、商標法2条3項8号所定の標章を付した広告の『頒布』に当たらないものと解するのが相当である。...本件容器の写真が広告として掲載された本件情報誌が小売店に配達され、もって一般公衆による閲覧可能な状態に置かれたのは、平成21年5月1日である。したがって、被告が本件容器の広告写真が掲載された本件情報誌を頒布したのは、同日(平成21年5月1日)であるというべきであって、被告が前日(平成21年4月30日)に発送を行ったからといって、当該発送行為をもって本件商標を付した広告等の頒布に該当するとはいえない。そして、我が国において本件商標を付した広告等が本件請求登録日よりも前に、被告により頒布されたと認めるに足りる証拠は存在しない。」として商標法2条3項8号所定の「頒布」行為に該当しないとの判断をしました。
最後に争点【3】商標法50条2項ただし書の「正当な理由」の有無については、「商標法50条2項ただし書にいう『正当な理由』とは、地震等の不可抗力によって生じた事由、第三者の故意又は過失によって生じた事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいうと解するのが相当であるところ、前記認定のとおり、本件商標に関しては、そのような不可抗力等の事由は、何ら認められない。」との判断を示し、審決を取消しました。

喜多方ラーメン事件 知財高裁平成22年11月15日判決

原告は、指定役務を第43類「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」とする地域団体商標として「喜多方ラーメン(標準文字)」(以下、「本願商標」とする)の商標登録出願を行いましたが、本願商標は商標法7条の2第1項の要件を具備しないとして拒絶査定を受けたため拒絶査定不服審判を請求しました。そこで原告は拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けたので、原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。本件審決取消訴訟の争点は【1】7条の2第1項の解釈の誤り、【2】7条の2第1項該当性の判断の誤りの2点です。
知財高裁は、「3条2項で同条1項各号で登録できないとされている商標が、使用により登録が認められるとしても、『何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの』との要件、すなわち識別力を発揮できるまでの程度の要件を充たさなければならないのに対し、7条の2第1項柱書では、使用により『自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている』との要件を充たすことを要件としており、前記の地域団体商標の立法経緯を踏まえてみると、後者の要件は前者の要件を緩やかにしたものと解するのが相当ということになる。しかし、この要件緩和は、識別力の程度(需要者の広がりないし範囲と、質的なものすなわち認知度)についてのものであり、当然のことながら、構成員の業務との結び付きでも足りるとした点において3条2項よりも登録が認められる範囲が広くなったのは別としても、後者の登録要件について、需要者(及び取引者)からの当該商標と特定の団体又はその構成員の業務に係る商品ないし役務との結び付きの認識の要件まで緩和したものではない。...審決の7条の2第1項の解釈に誤りはなく、『使用をされた結果自己又はその構成員に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識された』実際に使用している商標及び役務、使用開始時期、使用期間、使用地域、当該営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)、広告宣伝の方法及び回数、一般紙、雑誌等の掲載回数並びに他人の使用の有無等の事実を総合的に勘案するのが相当である。との要件の充足の有無を判断するに際して、審決が説示したとおり実際に使用している商標及び役務、使用開始時期、使用期間、使用地域、当該営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)、広告宣伝の方法及び回数、一般紙、雑誌等の掲載回数並びに他人の使用の有無等の事実を総合的に勘案するのが相当である。...『喜多方市内のラーメン店』では、喜多方市内のラーメン店(通し番号で124店)中、原告の会員とされているのは47店であり、『喜多方市内のラーメン店』でも、喜多方市内のラーメン店(通し番号で125店)中、原告の会員とされているのは44店である。そうすると、喜多方市内でラーメンを提供する店のうち、原告に加入しているものは半数に満たない。...原告(その前身たる団体を含む。)又はその構成員が『喜多方ラーメン』の表示ないし名称を使用し、喜多方市内においてラーメンの提供を行うとともに、指定役務『福島県喜多方市におけるラーメンの提供』に関する広告宣伝活動を積極的に行っていたとしても、喜多方市内のラーメン店の原告への加入状況や、原告の構成員でない者が喜多方市外で相当長期間にわたって『喜多方ラーメン』の表示ないし名称を含むラーメン店やラーメン店チェーンを展開・運営し、かつ『喜多方ラーメン』の文字を含む商標の登録を受けてこれを使用している点にもかんがみると、例えば福島県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間において、本願商標が原告又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、広く認識されているとまでいうことはできないというべきである。なお、喜多方市内の製麺業者によるラーメンの麺の販売実績等を考慮しても、この結論が左右されるものではない。」として審決に誤りはないとしました。

