商標法
2026/08/02

商標法50条の「使用」は商標的使用に限られない――イートウェル株式会社の不使用取消審判請求を退け、東都生活協同組合の「たべるん」商標登録を維持した知財高裁判決(令和8年6月29日・令和8年(行ケ)第10009号)

はじめに

東都生活協同組合(以下「東都生協」といいます)のウェブサイトに登場する3体のマスコットキャラクター。そのうちの1体の名前が「たべるん」でした。ただそれだけの事実で、東都生協が保有する「たべるん」の商標登録は不使用取消しを免れました。
取消審判を請求したイートウェル株式会社(以下「イートウェル」といいます)からすれば、「キャラクターの名前として出てくるだけで、商品やサービスの出所を示す使い方はしていないではないか」と言いたくなるところです。しかし知的財産高等裁判所は、その主張を採らず、イートウェルの請求を棄却しました。商標法50条にいう「使用」は、商標的使用(出所識別機能を果たす態様での使用)に限られない――これが本判決の核心です。
本記事で取り上げるのは、知的財産高等裁判所第2部 令和8年6月29日判決・令和8年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件判決文PDF・裁判所ウェブサイト。以下「たべるん事件」といいます)です。判決は、商標法26条1項6号という別の条文の存在を手がかりに、50条の「使用」を条文の文言どおりに読むべきだと述べました。不使用取消審判を攻める側・守る側の双方にとって、実務の勘所が詰まった判断です。

前提知識の整理

本判決を読むために必要な概念を、先に整理しておきます。

  • 不使用取消審判(商標法50条):登録商標が継続して3年以上日本国内で使用されていない場合に、何人も、その商標登録の取消しを求めて特許庁に審判を請求できる制度です。使われていない商標が独占状態を占め続けると他人の商標選択の幅を不当に狭めるため、これを是正する趣旨と説明されます。
  • 要証期間:使用の有無が問われる期間、すなわち審判請求の登録前3年間です(50条2項)。この期間内の使用を商標権者の側が立証できれば、登録は取り消されません。
  • 「使用」の定義(2条3項):本件で問題になった8号は、役務に関する広告に標章を付して電磁的方法により提供する行為を含み、ウェブサイトへの掲載がこれに当たります。
  • 商標的使用:商標権侵害の場面では、他人の標章を単に表示するだけでは足りず、自他商品・役務の識別標識として(出所を示す態様で)使用していることが必要と解されています。
  • 26条1項6号:需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識できる態様により使用されていない商標には商標権の効力が及ばない旨の規定で、平成26年改正で明文化されました。本判決は、この明文規定が「26条」にあることを50条の解釈の手がかりにしました。
  • 社会通念上同一:不使用取消審判では、書体を変えた場合など社会通念上同一と認められる商標の使用でも足ります(50条1項括弧書)。

図1 不使用取消審判のしくみと要証期間
▲ 図1 不使用取消審判のしくみと要証期間(審判請求の登録日から遡る3年間)

事案の概要

当事者と手続の流れ

まず、当事者の向きに注意が必要です。審決取消訴訟を提起したのは、取消審判を請求した側でした。商標権者が訴えられる側(被告)に立つため、「原告=権利者」という通常の感覚とは逆になります。

原告 被告
当事者 イートウェル株式会社(イートウェル) 東都生活協同組合(東都生協)
立場 不使用取消審判の請求人 本件商標の商標権者

イートウェルが、東都生協の有する商標登録について不使用取消審判を請求したものの、特許庁は令和7年12月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(取消2024-300908号事件)をしました。登録は維持されたわけです。これを不服として審決の取消しを求めて知財高裁に出訴したのが、請求人であるイートウェル(原告)です。
(以下、本文では原則として社名で記載します。判決文からの引用部分と本文中の図では、判決の表記に合わせて「原告」=イートウェル、「被告」=東都生協の役割語を用いています。)

本件商標

項目 内容
構成 「たべるん」の文字を横書きに表して成る
登録番号 商標登録第5741277号
出願日・登録日 平成26年9月8日出願/平成27年2月13日登録
指定役務 第35類の各種商品の「小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(飲食料品を含む多数の商品分野)
要証期間 令和3年12月17日から令和6年12月16日まで(審判請求の登録日である令和6年12月17日から遡る3年間)

図2 本件商標「たべるん」
▲ 図2 本件商標「たべるん」(出典:知的財産高等裁判所令和8年6月29日判決・令和8年(行ケ)第10009号 別紙「商標目録」)

