商標法
2026/08/29

分割された同じブランドの商標同士で「混同」が起きたら――商標法53条の不正使用取消を認めたADMIRAL事件・知財高裁判決

はじめに

英国発祥のスポーツブランド「Admiral(アドミラル)」。同じブランドの商標権が、スニーカーはA社、サンダルはB社というように商品ごとに分割されて別々の会社に帰属したら、何が起きるでしょうか。
B社側のライセンシーが、A社の大ヒットスニーカーとそっくりの外観・商標配置のサンダルを販売した事件で、知財高判平成27年5月13日(平成26年(行ケ)第10170号ないし第10174号・審決取消請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトは、使用権者の不正使用による商標登録取消し(商標法53条1項)の成立を認め、これを否定した特許庁審決を取り消しました。
分割商標という特殊な状況で53条をどう適用するか――52条の2の趣旨を類推した判断枠組みと、「相当の注意」の抗弁の厳格な運用を示した重要判決です。

前提知識の整理

  • 商標法53条1項:専用使用権者・通常使用権者が、登録商標(またはその類似商標)の使用であって「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」をしたときは、何人もその商標登録の取消しを審判で請求できます。ただし書で、商標権者が「その事実を知らず、かつ、相当の注意をしていたとき」は取消しを免れます。
  • 商標法52条の2:商標権が分割・移転された結果、同一・類似の商標権が別々の権利者に帰属した場合に、商標権者自身が不正競争の目的で混同を生じさせたときの取消しを定めた規定。
  • 商標権の分割移転:商標権は指定商品ごとに分割して移転できます。その結果、同一ブランドの商標が商品分野ごとに別権利者に帰属する状態が適法に生じ得ます。

事案の概要

「Admiral」は1914年に英国海軍の軍服製造から発祥し、1970〜80年代にはイングランド代表やマンチェスター・ユナイテッドの公式ユニフォームに採用されたブランドです。日本では権利関係が細分化されており、履物分野の商標権は、「履物(サンダル靴等を除く)」が原告・双日ジーエムシーに、「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」が被告・IBEXに、それぞれ分割移転されていました。
原告は平成18年からAdmiralブランドのスニーカーを展開し、「ワトフォード」モデルは約40万足を売り上げ、ファッション雑誌に100回以上掲載される人気商品に育っていました。
一方、被告から独占的通常使用権の許諾を受けた靴小売大手のチヨダは、平成25年3月頃から、クロッグサンダルタイプの商品を販売開始。その外観は原告のスニーカーと酷似し、シュータン・側面・中敷・踵下部という4箇所の商標配置までほぼ同一で、しかも小売店では原告商品と同じ棚に区別なく陳列されていました。
原告は商標法53条1項に基づき、被告のサンダル商標の登録取消しを求める審判を請求。特許庁が不成立審決をしたため、その取消しを求めて提訴しました。
商品の対比(左=原告商品、右=使用権者商品)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
シュータン部分の商標拡大(使用権者商標A)
シュータン部分の商標拡大(原告使用商標A)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
当事者関係図(分割商標とライセンス関係)

争点と裁判所の判断

分割商標の特殊性――類似だけでは「混同」にならない

53条1項を文字どおり適用すると、分割商標の使用権者は、他方の権利者と同一のブランド商標を類似商品に使う以上、常に「混同を生ずるもの」に当たりかねません。しかしそれでは、商標法自身が認めた分割移転の制度と矛盾します。裁判所は、「商標法がこのような同一商標の類似商品・役務間での商標権の分割及び別々の商標権者への移転を許容するものである以上,使用された商標と他人の商標の同一性又は類似性及び商標に係る商品・役務の類似性のみをもって,法53条1項の「混同を生ずるものをした」に該当すると解することは相当ではない」としたうえで、次の規範を立てました。

「法52条の2の規定の趣旨を類推し,……専用使用権者又は通常使用権者が,登録商標又はその類似商標の具体的な使用態様において,他人の商標との商標自体の同一性又は類似性及び指定商品・役務自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,登録商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,他人の業務に係る商品・役務と具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要するというべきである。」

商標権者自身の行為を規律する52条の2(不正競争の目的が要件)とのバランスを取り、使用権者の行為についても「正当使用義務に反する態様」という絞りをかけたものです。

