はじめに
フランチャイズ契約が終了したとき、加盟店が返すのは看板やマニュアルだけではありません。会社の商号(社名)、ウェブサイト、ドメイン名。ブランドと結びついた「名前」は、契約書に細かい定めがないまま長年使われていることが少なくありません。契約が切れた後、これらをどこまで使い続けられるのでしょうか。
この問題を正面から扱ったのが、明光義塾事件(知的財産高等裁判所第3部 令和8年(2026年)5月14日判決・令和7年(ネ)第10053号 商標権侵害行為差止等請求控訴事件、地位確認等請求反訴控訴事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトです。
請求した側と請求された側を、はじめに整理しておきます。
- 本部(フランチャイザー)=株式会社明光ネットワークジャパン。「明光義塾」ブランドのフランチャイザーで、差止め等を求めた側です。訴訟上の地位は本訴原告・被控訴人にあたります。
- 加盟側=株式会社明光ネットワーク九州(エリアフランチャイザー)と株式会社明光義塾九州(教室運営)。請求された側で、訴訟上の地位は本訴被告・控訴人です。判決文はこの2社を併せて「控訴人明光ら」と表記しています。これに、明光ネットワーク九州の契約上の債務を連帯保証した株式会社アネムホールディングスが加わります。
社名がよく似ていますが、「ジャパン」が付くのが本部、「九州」が付くのが加盟側と押さえておけば取り違えません。以下、必要な場面を除き、それぞれ「明光ネットワークジャパン」「明光ネットワーク九州」「明光義塾九州」「アネムホールディングス」と表記します。
このエリアフランチャイズ契約が解除された結果、加盟側は商号・標章・ドメイン名の使用差止め等に加え、合計約3億5871万円の支払を命じられました。控訴審はこれをすべて維持しています(控訴棄却)。
とりわけ注目されるのは、控訴審が原判決を書き改めて示した、会社法8条の「不正の目的」に関する判断です。
前提知識の整理
- フランチャイズ契約/エリアフランチャイズ:本部(フランチャイザー)が加盟店(フランチャイジー)に商標・商号・ノウハウの使用を許諾して経営指導を行い、加盟店が対価としてロイヤルティを支払う継続的契約です。特定地域について加盟店の募集・指導まで含む権限を一社(エリアフランチャイザー)に与える方式をエリアフランチャイズといいます。
- 商標法36条1項・2項:商標権者は侵害の停止・予防を請求でき(1項)、あわせて「侵害の予防に必要な行為」を請求できます(2項)。ウェブサイトからの標章抹消はここで問題になります。
- 会社法8条:何人も、不正の目的をもって他の会社であると誤認されるおそれのある名称・商号を使用してはならず(1項)、これにより営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれのある会社は、侵害の停止又は予防を請求できます(2項)。
- 不正競争防止法2条1項19号・20号:19号は図利加害目的でのドメイン名の取得・保有・使用を、20号は商品・役務の質・内容等について誤認させる表示(誤認惹起行為)を、それぞれ不正競争とする規定です。
判例の紹介と分析
事案の概要
フランチャイザー(本部)である明光ネットワークジャパンが被控訴人、フランチャイジー側である明光ネットワーク九州・明光義塾九州・アネムホールディングスが控訴人という向きに注意してください。差止めと損害賠償を求めたのは本部側です。
| 立場 | 会社 | 役割 |
|---|---|---|
| 被控訴人(本部) | 株式会社明光ネットワークジャパン | 「明光義塾」ブランドのフランチャイザー |
| 控訴人(エリア本部) | 株式会社明光ネットワーク九州 | 九州各県・山口県を対象地域とするエリアフランチャイザー |
| 控訴人(加盟店) | 株式会社明光義塾九州 | 一定範囲の教室で明光義塾を運営するフランチャイジー |
| 控訴人(保証人) | 株式会社アネムホールディングス | 明光ネットワーク九州の契約上の債務の連帯保証人 |

▲ 図1 当事者の関係と本訴・反訴の向き
