商標法
2026/01/07

並行輸入はどこまでOK?フレッドペリー事件が示した「3要件」と落とし穴(最高裁 平成15年2月27日)

1 まず結論:並行輸入は「常に適法」ではありません

海外で正規に売られているブランド品を、国内の正規代理店ルートとは別のルートで輸入して販売することを並行輸入といいます。

では、海外で買った本物を日本で売るのは自由でしょうか。
ここで問題になるのが、ブランド名・ロゴなどの商標です。商標は「どこ(誰)の商品か」を示す目印で、勝手に同じ商標を付した商品を輸入する行為は、形式的には商標権侵害になり得ます(商標法2条3項、25条)。

ただし最高裁は、一定の場合には、並行輸入でも「実質的に違法ではない(=侵害と扱わない)」と整理しました。

ポイントは、その商品が本当に、商標が約束する出所と品質のコントロールの下にあるかです。

2 フレッドペリー事件の位置づけ

本件の裁判は次の審級で進みました。

  • 一審:大阪地判 平成12年12月21日(平成9年(ワ)第8480号)・裁判所HP

  • 控訴審(原審):大阪高判 平成14年3月29日(平成13年(ネ)第425号)・裁判所HP

  • 上告審(最高裁):最判 平成15年2月27日 第一小法廷(平成14年(受)第1100号/民集57巻2号125頁、判時1817号33頁、判タ1117号216頁)・裁判所HP

最高裁は、原審の結論(並行輸入は適法と言えない)を維持しています。

3 事案の概要:「見た目は本物」でもライセンス違反があった

事件の骨格はこうです。

  • 日本で登録された「FRED PERRY」文字・月桂樹ロゴの商標をめぐり、

  • 輸入販売業者が、同一の標章が付された中国製ポロシャツを輸入して日本で販売しました。

一見すると「本物のフレッドペリー」に見えます。
しかし、製造の経緯に問題がありました。

その商品は、海外のライセンシー(商標の使用許諾を受けた会社)が製造させたものですが、権利者の同意なく、中国の工場に下請製造させており、ライセンス契約の製造地制限および下請制限に違反していた、という事情がありました。

ここが本件の核心です。
つまり、「正規の許諾がある会社の製品である」ように見えても、許諾の範囲外で商標を付した商品だった、という点が争点になりました。

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4 最高裁が示した「並行輸入が許される3要件」

最高裁は、並行輸入が商標権侵害としての「実質的違法性」を欠く(=侵害として扱わない)ためには、次の3要件を満たす必要があると述べました。

要件① 外国の商標権者(または許諾を受けた者)が「適法に」商標を付していること

ここで重要なのは「適法に」です。
単に海外で売られていた、だけでは足りません。商標を付す行為が、許諾範囲内で適法に行われている必要があります。

要件② 外国の商標権者と日本の商標権者が同一、または法律的・経済的に同一視できる関係にあること

要するに、同じ出所(同じブランドの元締め)だと言えることが必要です。
解説では、親子会社・総販売代理店・同一企業グループなどが例として挙げられます。

要件③ 日本の商標権者が(直接・間接に)品質管理できる立場にあり、国内正規品と「品質に実質的な差異がない」と評価できること

この要件は、商標の品質保証機能(“この商標なら一定の品質のはず”という信頼)を守るためのものです。

そして本判決の特徴は、単に「現物の品質が同じか」だけでなく、商標権者の品質管理が及ぶか(管理可能性)を強調した点にあります。

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5 本件でアウトになった理由:ライセンス違反が“外部にも効く”場面

最高裁は、本件では上記3要件を満たさないとして、並行輸入の適法性(実質的違法性の欠如)を否定しました。理由は大きく2段です。

(1) 許諾の範囲外で製造・商標付与がされており、要件①を満たさない

本件商品は、許諾を受けた者が契約地域外である中国で下請製造させたという事情があり、これは許諾条項が定める範囲を逸脱して商標を付したものだ、と評価されました。

ここが重要で、最高裁は「ライセンス違反は当事者間の内部問題にすぎない」と整理せず、一定のライセンス違反は出所表示機能(どこが出した商品か)を害し得ると見たわけです。

(2) 製造国制限・下請制限は品質管理に直結し、要件③も満たさない

最高裁は、製造国の制限・下請の制限について、商標権者が品質を管理し、品質保証機能を十全にするため「極めて重要」と述べています。

そして、これらに違反して作られた商品は、商標権者の品質管理が及ばず、結果として国内正規品と“実質的な差異”が生じる可能性がある以上、品質保証機能が害されるおそれがある、としました。

