商標法
2026/08/13

「豊岡柳」と「豊岡杞柳細工」――観念の類似を軸に混同のおそれ(商標法4条1項15号)を認めた豊岡柳事件・知財高裁判決

はじめに

兵庫県豊岡市は、コリヤナギ(杞柳)の枝を編んだ行李やかごで知られる「かばんの街」です。その伝統工芸「豊岡杞柳細工」は地域団体商標として登録され、国の伝統的工芸品にも指定されています。
この「豊岡杞柳細工」を擁する協同組合が、個人事業者の登録商標「豊岡柳/Toyooka」(指定商品:かばん類等)の無効を求めた事件で、知財高裁平成29年10月24日判決(平成29年(行ケ)第10094号・審決取消請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトは、外観・称呼は類似しないが観念が類似することを軸に、商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれがある商標」に当たるとして、無効不成立審決を取り消しました。
外観も呼び方も違うのに「混同のおそれ」が認められる――15号の判断構造がよく分かる事例として、また地域団体商標の保護範囲を考えるうえで重要な判決です。

前提知識の整理

  • 商標法4条1項15号:「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は登録できない。11号(類似商標の登録排除)と異なり、条文上「商標の類似」は要件とされておらず、周知表示への便乗(フリーライド)や希釈化(ダイリューション)を防ぐ機能を持ちます。
  • 広義の混同:商品の出所そのものの誤信だけでなく、親子会社・系列会社やグループ関係にあると誤信させる場合を含む考え方。レールデュタン事件最高裁判決(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)が確立しました。
  • 地域団体商標:「地域名+商品名」からなる商標を、事業協同組合等が一定の周知性を条件に登録できる制度(平成18年導入)。「豊岡杞柳細工」はその一つです。
  • 観念:商標から生じる意味・イメージのこと。商標の類否は外観(見た目)・称呼(呼び方)・観念の三要素を総合して判断されます。

事案の概要

被告(京都府在住の個人。判決上は「Y」と表示)は、屋号「拓心」でかばんの企画・製造・販売等を営む事業者で、平成22年8月に「豊岡柳」の漢字と「Toyooka」の欧文字を上下二段に配した商標を出願し、平成23年8月に第18類「皮革,かばん類,袋物」等を指定商品として登録を受けました(第5431098号)。
本件商標(判決別紙より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
これに対し、地域団体商標「豊岡杞柳細工」(第5030662号。指定商品=豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり・かご等)の商標権者である兵庫県杞柳製品協同組合が、4条1項11号・15号・16号・7号違反を理由に無効審判を請求。特許庁が「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたため、その取消しを求めて提訴しました。
引用商標(判決別紙より)
※画像は判決文PDF(裁判所ウェブサイト)別紙より引用
判決の認定によれば、被告は平成20年に伝統的工芸品活用フォーラム事業で原告のパートナーとなったものの新商品開発には至らず、その後に本件商標を出願・登録したという経緯があります。
両商標の対比(外観・称呼・観念)

争点と裁判所の判断

審理の順序――11号ではなく15号から

原告は11号(類似商標)と15号(混同のおそれ)の両方を主張しましたが、裁判所は「事案に鑑み,取消事由2について検討する」として、15号から審理しました。そして15号該当を認めて審決を取り消したため、11号(商標の類否そのもの)については「その余の点について判断するまでもなく」として判断を示していません。この点は本判決を読むうえで重要です(後述)。

レールデュタン基準の適用

裁判所はまず、15号の判断基準としてレールデュタン事件最高裁判決を引用し、「混同を生じるおそれ」の有無は、①商標と他人の表示との類似性の程度、②他人の表示の周知著名性・独創性の程度、③商品・役務間の関連性の程度、④取引者・需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、需要者の注意力を基準に総合的に判断されるべきものとしました。

外観・称呼は非類似、しかし観念が類似する

類似性の程度について、裁判所は、本件商標からは「トヨオカヤナギ」、引用商標からは「トヨオカキリュウザイク」の称呼が生じ、外観・称呼は類似しないとしました。しかし観念については、豊岡が古くから杞柳細工の産地であり、「豊岡杞柳細工」が伝統的工芸品の指定と地域団体商標の登録を受けていることを踏まえ、次のとおり判示しました。

