DALE CARNEGIE事件 東京高裁平成13年2月28日判決

原告は、指定商品「印刷物」等について、欧文字横書きのからなる「DALE CARNEGIE」の商標権を有しています。

しかしながら商標法50条の不使用取消審判で、指定商品「印刷物」について取消をうけました。そこで原告はこれを不服として、審決取消訴訟を提起しました。
本件訴訟において、原告は、「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・セールス・コース」、「デール・カーネギー・マネージメント・セミナー」等の講座に使用する印刷物に「DALE CARNEGIE」の文字を表示しているので、商標を使用しているとの主張をしました。しかしながら東京高裁は、原告の印刷物は「専ら『デール・カーネギー・コース』等の本件講座の教材としてのみ用いられることを予定したものであり、本件講座を離れ独立して取引の対象とされているものではないというほかなく、したがって、これらを商標法上の商品ということはできない」として印刷物に商標が使用しているとは言えないと判断しました。

「粋」事件(知財高裁平成26年6月18日判決)

登録第1652530号商標「宝焼酎\粋」の商標権者である原告は、登録第5491888号商標「粋」(標準文字)に対して無効審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされました。

原告はこれに対して本審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「引用商標が『宝焼酎』との文字列と『粋』との文字を上下二段に配しているとはいえ、各文字の大きさ及び書体は同一であって、下段の『粋』の文字は上段の中央の『焼』の文字の直下に配されていることから、全体としてまとまりよく表されていることに照らせば、『粋』の文字部分だけが独立して看者の注意をひくともいいがたい。」と判断し、分離観察するべきではないと判断しています。

ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券(知財高裁平成26年10月30日判決)

本件は、「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」という商品券を販売している、株式会社ジェフグルメカードが、商標「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」(標準文字)(以下、「本件商標」とします。)に対して無効審判を請求し、棄却審決されたことに対する審決取消訴訟です。
原告は「全国共通お食事券」の語は、原告の商標として自他役務識別力及び周知性を有するので、本件商標は商標法4条1項7号、10号、15号、19号等に該当するとの主張をしました。
知財高裁は、原告は「全国共通お食事券」の語を常に「ジェフグルメカード」と併記しており、常に「ジェフグルメカード」の文字の方が「全国共通お食事券」よりも約1.5倍大きい字体で表記されていたことや、「ジェフグルメカード」のみでの単独使用も見られること等から、ジェフグルメカードの表示の方が原告商品の出所を示すものと認識するものと認められるとして、原告の主張を退けました。

オルトリリー事件(平成25年(行ケ)第10122号 審決取消請求事件)

原告はネット通販を営む会社で、「オルトリリー」(標準文字)について第20類の枕等を指定商品として出願しましたが、イタリアのファベ社が枕等について本願の出願前から使用している商標「Ortolily」(引用商標1)及び「オルトリリー」(引用商標2)を引用商標として4条1項10号で拒絶審決となったため、審決取消訴訟を提起したものです。

知財高裁は、本願商標出願日前の周知性については「【1】引用商標2を付して電磁的方法により広告が提供されていたファベ社製の枕は、本願商標出願日前から、相当数のウェブサイトで高い人気を得た売れ筋商品として取り上げられていたことが認められ、これによれば、引用商標2は、これらウェブサイトを通じて多数の需要者の目に触れられたものと推認され、また、【2】引用商標1を付された同枕は(乙1、2)、原告以外の大手通販業者内で販売される寝具類の中での販売ランキングで上位を占め多数の者がこれを購入したものと認められ、これによれば、引用商標1は直接多数の需要者の目に触れられたものと推認される。したがって、引用商標は、遅くとも本願商標出願日までにはファベ社製の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されていた商標であると認めるのが相当である。」と判事し、本願商標出願日後の周知性については、「ひとたび周知性を得た商標は、短期間のうちにその周知性を喪失することはないのが通常であるところ、上記(1)ウのとおり、引用商標を付されたファベ社製の枕は、本願商標出願日後も相当数のウェブサイトで高い人気を得た売れ筋商品として取り上げられ続け、また、大手通販業者内で販売される寝具類の中での販売ランキングでも上位を占めている。したがって、引用商標は、現在においてもファベ社製の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されているものと認められる。」と判事し、原告の主張を退けました。

