はじめに
商品パッケージには、その商品の使い方を描いたイラストがよく載っています。スプレーを背中に吹きかける人物のシルエット、目薬をさす横顔――。では、こうした「使用方法のイラスト」そのものを商標登録することはできるのでしょうか。
ロート製薬が、右手にスプレーを持ち首筋から背中にかけて噴霧する人物の図形を「スプレー式の薬剤」を指定商品として出願したところ、特許庁は「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」(商標法3条1項6号)に当たるとして拒絶。知財高判平成25年1月10日(平成24年(行ケ)第10323号・審決取消請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトもこれを支持しました。
商品の「使い方」を示す図は、みんなが使う説明表示であって、一社に独占させるべきものではない――図形商標の識別力について実務の指針となる判決です。
前提知識の整理
- 商標法3条1項6号:1号〜5号(普通名称・記述的表示等)に該当しなくても、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」は登録できないとする受け皿規定。
- 識別力と独占適応性:登録拒絶の実質的理由は、①誰もが使う表示を特定人に独占させるのは公益上不適当であること(独占適応性の欠如)、②自他商品の識別標識として機能しないこと(識別力の欠如)の2点に整理されます。
- 図形商標:文字だけでなく図形も商標になりますが、商品の説明として一般的に使われる類型の図形は、識別力を欠くと判断されることがあります。
事案の概要
ロート製薬は平成22年9月、人物がスプレーを背中に噴霧する様子の図形商標を出願し、拒絶査定を受けた後、不服審判で指定商品を第5類「スプレー式の薬剤」に補正しました。この図形は、同社の背中ニキビ治療薬「アクネージア ニキビ薬」の包装用箱に実際に使用されていたものです。

※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
特許庁は「本願商標は,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものであるから,商標法3条1項6号に該当し,登録を受けることができない」として審判請求を退け、ロート製薬が取消訴訟を提起しました。

争点と裁判所の判断
6号の趣旨――独占適応性と識別力
裁判所はまず、3条1項6号の趣旨を次のとおり説示しました。
「同法3条1項6号が,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定するのは,同項1号ないし5号に例示されるような,識別力のない商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。」
取引の実情――「使い方の図」は業界の共有財産
そのうえで裁判所は、スプレー式の薬剤・化粧品等の分野の取引の実情を認定します。商品の用途や使用方法を示す図が包装用箱や容器に用いられている例が多数存在し、「その図の多くは,手にスプレーを持ち,噴霧する身体の部位にスプレーを噴霧している人物の様子が表されているもの」であること。「スプレー,肩,薬及びイラスト」で画像検索すると100以上の画像が表示されること。
決定的だったのは、同じ背中ニキビ用の商品に、本願商標と類似の図形が現に使われていたことです。裁判所は、「アクネスラボ ボディローション」の包装用箱の図形について、「人物の顔の表情は見えず,胸から上の上半身を背中側から表し,その首筋から背中にかけて手に持ったスプレーを噴霧する様子が描かれており……本願商標に類似するものである」と認定し、「プロフェール 薬用ゴールデンスムーサー」の容器の図形も同様に類似と認定しました。
あてはめ――説明表示と理解され得る図は独占させない
これらを踏まえた結論は次のとおりです。
「本願商標をスプレー式の薬剤に使用する場合に,商品の用途や使用方法等を説明するための記述的な表示と理解されることがあり得るから,そもそも,本願商標が自他商品の識別標識として機能するとは限らない。」
「本願商標は,「スプレー式の薬剤」について特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,自他商品の識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであるといわざるを得ない。」
「実際にパッケージ正面で使っている」という主張は通らない
ロート製薬は、本願商標を商品パッケージの正面中央に一貫して大きく使用しており、販売実績もあると主張しました(原告の主張としては、発売から約1年半で約24万個を販売したこと等が挙げられています)。しかし裁判所は、
「商品の包装用箱に商品の用途や使用方法等が図示されている例も多数存在するから,本願商標が指定商品の包装用箱に使用される場合であっても,需要者は,商品がスプレー式であることや,スプレーを噴霧する身体の部位等を示すための図の一種であると認識するにとどまり,何人かの業務に係る商品であるか認識することができないといわざるを得ない。」
として排斥しました。出願人の個別具体的な使用状況は、6号該当性の判断では考慮されないという立場です。

実務への影響・ポイント
第1に、「使用態様図形」の商標出願はハードルが高いことです。商品の使い方・使用部位を描いた図は、その商品ジャンルの説明表示として誰もが使う類型に属します。同種の図が業界で一般的に使われていれば、どれだけ丁寧に描いても6号の壁に当たります。出願前に、同種商品のパッケージ・ウェブサイトでの図の使用状況を調査することが不可欠です。
第2に、識別力を持たせるならデザインの独自性を作り込むことです。本件の図形は、人物のシルエットがスプレーを噴霧するという、機能の説明そのものでした。キャラクター化する、現実の使用態様から離れた抽象化・装飾化を施すなど、「説明」を超えた創作的要素があれば、判断は変わり得ます。
第3に、使用実績で勝負するなら3条2項の立証を組み立てることです。6号の判断では個別の使用状況は考慮されませんが、使用による識別力の獲得(3条2項)は別のルートとして残されています。あずきバー事件のような立証(使用期間・販売数量・広告宣伝・第三者の認識)を積み上げられるかが鍵になります。
第4に、パッケージデザインの保護は商標だけではないことです。説明的図形の独自のデザイン表現は、不正競争防止法(商品等表示・形態模倣)や著作権によって守られる余地もあります。権利化の手段を組み合わせて検討すべき場面です。
まとめ
- 商品の使用方法を描いた人物図形は、その分野で一般的に使われる説明表示であり、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」(3条1項6号)に当たるとされた
- 同種の背中ニキビ用商品に類似図形の実例があったことが、一般的な標章であることの決め手になった
- 出願人の実際の使用態様・販売実績は、6号該当性の判断では考慮されない
- 使用態様図形を守りたい場合は、説明を超えた独自のデザイン化か、3条2項の立証、または商標以外の保護手段の検討が必要
出典・参考判例
- 知財高判平成25年1月10日(平成24年(行ケ)第10323号・審決取消請求事件) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
参考文献
- 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)190〜197頁〔小谷武〕
- 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)114頁
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

この記事の執筆・監修
虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司
第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。