商標権侵害・トラブル対応
2026/08/29

ドメイン名「lispo-ikeda.jp」は商標「ライサポ」と類似するか――ドメイン名の要部と類否判断を示したライサポ事件・大阪地裁判決

はじめに

ウェブサイトのドメイン名が他人の登録商標と紛らわしい場合、商標権侵害になるのでしょうか。ドメイン名の商標該当性はキャリアジャパン事件(大阪地判平成16年4月20日)以来の論点ですが、ドメイン名の「類否」をどう判断するか――英文字表記特有の問題を含む――を丁寧に示したのが、ライサポ事件・大阪地判平成26年6月26日(平成25年(ワ)第12788号・商標権侵害差止等請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトです。
介護サービス等を指定役務とする商標「ライサポ」の商標権者が、NPO法人のドメイン名「lispo-ikeda.jp」とサイト内標章「ライサポいけだ」の使用差止め・損害賠償(約881万円)を求めた事件で、裁判所は請求をいずれも棄却しました。ドメイン名の要部認定・ローマ字表記との対比という独特の判断手法を解説します。

前提知識の整理

  • ドメイン名と商標:ドメイン名は本来インターネット上の住所ですが、ウェブサイトで提供する役務の出所表示として機能する場合には商標の使用と評価され得ます(キャリアジャパン事件)。
  • 要部観察:商標の類否は原則として全体観察ですが、識別力のある部分(要部)を抽出して対比する手法も用いられます。ドメイン名では「.jp」「.co.jp」等のトップレベルドメイン等は自他識別機能を持たないため、それを除いた部分が対比の対象になります。
  • 商標的使用:標章が出所識別として機能しない態様の使用(記述的使用・略称としての付随的使用等)には商標権が及ばないとされます。

事案の概要

原告は、「ライサポ」(片仮名・丸ゴシック調)の商標権者です(指定役務:第39類の輸送・車椅子の貸与等、第42類の介護・看護等)。
原告の登録商標「ライサポ」(判決別紙より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
被告は、大阪府池田市で障害(児)者の居宅介護事業等を行うNPO法人「ライフサポートネットワークいけだ」。平成21年から、ドメイン名「lispo-ikeda.jp」のウェブサイトと、amebaブログ(URLに「lispo-ikeda」を含む)を開設し、サイト内では正式名称の略語として「ライサポいけだ」の標章を使用していました。
被告サイトで使用されていた標章「ライサポいけだ」の表示例(判決別紙より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
原告は、①「ライサポいけだ」標章の表示差止め、②ドメイン名の使用差止め、③損害賠償881万2463円を請求。なお、被告は判決の約4か月前(平成26年2月)にウェブサイトを閉鎖し、ドメイン名も解約済みでした。
事件の構図(商標・標章・ドメイン名)

争点と裁判所の判断

ドメイン名の要部――「ikeda」も含めた全体

裁判所はまず、ドメイン名の対比対象を画定します。

「一般に,ドメインネームにおいて,自他識別機能を有する部分は,「.jp」「.co.jp」など(トップレベルドメイン等)を除いた部分であるから,本件ドメイン名においては,「lispo-ikeda」がこれに該当する。」

注目すべきは、その先です。日本語の「ライサポいけだ」なら「いけだ」は地名として識別力を欠くと評価される余地がありますが、英文字の「ikeda」については、「当該文字列から,直ちに「ikeda」の部分が大阪府内の一市町村を指す地名であると判明するとはいえない」として、「lispo-」部分のみを要部とすることを否定し、「lispo-ikeda」全体を要部としました。英文字表記では地名も識別力を失わない――ドメイン名ならではの判断です。

「lispo」から「ライサポ」は読めない

そのうえで対比です。「lispo」は辞書にない語で、「エルアイエスピーオー」または英語風に「リスポ」の称呼を生じる。「ライサポ・イケダ」とは重なりません。原告は「lispo」から「ライサポ」の称呼が生じると主張しましたが、裁判所は次のとおり退けました。

