ブルーノート事件 知財高裁平成23年9月14日判決

原告は、「BLUE NOTE」又は「ブルーノート」という商標(以下、これらをまとめて「引用商標」とします。)を引用して、本件商標の登録は、商標法4条1項15号、19号に該当するなどと主張し、本件商標登録を無効とすることを求めて、審判請求をしましたが、特許庁は、本件審判の請求は成り立たないとする旨の審決をしました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
本件は、知財高裁が「総合小売等役務」及び「特定小売等役務」の独占権の範囲について言及した点で注目を集めた事件です。
知財高裁は、「まず、『特定小売等役務』においては、取扱商品の種類が特定されていることから、特定された商品の小売等の業務において行われる便益提供たる役務は、その特定された取扱商品の小売等という業務目的(販売促進目的、効率化目的など)によって、特定(明確化)がされているといえる。そうすると、本件においても、本件商標権者が本件特定小売等役務について有する専有権の範囲は、小売等の業務において行われる全ての役務のうち、合理的な取引通念に照らし、特定された取扱商品に係る小売等の業務との間で、目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当である(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。 次に、『総合小売等役務』においては、『衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品』などとされており、取扱商品の種類からは、何ら特定がされていないが、他方、『各種商品を一括して取り扱う小売』との特定がされていることから、一括的に扱われなければならないという『小売等の類型、態様』からの制約が付されている。したがって、商標権者が総合小売等役務について有する専有権の範囲は、小売等の業務において行われる全ての役務のうち、合理的な取引通念に照らし、『衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品』を『一括して取り扱う』小売等の業務との間で、目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当であり(侵害行為については類似の役務態様を含む。)、本件においても、本件商標権者が本件総合小売等役務について有する専有権ないし独占権の範囲は上記のように解すべきである。そうだとすると、第三者において、本件商標と同一又は類似のものを使用していた事実があったとしても、『衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品』を『一括して取り扱う』小売等の業務の手段としての役務態様(類似を含む。)において使用していない場合、すなわち、【1】第三者が、『衣料品、飲食料品及び生活用品に係る』各種商品のうちの一部の商品しか、小売等の取扱いの対象にしていない場合(総合小売等の業務態様でない場合)、あるいは、【2】第三者が、『衣料品、飲食料品及び生活用品に係る』各種商品に属する商品を取扱いの対象とする業態を行っている場合であったとして、それが、『衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う』小売等の一部のみに向けた(例えば、一部の販売促進等に向けた)役務についてであって、各種商品の全体に向けた役務ではない場合には、本件総合小売等役務に係る独占権の範囲に含まれず、商標権者は、独占権を行使することはできないものというべきである(なお、商標登録の取消しの審判における、商標権者等による総合小売等役務商標の『使用』の意義も同様に理解すべきである。)。『総合小売等役務商標』の独占権の範囲を、このように解することによって、はじめて、他の『特定小売等役務商標』の独占権の範囲との重複を避けることができる。」との判断を示しました。

上記の判断基準に立ったうえで、4条1項15号該当性について以下のように判断しています。
4条1項15号該当性について知財高裁は、「原告は、米国カリフォルニア州ハリウッドに本社を置く大手のレコード製作、販売会社の一つであり、米国ニューヨークで、昭和14年に創設されたジャズ音楽専門のレコード製作、販売会社『BLUE NOTE(ブルーノート)』(以下『ブルーノート社』という。)の親会社である。ブルーノート社は、ジャズ専門レーベルとして、今日に至るまで数多くのジャズ演奏家等の演奏曲を収録したレコード(CDも含む。)に『BLUE NOTE(ブルーノート)』の標章を付して、販売をした。また、我が国において、ブルーノート社は、遅くとも昭和40年代には、レコード(CDも含む。)の販売を開始し、また、昭和61年から平成8年まで、数々の著名ミュージシャンが出演した『ワン・ナイト・ウィズ・ブルーノート』のコンサート等を開催した。これらの事実によれば、本件商標の登録出願前から、『BLUE NOTE(ブルーノート)』の標章(引用商標)は、これに接する音楽関連の取引者、音楽愛好家などの需要者において、原告ないし原告の子会社であるブルーノート社の製作、販売等に係る『レコード(CDも含む。)』であると広く認識、理解されていたと認められる。しかし、同標章によって、原告ないし原告の子会社等の出所を示すものとして広く認識されるのは、商品『レコード(CDも含む。)』の販売等、又は、せいぜい同商品の販売等をする過程で行われる便益の提供に関連するものに限られるのであって、上記範囲を超えて広く知られていたとまでは認めることができない。...原告の引用商標の使用態様は、商品『レコード(CDを含む。)』の販売等又は同商品を販売等する過程で行われる便益の提供に限られるものであり、本件総合小売等役務を指定役務とする本件商標権を被告が有することによって保護される独占権の範囲に含まれるものではないから、被告が同商標を使用したとしても、需要者、取引者において、その役務の出所が原告であると混同するおそれがあると解することはできない。また、本件特定小売等役務には、『レコード(CDも含む。)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』は、含んでいないから、本件商標を本件特定小売等役務に使用することによって、原告の業務に係る商品又は役務との間で、出所の混同を来すことはない。」として4条1項15号に該当しないとした審決に誤りはないとしました。

お気軽にお問合せください!

お問合せ・ご相談

主な業務地域
日本全国

連絡先 お問合せフォーム