電子書籍をPCで読むとき、画面の表示内容をスクリーンショットで保存できないように制御するソフトが組み込まれていることがあります。このキャプチャ防止機能を無効化するソフトを販売する行為は、不正競争防止法上の不正競争にあたるのでしょうか?
ここで問題になるのが、「技術的制限手段の効果を妨げる」という条文の解釈です。同手段そのもの(暗号化など)を回避するものはもちろん対象。では、暗号化と組み合わされた別の制御(キャプチャ防止)を無効化する行為はどう評価するのか?
今回取り上げる電子書籍画像キャプチャー事件(大阪高判平成29年12月8日 平成28年(う)第598号、高刑集70巻3号7頁、判タ1451号154頁)は、不正競争防止法上の技術的制限手段に関する刑事事件で、本格的に法文解釈に踏み込んだ最初の事件です。
1 技術的制限手段に関する規制の構造
1.1 平成11年改正で導入
不正競争防止法上の技術的制限手段に関する不正競争行為についての規制は、平成11年改正で導入されました。当初は2条1項10号と11号に規定されていました。
その後、平成23年改正で刑事罰が導入されるとともに構成要件が一部改められ、平成27年改正では条文番号が11号と12号に移動。さらに平成30年改正で規制対象が拡大し、令和元年7月1日からは現行法の2条1項17号と18号に規定されています(実質的改正は令和元年)。
刑事罰に係る規定は、現行法21条3項4号に規定され、民事の構成要件はそのままに主観的要件である不正利得加害目的が加重された形で規定されています。
本件は刑事罰導入後の刑事事件で、本格的に法文解釈に踏み込んだ最初の事件として位置づけられます。
1.2 規制の対象
平成23年改正後(本件適用法)の構造を整理すると、
- 技術的制限手段(2条7項〔現8項〕):影像・音声の視聴等を制限するための技術的な手段
- 同手段の効果を妨げる機能を有する装置・プログラムを提供する行為が、不正競争行為(旧2条1項10号、現17号)
という構造になっています。「効果を妨げる」の解釈が、本件の中心論点でした。
2 事案の概要
2.1 当事者と本件電子書籍配信の構造
- C社(訴外):電子書籍配信業者
- 本件ビューア(E書籍ビューア):C社が提供する電子書籍の影像表示・閲覧ソフト
- D形式ファイル:暗号化された電子書籍データ。本件ビューアによる復号化が必要
- ソフトウェアG:本件ビューアに組み込まれたプログラム。復号化された影像のキャプチャ(ディスプレイ表示画像のファイル保存)防止措置
2.2 被告人らの行為
- Y1(A社代表取締役)、Y2(A社のプログラムソフト販売責任者)、Y3(A社のプログラマー、控訴審係属後死亡により公訴棄却)
- 共謀のうえ、ソフトウェアGによるキャプチャ防止措置を無効化するプログラム「F3」(コミスケ3)を、電気通信回線を通じてダウンロード提供
検察官は、F3の提供を「技術的制限手段の効果を妨げる」プログラムの提供であるとし、Yらを起訴。
2.3 事案の構造
事案の技術的構造を整理しましょう。
ここで重要なのは、F3は本件ビューアが行う復号化には一切関与しない点です。F3が行うのは、
- ソフトウェアG(キャプチャ防止)を無効化
- もともとPCのOSに標準搭載されているキャプチャ機能を、再度有効化するだけです。暗号化/復号化のプロセス自体には触れません。
2.4 原審の判断
原審(京都地判平成28年3月24日 平成26年(わ)第405号)は、検察官の主張を認めて3名を有罪。Yらが控訴しました。
なお、D形式ファイルによる暗号化が「技術的制限手段」(2条7項〔現8項〕)に該当することは、原審から一貫して当事者間に争いはありませんでした。
3 大阪高裁の判断(控訴棄却)
3.1 「技術的制限手段の効果」の捉え方
控訴審は、「技術的制限手段の効果」について、
本件において、C社がD形式ファイルにより電子書籍の影像を配信するにあたり、その閲読のために本件ビューアによる復号化が必要になるようコンテンツを暗号化しているのが、技術的制限手段に該当することは明らかであるところ、この技術的制限手段の効果は、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということであるというべきである
と判示しました。つまり「技術的制限手段の効果」を、暗号化そのものから生ずる効果ではなく、「本件ビューアがインストールされた機器以外では表示できない」という結果として捉えたのです。
3.2 ソフトウェアGの位置づけ
そのうえで、本件ビューアに組み込まれたソフトウェアGについて、
本件ビューアがインストールされた機器が表示する電子書籍の影像がキャプチャされて、他の機器でも自由にコンテンツが表示できるようになるのを防ぐ目的で、電子書籍の影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであって、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果が妨げられる事態のより確実な防止を目指すものである
と位置づけ、ソフトウェアGを技術的制限手段の効果を補強する役割と捉えました。
3.3 F3の該当性
F3については、
このソフトウェアGが行った制御と反対の制御を行うことによって影像のキャプチャを再度可能ならしめるF3は、結局のところ、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果を妨げるものにほかならないプログラムということができる
として、不正競争防止法2条1項10号〔現17号〕の「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム」に該当するとしました。
電気通信回線を通じてF3を他者にダウンロードさせて提供する行為は、不正競争行為にあたるとして控訴を棄却しました。
3.4 最高裁の判断(上告棄却)
その後、最高裁第一小法廷は、令和3年3月1日決定(平成30年(あ)第10号)で上告を棄却しました。
最高裁は、まず本件技術的制限手段について、ライセンスの発行を受けた特定の視聴等機器にインストールされた本件ビューアによる復号が必要となるよう、電子書籍の影像を暗号化して送信し、影像の視聴等を制限するものだったと整理しました。
そのうえで、Windows対応版の本件ビューアに組み込まれたGについて、復号後の影像の記録・保存を防止する機能を有し、本件ビューア以外で影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラムであったと認定しています。さらに、Gは本件ビューアの構成プログラムの一つとして同時にインストールされ、Gのない状態では本件ビューアは起動せず、ライセンス発行も影像の視聴もできないようにされていた点を重視しました。
そして、F3はGの機能を無効化し、復号後の電子書籍の影像を記録・保存することにより、本件ビューア以外での影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムであるとして、Gの機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり、F3はその効果を妨げるプログラムに当たると判断しました。
つまり最高裁は、大阪高裁の結論を維持しつつ、Gが本件ビューアと一体的に組み込まれていた事実関係を踏まえて、F3の提供行為を不正競争に当たるとしました。
4 本件判断の理論的問題点
4.1 学説からの強い批判
大阪高裁判決およびこれを維持した最高裁決定には、学説から強い批判も向けられています(帖佐隆・特許ニュース14596号・14597号、〔商標・意匠・不正競争判例百選〔第2版〕109事件〕など)。批判の核心は次のとおりです。
4.2 批判①――「効果」概念の不明確化
大阪高裁判決の「技術的制限手段の効果」の定め方は、法律的でない効果の定め方であり、本規定の内容を不明確にし予測可能性を害する、との批判があります。最高裁決定も、Gと本件ビューアの一体性を重視して結論を維持しましたが、「効果」をどこまで広く捉えられるのかという問題を完全に解消したわけではありません。
たとえば、本件で「技術的制限手段の効果」を、
- (A) 「本件ビューアを使用しなければ電子書籍を閲覧できないこと」
- (B) 「本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないこと」
のいずれと捉えるかで結論が分かれます。