遠山の金さん事件 平成25年(行ケ)第10233号 審決取消請求事件

本件は無効2012-890075号事件に対して特許庁が行った無効審判請求不成立審決に対する審決取消訴訟です。

被告は、第4700298号「遠山の金さん(標準文字)」(以下、本件商標とします。)の商標権者です。
原告は、本件商標「遠山の金さん」は、我が国で知られた歴史上の人物である「遠山(金四郎)影元」を認識させるものであるから商標法4条1項7号に該当するとして、平成24年9月7日に無効審判を請求しました。しかし、特許庁は平成25年7月5日、「本審判の請求は、成り立たない」との審決をし、審決の謄本は平成25年7月16日に原告らに送達されました。原告らはこれを不服として本件訴訟を提起しました。
 
本件訴訟の争点は以下の2つになります。
1. 認定事実の誤り
2. 商標法4条1項7号該当性の判断の誤り
裁判所はそれぞれ以下のように判断しました。

1. 認定事実の誤り
審決では、「遠山の金さん」と歴史上存在した「遠山(金四郎)景元」とは別異のものであるとして認定されています。
知財高裁では、「江戸時代後期に実在した遠山景元は、江戸町奉行等を歴任し、名奉行として賛辞されていたことまでは認められるものの、その具体的な呼称や仕事ぶりは不明な点が多く、現時点で『遠山の金さん』につき抱かれているストーリー、すなわち、桜吹雪の刺青を肩に彫った名奉行の遠山金四郎が、江戸の町中で『金さん』として遊び人に扮していたときに悪事を目撃した際に示した桜吹雪が、その後の白州での裁判時に決定的な証拠となって悪党を懲らしめて活躍するというストーリーと、必ずしも一致しているとは認められない。...(省略)原告は、いわゆる『モデル小説』においては、当該作品中に描か
れた人物は、モデルとされた実在の人物からかけ離れた作者の想像上の産物ではないというべきであるとも主張する。しかしながら、実在の人物をモデルとする作品であっても、当該作者が史実にどの程度基づいて当該人物を描いているかによって、実在の人物と同一視できるか否かが定まるのであり、すべてのモデル小説を同列に扱うことはできない。そして、本件では、上記認定事実のとおり、歴史上に実在した遠山景元の実際の通称や仕事ぶりについては客観的史料が乏しく、史実に即して主人公を描くことが困難であるために、『遠山の金さん』と実在の『遠山景元』とのかい離が大きいといわざるを得ないのである。したがって、現在、『遠山の金さん』として定着しているイメージは、実在の『遠山景元』と同一視できず、史実に基づかない出来事も含めて後から作り上げられた人物像というほかない。」として、審決の認定判断に誤りはないとしました。

2. 商標法4条1項7号該当性の判断の誤り
知的高裁は、「被告は、『遠山の金さん』という名称をタイトル名ないし主人公名として初めて使用した者とはいえないが、昭和25年以降、『遠山の金さん』と呼ばれる主人公が登場する映画を多数作成し、昭和45年以降は、同名のテレビ番組を長期間にわたって多数制作してきたものと認められ、『遠山の金さん』の呼称やイメージを一般大衆に広めることに一定の寄与をした立場にあるといえる。したがって、被告は、遠山景元と血縁関係を有する者の関連する会社や同人の生育地と地縁を有する団体に当たるものではないが、本件商標の登録出願を剽窃的に行ったものということはできない。...(省略)『遠山の金さん』がテレビ番組のタイトル名ないし主人公名にすぎないことからすると、本件指定商品における本件商標の使用によって、『遠山景元』という歴史上の人物の名前を独占できるかという公益性のある社会的問題が生じる余地はなく、本件商標によって失われる公益は想定し難い。...(省略)被告が『遠山の金さん』シリーズの映画やテレビ番組の制作や配給をしてきたのは上記認定事実のとおりであって、『遠山の金さん』という語を商標登録出願することにより、形成してきたその信用や顧客吸引力を保護しようとすること自体は、商標制度の本質からして非難できるものでもない。...(省略)本件商標『遠山の金さん』があくまでも遠山景元をモデルとして作り出された主人公名にすぎないことは、繰り返し述べてきたとおりであるから、そもそも遠山景元の遺族感情や同人に関する国民感情を問題にする余地はない。...(省略)被告が本件商標を登録したことによる法的、社会的影響については、公益的事業において歴史上実在した遠山景元を紹介するに当たって、通称として『遠山の金さん』の表現が併記されることがあるとしても、それは本件指定商品の範囲外で、類似する商品・役務に当たるともいえないから、公益的事業自体に支障が生じるとは考えにくい。」として4条1項7号該当性を否定しました。

