1 保護対象と「不正競争」類型(2条)
1.1 商品形態模倣行為(2条1項3号)
規制対象行為(概要)
他人の商品形態を模倣した商品の「譲渡・引渡し」「譲渡/引渡しのための展示」「輸出入」又は電気通信回線を通じた提供が、不正競争として規律される(ただし、当該商品形態が当該商品の機能を確保するために不可欠な形態のみからなる場合を除く)。
関連定義(2条4項・5項)
- 「商品の形態」=需要者が通常の用法に従った使用の際に知覚により認識できる外部・内部の形状等(模様、色彩、光沢、質感を含む)。
- 「模倣する」=他人の商品形態に依拠し、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと。
1.2 営業秘密(2条6項)と営業秘密侵害(2条1項4号〜10号)
営業秘密の定義(2条6項)
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
(参考)営業秘密の成立要件(実務上の整理)
上記定義から、一般に、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の各要素を充足するかが問題となる(※各要素は個別事情により評価される)。
営業秘密侵害(2条1項4号〜10号)—号数対応(条文文言に沿った要旨)
| 号数 | 類型(要旨) | 行為態様(条文上のポイント) |
|---|---|---|
| 4号 | 不正取得等 | 窃取・詐欺・脅迫・不正アクセス等の不正手段で取得し、又は取得した営業秘密を使用/開示する行為 |
| 5号 | 取得時の悪意/重過失転得等 | 「不正取得行為が介在」したことを知って又は重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又は取得した営業秘密を使用/開示する行為 |
| 6号 | 取得後の悪意/重過失使用・開示 | いったん取得した後に「不正取得行為が介在」したことを知って又は重大な過失により知らないで、取得した営業秘密を使用/開示する行為 |
| 7号 | 正当開示受領者による不正使用・開示 | 保有者から示された者が、①不正利益目的/害意目的で使用/開示、又は②法律上の守秘義務違反として使用/開示する行為 |
| 8号 | 開示時の悪意/重過失転得等 | 7号の不正開示行為があったことを知って又は重大な過失により知らないで取得し、又は取得した営業秘密を使用/開示する行為 |
| 9号 | 開示後の悪意/重過失使用・開示 | いったん取得した後に、7号の不正開示行為があったことを知って又は重大な過失により知らないで、取得した営業秘密を使用/開示する行為 |
| 10号 | 侵害品等の譲渡等(技術上の秘密・使用に限定) | 4号〜9号(※「技術上の秘密を使用する行為」に限る)による物を、不正利益目的/害意目的で譲渡等・輸出入・電気通信回線提供する行為(善意取得者の例外あり) |
1.3 限定提供データ(2条7項)と限定提供データ不正取得等(2条1項11号〜16号)
限定提供データの定義(2条7項)
「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として、電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く)をいう。
要件整理に関する注意
限定提供データの定義には、営業秘密(2条6項)のような「非公知性(公然非周知)」が要件として置かれていない(=条文上、非公知性を当然の成立要件として明記すべき類型ではない)。もっとも、適用除外(19条1項9号)の成否が別途問題となり得る。
(重要)適用除外(19条1項9号)
限定提供データについて、以下のいずれかに該当する場合には、2条1項11号〜16号(限定提供データ不正取得等)に係る差止・損賠等の適用が制限され得る(条文上の適用除外)。
- イ:権原を有する者から、通常の取引により取得した場合であって、かつ、取得時に「不正取得行為又は不正開示行為が介在したこと」を知らず、重大な過失もないこと
- ロ:同一内容の情報が無償で公衆に利用可能となっている場合
限定提供データ不正取得等(2条1項11号〜16号)—号数対応(条文文言に沿った要旨)
| 号数 | 類型(要旨) | 行為態様(条文上のポイント) |
|---|---|---|
| 11号 | 不正取得等 | 窃取・詐欺・脅迫・不正アクセス等の不正手段で取得し、又は取得した限定提供データを使用/開示する行為 |
| 12号 | 取得時の悪意/重過失転得等 | 「不正取得行為が介在」したことを知って又は重大な過失により知らないで取得し、又は取得した限定提供データを使用/開示する行為 |