(A)の捉え方なら、F3は本件ビューアの使用自体は不可避にしているので「効果を妨げる」にあたらず不可罰となります。これは復号化部分にF3が関与しないという技術的事実とも整合します。
(B)の捉え方(大阪高裁・最高裁の判断)なら、機器外への持ち出しを可能にすることを「効果を妨げる」と評価できます。
このように、「効果」をどう定義するかで結論が大きく変わるにもかかわらず、大阪高裁判決は十分な根拠を示さずに(B)を採用した、との批判があります。原判決は「保護されるのは合理的な意図に限られる」と説示していたものの、この枠組みでは「合理的な意図」もいろいろと想定しうるため、可罰不可罰の基準が消失するに等しいと指摘されています。
4.3 批判②――技術的制限手段ではないソフトウェアGの実質的保護
本件の結論は、事実上、技術的制限手段ではないソフトウェアGを保護していることになる、との批判もあります。
仮にソフトウェアGが単体で存在したとして、これを無効化する行為は何ら規制対象ではありません。にもかかわらず、技術的制限手段の構成要素である復号化部分とソフトウェアGを抱き合わせれば、ソフトウェアGも保護される――これは制度論として「究極の矛盾」だと批判されています。
4.4 批判③――定義規定の範囲外への保護拡大
不正競争防止法は技術的制限手段を定義しています(2条8項)。これは、技術的な保護対象をそこに定めて明確化するためでしょう。あまりにも当然すぎるがゆえに議論されていないだけで、定義の範囲外にまで保護が及ぶことは立法時に想定されていなかったと思われます。
特別法の保護対象として定義規定を定めているのに、判決の考え方では保護対象外まで保護が及ぶとしている――この点で、本件判断はきわめて不適切だ、との批判があります。
4.5 批判④――保護法益侵害の不存在
ユーザーがF3を利用するにしても、正規の本件電子書籍と本件ビューアもまた入手しなければなりません。この点で、不正競争防止法における保護法益侵害もないと指摘されています。
2条1項10号〔現17号〕が危険犯処罰規定でない以上、法益侵害のない行為について処罰することになる点でも、本件判断は妥当でないとされています。
5 より大きな政策論――私的複製と保護法益
5.1 私的複製規制との関係
本件をさらに俯瞰的に検討するならば、権利者の意思により著作物の私的複製をさせないことが制度として妥当かという問題に行き着きます。
著作権法上、私的使用のための複製は権利制限の対象とされており、人々の社会生活に対する弊害を防ぐためには、私的複製は基本的に認める方向としなければなりません。
しかしながら、本件判断では、法による私的複製への他の規制がないのに、結果的には私的複製をさせたくないとの権利者の意思に応えてYらを有罪としていることになります。これは妥当なことなのか――私的複製規制の観点からも検討を要する論点です。
5.2 刑事罰の慎重適用の要請
刑事罰の適用は、罪刑法定主義の観点から定義規定の文言に厳格に従うべきです。本件判断のように「効果」を実質的・拡大的に解釈し、定義範囲外への保護拡大を認める姿勢は、罪刑法定主義の精神に照らして慎重さを欠くと批判できます。
6 本件最高裁決定の射程と先例的意義
6.1 現行法への射程
本件最高裁決定の射程は、現行法2条1項17号および18号の「……の効果を妨げる」の解釈全般にも影響し得ます。特に、技術的制限手段そのものを直接回避していなくても、当該手段と一体的に構成されたプログラムの機能を無効化し、結果として視聴等を可能にする場合には、「効果を妨げる」と評価される余地があることを示した点で重要です。
6.2 最高裁決定の意義
本件最高裁決定は、「技術的制限手段」と「技術的制限手段の効果」を区別しつつ、後者を比較的広く捉えたものといえます。最高裁は、F3が復号機能を持たないという点だけで直ちに構成要件該当性を否定するのではなく、Gが本件ビューアと一体的に組み込まれ、Gのない状態では本件ビューアの起動やライセンス発行、影像の視聴ができないという事実関係を踏まえて判断しました。
もっとも、最高裁決定は事例判断としての色彩も強く、どの程度の一体性があれば補助的制御の無効化まで「技術的制限手段の効果を妨げる」といえるのかについて、明確な一般規範を詳しく示したものではありません。そのため、射程をどこまで広げるべきかは、なお慎重に検討する必要があります。
