裁判例・判例解説
2026/08/02

BitTorrentで「ファイルの断片」を送っただけでも自動公衆送信権侵害――プロバイダ・オプテージの異議の訴えを退け、著作権者・プレステージへの発信者情報開示命令を認可した大阪地裁令和8年6月4日判決

はじめに

動画を丸ごとアップロードしたわけではない。BitTorrent(ビットトレント)が、勝手にファイルの小さな断片を他人に送っていただけだ――。P2P(ピア・ツー・ピア)型のファイル共有をめぐる発信者情報開示の事件では、こうした反論がしばしば持ち出されます。利用者が送信するのは「ピース」と呼ばれる断片にすぎず、それ単体では再生できないことも珍しくないからです。
大阪地方裁判所は令和8年(2026年)6月4日、自身が直接アップロードしたのがファイルの断片であっても自動公衆送信権の侵害が成立すると判断し、プロバイダである株式会社オプテージが提起した異議の訴えを退けて、著作権者である有限会社プレステージの申立てに基づく発信者情報開示命令を認可しました(大阪地判令和8年6月4日・令和7年(ワ)第11139号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件。判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。加えて本判決は、開示を勝ち取ったプレステージ側の証拠提出の経緯についても異例の付言を残しています。権利者側・プロバイダ側の双方の実務に引きつけて解説します。

前提知識の整理

BitTorrentと「ピース」 BitTorrentは、1つのファイルを多数の利用者が分担して配り合うファイル共有ソフトです。目的のファイルは「ピース」と呼ばれる断片に分割され、利用者は不特定多数の相手からピースを集めて全体を復元しつつ、受け取ったピースを他の利用者へ送信します。つまりダウンロードとアップロードが原理的に一体であり、この点が判断の前提になります。
発信者情報開示命令と異議の訴え 権利を侵害された者は、プロバイダ等に発信者情報の開示を請求できます(情報流通プラットフォーム対処法〔情プラ法〕5条1項)。要件は、①権利侵害が明らかであること(1号・明白性)、②開示を受けるべき正当な理由があること(2号)の2つです。この請求は非訟手続である発信者情報開示命令の申立てによっても行え、開示を命じる決定に不服のある当事者は異議の訴えを提起できます(同法14条1項)。
ここが本件で最も注意を要する点です。異議の訴えでは、開示を命じられたプロバイダが原告、開示を求めた権利者が被告になり、通常の開示請求訴訟とは当事者の向きが逆になります。本件でいえば、原告がオプテージ(プロバイダ・開示を争う側)、被告がプレステージ(著作権者・開示を求めた側)です。以下、判決文の引用部分にある「原告」はオプテージを、「被告」はプレステージを指します。なお本判決は、根拠法を「情プラ法:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(令和6年法律第25号による改正の前後を問わず、このように呼称する。)」と定義し、改正前後の条数を区別していません。旧プロバイダ責任制限法の条数と混同しないよう注意が必要です。
自動公衆送信権と送信可能化権 著作権者は、著作物を公衆に自動的に送信する行為(自動公衆送信)と、送信できる状態に置く行為(送信可能化)を専有します。本判決が判断したのは前者の侵害のみです。

事案の概要

図1 当事者の関係と手続の流れ(開示命令 → 異議の訴え)
▲ 図1 当事者の関係と手続の流れ(開示命令 → 異議の訴え)。図中の「原告」はオプテージ、「被告」はプレステージを指します
原告は株式会社オプテージ(以下「オプテージ」)、「契約者に対しインターネット接続サービスを提供するプロバイダ」です。被告は有限会社プレステージ(以下「プレステージ」)、「映像・音楽作品等の企画、製作、販売、賃貸等を目的とする会社」です。
著作権者であるプレステージは、オプテージの契約者らが本件著作物である動画に係る著作権(送信可能化権および自動公衆送信権)を侵害したと主張し、オプテージを相手方として発信者情報開示命令を申し立てました(大阪地裁令和6年(発チ)第20005号)。開示を求めたのは「本件各契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス」です。申立てに先立ち、プレステージは調査会社である株式会社HDR(以下「本件調査会社」)に依頼してBitTorrent監視調査を行い、取得したピースの再生試験も実施していました。

時期 出来事
令和6年 プレステージ(著作権者・被告)がBitTorrent監視調査を実施し、オプテージ(プロバイダ・原告)を相手方として発信者情報開示命令を申立て
令和7年10月3日 大阪地裁が申立てを認容する決定
令和7年10月20日 オプテージ(プロバイダ・原告)が異議の訴えを提起
令和8年6月4日 判決言渡し(決定を認可)