melonkuma事件 大阪地裁平成26年8月28日判決

原告は、指定商品「キーホルダー、おもちゃ」等について、「melonkuma(標準文字)の商標権を有しています。被告は、大きく開いた口にメロン色の肌、短い手足を特徴とする北海道夕張市のご当地キャラクターを創作し、このキャラクターのキャラクターグッズに「メロン熊ストラップ」、「メロン熊マグネット」、「メロン熊ボクサーパンツ」等の標章を付して販売していました。原告は、被告の各標章の使用は、原告の商標権を侵害するものであるとして、損害賠償請求をしました。
大阪地裁は、「被告各標章は、いずれも『メロン熊』又は『メロンくま』に商品の種類に関する記述を続けるものであり、その要部は『メロン熊』又は『メロンくま』であるといえる。...原告商標は、9文字のローマ字からなる外観を有するのに対し、被告各標章の『メロン熊』の部分は、片仮名3文字と漢字1文字の合計4文字よりなる外観を、被告各標章の『メロンくま』の部分は、片仮名3文字と平仮名2文字の合計5文字よりなる外観を有し、両者は外観において類似しない。原告商標も被告各標章も称呼は同じ『メロンクマ』である。観念について検討するに、原告商標は、ローマ字(小文字)で『melonkuma』と一連一体に表記されるため、この表記に接した者は、そのような外国語の単語があるのではないかと考えるが、これに適応する単語がないため、直ちには特定の観念を生じない。もっとも、そのまま発音することにより、果物のメロンと動物の熊という2つの観念が想起される。しかし、本件キャラクターが出現するまでに、被告以外の第三者が、果物のメロンと動物の熊を組み合わせた存在を、具体的なイメージとして考案したと認めるに足りる証拠はなく、原告商標のみからは、メロンと熊を結合させた、ひとつのものとしての観念を想起させることはないといえる。被告各標章のうち『メロン熊』又は『メロンくま』については、『メロン』と『熊』(『くま』)が片仮名と漢字(平仮名)で書き分けられているため、直ちに果物のメロンと動物の熊という2つの観念を想起することができ、さらに、前記1(1)から、メロンの中に顔を突っ込んだ、メロンと熊がひとつに結合された本件キャラクターを観念することができる。以上によると、原告商標と被告各標章のうち『メロン熊』又は『メロンくま』の部分は、称呼においてのみ類似している。...被告商品のうち、少なくとも、マグネット、ビックマスコット、ぬいぐるみマスコットは、原告商標の指定商品であるおもちゃ、人形と同一、あるいはこれに類似するといえる。...本件キャラクターは、被告代表者が考案したものであって、北海道夕張市を代表するものとして、遅くとも平成22年末頃には、そのキャラクター誕生にまつわるエピソードも含め、全国的に周知性、著名性を獲得したものと認められ、かつ、そのキャラクターが人気を博したことから、強い顧客吸引力を得たものと認められる。そして、その周知性、著名性や顧客吸引力は、被告代表者の努力により、現在においても維持発展されていることも認められる。これに伴い、片仮名の『メロン』と漢字の『熊』(平仮名の『くま』)を組み合わせてなる『メロン熊』(『メロンくま』)との標章(語句)も、本件キャラクターを指し示すものとして周知性、著名性を獲得し、したがって、本件キャラクター及びゴチック体調の『メロン熊』の標章(被告各標章に共通する部分となる標章)は、被告の扱う商品について高い自他識別能力を獲得したものというべきである。...また、...被告各標章が、本件キャラクターとともに使用され、かつ、北海道夕張市に由来することを示す各種語句とともに使用されており、他人の商品役務との誤認混同が生じることのないような措置がされていると評価できる。...他方、原告商標の出願は、平成19年6月にされてはいるが、その後、原告商標の商標権者及び通常実施権者はもちろん、被告以外の第三者が、上記標章の著名性の獲得に至るまでに、果物のメロンと動物の熊を組み合わせた存在を、具体的なイメージとして考案したと認めるに足りる証拠はなく、また、現在までに、被告以外にそのような存在を使用した商品が流通したことを認めるに足りる証拠もない。実際、原告商標については、特許庁において、不使用を理由とする取消審判がされている。...もともと被告各標章には特段の自他識別能力がある一方、原告商標は、登録後、少なくとも、流通におかれた商品に使用されてはおらず、原告商標自体、原告の信用を化体するものでもなく、何らの顧客誘因力も有しているともいえない。そして、原告商標と被告各標章との間で出所を誤認混同するおそれは極めて低い。それにもかかわらず、原告は、原告商標権に基づき損害賠償請求をするものであるが、このような行為は、本件キャラクターが周知性、著名性を獲得し、強い顧客吸引力を得たことを奇貨として、本件の権利行使をするものというべきである。また、前記1で認定した原告商標の登録取消審決に至る経過をみると、本件訴訟の提起自体が、上記審判に対する対抗手段として行われた疑いが強いというべきである。以上によると、原告商標と被告各標章が誤認混同のおそれがあるとしても、原告による権利行使は、商標法上の権利を濫用するものとして、許されないというべきである。」として原告の請求を棄却しました。

