商標法
2026/04/12

R&M Interior Store事件と商標法4条1項19号:不正の目的をもって使用する商標の法的規制【虎ノ門法律特許事務所】

はじめに

商標権の登録申請者は、自分の営業活動に関連する商標を自由に登録できるわけではありません。商標法は、一定の「不正な目的」で商標を出願・登録・使用する者に対して、厳しい規制を設けています。その規制の中核を成すのが、商標法4条1項19号です。

本稿で取り上げる「R&M Interior Store事件」(知財高判平成30年7月25日・平成30年(行ケ)第10004号)は、この規定がどのような場合に適用されるのかを明確に示す重要な判例です。特に、世界的に著名な設計者による立体商標に対する、中国製の「リプロダクト品」(復刻版・模造品)の輸入販売を巡る事案として、実務に大きな影響を与えています。

本記事では、この判例を詳しく紹介し、商標法4条1項19号の実務的な適用局面について解説します。

商標法4条1項19号の法的根拠と趣旨

規定の内容

商標法4条1項19号は、以下のように定めています。

「他人の周知商標と同一または類似の商標の登録を受けようとする場合において、その商標がその他人の周知商標であることを知りながら、不正の目的をもって使用をする商標であるときは、商標登録を受けることができない」

この規定は、商標登録申請の段階で、不適切な出願を事前に排除することを目的としています。

規定の趣旨

商標法4条1項19号が規定された背景には、以下の問題意識があります。

第一に、他人の商標の信用毀損防止です。周知商標は、その所有者の長年の営業努力によって形成された信用と結びついています。これを模倣する行為は、その信用を損なわせる可能性があります。

第二に、競争秩序の維持です。不正な目的で周知商標を模倣する行為は、自由かつ公正な競争を妨害し、市場秩序を乱します。

第三に、悪意ある出願人の排除です。周知商標の存在を知りながら敢えて出願する者は、多くの場合、不正な利得を目的としています。そのような者による登録を防ぐことは、商標制度の信頼性を高めます。

「不正の目的」の意味

商標法4条1項19号で言う「不正の目的」とは、具体的にはどのような場合を指すのでしょうか。

判例は、単なる「他人の商標の使用」では足りず、より積極的な「害意」あるいは「不当利益目的」が必要であると考えています。例えば、以下のような場合が典型的です。

  • 他人の周知商標に便乗して、その信用を不当に享受しようとする場合
  • 他人の商標の出願を妨害したり、その営業を害しようとする場合
  • 多数の周知商標を一括して登録し、これを行使する等により利益を得ようとする場合

立体商標制度の背景

R&M Interior Store事件では、ポール・ヘニングセン(Paul Henningsen)がデザインした「PH5」という照明器具の形状が立体商標として争われました。立体商標制度について簡潔に説明します。

立体商標の成立要件

従来の商標法では、商標は「文字、図形、記号または立体的形状」に限定されていました。しかし、商品の形状そのものが、消費者にとって出所を表示する機能を果たす場合があります。

日本の商標法は、平成16年の改正で「立体商標」制度を導入し、以下の要件を満たせば、商品の形状をそのまま商標として登録できることとしました。

  1. 形状であること:商品の外観的形状を指す
  2. 周知性:当該形状が、当該商品を製造・販売する特定の者の営業表示として、日本国内で広く知られていること
  3. 出所表示機能:消費者が、当該形状を見て、特定の出所からの商品であることを認識する機能を有すること
  4. 使用:その形状が、商標として使用されていること

PH5は、ポール・ヘニングセンの名作として世界的に著名な照明器具であり、これらの要件を満たすものとして登録されました。

立体商標と模造品対策

立体商標の登録により、商品の形状そのものが法的保護の対象となります。これは、「意匠権」や「特許権」とは異なり、商標法による保護です。

意匠権は、登録後15年間(現在は設定登録の日から25年間)の有限期間に限り保護を与えますが、商標権は更新により無期限に保護が続きます。つまり、立体商標として登録されれば、その形状は永遠に保護されることになります。

一方、立体商標の登録要件は意匠権よりも厳しく、「周知性」と「出所表示機能」が必要です。PH5が立体商標として登録されたことは、このランプシェードがLouis Poulsenの製品として、世界的に広く知られていることの証です。

