商標権侵害・トラブル対応
2026/08/30

布地の柄に紛れた「SHIPS」もアウトか――装飾デザインと商標的使用を判断したSHIPS事件・東京地裁判決

はじめに

マリンテイストの布地に、錨のマークと英単語が散りばめられている。その中に「SHIPS」の文字列――。「船」を意味するありふれた英単語ですが、セレクトショップ「SHIPS」のブランド名でもあります。柄(デザイン)の一部として使っただけなら、商標権侵害にはならないのでしょうか。
この「意匠的使用か、商標的使用か」という古典的な問題に判断を示したのが、東京地判平成26年11月14日(平成25年(ワ)第27442号・第34269号・商標権侵害差止等請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイト、SHIPS事件です。裁判所は、装飾的・意匠的な図柄の一部をなす標章であっても、図柄を超える強い識別力が認められるときは商標としての役割を果たす場合があるとして、布地への標章の使用差止めと廃棄を命じました。

前提知識の整理

  • 商標的使用:商標権侵害というためには、標章が自他商品の識別・出所表示として機能する態様で使用されていることが必要という考え方。装飾やデザインとしてのみ機能する使用には商標権が及ばないとされ、ポパイ標章を巡る一連の裁判例などで発展してきました(平成26年改正で商標法26条1項6号として明文化。本件は改正前の事案です)。
  • 意匠的使用と商標的使用の併存:ある表示が装飾でありながら、同時に出所表示としても機能することはあり得ます。本判決はこの併存を正面から認めた事例です。
  • 商標法36条:商標権者は侵害者に対し差止め(1項)・侵害組成物の廃棄(2項)を請求できます。

事案の概要

原告は、セレクトショップ「SHIPS」を展開する株式会社シップス。「SHIPS」の文字商標(第24類・織物等を含む22区分)の商標権者です。判決の認定によれば、昭和52年に「SHIPS」の店舗をオープンして以来全国に約58店を展開し、平成25年2月期の売上高は215億4400万円、会員カードの会員数は67万9000名に上ります。
本件商標「SHIPS」(判決別紙より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
被告らは、布地の製造販売業者(ダイワボウテックス)とその小売販売元。問題の布地は幅110cmの長尺物で、30cm四方を1単位として、大きめの錨マーク8個が異なる方向を向いて配置され、その一つの上下に「SINCE1981」「SHIPS」の文字列が付されていました。他の錨マークには「ANCHOR」等の別の英文が添えられ、余白には郵便スタンプ風のマークも散りばめられた、いかにもマリンテイストの総柄デザインです。布地の端の余白には、被告の親会社の登録商標「D’s SELECTION」も表示されていました。
被告標章(判決別紙・実物生地より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
原告の中止要請に対し、被告側は「柄の一部であって商標としての使用ではない」と争ったため、原告が差止め・廃棄を求めて提訴しました(損害賠償は請求されていません)。
被告商品のデザイン構成と争点

争点と裁判所の判断

一般論――デザインの一部でも商標になり得る

裁判所は、被告標章が仮にデザインの一部であるとしても、次のとおり述べて商標的使用の成立余地を認めました。本判決の核心部分です。

「仮に被告標章が被告商品のデザインの一部であるといえるとしても,そのことによって,直ちに商標としての使用が否定されるものではなく,装飾的・意匠的な図柄の一部をなしている標章であっても,その標章に装飾的・意匠的な図柄を超える強い識別力が認められるときは,装飾的・意匠的図柄であると同時に自他識別機能・出所表示機能を有する商標としての役割を果たす場合があるというべきである。」

あてはめ――「SHIPS」の強い識別力と表示態様

裁判所はまず、原告の店舗展開・売上・カタログ発行部数・会員数等の事実から、「本件商標は,服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識されており,強い識別力を持つ商標であると認められる」と認定しました。
そのうえで被告商品を見ると、「SHIPS」の文字は他の英文がかすれて読み取りにくい中でも「容易に読み取れる」態様で表示され、配置・文字の大きさ・表示態様から「被告商品のデザインの中で,十分に独立して認識可能な標章として表示されている」。結論として、