日本維新の会事件 知財高裁平成26年9月17日判決

原告は、「日本維新の会」の文字を標準文字で表してなる商標(以下、「本願商標」とする。)について商標登録出願(以下、「本願」とする)を行いましたが、本願商標は商標法4条1項7号に該当するとして拒絶査定されました。原告は拒絶査定不服審判を行いましたが、本願商標は商標法4条1項6号に該当するので「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を受けました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。本件審決取消訴訟の争点は、【1】商標法4条1項6号該当性の有無に係る判断の基準時、【2】本件審決の事実誤認の有無です。
知財高裁は、「商標法4条3項の趣旨は、同条1項各号の該当性の有無に係る判断の基準時を、最終的に当該判断をする時点、すなわち、原則として『商標登録査定時』又は『拒絶査定時』、拒絶査定に対する審判の請求があった場合には、『審決時』とすることを前提として、同条1項各号のうち、出願時には該当性が認められず、その後に出願人が関与し得ない客観的事情の変化が生じたために該当するに至った場合、当該出願人が商標登録を受けられないとするのは相当ではないものにつき、判断の基準時の例外を定めたものと解するのが相当である。上記の商標法4条1項6号の趣旨及び同条3項の趣旨に加え、同項が判断の基準時の例外を認めるものとして掲げる事由に商標法4条1項6号は含まれていないことに鑑みれば、同号該当性の有無に係る判断の基準時は、審査官による商標登録出願の審査(同法14条)の際には査定時、拒絶査定に対する審判の請求があった場合(同法44条)には、審決時とすべきである。...審決取消訴訟においては、原則として、当該審決時までの事情に基づいて同審決の瑕疵の有無を判断すべきであり、同審決後に生じた事情は考慮すべきではない。...『日本維新の会』という名称を有する政党は、商標法4条1項6号所定の『公益に関する団体であって営利を目的としないもの』に該当し、『日本維新の会』は、上記政党を表示する標章といえる。...政治資金規正法7条の2第1項の規定に基づき、『日本維新の会』の名称等が公表されたことに加え、政党『日本維新の会』は、平成24年の衆議院議員総選挙及び平成25年の参議院議員通常選挙において、野党の中でも上位の票数を得ており、平成26年1月1日現在、53名の衆議院議員及び9名の参議院議員が同党に所属していることに鑑みると、前記政党を表示する標章『日本維新の会』は、著名なものと認められる。そして、本願商標は、『日本維新の会』の文字を標準文字で表してなるものであるから、上記標章と同一の商標ということができる。以上によれば、本件審決時において、本願商標は、商標法4条1項6号に該当することが認められ、本件審決の認定に誤りはないというべきである。...証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、『元祖 日本維新の会』を掲げて政治活動等をしてきたことが認められるものの、この事実は、前記結論を左右するものではない。また、たとえ、本件審決時において、政党『日本維新の会』は近日中に消滅する蓋然性が大きいという事実があったとしても、本件審決時に同党が存在していた以上、本願商標について商標法4条1項6号の該当性が認められるのは明らかであり、上記事実はこの結論を左右するものではないから、本件審決が同事実を認定しなかったことは、事実誤認に当たらない。」として原告の請求を棄却しました。