商標権者(東都生協)が示した使用の事実

判決が「当裁判所の判断」で認定の根拠として摘示したのは、本件ウェブサイトの記載と組合員数に関する証拠(甲1、2、4、7)です。認定事実の要旨は次のとおりです。

  • 東都生協は消費生活協同組合法に基づく消費生活協同組合であり、令和6年3月20日時点の組合員数は約26万人であること
  • 東都生協が令和3年12月15日に公開した本件ウェブサイトには、プライベートブランド「わたしのこだわり」の説明に続き、「『わたしのこだわり』調査隊。」「みんなの疑問に答えます!」の見出しの下、3人のキャラクター図像とともに「くばるん」「たべるん」「つくるん」の文字と、「さんぼんすぎキャラクター『るんるんズ』」の文字が表示され、Q&A形式でプライベートブランド商品(飲食料品を含む)の画像や理念・品質・包装デザイン等の説明が記載されていること

つまり「たべるん」は、3体のマスコットキャラクターのうちの1体の名前という文脈で登場していたことになります。なお、判決は公開日を令和3年12月15日と認定したうえで要証期間内の使用があったと結論づけていますが、公開日と要証期間の始期(令和3年12月17日)との関係について、判決文は説明を加えていません。
図3 本件ウェブサイトにおける「たべるん」の表示文脈
▲ 図3 本件ウェブサイトにおける「たべるん」の表示文脈(判決の認定に基づく整理。図中の「被告」は東都生協を指します)

争点

判決は、争点を次のとおり明示しています。

争点は、審判の請求の登録前3年以内における当該登録商標の使用の事実の存否である。

実質的な対立点は、次の2点です。

  1. 争点1:50条2項本文にいう「登録商標の使用をしている」というためには、需要者が出所を識別できる態様での使用(商標的使用)であることを要するか
  2. 争点2:本件ウェブサイトにおける「たべるん」の表示が、請求役務についての2条3項8号の「使用」に当たるか

裁判所の判断

争点1:50条の「使用」は商標的使用に限られない

イートウェル(原告)は、次のように主張しました。

「使用」の事実の存否は、単に標章が表示されているという事実のみならず・・・当該表示が需要者にとって出所識別標識として理解されるか否かという観点から判断されるべきである。

(「・・・」は引用に当たっての省略箇所です。)
これに対し、知財高裁が示した規範が本判決の核心です。

同条2項本文にいう「登録商標の使用をしている」というためには、その文言のとおり、当該登録商標が、請求に係る指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、需要者において何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識し得る態様により使用されていることまで要しないと解するのが相当である。

そして裁判所は、イートウェルの上記主張について「原告の主張は採用できない。」と結論づけました。
手がかりとされたのは、①50条1項・2項の趣旨(使用されていない登録商標への独占排他権の付与が国民一般の利益を害し、第三者の商標選択の余地を不当に狭めるという公益上の要請)、②2条の「商標」の定義との関係、③26条1項6号との対比です。商標的使用がされていない商標に効力が及ばないことは26条1項6号という明文で手当てされており、裏を返せば50条にはそのような限定の文言が置かれていない――という理路です。
つまり「商標的使用であること」という絞りは、商標権の効力の場面(26条)に置かれた規律であって、不使用取消しの場面(50条)に持ち込むべきものではないという整理です。
図4 商標法26条1項6号と50条の切り分け
▲ 図4 商標法26条1項6号(効力の場面)と50条(不使用取消しの場面)の切り分け

争点2:東都生協のウェブサイトの表示は2条3項8号の「使用」に当たる

裁判所は、東都生協のウェブサイトに表示された「たべるん」(使用商標)と本件商標について、「いずれも『たべるん』の文字を横書きに表して成るもので、社会通念上同一のものと認められる」としました。
そのうえで、結論は次のとおりです。

本件商標の商標権者である被告は、本件ウェブサイトの公開により、要証期間内に日本国内において、請求役務の一つである「飲食料品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について、役務に関する広告に使用商標を付して電磁的方法により提供する行為により商標法2条3項8号に該当する「使用」をしたと認めることができ、そうすると、同法50条2項本文により、請求役務について本件商標の登録を取り消すことはできないというべきである。

主文は「1 原告の請求を棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。」であり、審決が維持されました。すなわち、イートウェルの請求は棄却され、東都生協の商標登録第5741277号は取り消されなかったことになります。

判決の意義・射程

本判決の意義は、次の3点に整理できます。
第1に、50条の「使用」について商標的使用への限定を正面から否定したこと。商標権侵害訴訟に慣れた感覚では「識別標識として使われていなければ商標の使用ではない」と考えがちですが、本判決は、その発想が妥当するのは26条の場面であって50条の場面ではないと切り分けました。同じ「使用」という言葉でも、置かれた条文によって射程が異なるということです。
第2に、平成26年改正で新設された26条1項6号を50条の解釈の手がかりとして用いたこと。明文規定が置かれている場所そのものが他の条文の解釈を規定するという、条文構造からの体系解釈の一例です。
第3に、キャラクター名としての表示であっても50条の「使用」に当たり得るとしたこと。ブランド名やサービス名としてではなく、マスコットキャラクターの呼称として表示されていたにすぎない標章について、要証期間内の使用が認められました。

