商標権侵害で訴えられたら?被告側の裁判対応と防御戦略を弁護士が解説
ある日突然、裁判所から「訴状」と書かれた書類が届く――。商標権侵害で訴えられた事業者の方にとって、これほど不安なことはないでしょう。
まず最初にお伝えしたいのは、「訴状が届いた=有罪」ではないということです。訴状はあくまで原告側の主張にすぎません。裁判では被告側にも十分に反論の機会が与えられており、適切に対応すれば請求が認められないケースも数多くあります。
本記事では、商標権侵害訴訟で訴えられた被告側の立場から、裁判の流れ、最初にやるべきこと、主な防御戦略、和解の選択肢、費用の目安まで、弁護士・弁理士の視点で詳しく解説します。
1. 商標権侵害訴訟の基本的な流れ
商標権侵害訴訟は、おおむね以下の流れで進行します。全体のスケジュール感を把握しておくことで、漠然とした不安を軽減できます。
訴訟の進行ステップ
- 訴状の送達:裁判所から訴状の副本が届きます。同封されている書類には、第一回口頭弁論の期日と答弁書の提出期限が記載されています。
- 答弁書の提出(おおむね30日以内):訴状に対する被告の反論を記載した書面を裁判所に提出します。これが最初の重要な期限です。
- 口頭弁論・弁論準備手続:裁判所で双方の主張・反論が行われます。期日はおおむね1〜2か月に1回のペースで設定されます。
- 判決または和解:最終的に裁判所が判決を下すか、当事者間で和解が成立して終結します。訴訟全体の期間は、一般的に1年〜1年半程度です。
第一回口頭弁論に出頭しないとどうなるか
被告が第一回口頭弁論に出頭せず、答弁書も提出しなかった場合、原告の主張をすべて認めたものとして扱われ、そのまま原告の請求どおりの判決(いわゆる「欠席判決」)が下される可能性があります。どれほど正当な反論があっても、裁判所に伝えなければ考慮されません。必ず答弁書を提出し、期日に対応することが不可欠です。
2. 訴状が届いたら最初にやるべきこと
訴状が届いたとき、多くの方がパニックに陥りますが、やるべきことは明確です。以下の手順を順番に進めてください。
(1)答弁書の提出期限を確認する
訴状に同封されている「口頭弁論期日呼出状」に、第一回口頭弁論の期日と答弁書の提出期限が記載されています。提出期限は通常、第一回口頭弁論期日の1週間前です。この日付をまず確認し、カレンダーに記録してください。
(2)訴状の内容を整理する
訴状の内容を把握するために、以下のポイントを確認します。
- 原告は誰か:商標権者本人か、ライセンシーか、関連会社か
- 対象となる商標権はどれか:商標登録番号、指定商品・指定役務を確認
- 何を請求しているか:差止請求(使用の中止)なのか、損害賠償請求なのか、その両方か
- 請求金額はいくらか:損害賠償の場合、その算定根拠
- 侵害と主張されている行為は何か:自社のどの商品・サービスの、どの標章の使用が問題とされているか
(3)弁護士に相談する
商標権侵害訴訟は専門性の高い分野です。知的財産に精通した弁護士に、遅くとも答弁書提出期限の2週間前までに相談されることを強くお勧めします。2週間あれば、訴状の分析、反論方針の策定、答弁書の作成を行うことが可能です。
期限が差し迫っている場合でも、まずは弁護士に連絡してください。最低限の答弁書(請求の棄却を求める旨の記載のみ)を期限内に提出し、詳細な反論は次回期日までに準備するという対応も可能です。
3. 被告側の主な防御戦略
商標権侵害訴訟において、被告側にはさまざまな防御手段があります。事案に応じて、以下の戦略を組み合わせて反論を構築します。
(1)商標非類似の主張
原告の登録商標と被告の使用標章が「類似」しなければ、商標権侵害は成立しません。商標の類否は、外観(見た目)、称呼(読み方)、観念(意味合い)の三要素を総合的に判断します。被告標章が原告商標と十分に異なることを具体的に主張・立証します。
(2)商品・役務非類似の主張
商標権の効力は、登録された指定商品・指定役務と同一または類似の範囲にのみ及びます。被告の商品・サービスが原告の指定商品・指定役務と類似しない場合、侵害は成立しません。
(3)商標的使用でないことの主張
商標法が規制するのは、出所表示機能を果たす態様での使用(商標的使用)です。たとえば、商品の説明や品質表示として使用しているにすぎない場合、装飾的なデザインとして使用している場合などは、商標的使用に該当しないと主張できる可能性があります。
(4)先使用権(商標法32条)
原告が商標登録出願をする前から、被告が同一・類似の商標を不正競争の目的なく使用しており、かつその商標が需要者の間で広く認識されていた場合、被告にはその商標を継続して使用する権利(先使用権)が認められます。先使用権が認められれば、商標権侵害にはなりません。過去の使用実績を示す資料(カタログ、広告、取引書類、写真など)が重要な証拠になります。