「「豊岡柳」の語から,「兵庫県豊岡市で生産された柳細工を施した製品」という観念も生じ得るものといえる。」

そして両商標の対比について、

「本件商標と引用商標は,外観及び称呼において類似するとはいえないものの,本件商標をその指定商品に使用した場合は,「兵庫県豊岡市の柳」という観念だけでなく,「兵庫県豊岡市で生産された柳細工を施した製品」という観念も生じ得るものである。そして,その場合には,本件商標の観念は,引用商標から生じる観念と類似するものということができる。」

と、観念の類似を認めました。

周知性・商品の関連性・使用態様

引用商標の周知性について、裁判所は、江戸時代以来の産地の歴史(最盛時には豊岡市民の約半数が携わり国内生産額の約8割を占めたこと)、平成4年の伝統的工芸品指定(柳製品では全国唯一)、高島屋での展示会や皇室関係の報道、NHK番組での紹介等を認定し、「一定の周知性を有していたものと認められる」としました。他方、「地域の名称」と「商品の普通名称」からなる構成自体は「独創的なものとはいえない」とも述べています。
商品の関連性については、本件商標の指定商品(かばん類等)と原告商品(杞柳細工のこうり・かご)は「商品の用途や目的,原材料,販売場所等において共通し,同一又は密接な関連性を有するものであり,取引者及び需要者が共通する」と認定。さらに、被告自身がパンフレットやウェブサイトで豊岡の杞柳細工の歴史や伝統的工芸品指定を紹介する文章を掲載するなど、「引用商標又は原告商品と誤認を生じさせるような態様で使用している」ことも指摘しました。

総合判断――フリーライド・ダイリューションへの言及

これらを総合し、裁判所は、本件商標を指定商品に使用した場合、需要者に「豊岡杞柳細工」の表示を連想させ、原告の構成員またはグループ関係にある営業主の商品と誤信され、出所の誤認を生じさせるとともに、「原告の表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない」として、

「本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると解するのが相当である。」

と結論づけ、審決を取り消しました。
15号「混同のおそれ」の総合判断の構造

実務への影響・ポイント

第1に、観念の類似だけでも15号の「類似性の程度」要素は満たし得ることです。レールデュタン事件やポロ事件など従来の最高裁事例は外観・称呼・観念のいずれも類似性が高い事案でしたが、本判決は外観・称呼が非類似でも、観念の類似を出発点に周知性・商品関連性を積み上げて混同のおそれを肯定しました。文献でも、観念類似を基礎に15号該当性を判断したケースとして注目されています。ネーミングを変えて表記や読みをずらしても、「意味」が重なれば15号リスクは残る、ということです。
第2に、地域団体商標の保護範囲の広がりです。「地域名+普通名称」という構成上、独創性は低いと評価されながらも、伝統的工芸品指定や長年の産地の歴史に裏打ちされた周知性が、混同のおそれの認定を支えました。地域ブランドの防衛にとって、15号は11号を補完する重要な武器になります。
第3に、使用態様が登録要件の判断に影響したことです。被告が産地の歴史や伝統的工芸品指定を自ら紹介して販売していた事情が、「誤認を生じさせるような態様」として考慮されました。登録可否の場面でも、現実の使用・販売方法が取引の実情として効いてくることを示しています。
第4に、本判決が判断していない部分に注意することです。裁判所は15号該当のみで審決を取り消しており、11号(商標の類否そのもの)、16号、7号については判断していません。「外観及び称呼において類似するとはいえない」という説示も15号の枠内のものであり、裁判所が11号について非類似と判断したと読むのは誤りです。

まとめ

  • 「豊岡柳/Toyooka」と地域団体商標「豊岡杞柳細工」は、外観・称呼は類似しないが、「豊岡市で生産された柳細工を施した製品」という観念が類似すると認定された
  • 観念の類似に、周知性(伝統的工芸品・地域団体商標)、商品の密接な関連性、誤認を生じさせるような使用態様を総合し、4条1項15号の混同のおそれが肯定され、無効不成立審決は取り消された
  • 外観・称呼を変えても観念が重なれば15号リスクは残る。地域ブランドに寄せたネーミングには要注意
  • 裁判所は11号(類否)自体には判断を示していない点に留意

出典・参考判例

参考文献

  • 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)230〜236頁〔大塚啓生〕
  • 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)168〜170頁・255頁
  • 上田洋幸「地域団体商標権の行使に関する諸問題」(地域団体商標の権利行使を巡る論点整理)

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

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