関係の始まりは平成元年、明光ネットワークジャパンが控訴人らの前身会社と九州地域のフランチャイジー募集の代理店契約を結んだことでした。明光ネットワーク九州と明光義塾九州の2社は平成3年4月に設立され、平成5年8月31日に、それぞれ現在の「株式会社明光ネットワーク九州」「株式会社明光義塾九州」へ商号変更登記をしています(設立時の商号は別のものでした)。本件の「エリアフランチャイズ契約書」の締結は平成26年6月12日です。
しかし、その内側では次の事態が進行していたと認定されています。平成24年頃から、映像授業等の対価を「その他の売上げ」に計上してロイヤルティ算定の基礎売上を過少に申告。平成23年9月から令和2年10月まで、実際より多い生徒数を報告。平成13年頃から、「明光義塾」の名称・商標を用いた家庭教師による学習指導を実施。
令和2年12月15日、明光ネットワークジャパンは13の解除事由を挙げて本件契約を解除し、差止め・損害賠償等を求めて提訴しました(東京地裁令和3年(ワ)第18742号)。明光ネットワーク九州と明光義塾九州は解除は無効だとして地位の確認等を求める反訴を提起しています(同令和4年(ワ)第9207号)。

▲ 図2 平成元年の代理店契約から控訴審判決まで
争点
- 争点1:積み重なった義務違反により、本件契約の解除は有効といえるか
- 争点2:「明光義塾」の名称・商標の使用許諾は、家庭教師事業にも及ぶか
- 争点3:解除後も従前の商号を使い続けることは、会社法8条の「不正の目的」による商号使用に当たるか
- 争点4:ウェブサイト上の標章の抹消・ドメイン名の扱い
- 争点5:損害賠償額
裁判所の判断
本判決は判断の骨格を原判決の引用によっており、控訴審判決文に独自に記載されているのは、原判決の一部補正と、当審における控訴人らの補充主張に対する判断です。
争点1:軽微に見える違反も、積み重なれば「重大な背信行為」
控訴人明光らには本件契約に基づく義務に対する違反がそれぞれ複数認められ、フランチャイジーの中核的義務であるロイヤルティ支払義務に係る過少申告及び未払、学習塾において重要な情報である生徒数の虚偽報告及び本件契約上認められない本件家庭教師事業の実施に及んでいた・・・上記の義務違反は、いずれも被控訴人に対する重大な背信行為であって、信頼関係を著しく破壊するものであり、本件契約は本件解除により終了した。
引用中の「被控訴人」は明光ネットワークジャパン、「控訴人明光ら」は明光ネットワーク九州と明光義塾九州の2社を指します(以下の引用も同じです)。
ポイントは、違反であることを認識しながら継続していたという主観面が重視された点です。判決は、映像授業等の対価がロイヤルティ算定の対象であることを認識したうえで意図的に除外し、意図的に生徒数の虚偽報告を行っていたと認定しています。
個別の争点でも明光ネットワークジャパン側の主張が容れられました。
- ロイヤルティ算定対象:映像授業・自習型講座の対価は契約16条の「月謝、増加授業料、講習料等」に当たり、明光ネットワークジャパンからの情報提供・経営指導がなかったとしてもこの解釈は変わらない
- 競業避止義務:親会社も代表取締役も同一の別会社が学習塾を運営していた点が、個別指導の学習塾を間接的に開設・運営する場合に該当する
- 支援システム費:他の加盟店が生徒一人当たり月額1200円を負担する一方、明光義塾九州が負担しないのは極めて不公平な取扱い
- 守秘義務違反:費用分担割合を必要もないのに繰り返し開示したとする原判決の判断を維持
なお、契約解除の一般的な要件(催告の要否等)について、本判決が新たな規範を示したものではありません。
争点2:ブランド使用許諾の範囲は、契約の定義に厳格に限定される
控訴人明光九州が本件契約及び本件個別契約に基づいて明光義塾の名称、商標等を用いることができるのは、被控訴人が承認した場所において行う明光義塾の教室の開設、経営に関してのみであり、これを家庭教師事業に用いることは許されていないと解される。
引用中の「控訴人明光九州」は、社名でいえば明光義塾九州です。許諾の範囲は、明光ネットワークジャパンが承認した場所において行う明光義塾の教室の開設・経営という契約上の定義で画されており、そこから外れる事業形態――生徒の自宅等で行う家庭教師事業――への転用は許されないという判断です。平成13年頃から続いた運用によって許諾範囲が拡張されるとはされませんでした。
