営業秘密の持ち出し・漏えい対応

「退職した従業員が顧客リストを持ち出し、転職先で使っているらしい」「技術データをUSBメモリにコピーした形跡が見つかった」「競合の新製品が、当社の設計情報とそっくりだ」――営業秘密の持ち出しは、発覚した時点で既に被害が進行していることが多い紛争類型です。

先に最も重要な点を申し上げます。営業秘密の事件は、初動の証拠保全で勝敗が決まります。退職者のPC・メールを初期化してしまう、問い詰めて証拠を消される、アクセスログの保存期間が過ぎる――初動を誤ったために、法的には勝てたはずの事案で打つ手を失う例が後を絶ちません。また、不正競争防止法で保護される「営業秘密」と認められるには法律上の要件(秘密管理性・有用性・非公知性)があり、「社内の情報だから当然守られる」わけではないことにも注意が必要です。

このページでは、不正競争防止法の裁判例に精通した弁護士・弁理士が、営業秘密を持ち出された場合の対応を解説します。

持ち出しの疑いを把握した段階で、証拠に触れる前にまずご相談ください

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まず行うこと・やってはいけないこと

やるべきこと(証拠保全):

  • 退職者が使用していたPC・スマートフォン・メールアカウントをそのままの状態で保全する(初期化・再利用・再貸与しない)
  • サーバーのアクセスログ・USB接続履歴・クラウドストレージのダウンロード履歴・印刷ログを保存する(ログの自動削除期間に注意)
  • 秘密保持誓約書・就業規則・情報管理規程など、秘密管理の体制を示す資料を揃える
  • 持ち出された情報の特定(何が・いつ・どの経路で)を進める

やってはいけないこと:

  • 本人を性急に問い詰める(証拠隠滅・データ消去を招きます。証拠固めが先です)
  • 転職先や取引先に「営業秘密を盗まれた」と断定的に触れ回る(侵害が立証できなかった場合、逆に信用毀損・営業誹謗(不正競争防止法2条1項21号)として反撃を受けるリスクがあります)
  • 退職者のPCを社内で操作・閲覧し続ける(データの改変日時が上書きされ、証拠価値が下がります。必要に応じフォレンジック調査の専門業者と連携します)

法律上の「営業秘密」と認められるための3要件

不正競争防止法で保護される「営業秘密」は、次の3要件を満たす情報に限られます(不正競争防止法2条6項)。

  1. 秘密管理性:秘密として管理されていること(アクセス制限、マル秘表示、誓約書等により、従業員から見て「会社が秘密にしている情報」と分かる状態だったか)
  2. 有用性:事業活動に有用な技術上・営業上の情報であること
  3. 非公知性:公然と知られていないこと(市販品を計測すれば分かる情報等は否定されうる)

実務で最も争われるのは秘密管理性です。裁判例は、完璧な管理までは求めない一方、無施錠・無制限に共有されていた情報の保護は否定する傾向にあります。当事務所では、お手元の管理状況の資料から要件充足の見込みを初回相談で診断します。また、仮に「営業秘密」の要件を満たさない場合でも、秘密保持誓約書・競業避止義務違反(債務不履行)や不法行為に基づく請求の余地がありますので、あきらめる前にご相談ください。

取れる法的手段

手段内容
警告書(内容証明)の送付本人・転職先に対し、使用・開示の停止、データの返還・廃棄、誓約書の提出等を求める
差止請求(不正競争防止法3条)営業秘密の使用・開示の差止め、侵害品の廃棄等を裁判所に求める。被害拡大が速い場合は仮処分を検討
損害賠償請求(同法4条)持ち出しにより生じた損害の賠償請求。損害額の推定規定(同法5条)を活用
信用回復措置(同法14条)虚偽の情報流布を伴う場合等
刑事告訴(同法21条・営業秘密侵害罪)不正の利益を得る目的等での領得・使用・開示は刑事罰の対象。悪質事案では民事と並行して告訴を検討

解決までの流れ

  1. ご相談・初動方針の決定:判明している事実とログ・規程類を確認し、証拠保全の手順と要件充足の見込みを診断します。
  2. 証拠の確保:必要に応じてデジタル・フォレンジック調査(削除データの復元・持ち出し経路の特定)を専門業者と連携して実施します。
  3. 警告書の送付/交渉:本人・転職先への警告と、データ廃棄・不使用の誓約、賠償の交渉を行います。転職先への通知は営業誹謗と評価されないよう、内容・範囲を慎重に設計します。
  4. 保全処分・訴訟・刑事告訴:交渉で止まらない場合、差止仮処分・本案訴訟・刑事告訴まで一貫して対応します。

初動を誤ると選択肢が狭まります。まずは現状をお聞かせください。

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弁護士費用

  • 法律相談:60分1万1000円(税込)
  • 警告書の作成・送付、交渉・訴訟対応の費用は、事案の内容に応じて初回相談時にお見積りします。詳細は弁護士費用をご覧ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 退職者が「記憶」して持ち出した顧客情報も営業秘密侵害になりますか。

媒体の持ち出しがなくても、記憶に基づく使用・開示が営業秘密の「使用」等にあたりうるとした裁判例があります。ただし情報の特定と立証のハードルは上がるため、周辺証拠(転職先での営業活動の痕跡等)の収集が重要です。

Q2. 秘密保持誓約書を取っていませんでした。もう請求できませんか。

誓約書がなくても、アクセス制限やマル秘表示等の実態から秘密管理性が認められる余地はあります。また就業規則の秘密保持条項や不法行為構成での請求も検討できます。あわせて、再発防止のための誓約書・情報管理体制の整備もサポートします。

Q3. 転職先の会社にも責任を追及できますか。

転職先が持ち出しの経緯を知って(または重大な過失で知らずに)営業秘密を使用している場合は、転職先に対する差止め・損害賠償請求も可能です(不正競争防止法2条1項5号・8号・9号等)。ただし転職先への警告は営業誹謗のリスクと裏腹のため、証拠の程度に応じた文面設計が不可欠です。

Q4. 警察に相談すべきですか、民事で進めるべきですか。

営業秘密侵害罪(不正競争防止法21条)での刑事告訴と民事請求は並行できます。刑事は捜査による証拠収集力が強みですが、立件のハードルも高いため、証拠の状況・目的(早く止めたいのか、制裁か、回収か)に応じて組み合わせを設計します。

Q5. 情報を持ち出したのが役員・業務委託先の場合は?

従業員に限らず、役員・退任役員・業務委託先・取引先による持ち出しも不正競争防止法の対象になりえます。契約上の秘密保持義務違反との二本立てで構成するのが通常です。

Q6. 逆に、転職者を受け入れたら前職から「営業秘密侵害だ」と警告されました。

受け入れ企業側・転職者側の防御も取り扱っています。持ち込ませない体制(入社時誓約・データ持ち込み禁止の確認)の整備と、警告への反論(秘密管理性・非公知性の否定等)を検討します。→競業避止義務違反の警告書が届いたら?回答前に確認すべきこともご参照ください。

弁護士・弁理士 大熊裕司

このページの監修

虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司

第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。

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