さらに、こうした商品の輸入を認めれば、ブランドが築いてきた信用が損なわれ、消費者が「正規と同一の出所・品質の商品が買える」と信頼していることにも反する、と述べています。

6 「品質が同じに見える」では足りないことがある(本判決の効き方)

ここは誤解が多いので、もう一段かみ砕きます。

従来、並行輸入では「現物の品質が同じならOK」と考える見解も強く、実際に下級審裁判例・学説も割れていました。

しかし本判決は、品質を“結果”だけで見ず、品質を担保する仕組み(品質管理の可能性)に重心を移しています。
そのため、極端に言えば、たまたま出来上がりが同じ品質に見えても、商標権者の管理が及ばないルートなら要件③を満たさない、という方向性が読み取れます。

7 輸入業者の注意義務:「製造国で作る権原」を確認せよ

フレッドペリー事件は、輸入者側にもかなり厳しいメッセージを出しています。

最高裁は、輸入申告の際に製造地を明らかにする必要がある(関税法67条、施行令59条1項2号)ことを踏まえ、外国の商標権者本人ではなく「許諾を受けた者」が商標を付した商品を輸入する場合には、少なくとも、許諾契約上、その者が当該製造国で製造し商標を付す権原があることを確認して輸入すべきと述べました。

そして、この確認義務を尽くしたことの立証がない以上、過失推定(商標法39条・準用特許法103条)を覆せないとも述べています。

実務的には、ここが非常に痛いポイントです。
「知らなかった」「本物だと思った」では逃げにくく、仕入れ段階での確認が必須になります。

8 実務で使えるチェックリスト(並行輸入で揉めないために)

では、事業者はどこを見ればよいのでしょうか。最低限、次の順に確認すると整理しやすいです。

チェック① 商標を付した主体は誰か(権利者本人か/ライセンシーか)

  • 権利者本人が付した商品なら、要件①のハードルは相対的に下がります。

  • ライセンシーが付した商品なら、許諾範囲の確認が必須です。

チェック② 許諾範囲(とくに製造地・委託製造)を外れていないか

本判決が「極めて重要」としたのは、まさにここです。

  • 製造国の制限

  • 下請(委託製造)の制限
    これらに違反すると、品質管理の外に出た商品と評価されやすくなります。

チェック③ 国内権利者と海外権利者の関係(同一・グループ・総代理店など)

要件②は「同じ出所か」を担保する要件です。親子会社・総代理店・同一グループなどの関係性が手掛かりになります。

チェック④ “品質”は結果ではなく「管理可能性」で見る

実務では、検品で「同じ」に見えても安心できません。
商標権者の品質管理が及ばないルートだと、要件③を満たさない方向で判断され得ます。

チェック⑤ 輸入者としての「確認記録」を残す

最高裁は「製造国で商標を付す権原の確認」を求めています。
後で争いになったときに備え、次のような資料は確保しておくべきです。

  • 仕入先からの説明書面(誰が許諾者/被許諾者か、製造地・製造委託の適法性)

  • インボイス、パッキングリスト、製造国表示の根拠

  • 可能なら、許諾条件に抵触しないことの確認資料(契約全文までは無理でも、製造地・委託製造に関する条項部分の提示など)

9 よくある誤解Q&A

Q1 「海外で正規に売っている=日本でも自由に売れる」?

いいえ。最高裁は、並行輸入が許されるのは3要件を満たす場合に限る、と整理しています。

Q2 「本物ならセーフ」では?

“本物に見える”だけでは足りないことがあります。
とくに、許諾範囲外の製造(製造地・下請制限違反など)だと、出所表示機能や品質保証機能が害されるとしてアウトになり得ます。

Q3 ライセンス違反なら何でもアウト?

そこは今後の課題もあります。判決は明示していないが、品質管理と関係しない条項違反まで常に出所表示機能を害するとまでは言えない、という読みも示されています(例:ライセンス料不払い、販売地・価格制限違反など)。

10 まとめ:フレッドペリー事件の“使いどころ”

フレッドペリー事件(最判平成15年2月27日)は、並行輸入を全面的に否定した判決ではありません。
むしろ、並行輸入が許される領域を「3要件」として定義し、特に品質管理(品質保証機能)を強く意識した点に実務的価値があります。

事業者の方は、次の一文を合言葉にしてください。

「現物が本物っぽい」ではなく、「商標を付す権原と品質管理の筋が通っているか」

そして、その筋を示すのが、

  • 許諾範囲(適法な商標付与)

  • 権利者の同一性(出所の一体性)

  • 品質管理可能性(品質保証の裏付け)
    という3要件です。

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