不正競争防止法
2026/08/09

商品形態模倣(不競法2条1項3号)の成否――多数の共通点があっても、背面ポケットの有無が「無視できない相違」とされ模倣が否定された事例(東京地判令和8年2月16日・請求棄却)

はじめに

ヒット商品が生まれると、それとよく似た後発商品が市場に現れることは珍しくありません。他人の商品の形態をそっくり真似た商品――いわゆる「デッドコピー」――の販売は、不正競争防止法2条1項3号により「不正競争」とされます。それでは、先行商品と多くの共通点を持つ後発商品であれば、常に「模倣」にあたるのでしょうか。
今回紹介する東京地裁令和8年(2026年)2月16日判決(令和6年(ワ)第70219号 損害賠償等請求事件)は、ハンドバッグ「marche-mini」を製造販売する株式会社ソラスタイルズ(原告)が、株式会社ルートート(被告)の販売するハンドバッグ「L.T.デリ.CORON」シリーズは原告商品の形態を模倣したものだと主張して損害賠償を求めた事案です。裁判所は、両商品の多数の共通点を認めつつも、背面の外部ポケットの有無という相違点を商品全体の形態の類比の上で無視できない相違と評価して実質的同一性を否定し、模倣にあたらないと判断して請求を棄却しました。つまり、訴えられたルートート側が勝訴した事例です。
なお、当事者の実名は判決別紙の当事者目録に記載されているものであり、判決本文では「原告」「被告」とのみ表記されています(本記事の引用部分も判決の表記のままとします)。
出典:東京地判令和8年2月16日(令和6年(ワ)第70219号 損害賠償等請求事件) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト

前提知識の整理:不競法2条1項3号のデッドコピー規制

  • 商品形態のデッドコピー規制(不競法2条1項3号):他人の商品の形態(その商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く)を模倣した商品を譲渡・貸渡し・輸出入等する行為は、不正競争にあたります。これにより営業上の利益を侵害された者は、差止め(3条)や損害賠償(4条)を請求できます。
  • 「商品の形態」とは:需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる、商品の外部・内部の形状と、その形状に結合した模様・色彩・光沢・質感を指します(2条4項)。
  • 「模倣」とは:他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいいます(2条5項)。①依拠(先行商品を知り、それをもとにしたこと)と、②実質的同一性という2つの要素から構成されます。本判決の勝敗を分けたのは、②実質的同一性の判断です。
  • 保護期間は3年:この規制による保護は、日本国内において最初に販売された日から3年を経過した商品には及びません(19条1項6号イ)。
  • 意匠権との違い:意匠権は出願・審査を経て登録される権利で、登録されれば出願から最長25年、登録意匠に類似する意匠にまで効力が及びます。これに対して不競法2条1項3号は、登録なしで保護を受けられる代わりに、期間は3年と短く、保護範囲も「実質的に同一」といえるほど酷似した形態に限られます。無登録の新商品を投資回収期間だけ守る、いわば応急的な保護制度です。

判例の紹介と分析

事案の概要

判決は、事案の要旨を次のとおり整理しています。

本件は、原告が、被告による別紙被告商品目録記載のハンドバッグ(以下、併せて「被告商品」という。)の製造及び販売等は、原告が製造及び販売等する別紙原告商品目録記載のハンドバッグ(以下「原告商品」という。)の形態を模倣した商品を譲渡等する不正競争(不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号)であり、原告はこれにより営業上の利益を侵害され、損害を被ったと主張して、被告に対し、不競法4条に基づき、640万円の損害賠償及びこれに対する不正競争より後の日である令和5年1月24日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(判決文1頁)
原告は、アパレル製品・雑貨・バッグ等の企画、開発、製造、販売等を業とする会社で、令和元年秋冬向けの商品として「marche」シリーズのバッグを開発し、令和元年8月9日以降、百貨店等に原告商品を納品してきました。本件で比較対象とされたのは、同シリーズのうち「marche-mini」です。他方、被告はバッグ等の企画、製造、販売等を業とする会社で、被告商品は被告が令和4年2月から「L.T.デリ.CORON」のシリーズ名で販売するハンドバッグです。
なお、両商品の写真(別紙商品目録・主張整理表)は裁判所ウェブサイト掲載の判決PDFには収録されていないため、本記事における形態の記述は、判決文の文言による認定の範囲にとどめています。

争点の構造――裁判所が判断したのは争点1のみ

本件の争点は次の4つでした。

  1. 争点1:被告商品による原告商品の形態模倣の有無
  2. 争点2:被告の故意又は過失の有無
  3. 争点3:保護期間の経過の有無
  4. 争点4:原告の損害の有無及びその額

