はじめに
「あの商品、どこかで見たような形だな……」。店頭でそのような印象を持った経験がある方は少なくないでしょう。特にスマートフォン周辺機器やゲーム関連アクセサリーなどの分野では、外観が酷似する商品が多数流通しているのが実情です。
では、先にデザインを開発した事業者は、後から類似品を販売した事業者に対して法的措置を講じることはできるのでしょうか。本稿では、東京地裁平成24年12月25日判決(平成23年(ワ)第36736号)――いわゆる「コイル状ストラップ付きタッチペン事件」を素材に、不正競争防止法2条1項3号が定める商品形態の模倣規制の内容と、保護の例外となる「ありふれた形態」の判断手法について検討します。
不正競争防止法2条1項3号の概要――商品形態模倣規制とは
不正競争防止法2条1項3号は、他者が開発した商品の形態をそのまま模倣(いわゆるデッドコピー)した製品を譲渡等する行為を「不正競争」と位置づけています。
新商品の開発には、デザインの検討から金型製作、各種テストに至るまで、多額の投資と相当な時間・労力が必要です。にもかかわらず、先行者の商品形態をそっくりコピーして低コストで市場に投入する行為を容認すれば、先行者の投資回収が著しく困難となり、新商品の創出意欲が大きく損なわれてしまいます。本規定は、こうしたフリーライド行為を規制し、市場における公正な競争環境を維持することを目的としています。
もっとも、この保護には時間的制約があり、商品の最初の販売日から起算して3年間に限定されています(同法19条1項5号イ)。特許権や意匠権のような長期間の独占権ではなく、先行投資の回収に必要な最低限の期間だけ模倣から守ろうとする、比較的抑制的な制度といえます。
加えて、保護対象は「商品の形態」、つまり需要者が通常の使用場面で視覚等を通じて認識できる商品の外観・形状・質感等に限られます。そして法律上、重要な除外規定が存在します。「同種の商品が通常有する形態」――いわゆる「ありふれた形態」は保護の対象から外されているのです(同法2条1項3号括弧書)。
この除外規定は平成17年改正で導入されました。改正後は「同種の商品の機能及び効用が同一又は類似の商品」を比較対象とすることが条文上明確化されています。ありふれた形態にまで排他権を認めてしまうと、同業他社の製品開発の余地を過度に狭めてしまうためです。
それでは、ある商品の外観が「ありふれた形態」に該当するか否かは、いかなる基準で判定されるのでしょうか。そして、保護を受けるためにはデザインの「独創性」が求められるのでしょうか。これらの論点が真正面から争われたのが本件判決です。
事案の概要
原告X社は、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS Lite」「ニンテンドーDSi」「ニンテンドーDSi LL」の各機種に対応したコイル状ストラップ付きタッチペンを開発・販売していました。X社製品の特色は、コイル状のストラップによりタッチペンとゲーム機本体を連結し、不使用時にはペンを本体に収納できる点にありました。
一方、被告Y社も同種のコイル状ストラップ付きタッチペン(「ニンテンドーDSi」「ニンテンドーDSi LL」用)を製造・販売しており、両社の商品はいずれもコイル状ストラップでタッチペンとゲーム機をつなぐという基本構成を共有し、全体的な外観も類似していました。
X社は、Y社製品がX社製品の形態を模倣したものであるとして、不正競争防止法2条1項3号および同法4条に基づく損害賠償を求めました。これに対しY社は、X社製品の形態には独創性がなく法的保護に値しないこと、さらにその形態は「ありふれた形態」に該当するため保護対象外であることなどを主張して反論しました。
争点と裁判所の判断
争点1:商品形態の保護に「独創性」は必要か
Y社は、X社の商品形態は独創的ではないため法的保護の対象とならないと主張しました。
この点について裁判所は、きわめて重要な判断を下しました。裁判所はまず、不競法2条1項3号の立法趣旨として、他者が資金や労力を投じて商品化した形態を模倣して市場に提供する行為は先行者の市場利益を減殺し、事業者間の公正な競争を阻害するものであると指摘しました。
そのうえで、保護の要件に関して「商品の形態は必ずしも独創的であることを要しない」と明言しました。ここでの重要なポイントは、同号が商品の形態を「商品全体の形態」として把握している点です。裁判所は、商品全体の外観が独創的でなかったとしても、同種商品が通常備えている形態に該当しない限り保護が及ぶと判示しました。
換言すれば、「不正競争に該当しない」と反論する被告側において、当該形態が「ありふれた形態」であることを証明しなければならないという立証構造が示されたことになります。つまり、構成要素の一つひとつが既知のものであっても、それらの組合せ全体として同種商品と比べて何の特徴もないとまではいえない場合には、保護の対象となりうるということです。
