裁判例・判例解説
2026/08/09

YouTubeへの権利侵害通知はどこから違法になるのか――「専ら不当な目的」基準を維持した知財高裁令和7年10月16日判決(YouTube侵害通知事件)

はじめに

YouTubeに投稿した動画が、ある日突然再生できなくなる――その原因の一つが、第三者からYouTube(運営者・グーグル)に対して行われる「権利侵害の通知」です。YouTubeには、著作権侵害・プライバシー侵害・名誉毀損のそれぞれについて、権利を侵害されたと考える人が動画を通知(報告)するためのフォームが用意されており、通知を受けたグーグルが動画を削除・ブロックすることがあります。
では、この通知の仕組みを使われて動画を削除された投稿者は、逆に「不当な通知だった」として通知者を訴えることができるのでしょうか。
この問題に答えたのが、知的財産高等裁判所令和7年10月16日判決(令和7年(ネ)第10037号 損害賠償請求控訴事件)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕です。動画投稿者側が通知者を不法行為(民法709条)で訴えましたが、一審の東京地方裁判所令和7年3月11日判決(令和5年(ワ)第70125号)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕・控訴審とも請求は棄却されました。控訴審は、「専ら不当な目的」で通知がされた場合に限って違法となる余地があるという一審の判断基準を維持したうえ、通知フォームの選択を誤っただけでは違法にも過失にもならないことを明らかにしています。
この記事では、YouTubeの権利侵害通知の仕組みを判決の認定に沿って整理したうえで、本判決の判断枠組みと実務への影響を解説します。

前提知識:YouTubeの権利侵害通知の仕組み

本判決(および控訴審が引用する一審判決)が認定した限度で、前提となる仕組みを整理します。

  • 3種類の通知フォーム:判決は、ユーチューブのウェブサイト上に用意された「本件各通知フォーム」を「ユーチューブ上の動画の投稿が権利侵害に該当することをグーグルに通知するためのフォーム」と定義し、その内訳として著作権侵害通知フォーム・プライバシー侵害通知フォーム・名誉棄損通知フォームの3種類を挙げています。
  • 著作権侵害の違反警告(3回でアカウント停止):一審判決(控訴審が引用・維持)は、利用規約等の内容として、著作権侵害による有効な削除通知を受けてユーチューブが動画を削除した場合にユーザーへ違反警告がされ、「著作権侵害の違反警告を3度受けるとユーザーのアカウントは停止され、そのアカウントにアップロードされた動画は全て削除される」ものとされていることを認定しました。著作権侵害の通知は、動画1本の削除にとどまらず、チャンネル全体の存続に関わり得る仕組みだということです。
  • DMCAのノーティスアンドテイクダウン:控訴審判決は、DMCA(米国デジタルミレニアム著作権法)について、「著作権の侵害を主張する者から法定の形式的要件を満たす通知を受領したプロバイダ等は、著作権侵害情報か否かの実体的判断を経ずに、いったん当該著作権侵害とされる情報を削除すれば、責任を負わないこと」、削除された情報について発信者から反対通知があれば一定の手続を経て情報を復活させればプロバイダ等は責任を負わないことなどを内容とするノーティスアンドテイクダウン手続が定められている、と説示しています。
  • なお、グーグルの内部運用について判決が認定しているのは、著作権侵害通知フォームの記載内容について「一定の審査」をしたうえで削除の是非を決定していること(現に本件でも削除申請が却下された通知があること)などの限度です。

判例の紹介と分析

事案の概要

控訴人X1・X2(1審原告)らはYouTubeに動画(本件各動画・動画1〜29)を投稿していた動画投稿者、被控訴人Y(1審被告)はこれらの動画を通知フォームから通知した人物です。判決の整理によれば、通知の内訳は次のとおりです。

  • 著作権侵害通知フォームからの通知:本件通知1、26〜29(計5件)
  • プライバシー侵害通知フォームからの通知:本件通知2〜22(計21件。ただし通知10・11・13・14はYが行ったか争いあり)
  • 名誉毀損通知フォームからの通知:本件通知23〜25(計3件)

通知の結果、動画1および26〜29はユーチューブ上で再生不能となり、動画23〜25は日本国内で再生不能(ブロック)となりました。動画2〜22については、一部は投稿者自身が削除し、一部は削除されずに再生可能なままでした。
事件の構図:投稿者・YouTube(グーグル)・通知者の三者関係
X1・X2ら(および1審原告A)は、これらの通知が不法行為にあたるとして、民法709条に基づき損害賠償(慰謝料・逸失利益・弁護士費用等)を請求しました。一審は請求をいずれも棄却。X1・X2が控訴しましたが(Aは控訴せず、Aが投稿した動画26に係る通知26は控訴審の判断対象外)、控訴審も控訴を棄却しました。
争点は、①通知10・11・13・14をYがしたか(一審は証拠上認められないと判断)、②本件各通知が不法行為にあたるか、③損害の発生およびその額、の3点ですが、②が否定されたため③の損害論は判断されていません