TV時代劇などでよく知られている「遠山の金さん」の商標登録について、4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するかが争われた事件です。
原告は、「名奉行金さん」について商標登録を受けていたのですが(第5202737号)被告から無効審判を請求されて無効となり(無効2009-890079号事件)、審決取消訴訟(平成22年(行ケ)第10152号審決取消請求事件)でも負けております。
さらに、被告は原告に対し、原告が製造販売した「CR松方弘樹の名奉行金さん」シリーズが、テレビ放映用番組「遠山の金さんシリーズ」の著作権及び、「遠山の金さん」の商標権等を侵害するとして、差止及び損害賠償を求めて提訴しています。
このような事情があって原告は、被告商標に対して無効審判を請求したものと思われます。
まず取消事由1について注目すべきは、歴史上の人物をモデルとした小説の中に登場する人物について実在の人物と同一視できるかどうかの判断基準を示しているところです。
知財高裁は、「作者が史実にどの程度基づいて当該人物を描いているかによって、実在の人物と同一視できるか否かが定まる」との判断を示しています。

取消事由2については、知財高裁は被告が「遠山の金さん」という名称を初めて使用した者とは言えないが、長期間に渡り「遠山の金さん」というテレビ番組等を多数制作してきたことにより「遠山の金さん」という称呼やイメージを一般大衆に広めることに寄与しており、被告の出願は剽窃的なものではないと判断しています。
また、「遠山の金さん」の登録を認めたとしても、本件指定商品に含まれる土産物や観光物品に「遠山景元」という歴史上の人物名称を使用することまで制約されるわれではないから公益的事業等への影響は限定的なものにとどまるとの判断をしました。
 
尚、知財高裁は判決の中で「被告が『遠山の金さん』シリーズの映画やテレビ番組の制作や配給をしてきたのは上記認定事実のとおりであって、『遠山の金さん』という語を商標登録出願することにより、形成してきたその信用や顧客吸引力を保護しようとすること自体は、商標制度の本質からして非難できるものでもない。なお、被告以外の同業他社も、『遠山の金さん』というタイトル名をつけた時代劇を制作しており原告と同様の立場であると認められ、『遠山の金さん』という文字を商標として登録出願する機会があったといえるから、かかる点においても、被告による本件商標の登録出願につき、先願主義の原則や公正な競争原理から見て、著しく不当と評価されるような側面は見出し難い。」との判断も示しています。歴史上の人物の名称を商標として使用したい場合については、商標登録が認められない場合もあり得ますが、知財高裁が上記のような判断をしている現状を踏まえると、他社に登録されてしまうことがないように出願して特許庁の判断を仰ぐべきだということができるかと思います。

Kawasaki事件 平成24年(行ケ)第10002号 審決取消請求事件

原告である川崎重工業株式会社は、平成21年7月13日に第25類「被服、ベルト、帽子、手袋、ネクタイ、エプロン、リストバンド」を指定商品とする本件商標について出願し、平成22年1月27日付け手続補正書により、指定商品について、第25類「被服、ベルト、帽子、手袋、ネクタイ、エプロン」と補正したが、同年6月25日、拒絶査定を受けたので、同年9月27日、これに対する不服の審判(不服2010-21611号事件)を請求した。特許庁は、平成23年11月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月2日、原告に送達され、原告はこれを不服として本件訴訟を提起しました。

