- はじめに
自社のウェブサイトのドメイン名やサイト名が、他社の登録商標と似ていたら、商標権侵害になるのでしょうか。逆に、先にドメイン名を取得してサイトを運営していたのに、後から他社が同じ名称の商標登録をした場合、サイト名を変えなければならないのでしょうか。
この二つの問いに、一つの事件の中で答えたのがキャリアジャパン事件(大阪地判平成16年4月20日・平成14年(ワ)第13569号・平成15年(ワ)第2226号)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトです。就職情報サービスを営む2社が、「Career-Japan」「CAREER JAPAN」という似通った名称をめぐって互いに商標権侵害を主張し合った事案で、判例研究では、ウェブサイトにおけるドメイン名の使用が商標権侵害に当たるとされた日本で初めての判決であり、同時にドメイン名の使用について商標法32条1項の先使用権の抗弁が初めて採用された判決と評価されています(森林・後掲631頁参照)。
インターネット上のビジネスネーミングに関わるすべての方に参考になる裁判例です。この記事では、判決の判断枠組みを整理し、ドメイン名紛争への実務対応までを解説します。
前提知識の整理
- 商標としての使用(商標的使用):商標権侵害が成立するには、他人の標章を単に表示するだけでなく、自他商品・役務の識別標識として使用していること(出所表示機能を果たす態様での使用)が必要と解されています。ドメイン名は本来、インターネット上の「住所」にすぎませんが、使い方によっては商標としての使用になり得ます。
- 役務の類似:商標権の効力は、指定役務と同一・類似の役務への使用に及びます(商標法25条・37条1号)。役務同士が類似するかどうかが争点になることがあります。
- 先使用権(商標法32条1項):他人の商標登録出願前から、不正競争の目的でなく同一・類似の商標を使用し、出願の際にその商標が需要者の間に広く認識されている(周知性)場合には、登録後も継続して使用できる権利です。「早い者勝ち」の登録主義を修正する重要な制度です。
- 使用料相当額(商標法38条3項):商標権侵害の損害賠償として、登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額(ライセンス料相当額)を請求できる規定です。
- ドメイン名の不正取得等(不正競争防止法):図利加害目的で他人の特定商品等表示と同一・類似のドメイン名を取得・保有・使用する行為は、不正競争行為とされています(平成13年改正で導入)。本件は商標法で争われた事案ですが、ドメイン名紛争ではこの規定やJPドメイン名紛争処理方針(JP-DRP)も選択肢になります。
判例の紹介と分析
事案の概要
当事者はいずれも就職情報サービスに関わる会社です。
| 株式会社学情(第1事件原告) | 株式会社ディスコ(第1事件被告) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 登録商標 | 「Career-Japan」(第4409084号) | 指定役務:第35類「電子計算機通信ネットワークによる広告の代理、広告文の作成」「CAREER JAPAN」(第4641861号) | 指定役務:「求人情報の提供、職業のあっせん」等 |
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| 出願日 | 平成11年3月19日(先願) | 平成14年7月2日(後願) | ||||
| ドメイン名・サイト | career-japan.co.jp(平成11年1月登録) 就職情報サイト「Career-Japan」(平成11年4月開設) |
disco-careerjapan.jp 外国人留学生向け情報サイト(平成14年5月開設) |
学情は、ディスコがサイトで使用する「Careerjapan.jp」「DISCO CAREER JAPAN.JP」等の標章が自社の商標権を侵害するとして、差止めと損害賠償を請求しました(第1事件)。これに対しディスコは、逆に学情のサイト名「Career-Japan」の使用が自社の登録商標「CAREER JAPAN」の商標権を侵害すると主張して反撃しました(第2事件)。互いの登録商標で互いを訴え合うという構図です。
争点
- 争点1:ディスコによるドメイン名等の使用は「商標としての使用」に当たるか
- 争点2:ディスコの標章は学情の登録商標に類似するか
- 争点3:ディスコのサイト運営業務は、学情の商標の指定役務(電子計算機通信ネットワークによる広告の代理)に類似するか
- 争点4:学情の損害額
- 争点5(第2事件):学情に先使用権(商標法32条1項)が認められるか