審問手続で何が起きたか。プレステージは申立ての際、証拠として当初提出動画を提出しました。これはDVD版に配信版付加動画を追加したうえでデータを圧縮したものでした。オプテージが本件ピースファイル(拡張子dat)の提出を求め、プレステージがこれを提出した後、裁判所からバイナリデータの同一性が争点となる旨の指摘を受けて、プレステージは初めて再提出動画(同一内容の非圧縮版)を提出します。その結果、「本件ピースファイルのバイナリデータは、いずれも、再提出動画のバイナリデータの一部と一致するが、当初提出動画とは一致しない」ことが判明したのです。

争点

  1. 争点1(情プラ法5条1項1号・明白性):ア 契約者らが本件著作物またはその一部であるファイルを送信していたか。イ プレステージの著作権(送信可能化権または自動公衆送信権)が侵害されたか
  2. 争点2(同項2号):開示を受けるべき正当な理由があるか

このほか、プレステージ側の手続追行が手続上の信義則に反しないかも実質的な争点となりました。

裁判所の判断

図2 争点と裁判所の判断
▲ 図2 争点と裁判所の判断。図中の「原告」はオプテージ、「被告」はプレステージを指します

争点1ア:決め手はバイナリデータの客観的一致

「本件各契約者が、別紙「動画目録」記載の時刻に、同記載の通信によって、再提出動画を分割した本件ピースファイルを、ビットトレントのネットワーク上で送信していたことが認められる。」

これを基礎づけたのは、契約者らから取得されたピースファイルのバイナリデータが非圧縮の再提出動画の一部と一致したという客観的事実です。オプテージは調査の信用性を複数の角度から争いましたが、いずれも排斥されました。

「本件調査の手法は、ビットトレントに関する技術的知見に照らし、技術的に不合理であるとは認められないし、原告が指摘する被告代理人又はその所属する法律事務所と本件調査会社との関係性によって、信用性が左右されるようなものともいえない。」

プロパティ上の作成日が申立ての後になっていた点についても、次のとおりです。

「本件ピースファイル及び再提出動画のプロパティ情報に記載された作成日及び更新日をもって、本件ピースファイルが本件申立ての後に作成されたものであるとか、再提出動画が本件ピースファイルと関連性を有しないと解することはできない。」

プロパティ情報はコピーや保存の操作で容易に変動します。裁判所は、こうした周辺事情よりもバイナリデータの一致という客観的・技術的事実を重視したと読めます。

手続上の信義則――異例の付言

もっとも裁判所は、プレステージ側の証拠提出の経緯を看過しませんでした。

「上記のとおりの別件手続における経緯や本件再生試験の方法等に照らせば、本件申立てにおいて、被告が、再提出動画を圧縮した当初提出動画を証拠として提出し、これがデータを圧縮したものであって、本件ピースファイルとバイナリデータが一致しないものであることを明らかにせず、裁判所の求めに応じて初めて再提出動画を提出したことは、問題がないとはいえない。」

ここで誤解のないよう明確にしておきます。裁判所が述べたのは「問題がないとはいえない」という評価にとどまり、プレステージまたはその代理人に手続上の信義則違反があったと認定したものではありません。判決は「被告が、本件申立ての際に、再提出動画を圧縮した当初提出動画を証拠として提出し、その後、裁判所の求めに応じて再提出動画を提出したことが、手続上の信義則に反するとまではいえない」と明示しており、信義則違反は否定されています。そのうえで判決はさらに付言しました。

「被告代理人が、今後も、発信者情報開示に係る手続において、本件審問手続及び本件訴訟と同様の手続追行を繰り返したときには、手続上の信義則違反の有無について、本件とは異なる結論に至る可能性があることを付言する。」

当事者本人ではなく代理人の手続追行に言及し、同じことを繰り返せば結論が変わり得ると将来に向けて注意を促すのは異例です。あくまで将来の同種手続に向けた可能性の指摘であり、本件のプレステージ側の行為が信義則違反と判断されたわけではありません。開示命令が非訟手続で相手方の防御機会に限りがあることを踏まえ、申立人側に証拠の性質(圧縮した事実)の開示を求める趣旨と読めます。

争点1イ:ピースの送信でも自動公衆送信権侵害が成立する

本判決の核心です。裁判所はBitTorrentの利用態様そのものから出発しました。

「ユーザーは目的ファイルの一部を構成するピースを、本件各契約者を含む不特定多数の者から順次取得して、最終的に目的ファイルの全体を取得することを前提としてビットトレントを使用している。そうすると、本件調査会社が再提出動画の全体を取得した時点はもちろん、その途中段階であっても、本件各通信に係る本件調査会社の相手方となった本件各契約者は、自身が直接アップロードしたのが目的ファイルの断片たるピースにとどまるとしても、その行為により、本件著作物の動画を自動公衆送信し、被告が本件著作物について有する著作権(自動公衆送信権)を侵害したものというべきである。」