裁判所は、争点1について実質的同一性を否定したため、その余の点を判断するまでもなく請求を棄却しました。争点2〜4については判断が示されていません。 とくに争点3について「3年の保護期間の経過が認められた」わけではない点には注意が必要です(当事者間では、原告商品が「最初に販売された日」がいつか――原告は令和元年8月7日の注文書兼仕入伝票発行日、被告は平成30年12月頃のサンプル製造発注時ないし遅くとも平成31年3月19日の展示会開催日と主張――が争われていましたが、この点の判断はありません)。
事件の構図と争点(争点1のみ判断・請求棄却)

「模倣」の判断枠組み(一般論)

裁判所は、「模倣」の意義について次の一般論を示しました。本判決の判断構造を理解する上で最も重要な部分です。

「模倣」(不競法2条1項3号)とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の商品の形態を作り出すことをいう(同条5項)。「実質的に同一の商品の形態」とは、客観的に「他人の商品」と作り出された商品を対比して観察した場合に、作り出された商品の形態が「他人の商品」の形態と同一であるか、実質的に同一といえる程に酷似していることをいう。ここで、商品形態の模倣を不正競争とした趣旨が商品開発のために資金や労力を投下した先行者を保護することにあることに鑑みると、作り出された商品の形態に「他人の商品」の形態と相違する部分があるとしても、その相違がわずかなものであり、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には、当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態と評価され得るというべきである。他方、当該相違部分についての着想の難易、相違点の内容・程度、相違点が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに、当該相違点によって商品に相応の形態的特徴がもたらされており、当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類比の上で無視できないような場合には、両者を実質的に同一の形態ということはできない。

(判決文15〜16頁)
要するに、(1)相違があってもそれが商品全体から見て些細なら実質的同一性は肯定され得る一方、(2)着想の難易・相違点の内容や程度・商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断して、相違点が商品全体の形態の類比の上で「無視できない」場合には、実質的同一性は否定される、という枠組みです。

両商品の共通点――「かなり似ている」ことは認められた

裁判所は、両商品の共通点を次のとおり認定しました。

上記認定によれば、原告商品と被告商品は、以下の点をはじめとする共通点を有するといえる。
・(被告商品のハンドルの捻りの有無により)正面視又は背面視において、パイピングが施された部分が底面からハンドル上部にかけて、途切れることなく縦長の略二等辺三角形状を形成している点
・脇面において、ハンドル部分を含め略二等辺三角形状を形成している点
・底面において、略長方形状を形成している点
・被告商品のハンドルを捻った場合のハンドルの形状
・左右の各ハンドルの片面のみに黒色の本革ないしフェイクレザー調の素材を使用し、もう片面にツイル生地ないしツイル生地調の素材を使用している点
・バッグ本体の口回りにもパイピングが施されており、ハンドル付け根部分においてパイピングの段差が生じている点
また、各部位の寸法も、相互に近似しているといってよい程度の差異があるにとどまる。

(判決文16〜17頁)
シルエット・素材使い・寸法にわたる多数の共通点が認定されており、両商品が相当程度似ていること自体は裁判所も前提としていたことが分かります。

6つの相違点と裁判所の評価

他方で、裁判所は相違点を次のとおり認定しました。

上記認定によれば、原告商品と被告商品とは、以下の点をはじめとする相違点があるといえる。
①本体の正面及び背面から見た際の全体的な形状。
②正面に位置するタグの有無。
③背面に位置する外部ポケットの有無
④内ポケットの位置及び形状
⑤ハンドル付け根部分の口回りの段差の程度
⑥ハンドル付け根部分の縫製の仕様

(判決文17頁)
各相違点に対する裁判所の評価を一覧にすると、次のとおりです。

相違点 内容 裁判所の評価
本体の正面・背面から見た際の全体的な形状 外観上顕著な相違と認識されるとは必ずしもいえない程度の「些細な相違」にとどまる
正面に位置するタグの有無 「一見して明らかな相違」ではあるが、大きさ・位置から全体的形態への影響は大きくなく、ブランドタグの配置は「ありふれた着想」であり、「些細なものにとどまる」
背面に位置する外部ポケットの有無 視覚的に「強く印象に残る」相違であり、商品全体の形態に与える効果は「およそ無視し得るものではない」。実質的同一性を否定する決め手となった
内ポケットの位置及び形状 ①と同じく「些細な相違」にとどまる
ハンドル付け根部分の口回りの段差の程度 相違は認識し得るが、それ自体としては実質的同一性を否定するに足りる程度とまではみられない
ハンドル付け根部分の縫製の仕様 ①と同じく「些細な相違」にとどまる