裁判所の判断
争点1:ドメイン名の使用も「商標としての使用」になり得る
ディスコは、「Careerjapan.jp」はドメイン名として使用していたにすぎず、商標として使用したものではないと主張しました。裁判所は、サイト上の実際の使用態様に着目してこれを退けました。
被告は,被告サイトにおいて,「Careerjapan.jpは日本で働きたい外国人を応援します。」との文言を掲載していたことが認められ,……上記使用態様は,単にドメイン名として使用するものではなく,被告標章1を自らのサービスを他のサービスと識別するための標識として使用するものであったということができる。したがって,被告は,被告サイトにおいて,被告標章1を商標として使用していたというべきである。
ポイントは、ドメイン名の登録・保有それ自体ではなく、ウェブサイト上でその文字列がサービスの識別標識として機能する使い方をされているかという実質判断です。なお、この標章(Careerjapan.jp)は平成15年4月以降使用されておらず、将来使用されるおそれの立証もないとして差止請求は棄却されており、差止めが認められたのは「DISCO CAREER JAPAN.JP」等の標章(被告標章2・3)についてです。判例研究も、ドメイン名の商標的使用該当性は「当該ドメイン名が使用されている状況やウエブサイトに表示されたページの内容等から、総合的に判断される」と整理しています(森林・後掲632頁参照)。
争点2:標章の類否――ハウスマーク「DISCO」を付しても回避できない
裁判所は、結合商標の類否について「全体において一体性が認められ、全体から一定の外観、称呼又は観念が生ずる場合には、これを分離して要部等を観察して類否判断をすることはできない」が、「語の間に識別力に強弱があったり、語の中の一部が需要者に特に印象付けられたりする場合には、要部というべき一部を分離ないし抽出して」判断すべきとの枠組みを示し、「DISCO CAREER JAPAN.JP」等の要部は「CAREER JAPAN」部分であるとしました。そのうえで、学情の「Career-Japan」とは大文字・小文字やハイフンの有無程度の違いしかなく、外観・称呼・観念のいずれにおいても類似すると認定しました。
自社のハウスマーク(社名ブランド)を頭に付ければ混同は生じない、というディスコの主張に対しては、「DISCO」が需要者に広く認識されていると認める証拠はないとして退けています。
争点3:役務の類否――区分の違いは決め手にならない
学情の指定役務は「広告の代理」、ディスコの業務は「求人情報の提供」であり、一見すると役務が異なるようにも見えます。裁判所は、役務の類否の判断基準を次のとおり示しました。
役務が類似するか否かは,両者の役務に同一又は類似の商標を使用したときに,当該役務の取引者ないし需要者に同一の営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるか否かによって決すべきである……この類否の判断に当たっては,取引の実情を考慮すべきであり,具体的には,役務の提供の手段,目的又は場所が一致するかどうか,提供に関連する物品が一致するかどうか,需要者の範囲が一致するかどうか,業種が同じかどうかなどを総合的に判断すべきである。
そのうえで、ディスコのサイトが企業の理念・将来像・採用傾向等を編集して掲載するものであり、求人情報の提供と広告・広告代理は業種として重なり合うこと(平成13年の役務区分改正で「求人情報の提供」が「広告」と同じ第35類に移されたこと)などから、ディスコのサイト運営業務は広告代理業務と同一ないし類似すると判断しました。
争点4:損害額――使用料相当額は売上高の10%
裁判所は、ディスコの利益が認められない(経費が売上を上回る)ことから商標法38条2項の適用を否定し、同条3項の使用料相当額として、サイト売上高418万3189円の10%にあたる41万8318円と弁護士費用20万円、合計61万8318円の賠償を命じました。「CAREER」という語の求職者層への誘引力や両社の競合関係が考慮されています。
争点5:学情の先使用権――ドメイン名使用に32条1項を初適用
第2事件(ディスコからの逆襲)について裁判所は、学情がディスコの商標出願より約2年半前からサイト「Career-Japan」を運営し、広告活動により東京・大阪・名古屋を中心とする地域の「就職情報に関心を持つ需要者層の間で広く認識されていた」として周知性を肯定し、不正競争の目的も否定して、商標法32条1項の先使用権を認めました。
よって,原告は,商標法32条1項に基づき先使用による原告標章の使用をする権利を有するということができる。
これにより、ディスコの請求は全部棄却されました。学情は自社サイトの名称をそのまま使い続けられることになったわけです。
