「商品名を今すぐ変えてほしいと言われたが、印刷済みのパッケージや在庫が残っている」「長年使ってきた店名を変更すると、看板もウェブサイトも作り直しになる」。商標の警告書を受け取った事業者にとって、侵害に当たるかと同じくらい切実なのが、事業をどう続けるかという問題です。
警告書が届いたというだけで、相手方の要求がすべて認められるわけではありません。一方、名称を変更すれば、過去の使用や残った在庫の問題まで自動的に解決するわけでもありません。「侵害の成否」「これからの使用」「過去の請求」を分けて整理しましょう。
1.まず「名前が同じか」だけで判断しない
警告書に記載された登録番号から、権利者、登録商標、指定商品・指定役務、権利の存続状況を確認します。商標権の効力は登録された範囲とまったく同じ使用だけでなく、類似する範囲にも及びます。区分番号や商品・サービスの名称が違うという理由だけでは、侵害しないと判断できません。
実際のロゴ、読み方、意味、商品・サービスとの関係や表示の仕方も確認します。先に使い始めた事情などの検討には、当時の広告・取引記録が役立ちますが、使用開始が早いだけで必ず継続使用できるわけではありません。参考:特許庁「商標権の効力」。
2.回答期限と名称変更の期限を分けて確認する
書面には、返事を求める期限と、販売・表示の中止を求める期限が別々に書かれていることがあります。届いた日、差出人、各期限、求められている行為を一覧にしてください。
調査や変更作業が間に合わない場合は、検討期間や切替期間を設ける交渉を考えます。ただし、延長を申し入れただけでは合意が成立したことにはなりません。延長の可否と、その間の販売・広告をどう扱うかを明確にする必要があります。裁判所から届いた訴状・命令等は、相手方の警告書とは手続や期限の扱いが異なるため、書面全体を速やかに弁護士へ見せてください。
3.在庫は「売り切ってから変更」でよいか
警告前に作った在庫であっても、販売行為が問題となることがあります。「在庫だから販売してよい」とは判断せず、対象商品の数、表示箇所、出荷予定を先に把握しましょう。侵害リスクが高い場合には、出荷や広告の一時停止も含めて早急に検討します。
表示を変更する前には、現在の商品の写真、パッケージ、販売ページと掲載日、在庫数や売上の記録を保存します。既にどのように使用していたかを後から確認できる状態にしておくためです。
在庫について交渉するなら、条件を具体化する
- どの商品・品番が対象か、在庫は何個あるか
- 販売を認める期間、販売先・販売方法、追加製造の可否
- ラベルや包装を変更する場合の方法と確認手順
- 返品品、卸先や販売店が持つ在庫の扱い
- 処分・変更に要する費用と、実施したことの確認方法
これらは交渉項目の例であり、在庫販売の猶予が当然に認められるという意味ではありません。相手方の承諾が必要な対応では、対象と条件を書面で確認してから進めます。
商品の廃棄が必要か、表示の除去等で対応できるかも個別の検討事項です。特許庁は、商標を付したタグを商品から容易に分離できる場合などについて説明しています。ただし、ラベルを剥がすだけで、他の権利や過去の使用まで含めて解決するわけではありません。参考:特許庁「商標権侵害への救済手続」。
4.店名・商品名を変える場合の見落としやすい箇所
看板や商品本体だけを変えても、別の場所に旧名称が残ることがあります。担当者と変更予定日を決め、実施状況を記録すると、交渉内容と作業の食い違いを防ぎやすくなります。
- 実店舗:看板、入口、メニュー、値札、包装紙、レシート、名刺
- ウェブ:ページ本文・タイトル、画像、PDFカタログ、ドメイン、広告の文面
- 外部サービス:ECモール、SNS、地図サービス、予約サイト、取引先の商品紹介
- 製造・流通:発注済みの包装資材、倉庫在庫、卸先への納品、返品対応
変更後の名称も、採用前に第三者の商標等との抵触を確認します。また、「旧○○」という移行案内に旧名称を使う場合も、使う場所・期間・表示方法を交渉事項に含めて検討してください。
5.名称を変更すれば損害賠償請求も終わるか
今後の使用を止めることと、過去の使用について金銭を請求されることは別の問題です。変更を選ぶ場合も、相手が何をどの期間について請求しているか、金額の根拠は何かを確認します。
和解では、変更期限や在庫の扱いだけでなく、解決金の有無・支払条件、対象となる紛争の範囲、今後の請求をどう扱うかを確認します。「名前を変えると伝えたから終わった」と考えず、合意の内容を明確にすることが大切です。
6.相談前に用意すると話が進めやすい資料
すべて揃うまで相談を待つ必要はありません。まず、ある資料と分かる事実を整理してください。
- 警告書一式:添付資料、封筒、メール、既に送った回答も含みます。
- 現在の使用状況:商品・看板・包装の写真と、ウェブサイト・販売ページのURL。
- 使用開始の記録:当時の広告、発注書、請求書など。
- 事業への影響:在庫数、出荷予定、変更に必要な日数、概算費用。
- 希望:名称を維持したいか、一定期間で変更できるか、販売停止で困る点。
問い合わせ時は、次のような概要で構いません。
商品名の使用中止を求める警告書が届きました。回答期限は○月○日です。在庫が約○個あり、包装の変更には約○週間かかる見込みです。侵害の成否と、在庫・変更期限について相談したいです。
上記は当事務所への相談予約の記載例です。相手方に送る回答書の文例ではありません。
よくあるご質問
相手に「変更します」と返事をしてしまいました。
やり取りの全文と前後の経緯を保存してください。どの範囲について約束したと評価されるか、追加の確認や交渉が必要かを検討します。短い一文だけで判断せず、書面全体を確認します。
新しい名称に一文字足せば大丈夫ですか。
文字を追加しただけで非類似になるとは限りません。読み方や意味、全体から受ける印象、使用する商品・サービスとの関係も確認する必要があります。
期限が明日ですが、資料が揃っていません。
まず、期限と警告書の内容をお知らせください。資料の不足や期限の切迫を踏まえて対応の可否を確認します。相談予約だけで相手方の期限が延びるわけではなく、当日の受任・回答をお約束するものではありません。
名称変更と事業継続を一緒に検討したい方へ
虎ノ門法律特許事務所では、商標の警告書について、権利と使用状況、回答期限、事業への影響を伺い、対応方針を検討します。法律相談は60分11,000円(税込)です。回答書の作成・相手方との交渉等の依頼範囲と費用は、相談料とは別に確認します。
来所・ウェブを中心に、電話・メールでの相談にも対応しています。
電話予約:03-6205-7455(平日9〜21時/土日祝9〜18時)
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弁護士費用 / ご相談の流れ / 商標トラブルのサポート内容
警告書を受け取った直後の確認事項は、商標権侵害の警告書への初動対応5ステップでも解説しています。
参考資料
- 特許庁「商標権の効力」
- 特許庁「商標権侵害への救済手続」
- e-Gov法令検索「商標法」(25条・26条・32条・36〜38条など)
2026年9月11日作成。日本国内の商標紛争を想定した一般的な解説です。具体的な対応は、警告書・権利内容・使用状況等により異なります。

この記事の執筆・監修
虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司
第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。