本件訴訟の争点は以下の通りです。
(1)商標法3条1項3号該当性判断の誤り
(2)商標法3条1項4号該当性判断の誤り
(3)商標法3条2項該当性判断の誤り

まず争点1については、「本願商標は、欧文字『Kawasaki』が、エーリアルブラックの書体に似た極太の書体で強調して書かれており、字間が狭く、全体的に極めてまとまりが良いことから、単なるゴシック体の表記とはいえず、見る者に、力強さ、重厚さ、堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有するものである。このような外観からすると、本願商標は、単なる欧文字の『Kawasaki』の表記とは趣きを異にするから、一般人に、一義的に神奈川県川崎市を連想させるような表記ということはできない。...神奈川県川崎市を『Kawasaki』、『KAWASAKI』等の欧文字により表記することがしばしば行われるとはいえるが、漢字で『川崎』と表記される場合とは異なり、『Kawasaki』、『KAWASAKI』等の欧文字に接した一般人が、通常、当該文字から同市を商品の産地、販売地として想起するとまでは認められない。認定の事実によれば、本願商標のみに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査したところ、半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し、神奈川県川崎市を想起した者は総数の3.1%しかなかったこと、また、...本願商標をアパレル商品に付した場合でも、...神奈川県川崎市を想起した者は総数の10.4%しかなかったことが認められる。以上を総合すると、本願商標が指定商品に使用されたとしても、需要者又は取引者において一般的に地名である神奈川県川崎市を想起するとはいえず、当該指定商品が同市において生産され又は販売されているであろうと一般に認識することもないというべきである。」として3条1項3号に該当しないとしました。

争点2については、「『川崎』がありふれた氏に該当すること、欧文字『Kawasaki』がその英文表記に該当することは、原告もこれを争っていない。しかし、本願商標は、...欧文字『Kawasaki』がエーリアルブラックに似た極太のゴシック書体で強調して書かれており、字間が狭く、全体的に極めてまとまりが良いことから、単なるゴシック体の表記とはいえず、見る者に、力強さ、重厚さ、堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有するものである。このような外観からすると、本願商標は、単なる欧文字の『Kawasaki』の表記とは趣きを異にするから、一般人に、一義的に姓氏を連想させる表記ということはできない。また、審決は、『川崎』の氏を『KAWASAKI』、『Kawasaki』、『kawasaki』の欧文字で表記した例(乙3の『(2)理由2』)を引用するが、これらの中に、本願商標と同一又は類似の表示態様のものは認められない。さらに、上記1(3) 認定の調査結果によれば、本願商標のみを呈示した場合、半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し、本願商標から『個人名』を想起したとの明確な回答はなく、本願商標を『個人事業・商店のロゴ』と思った旨の回答は全体の1.5%にすぎなかった。また、同(4) 認定の調査結果によれば、本願商標をアパレル関係の商品に付して呈示した場合、本願商標から『個人名』を想起したものは全体の約1%であり、本願商標を『個人事業・商店のロゴ』と思った旨の回答は全体の2.2%にすぎなかった。すなわち、本願商標から、氏である『川崎』を想起した者は殆どいないということができ、このような調査結果からも、本願商標は、ありふれた氏を『普通に用いられる方法で表示する』ものではないと解すべきである。」として原告が争わなかったにもかかわらず3条1項4号該当性を否定しました。

争点3については、「審決は、『本願商標を付した商品の過去3年間の売上は5億円程度であって、また、商品の販売数量、シェア、広告宣伝の状況等について、本願商標の指定商品についての著名性を具体的に裏付ける証拠は何ら提出されていないに等しく、申立人の提出に係る証拠のみをもってしては、本願商標が請求人の業務に係るアパレル関連の商品を表示する商標として、我が国における取引者、需要者の間に広く認識され、自他商品の識別力を獲得したものということはできない。』旨判断した。上記判断は、本願商標が商標法3条2項の要件を満たすためには、その指定商品であるアパレル関連の商品について使用された結果、著名なものとして自他商品識別力を獲得したことを要するとの前提に立つが、この前提は誤りである。すなわち、同項は、『使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役
務であることを認識することができるものについては、・・・商標登録を受けることができる。』と規定し、指定商品又は指定役務に使用された結果、自他商品識別力が獲得された商標であるべきことを定めていない。また、同項の趣旨は、同条1項3号から5号までの商標は、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて出所表示機能をもつに至ることが経験的に認められるので、このような場合には特別顕著性が発生したと考えて商標登録をし得ることとしたものであるから、登録出願に係る商標が、特定の者の業務に係る商品又は役務について長年使用された結果、当該商標が、その者の業務に係る商品又は役務に関連して出所表示機能をもつに至った場合には、同条2項に該当すると解される。そして、上記の趣旨からすると、当該商標が長年使用された商品又は役務と当該商標の指定商品又は指定役務が異なる場合に、当該商標が指定商品又は指定役務について使用されてもなお出所表示機能を有すると認められるときは、同項該当性は否定されないと解すべきである。...本願商標の使用が開始されたのは1970年代であり、当初は、原告の主力製品であるバイクに使用されていたが、1980年代に入り、原告及び川崎重工グループを指称するものとして全社的に使用が拡大され、現在に至るまで継続して20年以上、原告の事業に関する製品やカタログ...等で、一貫して使用されている。全国各地に700店舗以上存在するカワサキ正規取扱店では、本願商標が店頭看板として目立つ態様で掲げられている。社団法人日本国際知的財産保護協会(AIPPI)が平成16年に発行した「日本有名商標集」には本願商標が掲載されている。...平成元年以降、原告が100%出資する子会社株式会社カワサキモータースジャパンを通じて、本願商標を付したアパレル商品が販売されており...本願商標を付したアパレル商品の過去3年間の売上は5億円を上回る。なお、我が国における衣料品小売販売額の総計は平成22年において約15兆円であるから、アパレル業界全体における原告のシェアが大きいとはいえないが、その売上額自体は微少とはいえない。...以上の事実を総合すると、原告が、本願商標を長年にわたってバイク関係やその他の多様な事業活動で使用した結果、審決時までに、本願商標は著名性を得て、バイク関係はもとより、それ以外の幅広い分野で使用された場合にも自他商品識別力を有するようになったといえる。そして、原告の子会社を通じて、本願商標を使用したアパレル関係の商品が長年販売されていることから、本願商標をアパレル関係の商品で使用された場合にも自他商品識別力を有すると認めるのが相当である。」として3条2項に該当すると判断しました。