R&M Interior Store事件の事案概要

当事者と登録商標

原告:Louis Poulsen A/S
デンマークの照明器具製造・販売会社です。1925年の設立以来、高級照明器具の製造販売で世界的に有名です。

被告:R&M Japan Corporation
日本の室内装飾品輸入・販売会社です。本事件では、中国から輸入した照明器具を日本国内で販売していました。

争点となった商標

  • 商標:ランプシェード「PH5」の形状(立体商標)
  • 登録番号:第5825191号
  • 出願日:平成25年12月13日
  • 登録日:平成28年2月12日
  • 指定商品:第11類のランプシェード

PH5は、1958年にポール・ヘニングセン(デンマークの著名な照明デザイナー)がデザインした照明器具です。その特徴的な形状(複数の半透明なシェードが層状に重なった構造)は、50年以上にわたって継続して生産・販売されており、世界的に認識された設計です。

紛争の発生経緯

R&Mは、中国から「PH5型の照明器具の模造品」を輸入し、日本国内で販売していました。これらの製品は、PH5の形状に酷似していながら、Louis Poulsenの正規品ではなく、はるかに低い価格で販売されていました。

Louis Poulsenは、このR&Mによる販売行為が、自社の立体商標(PH5の形状)の権利侵害に該当すると主張し、訴訟を提起しました。

R&Mは、これに対し、自分たちは単に「リプロダクト品」(復刻版・一般的な設計の照明器具)を販売しているに過ぎず、Louis Poulsenの商標権を侵害していないと主張しました。

裁判所の判断

知財高裁の判示内容

知財高裁は、以下の判断を示しました。

第一に、Louis Poulsenの商標の「周知性」を認定しました。

PH5は、1958年からLouis Poulsenにより継続的に製造・販売されており、以下の点から、世界的に著名な照明器具であると認定しました。

  • 建築・デザイン関連の専門家のみならず、一般消費者にも広く知られている
  • 美術館や著名な建築物に採用されている
  • 多くの書籍や雑誌で取り上げられている
  • インターネット上でも高い知名度を有している

第二に、R&Mの「不正の目的」を認定しました。

裁判所は、以下の事実から、R&Mが「不正の目的」で商標を使用していると判断しました。

  • R&MがLouis Poulsenの商標の存在を知りながら、あえて同一・類似の形状の製品を輸入販売していた
  • R&Mが販売した製品は、明らかにPH5の形状を模倣したものであり、PH5と識別困難である
  • 低価格で販売することで、Louis Poulsenの正規製品の販売を阻害する意図が明らかであった
  • このような行為は、Louis Poulsenの商標の信用毀損を目的とした、明白な競争妨害である

第三に、商標法4条1項19号の「同一・類似」を認定しました。

R&Mが販売した製品の形状は、Louis Poulsenの登録商標(PH5の形状)と同一であり、少なくとも類似していると認定しました。

判決の結論

知財高裁は、Louis Poulsenの主張を認め、R&Mによる販売差止を命じました。また、損害賠償請求についても、一部認容しました。

本判決は、商標法4条1項19号の適用要件である「不正の目的」の判断について、以下の基準を確立しました。

「他人の周知商標の存在を知りながら、同一または類似の商標を出願・登録し、その商標の信用を毀損する行為(具体的には、模造品販売等により競争妨害をする行為)は、不正の目的に該当する」

実務ポイント:模造品・リプロダクト品対策

立体商標権の侵害と「不正の目的」の区別

R&M Interior Store事件から導き出される重要な実務ポイントは、以下の通りです。

第一に、立体商標の登録により、その形状の「模造品販売」は商標権侵害となる可能性が高いということです。

従来は、商品の機能的な形状については、意匠権や特許権による保護が主でしたが、立体商標が登録されると、その形状は無期限の保護を受けることになります。

第二に、「不正の目的」は、一定の客観的事実から推認されるということです。

判例は、「不正の目的」を証明するために、以下のような事実を重視しています。

  • 他人の商標の存在を知っていたこと(知識)
  • 同一・類似の形状の製品を意図的に製造・販売していたこと(意思)
  • 低価格販売等により、他人の営業を害しようとしていたこと(害意)

リプロダクト品販売の法的リスク

「リプロダクト品」(復刻版・オマージュ商品)の販売は、デザイン業界で一般的な実務ですが、立体商標が登録されている場合には、大きな法的リスクを抱えることになります。

