不正競争防止法
2026/04/25

元従業員に営業秘密を持ち出された場合の対応方法【不正競争防止法】

「退職した元社員が顧客リストを持ち出し、競合他社に転職した」「元従業員が在職中に習得した技術情報を使って独立し、同じ顧客に営業をかけている」——このような相談は、中小企業から大企業まで後を絶ちません。

こうした行為は、不正競争防止法における「営業秘密の不正取得・使用」として、民事上の差止・損害賠償請求の対象になるだけでなく、刑事罰(10年以下の懲役または2000万円以下の罰金)が科される可能性もあります。

この記事では、元従業員による営業秘密持ち出しが発覚した場合の、具体的な対応手順を解説します。

「営業秘密」として保護されるための3要件

不正競争防止法による保護を受けるには、持ち出された情報が法律上の「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当する必要があります。要件は以下の3つです。

① 秘密管理性
情報が秘密として管理されていること。具体的には、アクセス制限・パスワード管理・「社外秘」の表示・秘密保持誓約書の締結などが有効です。

② 有用性
事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること。顧客リスト・販売データ・製造ノウハウ・仕入先情報などが該当します。

③ 非公知性
公然と知られていない情報であること。インターネットや業界誌で一般に公開されている情報は保護されません。

3要件をすべて満たさなければ「営業秘密」として保護されません。自社の情報管理体制が不十分な場合、せっかく持ち出しの証拠があっても法的手段が取れないことがあります。

発覚したら直ちに行うべき5つの対応

① 事実確認と証拠の保全

まず、持ち出しの事実と規模を把握します。

  • ログの確認:PCのアクセスログ・USBメモリの使用履歴・メール送信記録・クラウドストレージへのアップロード記録
  • 印刷記録:大量印刷の履歴(退職直前に急増していないか)
  • 持ち出した情報の特定:何のデータが、いつ、どのような方法で持ち出されたか

この段階の証拠が後の法的手続きのすべての基盤になります。ITの専門家(フォレンジック業者)への依頼も検討してください。

② 弁護士への緊急相談

証拠保全と並行して、直ちに弁護士に相談します。相談時に持参すべき資料は以下のとおりです。

  • 元従業員との秘密保持契約書・誓約書
  • 就業規則(秘密保持・競業避止に関する条項)
  • 持ち出しを示すログ・メール等の証拠
  • 元従業員の転職先情報(判明している範囲で)

③ 証拠保全申立て(必要な場合)

相手の手元にある証拠(持ち出したデータ・使用した痕跡)が隠滅されるおそれがある場合、裁判所に証拠保全の申立て(民事訴訟法234条)を行うことができます。裁判所の命令により、相手のPCや書類を調査・保全できます。

④ 警告書の送付と使用差止の要求

弁護士名義の警告書を、元従業員本人と転職先企業(情報を利用している場合)の両方に送付します。警告書には以下を記載します。

  • 持ち出した情報の具体的内容
  • 不正競争防止法違反の根拠
  • 使用の即時停止・廃棄の要求
  • 損害賠償および刑事告訴の予告
  • 回答期限

転職先企業が「知らなかった」と主張しても、警告書送付後は「善意」の抗弁が使えなくなるため、転職先への通知は戦略上重要です。

⑤ 仮処分・訴訟・刑事告訴の選択

警告書への対応次第で、以下の法的措置を検討します。

民事:差止請求・損害賠償請求
持ち出した情報の使用差止めと、被った損害の賠償を求めます。損害額は、逸失した売上・顧客数・ライセンス相当額などで算定します。

刑事:告訴
不正競争防止法21条は、営業秘密の不正取得・使用・開示に対して刑事罰を定めています。悪質なケースでは警察(サイバー犯罪相談窓口)への相談・告訴も有効です。刑事捜査により証拠が収集されるメリットもあります。

競業避止義務との関係

秘密保持契約・就業規則に「退職後〇年間は競合他社への就職・独立を禁止する」という競業避止義務条項がある場合、その違反についても損害賠償請求が可能です。

ただし、競業避止義務は無制限には認められません。裁判所は以下の要素を考慮して有効性を判断します。

  • 競業禁止の期間(1〜2年が目安)
  • 対象地域・業務の範囲(広すぎると無効)
  • 代償措置の有無(在職中の特別手当など)
  • 従業員の地位・職種

営業秘密の持ち出しと競業避止義務違反が重なっている場合は、両方の根拠で請求するのが実務上の定石です。

予防のための管理体制整備

事後対応より予防が重要です。以下の体制が整っていれば、①「営業秘密」の3要件を満たしやすく、②抑止力にもなります。

  • 秘密保持誓約書・競業避止誓約書を入社時・退職時に締結
  • 情報へのアクセス権限を最小限に設定
  • PCログ・メールの監視体制の整備
  • 退職時に会社の情報を返却・消去させるチェックリストの運用

まとめ

元従業員による営業秘密の持ち出しは、不正競争防止法に基づく民事・刑事の両面での対応が可能です。

対応の成否は初動の速さと証拠の質にかかっています。発覚したら感情的に動かず、まずログ等の証拠を保全し、直ちに弁護士に相談することが最重要です。

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本記事は一般的な情報提供を目的とし、法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な問題は弁護士にご相談ください。

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