東京維新の会事件 平成26年9月11日知財高裁判決

原告は、「東京維新の会」の文字を標準文字で表してなる標章(以下、「本願商標」とする。)について第41類「技芸、スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、教育研修のための施設の提供、電子出版物の提供、書籍の製作、放送番組の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」を指定役務として、商標登録出願(以下「本願」という。)をしましたが商標法4条1項7号に該当するとして拒絶査定を受けました。原告は拒絶査定不服審判を請求しましたが、本願商標は商標法4条1項6号に該当するので「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を受けました。原告は、商標法4条1項6号の登録阻却事由の有無の判断時期は査定時であること、査定時において東京維新の会は不存在であったことなどを主張して本件審決取消訴訟を提起しました。
判断時期について知財高裁は、「商標法4条1項6号については、同条3項により、出願時においても登録阻却事由が存在することが求められていないから、通常の場合は、査定時において登録阻却事由の存在が認められれば同号に該当するものと解される。しかし、拒絶査定に対する審判が請求された場合には、審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においてもその効力を有するものとされ(商標法56条、特許法158条)、審査と拒絶査定不服審判とは続審の関係にある。このように審判が続審の手続であることから、審査段階で提出されていなかった新たな資料も補充して、審査官の判断の当否が決定されることになる。その上、続審であることからすれば、審判において、査定時における処分の理由とは異なる理由により判断することも、拒絶理由通知等の手続的要件を履行する限りにおいて、可能であるというべきである。...手続の経緯からみれば、審査官は商標法4条1項7号の拒絶理由通知を発していたのに対し、審判体は同条1項6号という拒絶査定の理由とは異なる新たな拒絶の理由を発見し、新たな拒絶理由通知を発した上で、異なる拒絶の理由に基づいて審決をしたものである。そうすると、審査官においては商標法4条1項6号の拒絶理由の存否については全く判断をしておらず、審決において初めて同号の拒絶理由の存否について判断したものであるから、このような場合、審査官の拒絶査定において全く判断の対象とならなかった商標法4条1項6号の判断について、査定時を判断の基準時とする合理性はない。むしろ、同号について初めて特許庁としての判断が示された審判時をもって、判断の基準時とするのが合理的である。そうすると、審査と拒絶査定不服審判とは続審の関係にあり、本件のように審判において新たな拒絶理由通知が発せられ、審査とは異なる拒絶理由について判断されることもあることを考慮すると、拒絶査定不服審判の審決における商標法4条1項6号の判断の基準時は審決時となるというべきである。」として、本件において審決時を基準時とすべきであるとした審決に誤りはないとの判断をしました。
商標法4条1項6号該当性について知財高裁は、「日本維新の会が多数の国会議員を擁する全国政党であることは公知の事実であるが、東京維新の会は、日本維新の会の友好団体として協力関係を築いていた政党であると認められる。そして、東京維新の会は、地域政党であって、東京都議会議員を擁し、代表者であるDは日本維新の会の東京都支部長を務めており、政治団体として東京都選挙管理委員会へ届け出ており、その活動状況は新聞各紙においてたびたび報じられていたのであるから、東京維新の会は、少なくとも東京都においては著名性を有する団体であったと認められる。審決時である平成26年2月25日の時点において、東京維新の会は解散していたものと認められるが、その旨が東京都公報に掲載されたのは、審決後の平成26年3月17日のことであり、また、上記のような東京維新の会と日本維新の会との関係を考えるならば、『東京維新の会』の標章は、東京維新の会の解散後においても、当面は、その出所の混同を防止するために、同一又は類似の商標の登録を妨げるべき事由となるべきものである。以上によれば、『東京維新の会』の標章は、公益に関する団体であって営利を目的としないものであり、かつ著名性を有する政治団体である東京維新の会を表示するものと認められるから、本願商標が商標法4条1項6号に該当するものとした審決の判断に誤りはないものというべきである。」として原告の請求を棄却しました。