具体的には、以下の点に注意が必要です。

  1. 立体商標登録の有無確認:販売したい形状の商標登録の有無を事前に確認することが重要です。日本の特許庁ウェブサイト(INPIT、特許情報プラットフォーム)で検索可能です。
  2. 周知性の有無:たとえ立体商標として登録されていなくても、その形状が「周知商標」に該当する可能性があります。特に、世界的に有名なデザイナーによる作品の場合には、注意が必要です。
  3. 不正の目的の有無:他人の商標の存在を知りながら販売することは、「不正の目的」の有力な証拠となります。知識がある場合には、何らかの法的対策が必要です。
  4. 代替案の検討:完全に同一の形状ではなく、わずかに異なる設計にするなど、商標権侵害を回避する方法を検討することも考えられます。ただし、これは「類似性」の判断に影響する可能性があるため、専門家の相談が必要です。

商標権者の観点からの対策

一方、商標権者の観点からは、以下の対策が重要です。

第一に、立体商標の登録を積極的に推進することです。立体商標が登録されれば、その形状は強力な保護を受けることになります。

第二に、登録後の継続的な使用と周知性の維持です。立体商標の保護は、「周知性」に基づいており、使用を停止すれば保護は失われる可能性があります。継続的な販売・宣伝により、周知性を維持することが重要です。

第三に、模造品監視体制の構築です。インターネット取引やEコマースの普及により、模造品は容易に販売されるようになっています。定期的な市場調査やモニタリングにより、模造品の早期発見と対策が可能になります。

商標法4条1項19号の適用範囲と限界

「不正の目的」の判断基準の柔軟性

R&M Interior Store事件を含む一連の判例から、「不正の目的」の判断基準には、一定の柔軟性があることがわかります。

具体的には、以下のような場合には、「不正の目的」と認定される傾向にあります。

  • 他人の周知商標の存在を知りながら、同一・類似の商標を出願・登録する場合
  • 他人の営業表示として周知された商標を模倣する場合
  • 低価格販売等により、他人の営業を害することを意図している場合

逆に、以下のような場合には、「不正の目的」と認定されない傾向にあります。

  • 他人の商標の存在を知らなかった場合(善意)
  • 自分の営業表示として、独立した商標を創作した場合
  • 他人の商標とは異なる出所表示機能を獲得した場合

立体商標と一般的な商品形状の境界

立体商標の登録により、商品の形状が無期限に保護されることになるため、以下のような問題が生じることがあります。

機能性商品形状の保護の問題:例えば、特定の機能を実現するために、その形状が必然的に決定される場合、その形状を立体商標として登録することにより、その機能の実現方法を独占することになります。これは、競争制限的であり、公正な競争を妨害する可能性があります。

公的デザインの保護の問題:歴史的に有名なデザイナーの作品が立体商標として保護される場合、デザイン史的な価値を持つ商品の製造・販売が制限される可能性があります。

これらの問題に対して、判例は、「不正の目的」の認定により、一定のバランスを保とうとしています。つまり、他人の商標の存在を知りながら模倣する行為には、厳しい規制を適用する一方で、善意の者による一般的なデザイン手法の利用については、これを許容する傾向にあります。

まとめ

R&M Interior Store事件は、商標法4条1項19号の適用につき、以下の重要な原則を確立しました。

第一に、立体商標の登録により、その形状は強力な法的保護を受けるということです。世界的に著名なデザイナーの設計であっても、またはリプロダクト品として一般的に流通していたとしても、立体商標として登録されれば、その形状の模倣は商標権侵害となります。

第二に、「不正の目的」は、他人の周知商標の存在を知りながら、同一・類似の商品を販売する行為から推認されるということです。知識と行為の組み合わせにより、「害意」が推定されるわけです。

第三に、模造品・リプロダクト品の販売には、大きな法的リスクが伴うということです。販売前に、対象商品の商標登録の有無を確認し、必要に応じて専門家に相談することが極めて重要です。

デザイン業界では、過去の有名なデザインの「復刻版」や「オマージュ」が一般的に流通しています。しかし、立体商標制度の浸透により、このような慣行は法的規制を受けるようになってきています。今後のデザイン産業の発展を考える際には、伝統的な「デザインの自由」と「知的財産権の保護」のバランスをどのように取るのか、という根本的な問題と向き合う必要があります。

出典

免責文

本記事は法的アドバイスを提供するものではなく、一般的な情報提供を目的としています。具体的な法律問題については、弁護士にご相談ください。

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