判断基準:「専ら不当な目的」で通知された場合に違法となる余地

中心となるのは著作権侵害通知フォームに関する判断基準です。一審判決(控訴審が引用・維持)は、前記の違反警告の仕組みを踏まえて、次の規範を立てました。

ユーチューブにおいて動画を投稿した者の表現活動や事業活動を妨害するなど、専ら不当な目的で著作権侵害通知フォームからの通知がされた場合、通知の回数、内容及び態様によっては、上記通知をすることが、当該動画を投稿した者の法律上保護される利益を侵害するものとして違法となる余地がある。

通知が違法となるのは「専ら不当な目的」でされた場合に限られ、しかもその場合でも通知の回数・内容・態様次第、という二段構えの限定です。控訴審はこの基準を維持したうえ、その合理性を次のように基礎付けました。

そもそも、権利の侵害の疑いがある場合に、これをグーグルに通知することは、違法な行為ということはできない。その意味において、通知の違法性を認めるために「専ら不当な目的で著作権侵害通知フォームからの通知がされた場合」であることを要件とすることには合理性があるというべきである。

三類型それぞれの判断

三つの通知フォームについての判断枠組みと本件でのあてはめを整理すると、次のとおりです。

通知の類型 対象 判断枠組み 本件の結論
著作権侵害通知フォーム 通知1、26〜29 違反警告3回でアカウント停止等の重い効果→「専ら不当な目的」で通知された場合、通知の回数・内容・態様によっては違法となる余地 殊更に虚偽の事実や法律関係に基づく通知をしたとはいえず、専ら不当な目的とはいえない→不法行為不成立(通知26は控訴審の判断対象外)
プライバシー侵害通知フォーム 通知2〜9、12、15〜22 グーグルは法律上のプライバシー権侵害にあたることまで求めていない→侵害事実がなくても直ちに違法ではない。「専ら不当な目的」の場合に違法となる余地 動画にYの氏名が使用されていた等の事情→専ら不当な目的とはいえない→不法行為不成立
名誉毀損通知フォーム 通知23〜25 グーグルは法律上の名誉毀損・侮辱にあたることまで求めていない→該当事実がなくても直ちに違法ではない(※「専ら不当な目的」の定式は明示的に反復されていない) 報告文言に名誉毀損・侮辱を構成する可能性のある表現が含まれていた→フォームの悪用にあたる余地はない→不法行為不成立

三類型の判断整理:著作権・プライバシー・名誉毀損の各通知と本件の結論
プライバシー侵害通知について、控訴審は次のように述べています。

グーグルは、通知に係る動画の内容が法律上プライバシー権侵害に当たることまでは求めていないから、プライバシー権侵害に当たる事実がないのに同フォームからの通知をしても、通知の対象者との関係で直ちに違法となるものではない。

そのうえで、「少なくとも本件動画2ないし9、12、15ないし17、19、21及び22に被告の氏名が使用されていたこと」等を踏まえ、殊更に虚偽の事実や法律関係に基づく通知をしたとは認められないとしました。
名誉毀損通知については注意が必要です。控訴審の要約は「法律上の名誉毀損・侮辱に当たる事実がないのに同フォームからの通知をしても、通知の対象者との関係で直ちに違法となるものではない」と述べるにとどまり、著作権・プライバシーの類型と異なり、「専ら不当な目的」であれば違法となる余地があるという定式を同じ文型では明示的に反復していません。あてはめでも、通知の報告文言に「やっていることが実際詐欺」「詐欺師かIQ3以下の無能」「絶対に成功しない」等といった名誉毀損または侮辱を構成する可能性のある表現が記載されていたことを指摘し、一審は「名誉毀損通知フォームの悪用に当たるとする余地はない」としています。三類型を機械的に同一の基準で説明することはできず、判示の精粗に差がある点は正確に押さえておくべきでしょう。

控訴審が付加した判断①:通知フォームの選択ミスと過失

本件の著作権侵害通知の実質は、Xら側がYの氏名や顔写真を無断で使用したことを問題にするもの、つまりパブリシティ権侵害の通知を著作権侵害フォームで行ったものでした。投稿者側は、このようなフォームの選択ミスを捉えて違法・過失があると主張しましたが、控訴審は次のように退けました。

ある権利の侵害の疑いがある場合において、通知フォームの選択を誤り、著作権侵害通知フォームから通知したとしても、グーグルにおいては、通知内容に関する一定の審査をしていることを踏まえると、通知フォームの選択を誤ったからといって、直ちに通知の対象者との関係で、通知者の不法行為上の過失を認めることは相当ではない。

過失構成についても、グーグルが記載内容を審査したうえで削除要請の是非を決めていること、「通知のフォームにかかわらず、グーグルには不適切なコンテンツを削除する独自の裁量権がある」ことを踏まえ、注意義務違反は認められないとしています。通知と削除の間にグーグルの審査・裁量が介在することが、通知者の責任を否定する方向で重視された形です。