Tarzan事件 知財高裁平成24年6月27日判決

被告は、第7類「プラスチック加工機械器具」等を指定商品とする「Tarzan(標準文字)」(以下「本件商標」とする。)の商標権者です。原告は、本件商標に対して4条1項7号を理由として無効審判を請求しましたが、不成立審決となったため原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「(本件商標は)日本では広く知られていないものの、独特の造語になる『ターザン』は、具体的な人物像を持つ架空の人物の名称として、小説ないし映画、ドラマで米国を中心に世界的に一貫して描写されていて、『ターザン』の語からは、日本語においても他の言語においても他の観念を想起するものとは認められないことからすると、我が国で『ターザン』の語のみから成る本件商標登録を維持することは、たとえその指定商品の関係で『ターザン』の語に顧客吸引力がないとしても、国際信義に反するものというべきである。『ターザン(Tarzan)』の語は、米国の作家バローズの手になる小説シリーズ『ターザン・シリーズ』に登場する主人公の名前であり、本件商標登録査定時(平成22年7月6日)の時点において、日本におけるその著作権は存続していたし、派生的著作物にはなお著作権が存続し続けていたものである。バローズから『ターザン・シリーズ』のすべての書籍に関する権利を譲り受けた原告は、オフィシャル・ウェブサイトを通じ、ターザンに関する諸々の作品及びバローズの業績を伝承・解説するとともに、『ターザン・シリーズ』を含めたバローズに関する小説、パルプ雑誌、映画、ラジオ放送作品、テレビ放送作品、コミックスなどのあらゆる作品を収蔵したオンラインアーカイブを作成・提供するなど、『ターザン』の原作小説及びその派生作品の価値の保存・維持に努めるとともに、米国のみならず世界各国において『ターザン』に関する商標を登録して所有したり、ライセンス契約の締結・管理に関わることによって、その商業的な価値の維持管理にも努めてきた。このように一定の価値を有する標章やキャラクターを生み出した原作小説の著作権が存続し、かつその文化的・経済的価値の維持・管理に努力を払ってきた団体が存在する状況の中で、上記著作権管理団体等と関わりのない第三者が最先の商標出願を行った結果、特定の指定商品又は指定役務との関係で当該商標を独占的に利用できるようになり、上記著作権管理団体による利用を排除できる結果となることは、商標登録の更新が容易に認められており、その権利を半永久的に継続することも可能であることなども考慮すると、公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難い。」として本件商標の4条1項7号該当性を認め、審決を取消しました。