争点3:会社法8条の「不正の目的」――控訴審が書き改めた核心
本判決の核心は、控訴審が原判決の判断全体を書き改めた、商号使用差止めの部分です。
会社法8条1項は、不正の目的をもって他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用することを禁じているところ、この『不正の目的』は、他の会社の営業と誤認させる目的、他の会社と不正に競争する目的、他の会社を害する目的など、特定の目的に限定されるものではないが、不正な活動を行う積極的な意思を有することを要するものと解するのが相当である。
目的の類型は限定されないが、「不正な活動を行う積極的な意思」を要する――広く捉える方向と絞り込む方向の双方を含んだ規範です。
そのうえで判決は、契約関係がなくなったにもかかわらず、明光ネットワーク九州と明光義塾九州が解除後も「明光ネットワーク」又は「明光義塾」の文字を含む商号の使用を継続し、明光義塾の運営を続けて収入を得ていることを指摘し、次のように結論づけました。
控訴人明光らは、本件解除後において、不正な活動を行う積極的な意思を有するものと認められ、不正の目的をもって他の会社であると誤認されるおそれのある商号である『株式会社明光ネットワーク九州』又は『株式会社明光義塾九州』を使用しているものと認められる。
注目すべきは、その効果です。
以上によれば、被控訴人は、会社法8条2項に基づき、控訴人明光らに対し、上記各商号の使用の差止を請求することができるとともに、従前の商号から現商号への商号変更に係る商号変更登記の抹消登記手続請求をすることができる。
差止めにとどまらず、商号変更登記の抹消登記手続まで認められました。平成5年8月31日の商号変更登記そのものを抹消させる、つまり登記簿の上から「明光」を含む商号を消させる請求です。ブランドの原状回復が登記のレベルにまで及んだ点は、実務上大きな意味を持ちます。
争点4:ウェブサイトからの標章抹消とドメイン名
ウェブサイト上の標章については、判決は、原判決別紙Webページ目録記載のウェブサイトその他の営業表示物件からの標章の抹消請求も、商標法36条2項にいう「侵害の予防に必要な行為」の請求として認めることができるとしました。
ドメイン名(v-meiko.co.jp)については注意が必要です。原判決が不正競争防止法2条1項19号等に基づき、「meiko」の文字を含むドメイン名の取得・保有・使用の差止めと登録抹消申請手続を認容し、控訴審はこれを維持しました。 もっとも、控訴人らが当審でこの点の補充主張をしなかったため、ドメイン名に関する実体的な判断は控訴審判決文には現れていません。 本判決からドメイン名についての新たな判断基準を読み取ることはできません。
このほか、同項20号に基づく表示の使用差止め・削除、顧客情報の使用差止めも認容されました。他方、顧客情報の記録媒体の廃棄請求と、アネムホールディングスに対する標章使用差止め等の一部は棄却されています。
争点5:損害額――請求16億円超に対し、認容は約21%
| 請求 | 認容額 | 遅延損害金 |
|---|---|---|
| 未払ロイヤルティ①(不法行為構成) | 46万2373円 | 年5%・令和3年1月26日から |
| 未払ロイヤルティ②(契約構成・連帯保証人も連帯) | 1018万7317円 | 約定年14.6%・同上 |
| 競業避止義務違反・商標権侵害による損害賠償(控訴人ら連帯) | 3億4806万5219円 | 年3%・令和5年12月15日から |
| 合計 | 3億5871万4909円 |
損害賠償は、請求16億4878万3340円に対し認容額が約3億4806万円、割合にして約21%にとどまりました。差止めが認められても、請求額がそのまま賠償として認められるわけではありません(算定の具体的な理由は原判決の判断が引用されており、控訴審判決文からは読み取れません)。

▲ 図3 争点と控訴審の判断
判決の意義・射程
- 会社法8条の「不正の目的」について「不正な活動を行う積極的な意思」を要するとの解釈を示し、契約終了後の商号使用継続がこれに当たるとしたこと。同条は実務で援用される機会が多くありませんが、フランチャイズやライセンスの終了局面では、商標法・不正競争防止法と並ぶ有力な根拠になり得ます。
