商標法
2026/08/30

仲間と育てた「南三陸キラキラ丼」は誰のものか――法人格なきグループの周知商標と4条1項10号の「他人」を判断した知財高裁判決

はじめに

宮城県南三陸町の名物「南三陸キラキラ丼」。地元の飲食店有志が共同で提供し、震災からの復興のシンボルにもなった海鮮丼のシリーズです。この名称を、発案に関わった一員である地元企業が自分の商標として出願したところ、特許庁は「他人の周知商標と同一」(商標法4条1項10号)として拒絶。知財高判平成29年7月19日(平成28年(行ケ)第10245号・審決取消請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトもこれを支持しました。
ポイントは、10号の「他人」に法人格のない飲食店のグループが含まれるとされたこと、そしてグループの一員(しかも発案者側)にとっても、そのグループは「他人」に当たるとされたことです。共同で育てた地域ブランドの商標を誰が取れるのかという、町おこし・共同事業に普遍的な問題を扱った判決です。

前提知識の整理

  • 商標法4条1項10号:「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」(未登録の周知商標)と同一・類似の商標は、登録できない。
  • 周知性の地理的範囲:10号の「広く認識されている」は全国的な知名度までは不要で、一地方(一県とその隣接数県程度)で知られていれば足りると解されています。
  • 「他人」:条文上は「他人」の業務に係る商標であることが要件です。出願人自身の商標であれば拒絶理由にならないため、共同事業では「その商標は誰の業務を表示しているのか」が争点になります。

事案の概要

判決の認定によれば、「南三陸キラキラ丼」シリーズは平成21年12月、原告(株式会社阿部長商店)が経営するホテルの女将の発案をきっかけに、地元飲食店有志6店舗が「南三陸キラキラいくら丼」の提供を始めたのが出発点です。四季ごとに「春つげ丼」「うに丼」「秋旨丼」「いくら丼」を展開し、提供店は8店に拡大、震災前までに4万5000食を売り上げました。
平成23年3月11日の東日本大震災では、提供店の1店の経営者が犠牲になるなど地区は甚大な被害を受けましたが、平成24年2月25日、仮設商店街「南三陸さんさん商店街」のオープンに合わせて9店で「復活南三陸キラキラ丼」として再開。復興のシンボルとして全国メディアに取り上げられ、朝日新聞の記事には「繁盛しているのは共通メニュー『南三陸キラキラ丼』の存在が大きい」と書かれるほどになりました。
その後、個人Aが「南三陸キラキラ丼」を第30類で商標登録(別件商標)したことを契機に、原告も平成25年7月、第43類「南三陸産の海産物を使用した海鮮丼物の提供」等を指定役務として「南三陸キラキラ丼」(標準文字)を出願。しかし特許庁は、提供店の団体の周知商標と同一であるとして拒絶し、原告が取消訴訟を提起しました。
南三陸キラキラ丼の歩みと商標紛争

争点と裁判所の判断

法人格なきグループも「他人」になる

裁判所は、10号の趣旨(出所混同の防止と、未登録周知商標に蓄積された既得の利益の保護)から出発し、次の一般論を示しました。

「同号所定の「他人」には,単一の者だけではなく,特定の商標の持つ出所識別機能及び品質保証機能を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれるものと解するのが相当である」

そのうえで、提供店グループの実態を検討します。共通の具材・価格ルールの作成、提供店を網羅した共通パンフレット、共通の連絡先、共同試食会(震災前)、参加条件の設定、統一の問い合わせ先、公式ウェブサイトでの情報発信(震災後)――これらの事実から、「共通の目的のもとに結束をしていた」と評価し、

「南三陸町地域を中心とする飲食店の団体は,「他人」に該当すると認められる。」

と結論づけました。規約や法人格がなくても、実態としての結束があれば10号の主体になり得るということです。

震災をまたいでも周知性は継続する

原告は、震災前のグループと震災後のグループは別物だとも主張しましたが、裁判所は、震災前の提供店8店のうち4店(原告を含む)が震災後の9店にも継続参加していること、事業目的も「町おこし」から「復興」へ変容したにすぎないことから、同一性を認めました。そして周知性について、

「本願商標が登録出願された平成25年7月2日の時点で,引用商標2は,提供店の団体の業務に係る商標として,少なくとも宮城県及びその近隣地域の需要者の間に広く認識されていたというべきである。」

と認定しました。年間4万5000食の販売実績、再開後3か月で約5万食、多数の新聞・テレビ報道が、その裏付けです。

発案者側でも、グループは「他人」

本件で最も示唆的なのはこの点です。原告は、キラキラ丼はそもそも自分たちの発案であり広告宣伝にも貢献してきたとして、グループは「他人」ではないと主張しました。しかし裁判所は、

「提供店の団体の一構成員である原告にとって,当該提供店の団体は他人に当たることは明らかである。」

「引用商標2は,原告の商標として周知になったのではなく,南三陸町地域を中心とする提供店の団体の商標として周知になったものと認められるし,原告は,他の提供店と共同してキャンペーンを開始したのであるから,提供店の団体が原告が築いていた商標の価値を不当に利用したものとはいえない。」

と述べ、請求を棄却しました。言い出しっぺであっても、商標が「グループの商標」として周知になった以上、一員が単独で登録することはできないのです。
10号の「他人」とグループの構造

実務への影響・ポイント

第1に、共同で使う名称の権利帰属は最初に決めておくべきことです。町おこしの共同メニュー、業界団体のキャンペーン名、共同開発商品のブランド――複数の主体で使い育てる名称は、「グループの商標」として周知になった時点で、構成員の誰も単独では登録できなくなります。逆にいえば、誰も登録できない宙づり状態にもなりがちです。事業開始時に、名義(組合・協議会等の団体を作るか、代表者名義とライセンスにするか)を取り決めておくのが最善です。
第2に、地域ブランドの受け皿制度の活用です。法人格ある事業協同組合等であれば地域団体商標(豊岡柳事件の記事参照)の途があります。本件のような任意のグループは、まず団体の法人化・組合化を検討する価値があります。
第3に、周知性のハードルは意外に高くないことです。一県と近隣地域での認識で足り、本件では地元紙・全国紙の報道と数万食の販売実績で周知性が認められました。地域で数年続けた共同ブランドは、10号の保護(=他者の登録の排除)を受けられる可能性が十分あります。
第4に、「発案者だから自分のもの」という直感は法的には通らないことです。商標の帰属は、発案の先後ではなく、需要者が誰の業務の表示と認識しているかで決まります。この視点のずれが共同事業の商標紛争の典型的な火種であり、本件はその教科書的な事例です。

まとめ

  • 商標法4条1項10号の「他人」には、共通の目的のもとに結束した法人格なきグループも含まれる
  • 「南三陸キラキラ丼」は提供店の団体の商標として宮城県及び近隣地域で周知となっており、震災による中断・構成員の変動があっても周知性の同一性・継続性は否定されない
  • 発案に関わった構成員であっても、団体はその構成員にとって「他人」に当たり、単独での商標登録は認められない
  • 共同ブランドは立ち上げ時に権利帰属・管理主体を設計しておくことが最重要

出典・参考判例

参考文献

  • 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)214〜222頁〔西平幹夫〕
  • 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)161頁

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

弁護士・弁理士 大熊裕司

この記事の執筆・監修

虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司

第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。

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