商標権侵害・トラブル対応
2026/08/30

並行輸入品の販売は商標権侵害か――フレッドペリー3要件をチラシ広告に適用したNEONERO事件・知財高裁判決

はじめに

海外ブランドの真正品を、正規代理店を通さずに輸入して販売する「並行輸入」。日本の商標権者から「うちの登録商標を侵害している」と警告されたら、並行輸入業者は事業を続けられるのでしょうか。
この問題の判断枠組みは、フレッドペリー事件最高裁判決(最判平成15年2月27日・民集57巻2号125頁)が示した「3要件」に集約されます。そして、この3要件を、商品の輸入そのものではなく展示販売会のチラシに標章を付して頒布した行為に適用し、並行輸入業者側を勝訴させたのが、知財高裁平成30年2月7日判決(平成28年(ネ)第10104号・販売差止め等請求控訴事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイト、NEONERO(ネオネロ)事件です。
一審は商標権者の請求を全部認容していましたが、知財高裁は原判決を取り消し、請求を棄却しました。独占販売代理店が日本で商標登録をして競合輸入業者を排除しようとする、実務で頻出する紛争類型への裁判所の答えとして、重要な意義があります。

前提知識の整理

  • 真正商品の並行輸入:外国の商標権者が適法に流通させた本物の商品を、第三者が日本に輸入・販売すること。形式的には日本の商標権に触れるように見えても、一定の要件のもとで「実質的違法性を欠く」とされます。
  • フレッドペリー3要件:①商標が外国の商標権者等により適法に付されたこと、②外国の商標権者と日本の商標権者が同一人または法律的・経済的に同一人と同視し得る関係にあり、出所が同一であること、③日本の商標権者が直接・間接に品質管理を行い得る立場にあり、品質に実質的差異がないこと。
  • 商標の機能論:並行輸入の違法性判断は、商標の出所表示機能・品質保証機能が害されるかという観点から行われます。

事案の概要

「NEONERO」は、イタリア・トスカーナ地方のレース製造の伝統をモチーフに、金細工でレース状の意匠を表現した身飾品ブランドで、イタリアのPVZ社が欧州で商標権を持ち製造・販売していました。
PVZ社商標(判決別紙より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
日本では、貴金属卸のミツムラ(被控訴人・一審原告)と、宝飾品輸入販売のジュエリー・ミウラ(控訴人・一審被告)が、いずれもPVZ社から商品を直接輸入していました。ところが平成26年、ミツムラがPVZ社との間で日本における独占的販売代理店となる合意(契約書は作成されず、口頭ベース)を取り付け、さらにその約1週間後には日本での商標出願を持ちかけ、最終的に単独で「NEONERO」商標(標準文字およびロゴ)を出願し、平成27年10月に登録を受けました。
直接取引を絶たれたジュエリー・ミウラは、香港のMCE社を介してPVZ社製品の輸入を継続。平成27年12月、展示販売会に商品を出品し、「NEONERO」標章を掲載したチラシを頒布しました。ミツムラはこのチラシへの標章の使用等が商標権侵害に当たるとして、販売・頒布の差止めと廃棄を求めて提訴し、一審東京地裁は請求を全部認容。ジュエリー・ミウラが控訴したのが本件です。
控訴人標章(判決別紙より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
当事者関係図(PVZ社・独占代理店・並行輸入業者)

争点と裁判所の判断

フレッドペリー3要件の引用と「広告」事案への読み替え

裁判所はまず、フレッドペリー最判の規範を引用したうえで、本件の被疑侵害行為が商品の輸入ではなく広告(チラシ)への標章の付与・頒布であることを踏まえ、第1要件を次のとおり読み替えました。

「そのような行為であっても,登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為と同様に,商標権侵害としての実質的違法性を欠く場合があり,その場合の上記①の要件は,当該商品に当該商標を使用することが外国における商標権者との関係で適法であること(以下,「第1要件」という。)とすべきである。」

輸入後の国内での販売・広告段階の行為にも、並行輸入の抗弁の枠組みが及ぶことを明確にした点で、実務上意義のある説示です。

第1要件――外国商標権者との関係で適法

裁判所は、ジュエリー・ミウラの商品がPVZ社の製造したパーツを用いた真正品であることを前提に、チラシに標章を付する行為は「PVZ社の商標権の出所識別機能や品質保持機能を害するものではなく,PVZ社との関係で適法なものということができる」として、第1要件の充足を認めました。