今までは実際に使用して識別力を獲得した商品・サービスそのものについてのみ3条2項を適用して、登録を認めるというのが原則でしたが、本判決ではそうでないアパレル商品にまで登録を認めているという非常に珍しい事例と言えます。

スバリスト事件 平成24年(行ケ)第10013号 審決取消請求事件

被告は、第4類「固形潤滑剤、靴油、保革油、燃料、工業用油、工業用油脂」を指定商品として「SUBARIST」の欧文字と「スバリスト」の片仮名を上下二段に横書きしてなる商標について登録を受けました。
これに対して自動車ブランド「SUBARU」の商標権者である富士重工業株式会社が無効審判を請求しましたが、請求棄却審決を受けたため、審決取消訴訟を提起したという事件です。
原告側は、取消事由として商標法4条1項11号、同項15号、同項19号、同項7号をあげましたが、知財高裁は取消事由の内、同項15号についてのみ以下のように判断しました。

原告の引用商標1~3と本件商標の類否については、「本件商標と引用商標1とは、『SUBAR』という文字を構成の一部に有している点で、また、本件商標と引用商標2及び3とは、『スバ』という文字を構成の一部に有している点で、それぞれ共通しているものの、その外観は全体として類似するものということはできない。また、本件商標の称呼と引用商標1ないし3の称呼とは、語頭の『スバ』が共通するものの、本件商標は、『スバ』の後に『リスト』が続き、全5音で構成されているのに対し、引用商標1ないし3は、『スバ』の後に『ル』が続く全3音で構成されていることからすると、『ル』と『リ』は50音中同じ行に属することなど原告が主張する事情を考慮しても、その称呼は全体として相違するものといわなければならない。他方、本件商標からは、原告が製造する自動車のブランドであるスバルの自動車の愛好家との観念が生じることがあり、引用商標1ないし3からも、原告が製造する自動車のブランドであるスバルとの観念が生じ得るから、観念の点では、関連性があることは否定できないが、これらの観念も全く同一のものではなく、上記のとおり、外観や称呼の点で相違するものであることに照らすと、本件商標と引用商標1ないし3とが全体として類似する商標であるとまでいうことはできない。」として本件商標と引用商標1~3は非類似であると判断しました。
本件商標と引用商標4の類否については「本件商標と引用商標4とは、文字の書体に若干の相違があるほかは、『SUBARIST』及び『スバリスト』を構成する各文字や、これらを上下二段で横書きするという全体の構成も共通している。したがって、本件構成と引用商標4とは、後記(4)のとおり指定商品を異にするものの、外観及び称呼において類似する商標であるといわなければならない。」として類似すると判断しました。