裁判例は分かれていた――本判決の位置づけ

もっとも、この論点は裁判例が分かれてきた領域です。標準的な体系書も、「ここでの使用が登録商標の商標的使用であることが必要か否かについては肯定する裁判例と否定する裁判例がある。」と整理しています(小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)529頁。要すると解した例として東京高判平成13年2月28日判時1749号138頁〔DALE CARNEGIE事件〕等、要しないと解した例として東京高判平成3年2月28日知的集23巻1号163頁〔POLA事件〕等が挙げられています)。本判決は、このうち後者に立つ最新の判断と位置づけられます。同書自身は制度趣旨から商標的使用を要すると解しており(同書530頁)、学説上は異なる見解も有力ですので、本判決の規範が今後どこまで定着するかはなお見守る必要があります。
射程にも注意が必要です。本判決が判断したのはあくまで50条の「使用」の該当性であり、この登録商標を第三者が使用した場合に商標権侵害となるか、26条1項6号によって効力が及ばないとされるかは、本判決が判断した事項ではありません。「不使用取消しを免れた」ことと「侵害を追及できる」こととは別の問題です。

実務への影響・ポイント

取消審判を請求する側(攻める側)

「出所識別標識として使われていない」という攻め方は、50条の場面では通りにくいと考えるべきです。攻めどころは、①要証期間内の使用か(期間外の証拠ではないか)、②指定商品・役務との対応関係、③社会通念上同一の範囲か、④商標権者・専用使用権者・通常使用権者による使用か、⑤証拠の作成日・公開日が要証期間内であることを特定できているかに移ります。
事前調査では、相手方のウェブサイトを隅々まで確認しておくことも重要です。本件のように、商品名ではなくキャラクター名やコーナー名として登録商標が埋め込まれている例は少なくありません。

商標権者の側(守る側)

日付が特定できる形で使用の記録を残すことが決定的に重要です。掲載していた事実だけでなく、要証期間内に公開されていたことを示せなければなりません。公開日が特定できるウェブアーカイブの記録、CMSの更新履歴、公開日を記した社内の制作記録などを日常的に保存しておきましょう。ウェブページは改訂のたびに過去の表示が失われるため、リニューアル前の画面を日付とともにPDF等で保存しておく単純な運用が、3年後の防御力になります。
使用の場面は商品パッケージやサービス名に限られません。キャラクター名やコーナー名を含め、登録商標が現れているあらゆる箇所を棚卸ししておくと主張の幅が広がります。

まとめ

  • 50条2項本文の「登録商標の使用をしている」というためには、指定商品・役務について何らかの態様で使用されていれば足り、需要者が出所を認識し得る態様での使用までは要しない
  • 根拠は、不使用取消制度の公益的趣旨と、商標的使用でない商標には効力が及ばない旨を定めた26条1項6号との対比にある
  • 東都生協のウェブサイトで3体のマスコットキャラクターのうち1体の名称として「たべるん」が表示されていた事実により、2条3項8号の「使用」が認められ、イートウェルの請求は棄却されて審決が維持された
  • 請求する側は「出所表示になっていない」という攻め方に頼れない。守る側は公開日・作成日が特定できる形で使用証拠を残しておくことが最大の防御になる

いずれの立場でも、勝負を分けるのは「3年間の記録」です。自社の登録商標について取消審判を請求されてお困りの方、逆に他社の登録商標が障害になって出願・事業展開が進まないという方は、虎ノ門法律特許事務所までご相談ください。商標の出願・審判から審決取消訴訟、侵害訴訟まで対応しており、使用証拠の棚卸しや記録保存の体制づくりもお手伝いいたします。

出典・参考判例

本件

  • たべるん事件:知的財産高等裁判所第2部 令和8年6月29日判決・令和8年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件(口頭弁論終結日 令和8年5月13日。裁判長裁判官 森冨義明、裁判官 菊池絵理、頼晋一)・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • 当事者:原告=イートウェル株式会社(不使用取消審判の請求人)/被告=東都生活協同組合(本件商標の商標権者)
  • 対象審決:特許庁 取消2024-300908号事件について令和7年12月18日にした「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(謄本送達 同月25日)
  • 本件商標:商標登録第5741277号(「たべるん」・第35類)。
  • 参照条文:商標法2条3項8号、26条1項6号、50条1項・2項

参考文献

  • 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)521〜539頁
  • 山内真之「商標権侵害訴訟における,いわゆる『商標的使用』について~平成27年4月1日施行の法改正とその後の裁判例の状況~」AIPPI62巻6号(2017年)14〜24頁

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