ひよこ事件 知財高裁平成18年11月29日判決

被告は、指定商品「まんじゅう」について、鳥の形状をした立体商標の商標権(以下、「本件商標」とする。)を有しています。原告は、本件商標に対して無効審判を請求しましたが、無効不成立審決を受けたため、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。争点は本件商標が法3条2項の要件を具備するに至ったかどうかです。
知財高裁は、「被告の直営店舗の多くは九州北部、関東地方等に所在し、必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在するものではなく、また、菓子『ひよ子』の販売形態や広告宣伝状況は、需要者が文字商標『ひよ子』に注目するような形態で行われているものであり、さらに、本件立体商標に係る鳥の形状と極めて類似した菓子が日本全国に多数存在し、その形状は和菓子としてありふれたものとの評価を免れないから、上記『ひよ子』の売上高の大きさ、広告宣伝等の頻繁さをもってしても、文字商標『ひよ子』についてはともかく、本件立体商標自体については、いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていないものというべきである。」として本件商標は法3条2項の要件を具備しないとし、審決を取消しました。

日南市章事件 知財高裁平成24年10月30日判決

本件は、拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟です。原告は、第6類建築用又は構築用の金属製専用材料等を指定商品として商標登録出願を行いましたが、拒絶査定を受けました。原告は拒絶査定不服審判を請求しましたが、原告が出願した商標(以下、「本願商標」という。)は、著名な宮崎県日南市(以下「日南市」という。)の市章(以下「日南市章」という。)と類似の商標であるから、商標法4条1項6号に該当するとして請求は成り立たないとする旨の審決を受けたので、原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を起こしました。
本件審決取消訴訟の争点は【1】日南市章の著名性について、【2】本願商標と日南市章との類否についての2点です。
まず争点【1】日南市章の著名性については、知財高裁は、「審決は、『公的な機関である地方自治体を表彰するために用いられる都道府県、市町村の章は、制定時に告示が行われるものであり、そして、告示は、広く一般に知らしめるものであることから、商標法第4条第1項第6号にいう【著名なもの】として扱うのが相当である』(2頁17行~20行)として、日南市章の実際の著名性について認定することなく、『著名なもの』と認めた。しかしながら、商標法4条1項6号は、『国若しくは地方公共団体...を表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標』と規定しているから、同号の適用を受ける標章は『著名なもの』に限られると解すべきであり(告示された国又は地方公共団体を表示する標章が当然に著名なものとなるわけではない。)、著名であるか否かは事実の問題であるから、告示されたことのみを理由として『著名なもの』とした審決の判断手法は、是認することができない。そして、同号は、同号に掲げる団体等の公共性に鑑み、その信用を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものと解されるから、ここに『著名』とは、指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者、需要者に広く認識されていることを要すると解するのが相当である。...日南市章が、日南市の公共施設やホームページ等に表示されたからといって、本願商標の指定商品の取引者、需要者が一般に目にするとは認められない。また、イベント等を報じる新聞記事の写真、テレビ放送等に写る日南市章は、背景として小さく写り込んでいるにすぎず、目立つものとは認められない。そして、日南市の観光や物産を紹介する書籍、ホームページも、本願商標の指定商品の取引者、需要者が一般に目にするとは認められない。被告は、本願商標の指定商品に含まれる商品『マンホール』の蓋は自治体の章が刻印されることが少なくなく、公共工事に用いられる建材を提供する事業者は県章や市章等に相当程度注意を払っているという取引の実情が存在すると主張する。しかしながら、マンホールの蓋を扱う取引者、需要者の数は明らかではなく、本願商標の指定商品の取引者、需要者のうちのどの程度を占めるのかは不明というほかない。したがって、被告の主張する上記取引の実情を考慮しても、上記認定の事実から、審決時に、日南市章が本願商標の指定商品『建築用又は構築用の金属製専用材料、金属製建具、金属製建造物組立てセット』、『セメント及びその製品、木材、石材、建築用ガラス』及び『清掃用具及び洗濯用具』に係る一商圏以上の範囲の取引者、需要者に広く認識されていたと認めることは、困難である。」 として日南市章の著名性について否定しました。
次に【2】本願商標と日南市章との類否についてですが、知財高裁は類否判断の基準として、最高裁の「つつみのおひなっこや事件」の判断基準を採用しています。この判断基準を用いた上で、知財高裁は、「日南市章は、別紙記載2のとおりの構成、すなわち、上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭とその輪郭内部の中心に内包される黒塗りの正円からなる図形からなるものである。他方、本願商標は、別紙記載1のとおりの構成、すなわち、上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭とその輪郭内部の中心に内包される黒塗りの正円からなる図形部分と、その下方に上記図形と比して1/5程の大きさで『DAIWA』の文字を配した構成を組み合わせた結合商標である。そして、本願商標の図形部分は、日南市章とほぼ同一といってよいほど類似していると認められるが、同図形部分は、日本銀行の行章とも類似しているところ、同行章は『日』という漢字の古代書体に由来していることが認められる。また、光が上下左右に4本伸びた構成(『上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭』の構成)は、日立製作所の社章でもよく知られたものである(弁論の全趣旨)。そうすると、本願商標の図形部分は、本願商標の大きな部分を占めるものではあるが、『日』という漢字の古代書体に由来するありふれた図形であって、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとまでは認められない。他方、本願商標の『DAIWA』の文字部分は、図形部分と比して1/5程の大きさにすぎないが、同部分から『ダイワ』の称呼が生じることは明らかである。また、我が国には、『ダイワ』、『大和』を冠した企業名が多数存在する(裁判所に顕著な事実)から、取引者、需要者は、『DAIWA』の文字部分を企業名に関する表示として認識し、同部分からそのような企業名としての観念を生じるものと認められる。したがって、本願商標の『DAIWA』の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めることはできない。以上によれば、前掲最高裁判決の判断基準に照らして、本願商標の構成から図形部分を抽出し、この部分だけを日南市章と比較して商標そのものの類否を判断することは、許されないというべきである。そして、本願商標と日南市章を全体として対比すると、外観において本願商標の図形部分と日南市章は類似するものの、本願商標が「ダイワ」の称呼を生じ、『ダイワ』ないし『大和』の企業名としての観念を生じるのに対し、日南市章は、特定の称呼、観念を生じるものとは認められないから、全体として類似するとはいえない。」との判断を示しました。