「原告商標である「ライサポ」をローマ字表記したものは「RAISAPO」であって,その表記において全く異なる。また原告商標が,「ライフ」と「サポート」の略語であると思い至ったとしても,それらに相当する英単語は,「life」と「support」であって,これを組み合わせて本件ドメイン名の「lispo」の部分に至るためには,「life」の先頭2文字と,「support」の先頭から1文字目,3文字目及び5文字目を組み合わせる必要があり,本件役務の需要者はもとよりそれ以外の一般人において,そのような発想に至るとは通常考えられない。」

「ライサポ」のローマ字は「RAISAPO」。「lispo」に辿り着くには、lifeの2文字とsupportの1・3・5文字目を拾うという曲芸的な発想が必要で、需要者はそんな読み方をしない――。結論として、「原告商標と本件ドメイン名が類似するとは認められない」とされました。

サイト内の「ライサポいけだ」――商標的使用も類似も否定

日本語標章「ライサポいけだ」についても、裁判所は現実の使用態様を重視しました。被告サイトのトップページには正式名称「特定非営利活動法人 ライフサポートネットワーク いけだ」が大書され、「ライサポいけだ」はその略語として付随的に使われているにすぎない。料金表示や利用勧誘の文言もない。そのため、

「本件ウェブサイト1において,被告標章が,被告の提供する役務の出所を識別するものとして使用されているということはできず,被告標章の使用は,商標法2条3項8号が定める商標としての使用にはあたらないというべきである。」

とされ、類否についても、閲覧者は被告標章を一体として認識し「ライサポ」のみを抽出して捉えることはないとして、誤認混同のおそれが否定されました。
なお、ドメイン名については、裁判所は類否(争点(3))のみを判断しており、ドメイン名の使用が商標としての使用に当たるか自体への明示的な判断は示していません。
ドメイン名の類否判断の構造

実務への影響・ポイント

第1に、ドメイン名の類否は「英文字の世界」で判断されることです。日本語商標をドメイン名と対比する際、ローマ字表記(ヘボン式等)でどう綴られるかが出発点になります。称呼が近くても綴りが遠ければ非類似方向に働き、逆に、商標のローマ字表記そのもの(本件なら raisapo)をドメインに使われた場合は類似が問題になりやすいでしょう。自社ブランドの防衛では、正規のローマ字表記ドメインの先行取得が実務的な対策になります。
第2に、地名の扱いが日本語表記と英文字表記で異なり得ることです。「いけだ」は地名でも、「ikeda」は直ちに地名と分からない――この判断は、地名入りドメインの類否を考える際の重要な視点です。
第3に、NPO・非営利団体のサイトでも商標問題は生じるが、使用態様が防御になることです。正式名称を主、略称を従として表示する構成が、商標的使用の否定につながりました。略称・愛称をサイトで使う団体は、正式名称の明示とセットにすることで紛争リスクを下げられます。
第4に、差止請求と対象の消滅です。被告は提訴後にサイト閉鎖・ドメイン解約を済ませており、判決も「差止の対象となる事実が存在しない」と付言しています。ウェブ上の使用は消滅・変更が容易なため、権利者側は証拠保全(ウェブ魚拓・アーカイブ)を先行させる必要があります。

まとめ

  • ドメイン名の類否判断では、トップレベルドメイン等を除いた部分が対比対象となり、英文字表記では地名部分(ikeda)も識別力を失わず要部に含まれるとされた
  • 「ライサポ」のローマ字表記は「RAISAPO」であり、「lispo」とは表記が全く異なるとして非類似と判断された
  • サイト内の「ライサポいけだ」は、正式名称の略語としての付随的使用であり商標的使用に当たらないとされた
  • ブランド防衛にはローマ字表記ドメインの先行取得、ウェブ上の侵害対応には証拠保全の先行が実務の要点

出典・参考判例

参考文献

  • 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)359〜366頁〔安田和史〕
  • 森林稔「ドメイン名の使用につき商標権侵害及び商標法上の先使用権の抗弁が認められた事例」知財管理56巻4号(2006年)627〜635頁
  • 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)227頁

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

弁護士・弁理士 大熊裕司

この記事の執筆・監修

虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司

第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。

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