原告商標の周知著名性については、「原告は、自動車の車両・部品・関連資材の製造販売、航空機の製造販売等を目的とする株式会社であり、...平成20年から平成22年まで、日本国内における自動車の年間販売シェアで4%前後を維持している著名な企業である」等として原告の引用商標1「SUBARU、引用商標2及び3「スバル」について周知著名性があることを認めました。
しかしながら原告引用商標4「SUBARIST/スバリスト」については、「その指定商品である紙類等について使用されていることを認めるに足りる証拠はなく、これが周知著名性を有するものであると認めることはできない。」として周知著名性を否定しました。

混同を生ずるおそれについては、「本件商標は、外観や称呼において引用商標1ないし3と相違し、これらが全体として類似する商標であるといえないとしても、本件商標からは、原告が製造する自動車のブランドであるスバルの自動車の愛好家との観念が生じることがあり、他方、引用商標1ないし3からも、原告が製造する自動車のブランドであるスバルとの観念が生じ得るから、観念において関連性があることは否定できない。...自動車の分野において、引用商標1ないし3が周知著名性を有していることは当事者間に争いがないことや、本件商標の指定商品は、引用商標1ないし3が使用される商品と同一又は関連性を有することなどを併せ考慮すると、本件商標をその指定商品に使用した場合、その需要者及び取引者において、本件商標が使用された商品が、例えば、原告から本件商標についての使用許諾を受けた者など、原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所につきいわゆる広義の混同を生ずるおそれがあることは否定できない。したがって、本件商標が、商標法4条1項15号に該当しないとした本件審決の判断は、同号の適用を誤るものであり、本件審決は、取消しを免れない。」として4条1項15号該当性を認め、審決を取消しました。

小僧寿し事件(最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決)

本事件は、「小僧」の登録商標を有するX(原告・控訴人・上告人)が、著名な持帰り寿司のチェーンである「小僧寿し」チェーン(以下、Aとします。)の加盟店であるY(被告・被控訴人・被上告人)の使用商標が登録商標に類似するとして差止請求、損害賠償請求をした事案です。

本判決のポイントは大きく2つあります。

1. フランチャイズチェーンの名称と商標法26条1項1号にいう自己の名称
2. 商標法38条3項に基づく損害賠償請求に対する損害不発生の抗弁の可否

1についてはYがYの商標の使用は商標法26条1項1号に規定する「自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するため商標権の効力は及ばないと反論したため最高裁が判断を示したものになります。本判決では、「フランチャイズ契約により結合した企業グループは共通の目的の下に一体として経済活動を行うものであるから、右のような企業グループに属することの表示は、主体の同一性を認識させる機能を有するものというべきである。したがって、右企業グループの名称もまた、商標法二六条一項一号にいう自己の名称に該当するものと解するのが相当である。」と判事しました。第1審と第2審ではフランチャイズの名称は著名なものである場合に限って、「自己の名称」に該当するとの判断を示していますが、最高裁判決では著名であることは必要としていません。

2については、「商標法三八条二項は、商標権者は、故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる旨を規定する。右規定によれば、商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。」として損害不発生の抗弁を認めました。

Fashion Walker事件 平成24年(行ケ)第10310号 審決取消請求事件

本件は商標法50条の不使用取消審判の棄却審決に対する審決取消訴訟で、使用の主体について争われた興味深い事例です。
商標法50条1項は、継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録について取消すことができる旨を規定しています。
本件については、商標権者、専用使用権者は登録商標と社会通念上同一の商標を使用しておらず、通常使用権者であるグンゼ社からパンティストッキングを仕入れて販売していたアイ・ティ・エム・ユー社が楽天市場において販売していた事実が使用証拠として採用されています。