ルナ事件 知財高裁平成24年6月6日判決

原告は、本件商標1「LUNA」(登録第566229号)及び本件商標2「ルナ」(登録第2246146号)の商標権者です。被告は、本件商標1及び2の指定商品の内、第9類「電子応用機械器具及びその部品」について商標法50条1項に基づく商標登録の取消審判請求をしました。特許庁は、平成23年12月6日、本件商標1、2については被告請求に係る商品につき商標法50条2項所定の使用が認められないとして、本件商標1、2の登録を同商品について取り消すとの審決をし、その謄本は同月15日に原告に送達されました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
本件訴訟の争点は、「ネオンランプ」、「センサー用LED基板」が第9類「電子応用機械器具及びその部品」の範疇に含まれるか否かという点です。
 知財高裁は、まず「ネオンランプ」については「ネオンブラケットが用いられるパイロットランプは、これが取り付けられた機器の状態(例えばスイッチのオン、オフ)を示す表示灯としての機能を果たすものであるが、甲第25、第44号証によれば、ネオンランプ(ネオンブラケット)をその定電圧特性を活かして回路保護のために用いることがあることが認められるから、上記カタログにおける使用商標1、2の使用をもって、『電子応用機械器具及び部品』についての使用と評価することが可能である。この点、被告は、ネオンランプの主たる用途は照明にあるとか、原告の『ネオンランプ』が電球の類として用いられることは明らかであると主張するが、種々の発光色のネオンランプを用いて照明装置を構成することがあるとしても、原告の『ネオンブラケット』を照明装置ないしその部品にすぎないとしてよいと断定することはできないし、カタログに電球交換型ネオンブラケットのための『ネオン交換電球』が掲載されているとしても、ネオンランプを交換できるようにするために電球型のネオンランプが採用されているにすぎず、その名称ゆえに一般の照明用の『電球』と単純に同一視してよいかは疑問である」として、「ネオンランプ」は、第9類「電子応用機械器具及びその部品」の範疇に含まれるとの判断を示しました。
次に「センサー用LED基板」については、「『センサー用LED基板Assy』は基板上に複数のLED(発光ダイオード)を並べて実装したもの、『拡散照明装置』、『透過照明装置』は基板上にLEDのほかに、ツェナーダイオード、トランジスタ、コンデンサー等を実装して装置を構成したもの、『2面バックライト照明』も基板上にLEDのほかに、定電圧ダイオード等を実装し、偏光板と組み合わせるなどして装置を構成するもの(甲13、14)であるが、これらは顧客が画像解析装置を製造するために、注文を受けた原告においてその構成部品(装置)を設計、製造したものである(弁論の全趣旨)。ここで、上記『センサー用LED基板Assy』等が画像解析を行うために、対象となる物に光を照射する機能を果たすものであるとしても、日常生活において光を照らして空間を明るくする目的とは程遠いことは明らかである。そして、上記『センサー用LED基板Assy』等は、電子部品であるLEDやダイオード等を使用して構成されており、その機能に照らせば、電子の作用を応用し、その電子の作用が当該機械器具にとっての構成要素となっているということができる。そうすると、原告は、『電子応用機械器具及びその部品』につき、取引書類である納品書や納入仕様書に使用商標1を使用したということができる。」として、「センサー用LED基板」についても第9類「電子応用機械器具及びその部品」の範疇に含まれるとの判断をして、原告の請求を認め審決を取消しました。