第2要件――独占的販売代理店は「法律的に同一人と同視し得る関係」

第2要件について、裁判所は「「法律的に同一人と同視し得るような関係がある」とは,外国における商標権者と我が国の商標権者が親子会社の関係や総販売代理店である場合をいい」と敷衍したうえで、ミツムラがPVZ社の日本における独占的な販売代理店となった以上、「PVZ社と被控訴人とは,法律的に同一人と同視し得るような関係にある」として充足を認めました。
ここは本件の構造上、興味深いところです。ミツムラは「自分は独占代理店だ」という立場で競合を排除しようとしたわけですが、まさにその独占代理店関係があるがゆえに、内外の出所は同一と評価され、並行輸入の抗弁が成立しやすくなるのです。

第3要件――国内権者「独自の品質・信用」の実績があるか

第3要件について、裁判所は、内外権利者が同一視できる場合には原則として品質管理可能性も同一に帰するとしつつ、例外として、国内商標権者が「我が国の商標権の独占権能を活用して,自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績」があり、輸入によってその品質・信用を害する結果が生じる場合には保護に値する、という規範を示しました。
そのうえで事実を検討し、ミツムラは注文時に色・サイズ等の指定や独自部品(ピコ引き輪等)の付加をしていたものの、ウェブサイトではPVZ社作成の画像とロゴがそのまま使われ、保証書の記載も品番・仕様のみで、独自パーツの存在が需要者に認識される表示になっていなかったこと等から、

「被控訴人が,PVZ社とは独自に,被控訴人の商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず,控訴人商品の輸入や本件被疑侵害行為によって,被控訴人の商品の品質又は信用を害する結果が生じたということはできない。」

として、両商品は「本件商標の保証する品質において実質的に差異がない」と評価し、第3要件の充足も認めました。

結論

「本件被疑侵害行為は,第1要件~第3要件をいずれも充足し,実質的違法性を欠く」。原判決は取り消され、ミツムラの請求は棄却されました。なお、ジュエリー・ミウラが主張していた権利濫用(独占禁止法違反)の争点については、「その余の点を判断するまでもなく」として判断されていません。
フレッドペリー3要件と本件のあてはめ

実務への影響・ポイント

第1に、並行輸入の抗弁は輸入行為だけでなく国内での広告・販売段階の標章使用にも及ぶことです。本判決は第1要件を「外国商標権者との関係で適法であること」と読み替えて広告頒布行為に適用しました。並行輸入業者のチラシ・POP・ウェブ表示への権利行使を検討する際は、この枠組みを前提にする必要があります。
第2に、「独占代理店+国内商標登録」による競合排除は万能ではないことです。独占的販売代理店であることは第2要件(出所同一性)の充足方向に働くため、国内登録商標を武器に真正品の流通を止めることはかえって難しくなります。総代理店ビジネスの保護は、商標権による排除ではなく、メーカーとの契約設計(供給ルートの管理等)で図るのが本筋ということになります。
第3に、第3要件の攻防は「独自の品質・信用の実績」の立証にかかることです。本判決は、国内権者が独自の品質・信用を築いた実績があれば保護され得るという例外の道を残しました。ただし、独自部品の付加や検査をしていても、それが需要者に認識される表示になっていなければ実績とは認められません。国内でのローカライズ(部材追加・検品・保証)を差別化要素として守りたいなら、それを需要者に見える形で表示し、記録化しておくことが不可欠です。
第4に、契約書の重要性です。本件の独占的販売代理店契約は口頭合意で、契約書が作成されていませんでした。本件では第2要件の認定自体は認められましたが、独占権の範囲・商標の帰属・既存取引先の処理などを書面で明確にしていれば、そもそも紛争の形が変わっていた可能性があります。海外メーカーとの代理店取引では、商標の出願・帰属条項を含む契約書の整備が肝要です。

まとめ

  • 知財高裁は、フレッドペリー3要件を広告(チラシ)への標章使用に読み替えて適用し、並行輸入業者側の逆転勝訴とした
  • 独占的販売代理店は外国商標権者と「法律的に同一人と同視し得る関係」とされ、第2要件を充足する
  • 国内商標権者が並行輸入を排除するには、「独自の品質・信用の維持の実績」が必要で、需要者に認識されない内部的な品質管理では足りない
  • 総代理店が国内商標登録で競合輸入を止めるスキームには限界がある。契約設計と表示戦略が実務の要諦

出典・参考判例

参考文献

  • 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)320〜329頁〔小林十四雄〕
  • 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)335〜341頁

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

弁護士・弁理士 大熊裕司

この記事の執筆・監修

虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司

第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。

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