(5)商標権の無効(無効の抗弁・無効審判)
原告の商標登録自体に無効理由がある場合、被告は訴訟の中で「無効の抗弁」(商標法39条で準用する特許法104条の3)を主張できます。たとえば、出願時に既に周知であった他人の商標と類似する場合や、普通名称・記述的表示にすぎない場合などです。並行して特許庁に無効審判を請求することも有効な戦略です。
(6)権利濫用の抗弁
原告が商標を実際には使用しておらず、もっぱら損害賠償金を得る目的で訴訟を提起しているような場合には、権利濫用として請求が認められないことがあります。
(7)損害額の争い
仮に商標権侵害が認定された場合でも、損害額について争うことは重要です。原告が主張する損害額が過大である場合、被告側から損害が発生していないこと(原告に売上減少がないことなど)や、寄与率を考慮した減額を主張することで、賠償額を大幅に減らせるケースがあります。
4. 仮処分を申し立てられた場合
訴訟とは別に、または訴訟に先立って、相手方が仮処分を申し立てることがあります。仮処分は迅速な対応が求められる手続です。
仮処分とは何か
仮処分とは、本案訴訟の判決が出る前に、裁判所が暫定的に商標の使用差止めなどを命じる手続です。原告が「判決を待っていては損害が拡大する」と主張して申し立てるもので、通常の訴訟よりも迅速に進行します。
仮処分への対応方法
仮処分を申し立てられた場合、以下の対応が必要です。
- 審尋への出席:裁判所から審尋期日が指定されます。必ず出席し、被告側の言い分を述べてください
- 反論書面の提出:侵害が成立しないこと、または保全の必要性がないことを主張します
- 保全異議・保全取消し:仮処分命令が発令された場合でも、保全異議や保全取消しの申立てにより争うことが可能です
仮処分手続は通常の訴訟以上にスピードが求められるため、申立書が届いたら直ちに弁護士にご相談ください。
5. 和解という選択肢
商標権侵害訴訟は、判決まで至らず和解で解決するケースが少なくありません。和解は「負け」ではなく、事業者にとって合理的な解決手段となることも多くあります。
和解のメリット
- 早期解決:判決までの長期にわたる訴訟負担を回避できます
- 柔軟な条件設定:判決では「差止め」か「棄却」かの二択ですが、和解であれば使用態様の変更、一定期間の経過措置、ライセンス契約への移行など、柔軟な解決が可能です
- 秘密保持:和解内容を非公開にすることが可能です。判決は公開されます
和解の際の注意点
- 使用態様の変更:商標やロゴのデザインを変更することで、今後の使用を認めてもらう方法です。変更にかかるコスト(看板、ウェブサイト、パッケージの差し替え等)も考慮して交渉します
- ライセンス契約:原告から商標の使用許諾を受ける形で解決する場合もあります。ライセンス料の妥当性を慎重に検討する必要があります
- 解決金の交渉:和解金の金額は、侵害の態様、期間、売上規模、原告の損害などを総合的に考慮して交渉します。原告の請求額がそのまま認められるわけではありません
6. 費用の目安(被告側の訴訟費用)
商標権侵害訴訟の被告側にかかる主な費用は、弁護士費用です。以下はあくまで一般的な目安です。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 初回法律相談(60分) | 11,000円(税込) |
| 着手金 | 33万円〜110万円程度(税込・請求額により変動) |
| 報酬金(成功報酬) | 経済的利益に応じて算定(減額できた金額の10〜20%程度) |
| 日当・実費 | 期日出頭日当、交通費、郵送料、謄写費用など |
※費用は事案の複雑さ、請求金額、訴訟の見通しなどにより異なります。初回相談時にお見積りをご提示します。
詳しくは弁護士費用ページをご覧ください。
7. まとめ
商標権侵害で訴えられた場合の対応をまとめます。
- 訴状が届いても慌てない。訴えられたことと侵害が認定されることは別です
- 答弁書の提出期限を最優先で確認する。期限を過ぎると欠席判決のリスクがあります
- できるだけ早く弁護士に相談する。提出期限の2週間前が目安です
- 防御戦略は複数ある。商標の非類似、先使用権、無効の抗弁など、事案に応じた反論が可能です
- 和解も有力な選択肢。判決だけが解決方法ではありません
重要なのは、一人で抱え込まず、専門家の力を借りて適切に対応することです。早期にご相談いただくことで、取りうる選択肢が広がります。
商標権侵害で訴えられた方へ ― 虎ノ門法律特許事務所にご相談ください
虎ノ門法律特許事務所では、商標権侵害訴訟の被告側代理を数多く手がけてまいりました。代表弁護士・大熊裕司(弁護士・弁理士)が、訴状の分析から答弁書の作成、防御戦略の立案、和解交渉まで一貫して対応いたします。
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