| 13号 | 取得後の悪意/重過失使用・開示 | いったん取得した後に「不正取得行為が介在」したことを知って又は重大な過失により知らないで、取得した限定提供データを使用又は開示する行為 |
| 14号 | 正当開示受領者による不正使用・開示 | 保有者から示された者が、不正利益目的/害意目的で、管理に係る任務に背き、限定提供データを使用/開示する行為 |
| 15号 | 開示時の悪意/重過失転得等 | 14号の不正開示行為があったことを知って又は重大な過失により知らないで取得し、又は取得した限定提供データを使用/開示する行為 |
| 16号 | 開示後の悪意/重過失使用・開示 | いったん取得した後に、14号の不正開示行為があったことを知って又は重大な過失により知らないで、取得した限定提供データを使用又は開示する行為 |
※特に、13号・16号はいずれも条文上「使用又は開示」であり、「開示のみ」とは整理されません(差替え稿ではこの点を条文どおりに反映しています)。
1.4 営業毀損行為(2条1項21号)
営業毀損行為(競争関係者の営業上の信用を害する虚偽事実の告知・流布等)は、不正競争として民事的救済の対象となり得る一方、不正競争防止法上の刑事罰の対象類型には含まれていない(刑事罰の射程は21条所定の範囲)。
2 民事上の救済(差止・損賠等)
2.1 差止請求(3条)
不正競争により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、侵害者等に対し、侵害の停止又は予防を請求できる。併せて、侵害行為を組成した物の廃棄、設備の除却その他停止・予防に必要な行為も請求し得る。
2.2 損害賠償請求(4条)
不正競争により営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失のある侵害者に対し、損害賠償を請求し得る(4条)。
※損害額の推定・算定等の詳細は5条以下の規定(推定、相当使用料相当額等)を踏まえて主張立証計画を設計することになる(事案の類型・立証可能性により選択が分かれる)。
3 刑事罰(21条)・両罰規定(22条)の位置付け
3.1 刑事罰の対象範囲(概括)
不正競争防止法の刑事罰は、営業秘密侵害(一定の類型)及び一部の不正競争類型(例:商品形態模倣行為等)に及ぶ一方、限定提供データ(11号〜16号)には刑事罰規定が置かれていない(民事的救済が中心)。
3.2 主な法定刑(要旨)
- 営業秘密侵害罪:10年以下の拘禁刑又は2,000万円以下の罰金(併科あり)
- 国外使用目的等(営業秘密):10年以下の拘禁刑又は3,000万円以下の罰金(併科あり)
- その他(例:商品形態模倣行為等):5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金(併科あり)
※「拘禁刑」への一本化は、令和7年6月1日施行の刑法改正により導入された。
3.3 法人両罰(22条1項)
法人の代表者・従業者等が法人の業務に関して一定の違反行為をした場合、行為者の処罰に加え、法人にも罰金刑が科され得る(上限は類型により異なる)。
| 対象(要旨) | 根拠条文(22条1項) | 法人罰金上限 |
|---|---|---|
| 国外使用目的等(営業秘密:21条4項等) | 22条1項1号 | 10億円 |
| 営業秘密侵害(21条1項等) | 22条1項2号 | 5億円 |
| その他(21条3項) | 22条1項3号 | 3億円 |
4 対応の基本フロー(実務整理)
- 事実関係の確定:漏えい・持出しの有無、対象情報、経路、関与者、使用状況(社内ログ等)
- 証拠保全:端末・サーバログ、メール、クラウドアクセス履歴、持出媒体、入退室記録等(改変防止を含む)
- 保護法益の該当性判断:営業秘密(2条6項)/限定提供データ(2条7項)/その他類型のいずれか(または併存可能性)
- 法的措置の選択:差止(3条)・損賠(4条)・仮処分、(営業秘密の場合)刑事手続の利用可能性を含めた全体設計
- 警告・協議:任意の返還・削除・使用停止・誓約取得の可否
- 訴訟/刑事:保全の要否、秘密保持命令等の制度利用(必要性・相当性)
5 離職者対応(予防・事後いずれにも関係する事項)
- 秘密保持:退職後も秘密保持義務が及ぶ範囲・対象情報の特定(就業規則・誓約書・委託契約等)
- 返還・削除の実施:会社支給端末/私物端末(BYOD)/クラウド領域の整理、アカウント停止、ログ保全
- 競業避止:必要性・相当性・代償措置等を踏まえ、過度の制限とならない設計
- 教育・運用:アクセス権限管理、情報区分、持出制限、退職面談手順の定型化(「秘密管理性」の土台)