ポイントは2つです。第1に、基準時が「全体を取得した時点はもちろん、その途中段階であっても」とされ、本件調査会社(HDR)がファイル全体を集め終わっていなくても侵害が認められた点。第2に、「自身が直接アップロードしたのが目的ファイルの断片たるピースにとどまるとしても」という留保付きの判示です。利用者は全体の取得を前提に相互にピースを配り合っているのだから、一断片の送信も自動公衆送信と評価される――「ほんの一部しか送っていない」という典型的な反論を、技術の仕組みに立ち返って否定したものです。

送信可能化権については判断されていない

「以上の次第であり、被告の送信可能化権が侵害されたか否かを検討するまでもなく、本件各契約者が別紙「動画目録」記載の本件各通信をしたことで、被告の本件著作物に関する著作権(自動公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。」

自動公衆送信権侵害が認められれば明白性の要件を満たすため、裁判所は送信可能化権侵害の成否を判断していません。本判決を「ピースの送信が送信可能化にも当たると判断した裁判例」として引用することはできません。

争点2:開示を受けるべき正当な理由

「弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各発信者に対し、本件著作物に係る被告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であることが認められ、そのために、本件各発信者情報の開示を受ける必要があるといえ、原告の主張を踏まえてもその必要性が失われるものではないから、被告には、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(法5条1項2号)と認められる。」

損害賠償請求の予定という理由で正当な理由が認められており、この点は従来の実務の枠内です。裁判所は開示命令の決定を認可し、訴訟費用はオプテージの負担としました。オプテージの異議は容れられず、プレステージが得た開示命令はそのまま維持されたことになります。

意義と射程

第1に、P2P型侵害における「断片」論への正面からの回答です。開示を争う側からは、送信されたのが再生不能な断片にすぎないという主張が繰り返されてきました。本判決はこれをBitTorrentの利用態様から否定しており、同種事案での引用価値は高いといえます。
第2に、申立人側の手続追行への注意喚起です。プレステージ側の信義則違反は否定されており、その意味で本件の判断は権利者側に有利ですが、同様の手続追行の反復について異なる結論の可能性が明示された点は、今後の申立実務に影響します。
もっとも本判決は第一審判決であり、判断されたのは自動公衆送信権侵害のみです。開示の可否は個々の調査内容と証拠に依存しますから、BitTorrent事案なら常に開示されることを意味しません。なお、本稿執筆時点で本判決の確定の有無は確認していません。

実務への影響とポイント

権利者側(申立人・その代理人) 申立てでは、取得したピースファイルと同一のバイナリを含む原本(圧縮・再エンコードをしていないもの)を最初から提出すべきです。販売用・配信用のファイルを加工すると、バイナリが一致せず調査全体の信用性を疑われます。やむを得ず圧縮版を出す場合は、圧縮した事実とバイナリが一致しない事実を申立人の側から説明することが不可欠です。裁判所の求めに応じて初めて非圧縮版を出す運用こそ、本判決が反復を戒めた対象です。
プロバイダ側(相手方・異議の訴えの原告) プロパティの日付や代理人と調査会社の近接性のみで争う戦略は、再考の余地があります。他方、バイナリの同一性そのものを争う価値は高いといえます。本件でも、オプテージがピースファイルの提出を求めたことが当初提出動画との不一致を露呈させ、非圧縮版の提出につながりました。反面、「断片にすぎない」という構成は通りにくくなりました。

まとめ

  • 本判決は、自身が直接アップロードしたのが目的ファイルの断片たるピースにとどまるとしても自動公衆送信権侵害が成立するとし、オプテージの異議の訴えを退けて、プレステージの申立てに基づく開示命令を認可しました。
  • 認定を支えたのはバイナリデータの客観的一致です。プロパティの作成日や代理人と調査会社の関係は、それだけでは信用性を左右しないとされました。
  • 他方で判決は、プレステージ側の証拠提出の経緯を「問題がないとはいえない」と評しつつ、手続上の信義則違反までは認めず、同様の手続追行の反復について異なる結論に至る可能性を付言するにとどめました。なお送信可能化権侵害の成否は判断されていません

P2P型ファイル共有をめぐる発信者情報開示は、著作権法と情プラ法の双方に加えて監視システムの技術的理解を要する分野です。当事務所は、権利者側の開示命令申立てから、プロバイダの意見照会書を受け取った方のご相談まで、発信者情報開示の実務を数多く取り扱っています。お困りの方は、お早めにご相談ください。

出典・参考判例

  • 大阪地判令和8年6月4日・令和7年(ワ)第11139号(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件)(判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • 前提事件:大阪地裁令和6年(発チ)第20005号 発信者情報開示命令申立事件(令和7年10月3日決定)
  • 情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)5条1項1号・2号、14条1項

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な法律問題については、弁護士にご相談ください。

© 虎ノ門法律特許事務所(知財・商法・不正競争防止法サイト)