不正競争防止法
2026/05/16

東京べったら漬事件(東京地裁平成23年10月13日判決)— 「東京○○」表示は原産地誤認表示になるか/包装類似による混同とは

地名を冠した商品名は、日本の食品市場でよく見かけます。商品の原料も製造地も実際には当該地名の地域にない場合、不正競争防止法 2条1項20号原産地誤認表示に該当するのでしょうか。さらに、表示単独では周知性が否定されるとしても、包装全体の類似 によって需要者に商品の同一性混同が生じる場合、同法 2条1項1号 に基づく差止め・損害賠償が認められる場面はあるのでしょうか。

本判決は、東京都中央区の漬物業者X社が、埼玉県工場で製造した「東京べったら」「東京ゆずべったら」表示のべったら漬を販売するY社(被告備後漬物・被告東京漬膳)に対し、原産地誤認表示等を理由に差止め・損害賠償を求めた事案で、

  • 不競法2条1項13号(現20号・原産地等誤認惹起行為、品質等誤認惹起行為)→ 否定
  • 「東京べったら漬」表示単独の周知性(不競法2条1項1号)→ 否定
  • ただし、原告包装と被告包装(イ号・ロ号・ハ号包装)の類似による商品同一性の混同・誤認 → 肯定

として、被告包装の使用差止め・廃棄および損害賠償(390万8296円)を一部認容しました(ニ号包装は除外)。

1. 事案の概要

1.1 当事者の関係

立場 概要
原告 X 東京都中央区に本店を置く株式会社。べったら漬けを始めとする漬物を製造、全国の卸売店・小売店を通じて一般消費者に販売
被告 備後漬物 広島県福山市に本店を置く有限会社、漬物全般の製造販売
被告 東京漬膳 東京都中央区を本店所在地とする株式会社(被告備後漬物の関東支店に本店)。代表取締役は被告備後漬物の代表取締役の子で、被告備後漬物の常務取締役を兼務

1.2 経緯と争点

東京べったら漬事件 経緯フロー

1.3 認定された事実

判決は以下の事実を認定しています。

  • べったら漬は、江戸日本橋の恵比寿神社の祭礼で売られていたことに始まる 東京発祥の名産品 であり、現在でも毎年日本橋で開催されるべったら市を多くの人が訪れる
  • 「東京べったら漬」「東京べったら」表示のべったら漬は、少なくとも 20年以上前から複数の会社 によって製造・販売されてきた
  • その大半は、原告および同社の前身(金久・新高屋)の商品を含めて、原材料が東京産ではなく、東京都内の工場で製造されたものでもない
  • 「東京」表示を付したべったら漬を製造・販売している会社は、平成21年時点で原告・被告らの他に 少なくとも11社 あり、そのほとんどは東京都内で製造されておらず、原材料も東京産ではない

1.4 原告包装と被告包装(判決別紙より)

判決別紙(イ号・ロ号・ハ号包装目録、原告商品等表示目録)に基づき、原告包装と被告包装の類似性が問題となりました。以下に、判決別紙から代表的な対比を引用します。

原告表示1-2(東京べったら漬)と イ号包装(東京べったら)

東京べったら漬事件 原告表示1-2と被告イ号包装の対比(判決別紙)

(出典:東京地判平成23年10月13日 平成22年(ワ)第22918号 判決別紙)

原告表示2-2(東京ゆずべったら漬)と ロ号包装(東京ゆずべったら)

東京べったら漬事件 原告表示2-2と被告ロ号包装の対比(判決別紙)

(出典:同上)

両者は、横長の包装デザイン、毛筆体に近い「東京べったら(ゆずべったら)」の文字、江戸時代の風景図絵を配した構成等の点で、視覚的に類似しています。

2. 争点

主要な争点は以下の3点でした。

争点 内容
1 被告商品の包装の表示が、不競法2条1項13号(現20号)の 原産地等・品質等誤認惹起行為 に該当するか
2 「東京べったら漬」「東京ゆずべったら漬」の表示・原告包装が、不競法2条1項1号の 「商品等表示」として周知 といえるか/周知の場合、被告の使用が混同を生じさせるか
3 民法709条の不法行為(取引における公正かつ自由な競争として許される範囲の逸脱)

3. 裁判所の判断

3.1 主文(判決原典より)