6.3 なお残る立法論・解釈論
学説から強い批判がある以上、本件最高裁決定の射程をどう整理するかについては、なお次のようなアプローチが考えられます。
- 立法的解決:「効果を妨げる」の意義を条文上明確化(例:「当該技術的制限手段そのものを回避することにより」と限定)
- 判例的解決:今後の裁判例による事案類型ごとの限定
- 解釈論的解決:本件を、本件ビューアとGの一体性が強かった事案に限定して理解する
といったアプローチが考えられます。
7 実務への示唆
7.1 コンテンツ提供者の視点
電子書籍・電子コミック等のコンテンツ提供者にとって、本件最高裁決定は、
- 暗号化(技術的制限手段そのもの)に加え、キャプチャ防止等の補助的制御を一体的に組み合わせることで、補助的制御の保護も期待できる方向を最高裁が示した
- ただし、どの程度の一体性が必要かは明確でなく、あらゆる補助的制御が当然に保護されるわけではない
というメッセージを発しています。実務的には、
- 暗号化と補助的制御を抱き合わせ実装する意義が強調される一方で
- 罪刑法定主義の制約から、コンテンツ保護を不正競争防止法のみに依存しない多層防御(DRM・利用規約・著作権法上の対応)が肝要
といえます。
7.2 ソフトウェア開発者の視点
逆に、ソフトウェア開発者・ツール提供者の視点では、
- 単にOS標準のキャプチャ機能を有効化するツールでも、特定のコンテンツを念頭に置いていれば、本件最高裁決定の射程で不正競争・刑事罰の対象になりうる
- 技術的制限手段そのものを回避していなくても、結果的にコンテンツの保護効果を妨げると評価される余地がある
- リスク回避のためには、対象コンテンツ・想定用途を明確に区切るとともに、汎用ツールとしての設計を意識する必要
があります。
7.3 知財法を学ぶ方への視点
技術的制限手段に関する規制は、不正競争防止法のなかでも比較的若い領域で、判例の蓄積もまだ少ない分野です。本件のように、刑事事件として法文解釈が正面から争われ、最高裁判断まで示され、しかも学説から強い批判のある事案は、規範解釈と立法目的の関係を考える素材として優れています。
著作権法上のアクセスコントロール回避規制(30条1項2号、113条等)との比較、罪刑法定主義との関係、私的複製制度との接続――応用論点は数多くあります。
8 まとめ
最後に本件のポイントを整理します。
- 判旨の核:技術的制限手段(暗号化)と組み合わされたキャプチャ防止プログラム(ソフトウェアG)を無効化するF3も、「技術的制限手段の効果を妨げる」プログラムにあたる
- 最高裁の到達点:最高裁は、Gが本件ビューアと一体的に組み込まれていた事実関係を踏まえ、Gの機能により得られる効果も本件技術的制限手段の効果に当たるとした
- 学説からの批判:本件判断は技術的制限手段の効果概念を不明確に拡大し、定義規定の範囲外まで保護を及ぼしている。罪刑法定主義の観点から問題
- 射程と展望:現行法2条1項17号・18号の解釈にも影響。ただし、どの程度の一体性が必要かはなお解釈上の問題として残る
「技術的制限手段の効果を妨げる」というシンプルな条文の解釈をめぐって、ここまで深い対立が生じる――それは、不正競争防止法における情報保護と自由市場との緊張関係の縮図ともいえます。本件最高裁決定は、その緊張をどう解きほぐすかという問いを、今なお現代の知財実務に投げかけ続けています。
出典・参考裁判例
- 電子書籍画像キャプチャー事件 控訴審:大阪高判平成29年12月8日 平成28年(う)第598号(高刑集70巻3号7頁、判タ1451号154頁)
- 同 上告審:最一小決令和3年3月1日 平成30年(あ)第10号
- 同 第一審:京都地判平成28年3月24日 平成26年(わ)第405号(裁判所HPでは本文未掲載。控訴審判決中で言及)
参考文献として、本件判断に反対する評釈として帖佐隆・特許ニュース14596号1頁(上)および14597号1頁(下)。判旨に賛成する論考として、桑島翠・法時90巻13号242頁、岡田好史・専修法学論集135号367頁。
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