泉岳寺事件(東京高裁平成8年7月24日判決)

本裁判例は、不正競争防止法2条1項1号の混同についての判断が示された高裁判決です。Y(東京都-被告・被控訴人)は昭和43年に都営地下鉄浅草線の駅名として「泉岳寺」を告示し、同年に開業以来その駅名をずっと使用してきました。X(宗教法人泉岳寺-原告・控訴人)は、不正競争防止法2条1項1号、法人の氏名権(名称権)などを理由として「泉岳寺」の駅名使用の差止を求めた事件です。原審では宗教法人が都営地下鉄事業を行うことは一般的にありえないこと等から混同を生ずるおそれはないとしてXの請求を棄却しました。これを不服としてXが控訴したというものです。 東京高裁は以下のように判事しました。「都営地下鉄事業は、地方公営企業法に基づき、地方公共団体であるYが行う事業であって、(省略)Xのような宗教法人が都営地下鉄事業を行うことは法的にありえないことであり、仮にX主張のように宗教法人としてのXの行う関連事業が同法(不正競争防止法2条1項1号)の営業にあたる場合があるとしても、このXの行う営業とYの行っている都営地下鉄事業とは明白に区別できる別種の営業とみられるものであるから、一般人が、Yの本件駅名使用行為により泉岳寺駅の営業ないし都営地下鉄浅草線の地下鉄事業をXないしその関連企業による営業と誤認し、あるいはXとYとが何らかの経済的、組織的関連があると誤認することは通常考えられず、したがって『泉岳寺』との名称が著名であることを考慮に入れても、広義の混同を含め営業の混同を生ずるおそれがないことは明らかである。」としてXの控訴を棄却しました。 不正競争防止法上の混同については、営業上の混同を生ずるか否かで判断することとなります。この高裁判決では、駅である「泉岳寺」を表示する営業主体が都営地下鉄となっていますから、営業主体が東京都であることは明らかですし、「泉岳寺」の営業主体は宗教法人であることは明らかですから、いくら「泉岳寺」が著名な寺であるからといって混同を生じるとは考えにくいので高裁の判決は妥当だと思われます。

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