あてはめ――「通常の混同」を超えた具体的使用態様

そのうえで裁判所は、チヨダの使用態様を検討します。原告のスニーカーが若年層に周知となっていた具体的な商標配置(4箇所)・デザイン(青・赤の斜め2本線等)と酷似した商品を、同じ需要者層に向けて、同じ店舗の同じ棚で区別なく販売した――。

「チヨダによる使用権者商標の使用態様は,単に原告使用商標と同一又は類似する,及び「履物(サンダル等を除く。)」と「サンダル等」という商品の種類が類似すること自体により通常混同が生じうるという範囲を超えて,当時,需要者及び取引者の間において原告の販売する商品の表示として認識されていた原告使用商標の具体的な使用態様と酷似していたものというべきであり,そのような使用権者商標の使用により,取引者及び需要者に,使用権者商品も,「Admiral」商標に係るスニーカーを販売する者(原告)と同一の出所に係るものであるとの認識を生じさせる具体的な混同のおそれを生じさせたものといえる。」

同じブランド名を使うこと自体は分割商標の宿命として許容される。しかし、相手方の商品の「売れている姿」まで真似ることは、正当使用義務違反と評価される――この線引きです。

「相当の注意」の抗弁も認められず

被告は、使用権者を東証一部上場企業に限定した、新製品デザインを事前承認制にした、弁理士のアドバイスを受けた、下げ札に「Admiral SANDALS」「販売元(株)チヨダ」と表示した等と主張しました。しかし裁判所は、商標権者には「原告の商品の周知の程度や原告の商品における引用商標の具体的な使用態様を確認し」、混同のおそれの有無に注意する義務があったとし、弁理士のアドバイスも「サンダル靴に当たるか否か」(指定商品の範囲)についてのものにすぎず、混同のおそれについての注意ではなかったとして、抗弁を排斥しました。

「したがって,被告について,法53条1項ただし書の抗弁が成立するものとは認められない。」

53条1項の判断枠組み(分割商標の場合)

実務への影響・ポイント

第1に、分割商標・ブランド細分化ビジネスの行為規範を示したことです。同一ブランドの商標権が商品分野ごとに別権利者に帰属する状況は、ライセンスビジネスでは珍しくありません(本件のAdmiralも、被服・ゴルフ・バッグ等が別々にライセンスされていました)。この場合、各権利者・使用権者は同じブランド名を使う限度で共存を強いられますが、他方権利者の具体的な商品態様に寄せていく行為は53条・52条の2の取消リスクを生みます。「ブランドは共有、商品の顔は独自に」が行動原理になります。
第2に、ライセンサー(商標権者)の監督義務の重さです。使用権者が大手上場企業であることも、デザインの事前承認制も、弁理士への相談も、「混同のおそれ」そのものに向けられた注意でなければ足りないとされました。ライセンス管理では、隣接分野の権利者の商品の使用態様まで調査対象に含めた承認基準を設けるべきです。53条の取消しは商標権者にとって権利自体の喪失であり、使用権者の暴走の責任を権利者が負う構造を直視する必要があります。
第3に、打消し表示の限界の再確認です。下げ札の「販売元(株)チヨダ」表示では、店頭で酷似商品が並ぶ状況の出所誤認を解消できないとされました。IKEA事件のフッター免責文言、薬剤分包事件の打消表示と同様、形式的な表示で実質的な誤認を治癒することはできません。
第4に、攻める側(混同を生じさせられた権利者)の武器としての53条です。使用権者の行為を捉えて相手方の商標登録自体を取り消せる強力な制度であり、本件はその成功例です。差止め・損害賠償(侵害訴訟)と並ぶ選択肢として、取消審判ルートを検討する価値があります。

まとめ

  • 分割された同一商標が別々の権利者に帰属する場合、使用権者の使用が53条1項の「混同を生ずるもの」に当たるには、商標・商品の類似性による通常の混同を超え、52条の2の趣旨を類推した「正当使用義務に反する態様」による具体的な混同のおそれが必要
  • 原告スニーカーの4箇所の商標配置・デザインと酷似したサンダルを同じ棚で販売したチヨダの行為は、この基準を満たすとされた
  • 商標権者の「相当の注意」の抗弁は、混同のおそれ自体に向けられた注意でなければ認められない
  • ブランド細分化時代のライセンス管理と、53条取消審判の実務的威力を示す重要判決

出典・参考判例

参考文献

  • 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)274〜281頁〔木村吉宏〕
  • 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)390頁・549頁・553頁

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

弁護士・弁理士 大熊裕司

この記事の執筆・監修

虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司

第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。

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