はじめに
商品の形そのものを商標として登録する「立体商標」。コカ・コーラの瓶のような成功例が知られる一方、その道は険しく、多くの出願が「商品の形状表示」(商標法3条1項3号)の壁に阻まれます。
工事現場などで使われる杭「くい丸」の製造元・君岡鉄工が、杭の立体的形状(円柱の両端に絞り加工・リング・円錐先端等を施した形状)を出願した事件で、知財高判平成30年1月15日(平成29年(行ケ)第10155号・審決取消請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトは、累計約630万本・約60億円という販売実績にもかかわらず登録を認めませんでした。
敗因は2つ。形状の各要素がすべて機能・美観目的と評価されたこと、そして需要者は形ではなく「くい丸」という文字商標で商品を識別していたと認定されたことです。立体商標の使用による識別力(3条2項)の立証がいかに難しいかを、豊富な事実とともに示した判決です。
前提知識の整理
- 立体商標と3条1項3号:商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は登録できません。判例上、客観的に見て機能または美観に資することを目的として採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り3号に該当するとされています。
- 3条2項(使用による識別力):3号該当の形状でも、使用の結果、その形状だけで出所を認識できるようになれば登録可能です。ただし立体商標では、文字商標と併用されているのが通常であるため、「形状のみで識別できるか」が厳しく問われます。
- 知的財産権の重畳:商品形状は実用新案権・意匠権でも保護できますが、存続期間があります。期間満了後に立体商標で半永久的な独占を得ようとする場面で、本件のような争いが生じます。
事案の概要
原告・君岡鉄工は、平成6年から杭「くい丸」を製造販売してきました。平成6年度から平成27年度までの販売総数は629万9523本・総額59億9065万2000円。全都道府県への出荷実績があり、カタログ20万部超、新聞・業界紙掲載54回以上、展示会出展203回(来場者延べ378万人)、広告宣伝費約1億3000万円という、堂々たる実績です。国土交通省の新技術情報システムNETISにも登録されています。
原告は平成26年、この杭の立体的形状――円柱状の中央部から頭部・先端部に向けた円錐状の絞り加工、絞りの途中の外周線、大径のリング部分、円錐状の先端等――を第6類「くい」を指定商品として出願しましたが、拒絶査定・拒絶審決を受け、取消訴訟を提起しました。

※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
なお、原告はかつてこの杭について実用新案権と意匠権を持っていましたが、いずれも存続期間満了により平成23年までに消滅しています。また、文字商標「くい丸」は別途登録済みです。

争点と裁判所の判断
3条1項3号――形状のすべてが「機能・美観のため」
裁判所はまず一般論として、「客観的に見て,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り……商標法3条1項3号に該当する」とし、「機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当する」との枠組みを示しました。
そして、杭の形状要素を一つずつ潰していきます。先端の円錐状の尖りは「硬い地面にもスムーズに打ち込みやすくすることを目的とした形状」。頭部の平面は「ハンマー等で打ちやすくすること」が目的。絞り加工もリング部分も接合部の強化等の「杭の機能に資する」形状。唯一、絞り加工途中の外周線は「美観に資することを目的として採用された形状」――。
結局、どの要素も機能か美観のためであり、「需要者において,機能又は美観に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のもの」として、3号該当が肯定されました。
3条2項――630万本でも「形だけで識別」には届かない
使用による識別力について、裁判所は、①形状の特徴性(類似形状の他社商品の存否)と②使用の事情(期間・販売数量・広告宣伝等)の総合考慮という枠組みを示したうえで、原告に不利な事実を積み重ねます。
第1に、市場には同形状のコピー商品が出回っていました。販売サイトには「【くい丸】と同型・同品質!」「くい丸と同じ形状です。」といった記載まであり、原告は「これに対して何らの権利行使も行っていない」と指摘されます。「原告商品の立体的形状自体が他の商品にない特徴的なものであるとはいえない」。
第2に、識別の主役は文字商標「くい丸」でした。カタログにも展示会にも常に「くい丸」の文字が掲げられており、
「原告広告宣伝等に接したり,展示会に赴いたりした取引者,需要者は,「くい丸」の文字商標により,記載ないし展示された杭が原告の商品であることを認識し,商品の出所を確認するものと認められ,原告商品の立体的形状によって,商品の出所を認識したとはいえない。」
第3に、アンケートも通用しませんでした。「くい丸」との回答率82.8%という第2次調査について、裁判所は、選択肢が「くい丸」「ミサイル」「どれにも当てはまらない」の3つだけで固有名詞が1つしか提示されていないことから「調査方法として適正といえるかは疑問である」とし、自由回答方式だった第1次調査(「くい丸」またはこれに類する回答は2.7〜7.6%にとどまる)との乖離も大きいとして、信用性を否定しました。
第4に、過去の実用新案権・意匠権の存在です。権利期間中の販売実績は権利による独占の結果とも見られるため、「権利による独占とは無関係に自他識別力を取得した等の特段の事情」がない限り、識別力獲得の根拠にならないとされました。
こうして3条2項の主張も退けられ、請求は棄却されました。

実務への影響・ポイント
第1に、立体商標の3条2項立証では「文字商標との切り離し」が最大の壁になることです。商品には通常ブランド名が付されるため、販売実績や広告はまず文字商標の識別力に吸収されます。形状のみの識別力を立証するには、形状単独が注目される使用(文字を伏せた広告・パッケージ、形状を前面に出したプロモーション)の実績を意図的に作る必要があります。
第2に、アンケート調査の設計が命運を分けることです。誘導的な選択肢方式は信用性を否定されます。自由回答(純粋想起)方式で、形状のみを示して出所を答えさせる設計が求められ、本件の第1次・第2次調査の明暗は、そのままアンケート実務の教科書です。
第3に、コピー品の放置は自殺行為だということです。類似形状品への権利行使(不正競争防止法2条1項1号・3号等)を怠ると、「形状に特徴がない」「市場で独占的に使われていない」ことの証拠として跳ね返ってきます。形状ブランドを守る戦略では、模倣品対応と商標出願は一体で進めるべきです。
第4に、実用新案・意匠から立体商標への「乗り継ぎ」の困難さです。権利期間中の実績が割り引かれる以上、期間満了のかなり前から、形状そのものをブランドとして訴求する活動を始めておく必要があります。満了後に慌てて出願しても、本件のように間に合いません。
まとめ
- 杭の立体的形状は、各要素がすべて機能または美観に資する目的の形状とされ、商標法3条1項3号に該当するとされた
- 累計約630万本・約60億円の販売実績があっても、需要者は文字商標「くい丸」で出所を識別しており、形状のみによる識別力(3条2項)は認められなかった
- 同形状コピー品の放置、誘導的なアンケート設計、実用新案・意匠権期間中の実績への依存が、いずれも立証の障害となった
- 立体商標を目指すなら、形状単独の訴求・模倣品対応・適切な調査設計を、権利満了前から計画的に進める必要がある
出典・参考判例
- 知財高判平成30年1月15日(平成29年(行ケ)第10155号・審決取消請求事件) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
参考文献
- 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)282〜289頁〔小川徹〕
- 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)131頁
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

この記事の執筆・監修
虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司
第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。