相違点①②④⑤⑥は「些細」とされた

相違点①・④・⑥について、裁判所は「その相違の程度及び位置等のゆえに、それ自体としては、いずれも取引者及び需要者にとって外観上顕著な相違と認識されるものとは必ずしもいえない程度の些細な相違にとどまるとみられる」とし、相違点⑤についても、相違は認識し得るものの「両商品の実質的同一性を否定するに足りる程度のものとまでは必ずしもみられない」としました(判決文17〜18頁)。
正面のタグの有無(相違点②)については、やや丁寧な検討がされています。

他方、相違点②については、原告商品の正面には原告のブランド名が刻印された黒色のタグが存在している一方、被告商品の正面にはタグ等は存在しないから、一見して明らかな相違といえる。もっとも、原告商品におけるタグの大きさ及び位置を踏まえると、商品の全体的形態に与える効果ないし影響は必ずしも大きなものではない。また、商品の外面にブランド名を示すタグ等を配置することは経験則上ありふれた着想といってよく、その位置として、取引者及び需要者が頻繁に目にするであろうバッグの口部付近を選択することも容易に想起されることと思われる。これらの点を考慮すると、相違点②は、それ自体としては、なお原告商品と被告商品の実質的同一性を否定するに足りない些細なものにとどまるとみるのが相当である。

(判決文18頁)
「一見して明らか」な相違であっても、商品全体の形態に与える効果が小さく、着想がありふれていれば「些細」と評価される――前記一般論の総合判断が、ここで実際に働いていることが分かります。

決め手となった相違点③――背面の外部ポケット(「ルーポケット」)

ところが、背面の外部ポケットの有無(相違点③)だけは、まったく異なる評価を受けました。

しかし、相違点③すなわち背面の外部ポケットの有無についてみると、原告商品にはこのような外部ポケットがそもそも存在しないのに対し、被告商品には、背面視において、商品の中心部分にかなり大きな領域を占める形で外部ポケットが存在しており、取引者及び需要者にとって、視覚的に容易に認識し得るというにとどまらず強く印象に残るというべき相違点である。このため、相違点③は、商品全体の形態に与える効果という点ではおよそ無視し得るものではない。仮に、スマートフォンその他小物類を容易に収納及び取出し可能なポケットをバッグに取り付けることは容易に着想し得るとしても、その具体的な寸法、配置及び形状等は商品のデザインに大きな影響を及ぼしかねない要素であり、この点で、被告商品のようなデザインを着想し採用することは、必ずしも容易ではないというべきである。

(判決文18〜19頁)
さらに裁判所は、このポケットが被告ブランドのコンセプトに根ざしたものである点を、着想の難易の考慮要素として位置付けました。

さらに、被告は、相違点③に係るポケットを含む「ルーポケット」をその取扱いに係るバッグに設けることをブランドの「アイデンティティ」と位置付けていることがうかがわれる(乙1、4)。被告が「ルーポケット」とするポケットの配置や形状等は商品によって様々であるが(甲23)、被告商品の紹介画像にも正面のみならず背面をも掲載しているものがみられ(甲4、7、37)、「ルーポケット」は被告において取引者及び需要者に対する訴求ポイントと位置付けられていることがうかがわれることに鑑みると、被告商品が相違点③に係るデザインを採用するに至った動機ないし背景は、上記コンセプトの一環として理解される。こうした動機等も、被告商品の相違点③に係る構成に至る着想の難易度を考える上では考慮に入れられるべきである。

(判決文19頁)
加えて裁判所は、ポケットが配置されたのが背面であることについても、バッグを置いた際には目に触れやすく、所持中も持ち方次第では視認され得るから、背面部は正面部と比べ着目される程度は相対的に低いとしても「なお取引者及び需要者の注意を惹くものとみるのが相当である」と述べ、被告商品の紹介画像に背面部が掲載されていることもこれをうかがわせるとしました(判決文19頁)。
共通点と相違点の評価(相違点③が決め手)

結論

以上を踏まえ、裁判所は次のとおり結論付けました。

以上の事情を総合的に考慮すると、原告商品と被告商品とは、前記認定に係る共通点が存在し、また、相違点①、②、④~⑥がそれ自体では両商品の実質的同一性を否定するに足りない程度の相違にとどまるとしても、少なくとも相違点③は些細な相違とはいえないから、その形態において実質的に同一のものとはいえない。これに反する原告の主張は採用できない。