なお、判例研究によれば、本件の控訴審(大阪高裁)では平成16年11月、学情が損害賠償請求を放棄し、その余は原判決どおりの内容で和解が成立しています(森林・後掲627頁参照)。
判決の意義・射程
本判決の意義は、次の3点に整理できます。
- ドメイン名の使用と商標権侵害の関係を正面から判断した初めての判決であること。ドメイン名それ自体は「住所」でも、サイト上でサービスの識別標識として使えば商標的使用になる、という判断枠組みは、その後のネット上の商標紛争の出発点になりました。
- 役務の類否を取引の実情から実質的に判断したこと。商標登録上の区分や指定役務の文言の違いは決め手にならず、業種の重なり・需要者の共通性から類似が認められています。自社の登録があるから安心、とはいえないことを示した点も実務上重要です(ディスコは自ら「CAREER JAPAN」の商標登録を持っていましたが、その指定役務は学情の指定役務をカバーしておらず、登録の存在は侵害の成立を妨げませんでした)。
- ドメイン名・サイト名の使用について先使用権を初めて認めたこと。周知性の判断において、「東京、大阪あるいは名古屋を中心とする地域」の「就職情報に関心を持つ需要者層」という、地域・需要者層を限定した周知性で足りるとした点は、ウェブサービスの先使用権主張の重要な参考例です。
実務への影響・ポイント
ドメイン名・サイト名を決めるとき
- ドメイン名を取得する前に、商標調査(J-PlatPform等での先行商標検索)を行うことが基本です。ドメイン名が取得できたことは、商標上の安全を意味しません。
- サイト上でドメイン名やサイト名を「サービスの名称」として打ち出すほど、商標的使用と評価されやすくなります。ロゴ・キャッチコピーでの使用態様にも注意が必要です。
- 可能であれば、サービス名について自ら商標登録出願をしておくのが最も確実です。本件の学情も商標登録を得ていたからこそ、差止め・損害賠償を実現できました。
後から他人の商標登録が判明したとき
- 先使用権(32条1項)の主張には、相手の出願時点での周知性の立証が必要です。サイトの開設時期、アクセス数、広告出稿の記録、メディア掲載などの資料を日常的に保存しておくことが、いざというときの防御力になります。
- 先使用権は「その商標をその役務について使い続けられる」権利にとどまり、事業拡大により使用範囲を広げる場合には慎重な検討が必要です。
ドメイン名紛争の解決手段の使い分け
ドメイン名をめぐる紛争には、商標権侵害訴訟・不正競争防止法に基づく請求のほか、JPドメイン名紛争処理方針(JP-DRP)に基づく裁定手続があります。JP-DRPでは登録の移転まで請求できるのに対し、訴訟では使用差止め・抹消・損害賠償が中心となる、という違いがあり(山田・後掲参照)、目的(ドメイン名を自社が使いたいのか、相手に使わせたくないのか)に応じた使い分けが重要です。
まとめ
- ドメイン名も、ウェブサイト上でサービスの識別標識として使用されれば商標的使用となり、商標権侵害が成立し得る
- 役務の類否は登録上の区分ではなく、取引の実情(提供手段・需要者・業種の重なり)から実質的に判断される
- 先にサービスを開始し周知性を獲得していれば、後からの商標登録に対して先使用権で対抗できる余地がある
- ドメイン名紛争にはJP-DRPという選択肢もあり、目的に応じた手続選択が重要である
ウェブサービスの名称は、ドメイン名・商標・サイト上の表示が一体となってブランドを形成します。立ち上げ時の商標調査と出願、運営中の使用実績の記録化。この二つを押さえておくことが、攻めにも守りにも効く実務対応です。
出典・参考判例
本件
- キャリアジャパン事件:大阪地判平成16年4月20日・平成14年(ワ)第13569号商標権侵害差止等請求事件(第1事件)・平成15年(ワ)第2226号商標権侵害差止請求事件(第2事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 控訴審(大阪高裁)で平成16年11月和解成立(森林・後掲627頁参照)
参考文献
- 森林稔「ドメイン名の使用につき商標権侵害及び商標法上の先使用権の抗弁が認められた事例」(判例研究No.301・仙元隆一郎編)知財管理56巻4号(2006年)627頁以下
- 山田卓「ネット社会と法 最終回 ドメイン名と商標・不正競争/パブリシティ権」ITUジャーナル42巻3号(2012年)
- 土屋政憲「ドメインネームと商標権侵害」広島商船高等専門学校紀要24号(2002年)7頁以下
*本記事は法的アドバイスを提供するものではなく、一般的な情報提供を目的としています。具体的な法律問題については、弁護士にご相談ください。