争点2:「ありふれた形態」はどのように判断されるか
次に、「ありふれた形態」への該当性をどう判定するかが問題となりました。
裁判所は、商品形態が不競法2条1項3号の保護対象外となる「ありふれた形態」に当たるか否かは、商品を全体として観察して判断すべきであるとの立場を示しました。すなわち、全体の形態を構成する各部分を個別に取り出して「ありふれているか」を判定し、さらにそれらの組合せが容易かどうかで結論づけるという分析手法は妥当でないとしたのです。
具体的には、Y社が示した同業他社製品の形態と比較検討した結果、いずれもX社製品の形態とは全体としての外観が異なっていたことから、X社製品の形態が同種商品と比較して何の特徴も有しない「ありふれた形態」とはいえないと結論づけました。
ただし、裁判所は、保護を求める側の商品と完全に同一の形態を持つ他社製品が現に市場に存在するような場合には「ありふれた形態」と認定される可能性があることにも言及しており、同一形態の市場における存否が一つの重要な判断指標となることを示唆しています。
この全体観察アプローチは、不正競争防止法における形態模倣規制の趣旨と合致するものです。本規定は商品形態の創作的価値を保護する制度ではなく、先行者の投下資本を守る仕組みです。そのため、「各パーツが既知であるか」という創作性の視点ではなく、「全体として同種商品と識別可能か」という市場における区別可能性の視点から判定することが合理的だと考えられます。
本判決の意義と実務上の示唆
本判決は、不競法2条1項3号に基づく商品形態保護について、いくつかの重要な指針を提示しました。
第一に、保護を受けるために形態の独創性は不要であることを明確にした点です。これは、新規性や創作性を要件とする特許法・意匠法とは異なり、フリーライドの防止を目的とする不正競争防止法の形態模倣規制と整合する解釈です。先行者の投下資金・労力の保護という制度目的に照らせば、生み出された形態が創造的かどうかよりも、模倣行為それ自体の当否が問われるべきだからです。
第二に、「ありふれた形態」の認定に際しては商品全体を観察すべきとした点です。部分的に分解して個々の要素が「ありふれているか」を検討するのではなく、全体としての印象を重視する手法が採用されました。なお、この立場はその後の知財高裁平成26年2月26日判決(平成25年(ネ)第10075号・第10077号、電気マッサージ器事件)でも踏襲されています。
実務上の留意点
商品開発の場面では、各構成部品が既存のものであったとしても、その組合せ方に工夫があれば形態模倣の保護を受けうるため、組合せの独自性それ自体が法的保護の根拠となりえます。
反対に、模倣の疑いを回避するためには、先行商品とは異なる全体的印象を創出する工夫が不可欠です。構成要素の一部を変更しただけでは、なお模倣と判断されるリスクが残ります。
司法試験受験生へのポイント
商品形態模倣(不競法2条1項3号)の要件論として、「商品の形態」の定義と「ありふれた形態」の除外規定の解釈は出題可能性の高いテーマです。本判決が示した「独創性不要」「全体観察」という判断枠組みは確実に理解しておくべきでしょう。あわせて、意匠法における「創作非容易性」(意匠法3条2項)や著作権法における「創作性」の判断との対比も、論文式試験で問われやすい論点です。不正競争防止法がフリーライド防止を主眼とする制度であり、知的創作物の保護を直接の趣旨とする著作権法・意匠法とは保護根拠が質的に異なるという点を常に意識しておくことが重要です。
おわりに
本稿では、コイル状ストラップ付きタッチペン事件を題材として、不正競争防止法による商品形態保護の仕組みと「ありふれた形態」の判断手法について検討しました。
要点を整理すると、(1)不競法2条1項3号の保護を受けるために形態の独創性は要求されないこと、(2)「ありふれた形態」に該当するか否かは商品全体を観察して判定すること、(3)個々の構成要素が既知であっても、その組合せ全体に特徴が認められれば保護の対象となりうること、の3点に集約されます。
商品のデザインは、企業にとって大きな競争優位の源泉です。模倣被害から自社製品を守るためにも、また意図せず他社の権利を侵害してしまわないためにも、不正競争防止法の形態模倣規制を正しく理解しておくことはビジネスに関わるすべての方にとって有意義といえるでしょう。なお、本規定の保護期間は販売開始から3年に限られていますので、より長期にわたるデザイン保護を望む場合には、意匠登録出願の活用もあわせてご検討ください。
出典:
東京地判平成24年12月25日・平成23年(ワ)第36736号(コイル状ストラップ付きタッチペン事件)
裁判所HP|判決全文
参考判例:
知財高判平成26年2月26日・平成25年(ネ)第10075号・第10077号(電気マッサージ器事件)
裁判所HP|判決全文