はじめに
他人の登録商標「ROYAL FLAG」がすでに存在するとき、自社の著名ブランド名を頭に付けた「REEBOK ROYAL FLAG」は登録できるのでしょうか。
スポーツブランド・リーボックの出願を巡るこの問題で、知財高判平成28年1月20日(平成27年(行ケ)第10158号・審決取消請求事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトは、「ROYAL FLAG」部分の分離抽出を否定し、両商標は非類似として拒絶審決を取り消しました。
結合商標の分離観察に関する最高裁判例の枠組みを丁寧に適用した事例である一方、「著名ブランドを付ければ他人の商標と組み合わせても登録できてしまうのではないか」という、いわゆる商標の「横取り」問題を巡って学説上の批判もある判決です。実務上の意義と限界の両面から解説します。
前提知識の整理
- 結合商標の分離観察:複数の構成部分を組み合わせた商標は、全体観察が原則です。分離して観察することが取引上不自然なほど不可分に結合している場合、一部だけを抽出した類否判断は原則として許されません(リラ宝塚事件・最判昭和38年12月5日)。例外的に、①一部が出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や、②それ以外の部分から識別標識としての称呼・観念が生じない場合には、要部抽出が許されます(つつみのおひなっこや事件・最判平成20年9月8日)。
- ハウスマークとサブブランド:「メーカー名+商品シリーズ名」の二階建て構成は、アパレル・スポーツ用品業界の常套です。サブブランド部分だけで取引される実情があるかが、分離観察の可否を左右します。
事案の概要
リーボック インターナショナル リミテッドは平成25年、標準文字「REEBOK ROYAL FLAG」を第25類(履物・被服等)で出願しました。しかし特許庁は、先行登録商標「ROYAL FLAG」(第25類・登録第5532571号)と類似する(商標法4条1項11号)として拒絶。
特許庁側の理屈はこうです。「REEBOK」はハウスマーク、「ROYAL FLAG」はサブブランドと認識される。「リーボックロイヤルフラッグ」の称呼は13音節と冗長だから、ハウスマークを省略して「ロイヤルフラッグ」だけで取引されることも少なくない。だから「ROYAL FLAG」部分を抽出して比較すべきで、そうすれば引用商標と同一だ――。
リーボックが審決取消訴訟を提起したのが本件です。なお、「REEBOK」が日本の取引者・需要者に広く認識された著名ブランドであることは、当事者間に争いがありませんでした。

争点と裁判所の判断
分離観察の一般論
裁判所は、氷山印事件・小僧寿し事件の総合考察の枠組みを確認したうえで、結合商標について次の規範を示しました。
「複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,他方で,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許される」
「ROYAL FLAG」部分は抽出できない
あてはめでは、3つの理由が示されます。
第1に、外観の一体性。本願商標は標準文字で、各文字の大きさ・書体が同一、等間隔の一行表示であり、「「ROYAL FLAG」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない」。
第2に、「REEBOK」の著名性。争いのない著名性を前提に、「「REEBOK」の文字部分は,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える」とされました。つまり、強く支配的な印象を与えるのは抽出したい「ROYAL FLAG」側ではなく、「REEBOK」側なのです。
第3に、「ROYAL FLAG」の一般語性。ロイヤル・ウェディング、ロイヤルブルー、チェッカーフラッグ等の用例を挙げ、「一般的な英単語をつないだものにすぎない」とし、識別力が全くないわけではないが、「REEBOK」との対比において「強く支配的な印象を与えるものであるということはできない」としました。
結論として、「ROYAL FLAG」部分だけの抽出は相当でなく、全体または「REEBOK」部分と引用商標を対比すべきことになります。
取引の実情――ハウスマーク併記の商慣行
特許庁の「サブブランドのみで取引される」との主張に対し、裁判所は取引の実情を検討します。リーボック自身の「EASYTONE」「PUMP」等のサブブランド商品にはほぼすべて「REEBOK」商標が併記されているとの事実を認定し、
「本願商標の指定商品の分野において,ハウスマーク……を何ら用いず,サブブランド(商品シリーズの名称)のみを用いて,一般に商品取引が行われていることを認めるに足りる証拠は存在しない。」
としました。そのうえで、外観・称呼・観念のいずれも異なるとして非類似と結論づけ、審決を取り消しました。「リーボックロイヤルフラッグ」の称呼が冗長との主張も、「一連のものとして称呼することに格別の困難はない」と退けています。

実務への影響・ポイント
第1に、著名ハウスマークの付加は類否判断を大きく動かすことです。本判決の枠組みでは、著名ブランド名を冒頭に置いた結合商標は、著名部分が「強く支配的な印象」を持つがゆえに、残部の分離抽出が否定されやすくなります。宝焼酎/粋事件など同様の判断は他にもあり、裁判例の一つの潮流です。
第2に、しかし「横取り」批判があることです。この理屈を突き詰めると、他人の登録商標に自社の著名商標を付ければ登録できることになりかねません。先行商標「ROYAL FLAG」の権利者から見れば、自らの商標を含む後願が登録され、市場では「リーボックのロイヤルフラッグ」に埋没していく――逆混同・希釈化の懸念です。文献上も「著名なファミリーマークやハウスマークを付加すると容易に非類似に認定されることは登録場面でも侵害場面においても問題が大きい」との批判があり、本判決を引用する際はこの議論状況を踏まえる必要があります。
第3に、取引の実情の立証が勝敗を分けたことです。「サブブランド単独の取引慣行」の証拠がなかったことが、特許庁の分離観察論を退ける決め手でした。逆にいえば、サブブランドが単独で使用・宣伝されている実情を立証できる事案では、分離抽出が認められる余地があります(本判決も事例判断であり、サブブランド認識があれば常に分離不可とまでは述べていません)。
第4に、標準文字事案であることの限界です。本件は標準文字の一行表示という、外観の一体性が強い事案でした。同日に判決のあった併行事件(平成27年(行ケ)第10159号)は、「Reebok」を大きく、「ROYAL FLAG」を小さく配した図形付きロゴの出願であり、レイアウトが異なれば分析の力点も変わり得ます。
まとめ
- 「REEBOK ROYAL FLAG」からの「ROYAL FLAG」部分の分離抽出は否定され、引用商標「ROYAL FLAG」とは非類似とされた
- 決め手は、標準文字一行の外観の一体性、「REEBOK」の著名性(強く支配的な印象)、「ROYAL FLAG」の一般語性、そしてハウスマーク併記という取引の実情
- 著名ブランドの付加が非類似判断を導く枠組みには、先行商標権者の保護(逆混同・希釈化)の観点から学説上の批判もある
- サブブランド単独取引の実情の立証が、この種の事案の攻防の焦点になる
出典・参考判例
- 知財高判平成28年1月20日(平成27年(行ケ)第10158号・審決取消請求事件) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判昭和38年12月5日(リラ宝塚事件・民集17巻12号1621頁) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判平成20年9月8日(つつみのおひなっこや事件・裁判集民事228号561頁) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
参考文献
- 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)290〜296頁〔関真也〕
- 本多敬子「結合商標の類否と商標法第4条第1項第11号」髙部眞規子裁判官退官記念論文集編集委員会編『知的財産権訴訟の煌めき――髙部眞規子裁判官退官記念論文集』(金融財政事情研究会・2021年)344〜355頁
- 平澤卓人「商標権侵害訴訟における商標の類似性要件の実証的研究」知的財産法政策学研究57号(2020年)27頁
- 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)237頁・249頁
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。