「被告商品において被告標章は,その需要者に対して,商品の自他を識別し,出所を表示する態様で用いられていると認めることができる。したがって,被告標章は,被告商品において,商標として使用されていると認めるのが相当である。」

としました。

被告の反論への応答

被告側の主張は、ことごとく丁寧に排斥されています。
「錨マークとセットの一体デザインだ」という主張には、錨は「錨」の図形、「SHIPS」は「船」を意味する英単語であり、「一つの固まりの中でも,それぞれが異なる観念を持つものとして,独立して認識し得ることは明らかである」と応答。「SHIPS」は「「錨」のマークの説明的な表示であるということもできない」とも述べています。
端の親会社商標により出所は表示されているとの主張には、「商品に付された一つの商標からその製造者が認識されるからといって,同商品に付された他の標章が商標として認識されないということにはならない」と応答しました。
興味深いのは「SINCE1981」の表示です。被告側の説明によればデザイン作成者の誕生年に由来するとのことでしたが、裁判所は、需要者がそのように認識するとは「到底認められず」、かえって「SHIPS」ブランドの設立年を表すものと認識するのが通常、と判断しました。ブランド名の直上に「SINCE+年号」を置けば、需要者には老舗ブランドの創業表示にしか見えない――という常識的な見方です。

類否と結論

類否については、外観・観念・称呼等の総合考察という一般基準のもと、「本件商標と被告標章とは,少なくとも類似するものということができる」として、差止めと廃棄が認められました(廃棄については仮執行宣言は付されていません)。
判断の構造(デザインの一部でも商標的使用になる場合)

実務への影響・ポイント

第1に、「柄に混ぜれば安全」という発想は通用しないことです。総柄デザインの中の1要素であっても、著名ブランド名と同じ文字列が独立して読み取れる態様であれば、商標的使用と認定されます。判断を分けるのは、①その標章(ブランド)の識別力の強さと、②配置・大きさ・表示態様から独立の標章として認識できるか、です。
第2に、他の商標の併記では回避できないことです。タグや端部に自社(グループ)ブランドを表示していても、デザイン中の他人ブランド標章の出所表示機能は否定されません。IKEA事件の免責文言と同様、「本当の出所は別に書いてある」型の抗弁の限界を示しています。
第3に、テキスタイル・雑貨デザインの実務への警鐘です。マリン柄に「SHIPS」、山岳柄に有名アウトドアブランド名――モチーフに関連する英単語を飾りとして使ううち、実在ブランドと衝突する例は少なくありません。デザインに文字列を入れる際は、普通名詞のつもりでも商標調査を通すべきです。特に「SINCE+年号」のような創業表示風のあしらいは、出所表示と認識される方向に強く働きます。
第4に、事案の限界にも注意が必要です。本件は「SHIPS」がアパレル分野で強い識別力を持つと認定されたことが結論を支えています。識別力の弱い語や、説明的表示にとどまる使用態様であれば、結論は異なり得ます(商標的使用を否定した裁判例も多数あります)。

まとめ

  • 装飾的・意匠的な図柄の一部の標章でも、図柄を超える強い識別力が認められるときは、商標としての役割を果たす場合がある
  • 「SHIPS」は服飾ブランドとして強い識別力を持ち、布地デザイン中でも独立して認識可能な態様で表示されていたため、商標的使用が肯定された
  • 錨マークとの一体性・親会社商標の併記・デザイナーの主観的意図(SINCE1981)は、いずれも抗弁として通らなかった
  • テキスタイルデザインに実在ブランドと同じ文字列を使うことのリスクを示す実務上重要な事例

出典・参考判例

参考文献

  • 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)176〜182頁〔本阿弥友子〕
  • 山内真之「商標権侵害訴訟における,いわゆる「商標的使用」について」AIPPI 62巻6号(2017年)14〜24頁
  • 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)267頁
  • 平澤卓人「商標権侵害訴訟における商標の類似性要件の実証的研究」知的財産法政策学研究57号(2020年)65頁

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

弁護士・弁理士 大熊裕司

この記事の執筆・監修

虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司

第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。

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