商標法
2026/04/16

PITAVA事件:薬の錠剤に刻まれた「ピタバ」は商標権侵害か?含有成分の説明的表示と商標的使用【虎ノ門法律特許事務所】

病院で処方された薬の錠剤をよく見ると、アルファベットや数字が刻印されていることがあります。これは、薬剤師や患者が薬を取り違えることを防ぐための大切な表示です。しかし、もしこの刻印が他社の登録商標と同一・類似だったら、商標権侵害になるのでしょうか?

PITAVA(小林化工)事件(東京地判平成26年11月28日・平成26年(ワ)第767号)は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の錠剤に有効成分の略称を刻印する行為が、商標的使用に当たるかが問われた事例です。


後発医薬品と錠剤の表示ルール

後発医薬品は、先発医薬品の特許期間満了後に、同じ有効成分で製造・販売される医薬品です。医薬品業界では、調剤間違いや患者の誤飲といった医療事故を防止するため、錠剤に販売名等を刻印することが一般的です。


事件の概要

当事者

  • 原告X:指定商品を「薬剤」とし、標準文字「PITAVA」からなる商標の商標権者
  • 被告Y:ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする後発医薬品を販売する会社

Y商品の表示

Y商品の錠剤には「ピタバ」という刻印(Y標章)が付されていました。また、Yの会社コード「MEEK」または「MK」、含量を示す数字も表示されていました。

【判決の別紙について】 本判決の判決全文(裁判所HP)には、Y商品1〜3の錠剤の写真が掲載されています。錠剤の表面に「ピタバ」の文字と含量を示す数字、裏面に「MEEK」または「MK」の刻印が施されている様子を確認でき、どの表示が成分識別のためのもので、どの表示が出所識別のためのものかが一目で理解できます。

背景事情

「ピタバスタチン」(Pitavastatin)の名称のうち、「スタチン」の部分はコレステロール低下薬の一群(スタチン系)の総称を意味します。医療現場では、「ピタバ」「アトルバ」「ロスバ」などと略称で呼ぶことが広く行われていました。

 

裁判所の判断――商標権侵害を否定

主要な判断

東京地裁は、Xの請求を棄却しました。裁判所は、錠剤に付された「ピタバ」は、「医薬品の販売名等の類似性に起因する調剤間違いや患者の誤飲等の医療事故を防止する目的で、Y各商品の有効成分がピタバスタチンカルシウムであることの注意を喚起するためにその略称を錠剤の表面に記載したもの」と認定しました。

そして、Yの会社コード「MEEK」等の表示と相まって、出所識別機能を果たす態様で使用されていないと結論づけました。

Xの反論①:患者が出所を識別する

裁判所は、Y各商品は処方せん医薬品であり、患者が自ら錠剤の表示に基づいて出所を識別して購入するものではないことを指摘し、この主張を退けました。

Xの反論②:誤飲防止=自他商品識別

裁判所は、「その表示の趣旨は主として、他の有効成分を含有する錠剤と誤って調剤すること等を防止することにあるから、それは自他商品の識別や出所の識別を果たすものではなく、あくまで薬剤の有効成分が何であるかを識別する機能を果たしているにすぎない」と述べました。


「出所識別」と「成分識別」の境界

本件で興味深いのは、「出所識別」と「製品差別化」の境界が概念的に明確に区別しにくいという問題です。判決も「主として」有効成分の識別機能を果たしていると述べるにとどまり、出所識別機能を完全にゼロとは断じていません。後発医薬品の取り違え防止という公益的な対抗利益が考慮されたとの見方もあります。


26条1項との関係

平成26年の商標法改正により、商標的使用論は商標法26条1項6号として明文化されました。本件と同種事案であるPITAVA(テバ)事件(知財高判平成27年10月21日)では、26条1項6号が適用されています。

また、本件控訴審(知財高判平成27年9月9日)では、26条1項2号(記述的表示の適用除外)の適用も認められており、商標的使用論と26条1項各号との関係も重要な論点です。


実務へのポイント

医薬品メーカーの方へ

  • 後発医薬品の錠剤に有効成分の略称を刻印する行為は、本判決の下では商標的使用に当たらないとされます
  • 自社商標(会社コード等)を併記していることが、商標的使用否定の根拠の一つとなっています

商標権者の方へ

  • 有効成分名やその略称を商標登録している場合、第三者による説明的使用を排除することは困難な可能性があります

知財法を学ぶ方へ

  • 「出所識別」と「成分識別」の区別は、商標の本質的機能を理解する上で重要なテーマです
  • 商標的使用論と26条1項各号(特に2号・3号・6号)の関係を整理しておきましょう

まとめ

PITAVA事件は、後発医薬品の錠剤に有効成分の略称「ピタバ」を刻印する行為が、商標的使用に当たらないとして商標権侵害を否定した事例です。裁判所は、この表示が調剤間違いや誤飲防止という医療安全の目的で記載されたものであり、出所識別ではなく成分識別の機能を果たしていると認定しました。


出典・参考判例

  • PITAVA(小林化工)事件 第1審(東京地判平成26年11月28日・平成26年(ワ)第767号)
  • PITAVA(小林化工)事件 控訴審(知財高判平成27年9月9日・平成26年(ネ)第10237号)

本記事は法的アドバイスを提供するものではなく、一般的な情報提供を目的としています。具体的な法律問題については、弁護士にご相談ください。

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