# 主文
1 被告らはイ号・ロ号・ハ号包装の使用、同包装を用いた商品の譲渡・引渡し・展示の差止め
2 漬物に関する宣伝用カタログ等への上記包装図柄表示の頒布禁止
3 上記包装、カタログ、印刷用原版の廃棄
4 被告らは原告に連帯して 390万8296円 および年5分の遅延損害金を支払え
5 原告のその余の請求棄却(ニ号包装 は対象外)

3.2 不競法2条1項13号(原産地等・品質等誤認)について

判決は要旨次の趣旨を述べています。

  • 「東京べったら漬」表示は、長年にわたり原材料の生産地や商品の製造・加工地とほとんど関連付けられることなく使用 されてきた
  • べったら漬けの包装に「東京べったら漬」「東京べったら」等の表示や、江戸時代のべったら市の図絵が付されていたとしても、これを見た需要者は、「東京発祥のべったら漬」という意味に受け取ることはあっても、東京産の原料を使用しているとか、東京都内で製造・加工されたものであると認識して購入するとは認め難い
  • 品質等誤認(白ざらめ等の表示)についても、虚偽性は認められない

→ 不競法2条1項13号(現20号)違反は 否定

3.3 不競法2条1項1号(商品等表示・周知性)について

判決は要旨次の趣旨を述べています。

  • 「東京べったら漬」という表示は、その語自体が普通名称である「べったら漬」に「東京」という地名を付したにすぎない
  • べったら漬けは東京(江戸)を発祥の地とし、東京の名産品として広く知られている
  • 基本的には自他商品識別機能を有しておらず、本来的に特定人の独占になじまない
  • 特定人による長年の独占的使用等の 特段の事情 がない限り、不競法2条1項1号の「商品等表示」に当たらない
  • 本件では、「東京べったら漬」「東京べったら」表示は原告以外にも鈴木食品ほか十数社が使用しており、原告も「金久の東京べったら漬」「東京新高屋」の屋号を併記していたなど、独占的使用とは認められない

→ 「東京べったら漬」表示単独の 周知性・商品等表示性は否定

3.4 包装類似による混同(不競法2条1項1号関係)

しかし、判決は 原告包装被告包装 の類似性に着目し、需要者・取引者がY商品とX商品が同一のものであると混同し、または出所を同じくする関連商品であると誤認し得る として、イ号包装・ロ号包装・ハ号包装 について差止請求・廃棄請求・損害賠償請求を一部認容しました。

なお、ニ号包装(プラスチック容器入り商品)については類似性の判断が異なり、請求棄却となっています。

3.5 損害賠償

被告らは原告に連帯して 390万8296円 および平成22年6月29日以降の年5分の遅延損害金を支払うよう命じられました(不競法5条2項)。

4. 解説

4.1 不競法2条1項20号「原産地誤認表示」の条文

不正競争防止法2条1項20号(旧13号)は、商品・役務またはその広告等に、商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量 または役務の質・内容・用途・数量について 誤認させるような表示 を行う行為等を不正競争としています(不競法2条1項20号)。

経済産業省「逐条解説 不正競争防止法(令和6年4月1日施行版)」も、この規定の趣旨・要件・措置等について解説しています。

なお、原産地表示の規制が 不競法以外でも複数の法令にまたがる 整理(景品表示法・地理的表示法・食品表示法等の併存関係)については、下記泉水解説で詳しく扱われていますので、関連法令との関係を体系的に把握したい方は同解説をご参照ください。本記事では、不競法上の処理に絞って整理します。

4.2 本判決の判断構造

本判決の判断構造を整理すると以下のようになります。ポイントは次の3点です。

1. 「東京べったら漬」表示単独では、原産地誤認表示にも周知の商品等表示にも当たらない —— 業界の使用慣行と「東京発祥」の名産品としての認識ゆえ
2. しかし、原告包装と被告包装は別の問題 —— 包装デザイン全体の類似性により混同・誤認のおそれが認められれば、不競法上の救済の余地が残る
3. 同じ被告でも包装ごとに結論が分かれる —— イ・ロ・ハ号包装は認容、ニ号包装は棄却

4.3 関連裁判例の整理

原産地誤認表示の肯定例(氷見うどん事件、新潟県六日町産コシヒカリ事件、京の柿茶事件、ヘアピン事件、洋服生地英国地名事件、ルイヴィトン偽時計事件、肩掛けカバン事件等)と否定例(中国製カバン事件、モズライト・ギター事件等)の 網羅的な整理 は、泉水文雄・神戸大学教授「原産地誤認表示該当性〔東京べったら漬事件〕」別冊Jurist No.248『商標・意匠・不正競争判例百選〔第2版〕』110事件、222-223頁 に詳しく扱われています。論点の体系的な理解を求める方は、ぜひ同解説をご参照ください。