控訴審が付加した判断②:大阪高裁令和4年10月14日判決との整理

投稿者側は、YouTubeの著作権侵害通知をめぐって通知者の不法行為責任が認められた大阪高裁令和4年10月14日判決(本件の甲1。判決文PDF・裁判所ウェブサイト)を引き、「専ら不当な目的」を要求することは同判決の趣旨に整合しないと主張しました。控訴審は、本判決が紹介するところによれば、同判決の事案は、編物の動画について競業者らが「その著作物性及び著作権侵害の有無について十分に検討することなく著作権侵害通知を行い、被控訴人からの問合わせにも誠実に対応せず、脅迫的言辞を弄して和解契約の締結を求めるなどし」た事案であり、「専ら不当な目的」を違法性の要件としても違法性を認めることができた事案だから、同要件を要求することが同判決の趣旨に反しないと整理しました。
そのうえで本件については、次のように結論付けています。

本件は、原告らが被告の氏名や顔写真を無断で使用しているという事実に基づき、被告が著作権侵害通知フォームから通知をしたが、その内容は、専らパブリシティ権侵害を通知するものであったというものであり、著作権侵害通知フォームを選択したことが適切ではなかったというにとどまる。

事実の基礎がある通知は、フォームの選択が不適切でも「専ら不当な目的」にはあたらない――競業者排除目的がうかがわれる大阪高裁の事案とは異なる、という整理です。

意義と射程

本判決の意義は、①YouTubeの権利侵害通知が違法となるのは「専ら不当な目的」でされた場合に限られるという判断基準を控訴審レベルで維持し、その合理性を「権利侵害の疑いがある場合の通知はそもそも違法でない」という点から正面から基礎付けたこと、②通知フォームの選択ミスだけでは違法性も過失も基礎付けられないことを明示したこと、③通知者の責任が認められた大阪高裁判決とのすみ分け(事実の基礎の有無・目的の不当性)を示したことにあります。
他方で射程には注意が必要です。名誉毀損通知の類型では「専ら不当な目的」の定式が明示的に反復されておらず、三類型で判示の精粗が異なります。また、損害論(争点③)は判断されておらず、仮に通知が違法とされた場合の賠償範囲について本判決から得られる示唆はありません。「虚偽の通報は違法」「虚偽でも適法」といった一般化はいずれも本判決の読み方として正確でない点に留意すべきです。

実務への影響

通知される側(動画投稿者・配信者)の視点

本判決を前提とすると、通知者に対する損害賠償請求のハードルは相当に高いといえます。通知内容に事実の基礎があれば、フォームの選択ミスや法的構成の誤りがあっても「専ら不当な目的」とは評価されにくく、通知と削除の間にグーグルの審査・裁量が介在することも通知者の責任を否定する方向に働きます。訴訟を検討する場合は、大阪高裁の事案のように、権利侵害の検討を欠いた反復的な通知、脅迫的言辞、競業者排除の意図といった不当目的を推認させる具体的事情を立証できるかが鍵になります。
また、そもそも誰が通知したのかの立証も問題になります。本件でも一部の通知(通知10・11・13・14)はYが行ったと認めるに足りる証拠がないとされました。損害賠償以外の対応としては、判決がDMCAの説示の中で触れる反対通知の仕組みなど、プラットフォーム内の手続を通じた動画の回復を先行させることが現実的な選択肢となる場面が多いでしょう。

通知する側(権利者)の視点

権利者にとって本判決は、権利侵害の疑いがある場合の通知は原則として違法にならないことを確認するもので、権利行使を萎縮させないという意味では安心材料です。もっとも、次の点には留意すべきです。

  • 通知の基礎となる事実を確認する:本件で通知が適法とされた決め手は、氏名・顔写真の無断使用という事実の基礎があったことです。殊更に虚偽の事実や法律関係に基づく通知は、違法と評価される入口になります。
  • 正しいフォームを選ぶ:本判決も「不正確な著作権侵害の通知をすることは適切ではない」と苦言を呈しています。選択ミスが直ちに違法・過失とならないのは結論にすぎず、パブリシティ権・プライバシー・名誉毀損など、主張したい権利に対応するフォームを選ぶのが本来です。
  • 回数・態様に注意する:判断基準は「通知の回数、内容及び態様によっては」違法となる余地を認めています。検討を欠いた大量の通知や、通知に付随する脅迫的な要求は、不当目的の推認を招きます。

まとめ

  • 知財高裁令和7年10月16日判決は、YouTubeの権利侵害通知が違法となるのは「専ら不当な目的」で通知がされた場合に限られるとの基準を維持し、投稿者側の請求を棄却した一審判決を維持しました。
  • パブリシティ権侵害の実質を著作権侵害フォームで通知したというフォーム選択ミスだけでは、違法性も過失も認められません。グーグルによる「一定の審査」の介在が重視されています。
  • 通知者の責任が認められた大阪高裁令和4年10月14日判決は、不当な圧力の意図が推認される事案として整理されており、両判決は「事実の基礎と目的」で区別できます。
  • 名誉毀損通知の類型は判示の文型が異なるなど、三類型の判断には精粗があり、一般化には注意が必要です。

出典・参考判例

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

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