はじめに
登録商標は、3年間使用しないと不使用取消審判により取り消され得ます(商標法50条)。ここで実務上頻繁に問題になるのが、「登録した形とは少し違う形で使っている」場合です。50条は「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」の使用も登録商標の使用と認めますが、その範囲はどこまでか。
婦人靴の商標「rhythm」の商標権者が、「NEO RHYTHM」の使用をもって登録商標の使用と主張した事件で、知財高判平成25年3月21日(平成24年(行ケ)第10382号・審決取消請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトは、「NEO」を付加した使用は「rhythm」と社会通念上同一とはいえないとして、使用を認めた審決を取り消しました。
「登録商標は使用態様どおりに登録・管理する」という商標実務の基本を、痛みをもって教えてくれる判決です。
前提知識の整理
- 不使用取消審判(商標法50条):継続して3年以上、商標権者・使用権者のいずれもが指定商品・役務について登録商標を使用していないとき、何人も登録の取消しを請求できます。使用していたことの立証責任は商標権者側にあります。
- 社会通念上同一(50条1項かっこ書):①書体のみの変更、②平仮名・片仮名・ローマ字表記の相互変更(同一の称呼・観念を生ずるもの)、③外観において同視される図形――が例示され、これらを含む「社会通念上同一と認められる商標」の使用であれば、登録商標の使用と認められます。
- 類似では足りない:使用商標が登録商標と「類似」するだけでは、50条の使用にはなりません。
事案の概要
被告・株式会社オギツは、「rhythm」の横書き商標(登録第4894428号・指定商品第25類「履物,乗馬靴」)の商標権者です。同社は婦人靴「ネオリズム」を販売しており、靴の中敷きや包装用箱には「NEO RHYTHM」(「NEO」は白抜きの籠字風、「RHYTHM」は塗り潰し)、靴底には「NEORHYTHM」の刻印が付されていました。
原告リズム ホールディング リミテッドが「履物」について不使用取消審判を請求したところ、特許庁は、これらの使用商標は本件商標と社会通念上同一といえるとして請求不成立の審決をしました。原告がその取消しを求めたのが本件です。
ここで重要な伏線があります。被告は「rhythm」とは別に、「neorhythm」「neo rhythm」の商標登録も受けていたのです(裁判所の認定事実)。

争点と裁判所の判断
「社会通念上同一」の解釈――例示と同程度のものに限る
裁判所は、50条1項かっこ書の3つの例示(書体変更・文字種の相互変更・外観同視の図形)を挙げたうえで、次の解釈基準を示しました。
「同項にいう「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」は,上記①ないし③に準ずるような,これと同程度のものをいうものと解される。なお,文言上,登録商標と「同一」と認められるものでなければならず,「類似」の商標は含まれない。」
「NEO」の付加で観念が変わる
そのうえで、本件商標と使用商標を対比します。
「本件商標は,「rhythm」の文字からなり,「リズム」という称呼を生じ,「リズム」,「調子」という観念を生じるのに対し,使用商標は,いずれも,「NEO」の文字を伴って,「NEORHYTHM」又は「NEO RHYTHM」の文字からなり,「ネオリズム」という称呼を生じ,「新しいリズム」,「新しい調子」という観念を生じる。」
「リズム」と「新しいリズム」。称呼も観念も異なる以上、例示3類型に準ずる同程度のものとはいえず、「使用商標は,本件商標と社会通念上同一のものと認められる商標ということはできない」と結論づけました。
「RHYTHM部分だけ取り出す」ことは許されない
商標権者側は、「NEO」は籠字風で背景に埋没しており、塗り潰しの「RHYTHM」部分こそが要部だと主張しました。しかし裁判所は、使用商標の文字は同一の大きさ・同一の書体で「外観上まとまりよく一体的に表示されている」とし、値札や新聞・雑誌広告でも一貫して「NEORHYTHM」「ネオリズム」と表記されていた取引の実情も踏まえて、
「使用商標から「RHYTHM」の部分のみを抽出し,この部分だけを本件商標と比較して商標そのものの同一性を判断することは,許されない。」
と判示しました。類否判断で用いられる要部観察の手法を、50条の同一性判断に持ち込むことを明確に否定した部分です。
自らの別件登録が裏目に
さらに裁判所は、決定的な事情として別件登録商標に言及します。
「被告自ら,本件商標とは別個に,同様の指定商品(第25類「履物,乗馬靴」)について,「neorhythm」又は「neo rhythm」という別件登録商標の登録出願をした上でその商標登録を得ていることに照らしても,本件商標と使用商標とが社会通念上同一であると認めることはできない。」
「NEO RHYTHM」が「rhythm」と同一だというなら、なぜ別に「neorhythm」を登録したのか――。商標権者自身の出願行動が、両者は別の商標だという評価を裏付けてしまったのです。

実務への影響・ポイント
第1に、商標は使用態様どおりに登録することです。ブランドが「NEO RHYTHM」に育ったなら、「neorhythm」の登録(本件の被告は取得済みでした)でその使用をカバーすべきで、旧商標「rhythm」の維持根拠にはできません。逆にいえば、使わなくなった旧商標は不使用取消のリスクに常に晒されます。ブランドリニューアル時には、旧登録の維持要否と新態様の登録を必ずセットで検討すべきです。
第2に、付加語の追加は「社会通念上同一」を外れやすいことです。称呼・観念に変化を生む文字の付加(NEO・NEW・PLUS等の接頭語も含む)は、書体変更や文字種変更とは質的に異なります。裁判例は称呼・観念の一致を重視しており、観念が変わる付加は原則アウトと考えるべきです。
第3に、複数登録の使い分けが証拠として効くことです。本件では、別件登録の存在が「両者は別商標」の決め手の一つになりました。ポートフォリオ管理では、各登録がどの使用態様に対応するかを整理し、使用証拠(値札・広告・パッケージ)をどの登録の維持に使うのかを意識しておく必要があります。
第4に、攻める側にとっての使いどころです。他社の障害となる登録商標があり、その実使用が「別語を付加した態様」のみである場合、不使用取消審判は有力な選択肢になります。本件はその成功例です。
まとめ
- 商標法50条の「社会通念上同一」は、例示3類型(書体変更・文字種変更・外観同視図形)に準ずる同程度のものに限られ、類似では足りない
- 「NEO RHYTHM」は「新しいリズム」の観念を生じ、「rhythm」(リズム)とは社会通念上同一といえない
- 使用商標から「RHYTHM」部分のみを抽出して同一性を判断することは許されない
- 商標権者自身が「neorhythm」を別途登録していたことが、別商標であることの裏付けとされた
- ブランドの使用態様が変わったら登録も追随させる――商標ポートフォリオ管理の基本を示す事例
出典・参考判例
- 知財高判平成25年3月21日(平成24年(行ケ)第10382号・審決取消請求事件) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
参考文献
- 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)250〜258頁〔山田朋彦〕
- 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)534頁
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

この記事の執筆・監修
虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司
第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。