4.4 実務への示唆 — 地名を冠した商品名と包装デザインのリスク管理

本判決の事案・判示から、地名を冠した商品名・包装デザインを使用する場合に実務上参考になるポイントは以下のとおりです。

(1) 「○○○○」(地名+商品名)表示自体は規制されにくい場合がある

業界の使用慣行・歴史的背景を踏まえ、需要者が 「発祥地・名産」 を示すものと理解する場合、不競法2条1項20号の原産地誤認表示にも、同2条1項1号の周知の商品等表示にも該当しないと判断される余地があります。

(2) しかし、包装全体のデザイン が他社と類似すれば、別途の責任追及の対象となり得る

本判決の最大のポイントは、表示単独で周知性が否定された場合でも、包装全体のデザイン(毛筆体の文字配置、図絵、配色、形状等)の類似により、需要者に商品の同一性混同が生じれば、不競法2条1項1号の救済が認められうるという点です。実務上、

  • 競合品との 包装デザインの類似 を意識した設計
  • 自社包装デザインの オリジナリティ の確保
  • 競合包装出現時の早期対応(包装デザインの変更要求、訴訟)

が重要です。

(3) 商品ライン全体の包装一貫性と差別化

本判決は 同じ被告でもイ・ロ・ハ号は認容、ニ号は棄却 と、包装ごとに結論を分けています。商品ライン全体で 競合との差別化 を図る際は、各商品包装ごとに類似性評価を行う必要があります。

(4) 並存する複数法令への留意

原産地表示の規制は不競法以外にも、景品表示法、地理的表示法、食品表示法等が並存しています(各法令の規制構造は消費者庁(景品表示法)農林水産省(地理的表示)消費者庁(食品表示法) 等で確認できます)。それぞれエンフォースメント(措置命令、課徴金、適格消費者団体による差止請求等)の枠組みが異なるため、実務上は事案に応じた 法令選択 が重要です。

5. まとめ

本判決から押さえるべきポイントは次の3点です。

1. 「東京べったら漬」「東京べったら」表示自体は、原産地誤認表示(不競法2条1項20号)にも周知の商品等表示(同2条1項1号)にも該当しないとされた ——業界の使用慣行と「東京発祥のべったら漬」という需要者の認識ゆえ。
2. しかし、包装全体の類似性により商品の同一性混同・誤認が生じる場合は、不競法2条1項1号の救済が認められる ——本判決はイ・ロ・ハ号包装について差止め・廃棄・損害賠償(390万8296円)を認容、ニ号包装については棄却と、包装ごとに結論を分けた。
3. 原産地表示の規制は不競法以外にも景品表示法・地理的表示法・食品表示法等が並存するため、実務上は 事案に応じた法令選択 と、包装全体のデザイン設計時の競合類似性評価 が必要。

実務上、地名を冠した商品名を使う場合、表示単独の周知性が否定されることがあっても、包装デザイン全体の類似性 により別途の責任追及の対象になり得る点に注意が必要です。

関連条文・判例・参考文献

条文

  • 不正競争防止法(e-Gov法令検索)
  • 第2条第1項第1号(商品等主体混同行為)
  • 第2条第1項第20号(品質等誤認惹起行為。原産地・品質・内容・製造方法等の誤認表示)
  • 第3条(差止請求権)
  • 第4条(損害賠償)
  • 第5条(損害の額の推定等)

判例

  • 東京地判平成23年10月13日 平成22年(ワ)第22918号 東京べったら漬事件【LLI/DB判例秘書登載 L06630427・別冊ジュリスト248号222頁掲載】

参考文献

本判決および原産地誤認表示に関する関連裁判例(氷見うどん事件、新潟県六日町産コシヒカリ事件、京の柿茶事件、ヘアピン事件、中国製カバン事件、モズライト・ギター事件等)、ならびに 不競法以外の表示規制法令(景品表示法・地理的表示法・酒税法地理的表示基準・食品表示法等)との併存関係 についての 網羅的な整理 は、次の解説で扱われています。論点の体系的整理に関心のある方は、ぜひ同解説をご参照ください。

  • 泉水文雄「原産地誤認表示該当性〔東京べったら漬事件〕」別冊Jurist No.248『商標・意匠・不正競争判例百選〔第2版〕』110事件、222-223頁

その他、参考にできる一次資料として以下があります。

© 虎ノ門法律特許事務所(知財・商法。不正競争防止法サイト)