- 救済が商号変更登記の抹消登記手続にまで及ぶことを明示したこと。差止めだけでは登記簿上の商号は残ります。
- 軽微に見える契約違反の積み重ねが継続的契約の解除を正当化し得ることを示したこと。違反を認識しながら継続していたという主観面が評価を左右しています。
他方、射程には限界があります。ドメイン名についての実体判断は控訴審に現れておらず、契約解除の一般的要件についての規範定立もありません。
実務への影響・ポイント
本部(フランチャイザー)の側では、契約書の「終了時の原状回復」条項を具体化することが第一です。標章・看板の撤去だけでなく、①商号の変更義務(変更登記の申請期限まで明記)、②ウェブサイト・SNSからの表示削除、③ドメイン名の使用中止・登録抹消または移転、④顧客情報の返還・使用停止を項目として列挙しておくべきです。加盟店の社名にブランド名を入れることを認めるなら、出口を先に決めておくことが要諦になります。あわせて、ロイヤルティ算定対象となる売上区分の定義を明確にし、定期監査の権限を確保しておくこと。損害額の算定根拠資料を平時から整えておく必要があることは、請求額の約21%という結果が示すとおりです。
加盟店・エリアフランチャイザーの側では、許諾範囲を「事業形態」の単位で確認することが重要です。オンライン指導・出張指導など新しい業態を始めるときは、既存の許諾がそのまま及ぶと考えず、事前に本部の書面同意を取るべきです。親会社・代表者が共通する会社を通じた事業も、学習塾を間接的に開設・運営する場合に当たると評価され得ます。そして、解除の効力を争う立場であっても、従前の商号・標章・ドメイン名を使い続けること自体が「不正な活動を行う積極的な意思」の認定材料になり得ます。
まとめ
- 契約終了で返すのは看板だけではなく、商号・ウェブサイト・ドメイン名の原状回復まで求められ得る
- 控訴審は、会社法8条の「不正の目的」につき、目的の類型は限定されないが「不正な活動を行う積極的な意思」を要するとの解釈を示し、解除後も従前の商号を使い続けた行為をこれに当たるとした。効果は差止めにとどまらず、商号変更登記の抹消登記手続にまで及んだ
- ブランドの使用許諾は契約の定義に厳格に限定され、家庭教師事業への転用は許されないとされた
- 軽微に見える違反も、認識しながらの継続的な積み重ねは「重大な背信行為」として解除を正当化し得る
- 請求16億4878万3340円に対する損害賠償の認容は約3億4806万円(約21%)
フランチャイズは、入口(加盟)の条件よりも出口(終了)の設計のほうが難しい類型です。契約終了時に「名前」をどう整理するかを契約書の段階で決めておくことが、最大の予防策になります。
フランチャイズ契約の終了・解除をめぐるトラブルでは、商標・商号・ドメイン名・顧客情報のどれをどの法的根拠で請求するか(あるいは請求されているか)で、取るべき対応が大きく変わります。虎ノ門法律特許事務所では、商標権・不正競争防止法をはじめとする知的財産の紛争と、フランチャイズを含む継続的契約の紛争の双方について、契約書の設計段階から訴訟対応までご相談を承っています。お気軽にご相談ください。
出典・参考判例
本件
- 明光義塾事件:知的財産高等裁判所第3部 令和8年5月14日判決・令和7年(ネ)第10053号 商標権侵害行為差止等請求控訴事件、地位確認等請求反訴控訴事件・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 当事者:被控訴人=株式会社明光ネットワークジャパン(フランチャイザー)/控訴人=株式会社明光ネットワーク九州、株式会社明光義塾九州、株式会社アネムホールディングス
- 原審:東京地方裁判所 令和3年(ワ)第18742号、令和4年(ワ)第9207号(原審の判決言渡日は本判決文に記載がありません)
- 口頭弁論終結日:令和8年3月10日
- 本稿執筆時点で、本判決の確定の有無は確認していません
本記事は法的アドバイスを提供するものではなく、一般的な情報提供を目的としています。具体的な法律問題については、弁護士にご相談ください。