(判決文19〜20頁)

以上より、被告商品の形態は他人の商品である原告商品の形態を模倣したものとはいえないから、被告商品の譲渡等は形態模倣の不正競争には当たらない。
そうである以上、その余の点について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、不競法4条に基づく損害賠償請求権を有しない。

(判決文20頁)

本判決の意義

本判決のポイントは、次の2点に整理できます。
第一に、共通点がどれほど多くても、一つの「無視できない相違」があれば実質的同一性が否定され得ることを示した点です。シルエット・素材使い・寸法にわたる多数の共通点と、6つの相違点のうち5つまでが「些細」との評価を受けながら、残る一つの相違点③のみを理由に模倣性が否定されました。実質的同一性の判断が、共通点と相違点の「数」の比較ではなく、個々の相違点の質的評価(着想の難易・内容や程度・商品全体の形態に与える効果)の総合判断であることを、具体的なあてはめで示した事例といえます。
第二に、相違点の評価にあたり、ブランドコンセプトに基づく独自の着想が考慮された点です。被告が「ルーポケット」をブランドの「アイデンティティ」と位置付け、需要者への訴求ポイントとしていたという動機・背景が、相違点③のデザインの「着想の難易度」を基礎付ける事情として明示的に考慮されました。相違点が単なる後付けの改変ではなく、自社ブランドの一貫したコンセプトの発現であることが、実質的同一性の判断に影響し得ることを示しています。
もっとも、本判決は「背面に外部ポケットを付ければ模倣にあたらない」という一般的な基準を示したものではありません。あくまで、本件の両商品を対比した上での総合判断の帰結であり、相違点の内容・程度や商品全体の形態に与える効果が異なれば、結論も異なり得ます。逆に、多数の共通点があっても本件では適法とされたからといって、「似ていても常に適法」ということにもなりません。

実務への影響・ポイント

模倣を疑う側(先行開発者)の視点

自社商品のデッドコピーを疑う場合、共通点の多さを列挙するだけでは足りません。本判決の枠組みでは、相違点がどの部位にあり、取引者・需要者にどのように認識されるかが勝敗を分けます。提訴前の検討段階で、(1)相違点を網羅的に洗い出し、(2)各相違点について「商品全体の形態に与える効果」「着想の難易」の観点から相手方に有利な評価が成り立たないかを先回りして検討しておくべきです。本件でも、両商品の形態は比較表や主張整理表(写真対比)を用いて主張立証されており、部位ごとの共通点・相違点を正確に対比できる写真対比表を整えることが、攻撃側・防御側いずれにとっても主張立証の土台になります。また、相違点が目立ちにくい部位にあるように見えても、本件で背面が「バッグを置いた際には目に触れやすい部位」と評価されたように、需要者の実際の認識場面に即して評価される点にも注意が必要です。

商品開発側の視点

先行商品と同じトレンドやジャンルの商品を開発する場合には、先行商品との間に「無視できない相違」となる形態上の特徴を意識的に作り込むことがリスク低減につながります。その際、本判決が示唆するのは、自社ブランドに共通する特徴的要素――本件の「ルーポケット」のような、ブランドの継続的なコンセプトを体現し、商品紹介等でも一貫して訴求している要素――を商品に持たせることの意味です。そのような要素は、独自の着想に基づくデザインであることを裏付ける事情として、実質的同一性を否定する方向に働き得ます。ただし、繰り返しになりますが、特徴的要素を一つ加えれば常に模倣の評価を免れるわけではなく、あくまで商品全体の形態を対比した総合判断であることを忘れてはなりません。

まとめ

本判決は、ハンドバッグのデッドコピーが争われた事案において、シルエット・素材・寸法にわたる多数の共通点を認めながら、背面の外部ポケットの有無という一つの相違点を「強く印象に残る」「およそ無視し得るものではない」相違と評価し、実質的同一性を否定して請求を棄却した事例です。相違点の質的評価――とりわけブランドコンセプトに基づく着想の独自性――が模倣性の判断を左右することを示した点で、模倣を疑う側・商品開発側の双方にとって参考になる裁判例といえます。
商品形態の模倣にかかわる紛争は、部位ごとの形態の対比と証拠の整え方によって結論が大きく変わり得ます。自社商品のデッドコピーにお悩みの方も、開発中の商品のリスクを確認したい方も、早めに弁護士にご相談ください。

出典・参考判例

参考文献

  • 小野昌延=松村信夫『最新 不正競争防止法概説 上巻』(青林書院、2025年)285頁以下(第4章・商品形態模倣行為)

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

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