知財高裁はその理由を以下のように判事しています。
「商標法50条1項には、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者(以下『商標権者等』という。)のいずれもが、同項に規定する登録商標の使用をしていないときは、取消しの審判により、その商標登録は取り消される旨規定されている。ここで、商標権者等が登録商標の使用をしている場合とは、特段の事情のある場合はさておき、商標権者等が、その製造に係る商品の販売等の行為をするに当たり、登録商標を使用する場合のみを指すのではなく、商標権者等によって市場に置かれた商品が流通する過程において、流通業者等が、商標権者等の製造に係る当該商品を販売等するに当たり、当該登録商標を使用する場合を含むものと解するのが相当である。このように解すべき理由は、今日の商品の流通に関する取引の実情に照らすならば、商品を製造した者が、自ら直接消費者に対して販売する態様が一般的であるとはいえず、むしろ、中間流通業者が介在した上で、消費者に販売することが常態であるといえるところ、このような中間流通業者が、当該商品を流通させる過程で、当該登録商標を使用している場合に、これを商標権者等の使用に該当しないと解して、商標法50条の不使用の対象とすることは、同条の趣旨に反することになるからである。本件においてこれをみると、【1】アイ・ティ・エム・ユーは、グンゼが製造し、本件商標が付されたパンティストッキングを仕入れ、楽天株式会社の運営に係るウエブサイト(楽天市場、本件サイト)において、上記パンティストッキングを表示して、販売を継続しており、平成21年5月、同年8月、平成22年3月、同年6月、同年7月、同年10月、平成23年9月頃、本件サイトを利用して、一般消費者に上記パンティストッキングを販売していることが確認できること、【2】本件サイトには、本件使用商標の表示されたグンゼの製造に係るパンティストッキングの包装の写真が掲載されており、その掲載態様に照らすならば、本件使用商標は、その商品の出所がグンゼであることを示しているといえること、【3】グンゼの製造に係るパンティストッキングは、流通業者を介して、消費者に販売することを前提として、市場に置かれた商品であることが明確に理解でき、グンゼも、そのことを念頭に置いた上で、パンティストッキングを販売し、アイ・ティ・エム・ユーはこれを仕入れていると解されること等の事実が認められる(甲18の1ないし18の3、乙19)。以上のとおり、本件商標の通常使用権者であるグンゼは、流通業者を介して、本件審判請求の予告登録前3年以内に、指定商品である「靴下」に該当するパンティストッキングに、本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたと認めることができる。...原告は、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が商標を付した商品がいったん流通におかれた場合に、当該権利者の全くあずかり知らない第三者のもとで当該商品が販売されてさえいれば、当該権利者による商標の使用の中止から3年以上経っていたとしても、当該権利者による販売であるとして、不使用による取消しを免れることになるのは、不合理である旨主張する。しかし、全証拠によるも、本件において、原告主張のような特段の事情が存在すると認めることはできない。」

今日においては、商標権者が商品に登録商標を使用しなくなって以後も、長期に渡り商品が点々流通してネット販売等されているのは良くあることであり、そのような長期間に渡って登録商標を保護することがあるのかということで、本判決については反対意見も多いですが、実務にあたる者としては、今後は流通業者による使用の可能性も考慮して不使用取消審判請求をする必要がありそうです。

ほっとレモン事件 平成24年(行ケ)第10352号 商標登録取消決定取消請求事件

カルピス社は、「ほっとレモン」の文字を赤い枠で囲んだ商標を平成21年12月1日に出願し、平成23年6月27日登録査定となりました。しかしながら、訴外のサントリーホールディングス社等から登録異議申立がなされ、平成24年9月4日に本件商標の商標登録の取消決定がなされ、その謄本は同月13日に原告に送達されました。

原告はこれを不服として本件訴訟を提起しました。
本件訴訟の争点は商標法3条1項3号と同2項に該当するかどうかです。
まず、3条1項3号に該当するかについては、知財高裁は「本件商標は、別紙商標目録記載1のとおり、本件文字部分を上下二段に横書きし、これを本件輪郭部分で囲んだ構成からなり、これらの文字と輪郭線とを同じ赤系色で彩色したものである。本件文字部分のうち、片仮名『レモン』部分は、指定商品(第32類『レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料』)を含む清涼飲料・果実飲料との関
係では、果実の『レモン』又は『レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料』であることを意味し、また本件文字部分のうち、平仮名『ほっと』部分は、上記指定商品との関係では、『熱い』、『温かい』を意味すると理解するのが自然である。また、本件輪郭部分については、上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは、清涼飲料水等では、比較的多く用いられているといえるから、本件輪郭部分が、需要者に対し、強い印象を与えるものではない。さらに、『ほっとレモン』の書体についても、通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。」として3条1項3号に該当すると判断しました。

3条2項の適用により登録を受けられるかについては、出願商標は「ほっと」と「レモン」の部分を上下二段に横書きにしているのに対し、実際に使用されているものはレモンの図形により輪郭の一部が隠れて見えなくなっていること等から、本件商標が使用されたことにより、需要者において、何人かの業務に係る商品であるかを認識することができたと判断することはできないとして、3条2項に該当しないと判断されています。

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