3ms事件 知財高裁平成24年7月26日判決

被告は、第40類「布地・被服又は毛皮の加工処理(乾燥処理を含む。)、裁縫、ししゅう」等を指定役務とする商標「3ms」(以下、「本件商標」とする)の商標権者です。原告は、被告の「3ms」の商標は原告の「3M」商標と混同を生ずる恐れがあるとして、本件商標に対して無効審判を請求しましたが、本件審判の請求は成り立たないとの審決を受けましたので、原告はこれを不服として本件訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本件商標からは、『スリーエムズ』、『スリーエムエス』、『サンエムズ』又は『サンエムエス』の各称呼が生じ、引用商標1からは、『スリーエム』の称呼が生じる。本件商標から生じ得る『スリーエムズ』の称呼は、引用商標1の『スリーエム』の称呼の末尾に『ズ』の1音が加わっているだけであり、本件商標の『スリーエムズ』の称呼と引用商標1の『スリーエム』の称呼とは類似するから、両商標は、称呼において類似するといえる。また、本件商標と引用商標1は、いずれも、その構成する各文字が、ほぼ同じ大きさ、高さ、太さで表記されていること、『3』及び『Mないしm』が共通することに照らすと、外観において類似するといえる。本件商標も引用商標1も、特定の観念を生じることはないから、対比することはできない。以上を総合すると、本件商標と引用商標1とは、類似する商標であるといえる。...【1】本件商標と引用商標1とは、外観及び称呼において類似し、類似の商標であること、【2】本件出願前から、原告や住友スリーエムの商号中の『スリーエム』部分は、日本国内において著名であること、【3】原告の関連会社は、日本国内において、引用商標1を使用して、文具製品・オフィス製品を始め、多分野、多種類に及ぶ製品を販売し、原告の関連会社が販売する製品の中には、被服に使用される中綿素材や反射材製品、衣類・布製品及び革に使用される防水スプレーも含まれていること、【4】衣服等の布製品においては、素材の開発から加工技術の開発まで同一の企業や関連会社が行う場合があり、上記中綿素材、反射材製品及び防水スプレーは、本件指定役務に含まれる「布地・被服又は毛皮の加工処理(乾燥処理を含む。)」と密接に関連するといえること、が認められる。上記の事実を総合すると、本件商標を本件指定役務に使用すると、取引者・需要者において、当該役務が原告又は原告と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であると混同するおそれがある」として本件商標は4条1項15号に該当すると判断し、審決を取消しました。

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