湯灌士事件 知財高裁平成27年9月16日判決

原告は、指定役務を第41、45類の「遺体の入浴・洗浄、湯灌、湯灌に関する相談、身の上相談」等とする商標「湯灌士」について商標登録出願を行いましたが、3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けました。 原告は、拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を受けましたので、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「本願商標は、『湯灌士』の漢字3文字を標準文字で表してなるものであり、本願商標から『ユカンシ』の称呼が生じる。広辞苑第六版(平成20年1月11日発行。乙1及び2)によれば、本願商標を構成する『湯灌』の語は、『納棺する前に死体を清めること。湯洗い。』を意味し、『士』の語は、『兵卒の指揮をつかさどる人。また、軍人。兵。』、『近世封建社会の身分の一つ。もののふ。さむらい。』、『学徳を修めたりっぱな男子。また、男子の敬称。』、『一定の資格・役割をもった者。』などを意味することが認められる。そして、『士』の語が『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられる場合には、『弁護士、弁理士、税理士、栄養士、消防士、航海士、機関士』などのように、その業務や役割などを表す語に続けて付されるのが通常であることからすると、『湯灌』、すなわち『納棺する前に死体を清めること。』という業務や役割を表す語に続けて付された『士』の語についても、『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられているものと自然に理解することができる。したがって、本願商標は、その言語構成に照らし、『納棺する前に死体を清める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものということができる。次に、証拠(甲9ないし20、24ないし28、乙3ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、【1】死体を棺に納める『納棺』の前には、死者の身体を洗い清め、死装束を着せ、髪型を整え、死化粧を施すなどの儀式が一般的に執り行われていること、【2】この儀式は、元来は遺族や親族によって執り行われていたが、必要な知識や技能を持つ者が、専業的に、葬儀業者の従業員として、あるいは葬儀業者から請け負って、遺族等とともに執り行うのが通常であること、【3】葬儀業者等のウェブサイト(乙3ないし9、13ないし17)及び新聞記事...には、この儀式を専業的に執り行う者を『湯灌士』と表示している例がみられることが認められる。以上によれば、本件審決日当時、本願商標は、その言語構成に照らし、『納棺する前に死体を清める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものであり、葬儀業者、遺族等によって納棺する前に死者の身体を洗い清めるなどの儀式を専業的に提供する者を表す語として認識されるものであったものと認められる。そうすると、本願商標は、本件役務である『湯灌、湯灌に関する相談、遺体の入浴・洗浄』に使用されたときは、その役務が『納棺する前に死体を清める資格ないし役割をもった者」によって提供されるという役務の質を表示するものとして、取引者、需要者である葬儀業者、遺族等によって一般に認識されるものであり、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他役務識別力を欠くものというべきである。加えて、本願商標は、標準文字で構成されているから、『湯灌士』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。」として原告の請求を棄却しました。

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