はじめに——「安く仕入れて転売しただけ」が刑事事件になる時代
海外の通販サイトでブランド品を安く仕入れ、フリマアプリで転売する。ブランドのスカーフをリメイクしてヘアアクセサリーを作り、SNSで販売する。こうした行為が、ある日突然、警察の捜査対象になることがあります。
警察庁の統計によれば、令和6年中の偽ブランド品等の商標権侵害事犯の検挙事件数は222件・検挙人員260人で、その80.6%がインターネットを利用したものでした。かつては偽ブランド品販売を業として行う者の逮捕が中心でしたが、近年はフリマサイト等を利用した偽ブランド品販売で一般の利用者が逮捕される事例もみられるようになっている、と指摘されています。
本記事では、①商標権侵害罪の全体像と法定刑、②どこまでが「侵害」か(詰め替え・リメイク・並行輸入)、③「知らなかった」がどこまで通るか(故意)、④登録商標がない場合の不正競争防止法違反、⑤フリマ・個人輸入の実務上の注意点、を解説します。
前提知識——商標権と「侵害」
商標権は、特許庁に出願し、審査を経て設定登録されることで発生します。商標権者は、指定した商品・役務について登録商標を独占的に使用でき(商標法25条)、他人が無断で同一の商標を同一の商品に使用すれば商標権侵害となります。さらに、類似の商標を使う行為や、類似の商品に使う行為も侵害と「みなされ」ます(37条1号)。侵害品を販売目的で所持する行為、侵害品を製造する道具を所持する行為なども、みなし侵害として捕捉されます(37条2号以下)。
ここで押さえておきたいのは、商標権侵害は民事と刑事とで構成要件が同じだという点です。民事上の侵害があれば、あとは故意があるかどうかで刑事責任が決まります。
商標権侵害罪の全体像——法定刑と非親告罪
| 罪名 | 条文 | 対象行為 | 法定刑 |
|---|---|---|---|
| 商標権侵害罪 | 商標法78条 | 登録商標と同一の商標を指定商品・役務に使用(直接侵害) | 10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科 |
| みなし侵害罪 | 商標法78条の2 | 類似商標・類似商品への使用、侵害品の譲渡目的所持など(37条のみなし侵害) | 5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科 |
| 両罰規定 | 商標法82条1項 | 法人の代表者・従業者が業務に関して上記の罪を犯した場合 | 法人に3億円以下の罰金 |

平成18年改正で商標権侵害罪の上限が引き上げられた際、みなし侵害罪は直接侵害行為の予備的・幇助的な行為を捕捉するものと位置づけられて据え置かれたため、両者に差が生じています。拘禁刑と罰金の併科が可能になったのも同改正であり、この種の犯罪が経済的利得を目的として行われることが多いことから抑止効果を高めるためだと説明されています。
重要なのは、商標権侵害罪が非親告罪であることです。特許権侵害罪や意匠権侵害罪の保護法益が権利者の個人的法益であるのに対し、商標権侵害罪の保護法益には、商品・役務の誤認混同から保護される一般需要者の利益という社会的法益も含まれると解されており、これが非親告罪とされていることや、他の知財犯罪に比べて検挙件数が圧倒的に多いことの理由と説明されています。権利者が「事を荒立てたくない」と考えていても、捜査は進み得るのです。
どこまでが「侵害」か——商標機能論と3つの境界事例
商標の類似性は、外観・観念・称呼などが取引者・需要者に与える印象を総合し、具体的な取引状況も踏まえて判断されます(最判昭和43年2月27日・民集22巻2号399頁〔氷山印事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。外観などの類似は出所の誤認混同を推測させる一応の基準にすぎず、他の点で著しく相違すれば非類似となることもあります(最判平成9年3月11日・民集51巻3号1055頁〔小僧寿し事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。
もっとも、偽ブランド品の事案では商標の類似性が争われることは少なく、実際に問題となるのは「本物に関わる行為がなぜ侵害になるのか」という境界事例です。判例は、商標の出所表示機能・品質保証機能が害されない限り侵害にならないという商標機能論を採っており、実務上は次の3類型が問題となります。

中身が本物でも「詰め替え」は犯罪
最決昭和46年7月20日(刑集25巻5号739頁〔ハイ・ミー事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)は、正当な権限なく指定商品の包装に登録商標を付したものを販売目的で所持した事案で、「その中身が商標権者自身の製品でしかも新品であることは商標法三七条二号、七八条の罪の成立になんら影響を及ぼさない」と判示しました。運搬用・商品保護用の段ボール箱も「商品の包装」にあたり、みなし侵害行為は「必ずしも業としてなされることを必要としない」とも述べています。中身が本物であることは、無断で商標を付す行為の免罪符にはなりません。小分けや再包装によって品質が変わり得る以上、品質保証機能が害されるからです。
改造品・「脱獄」iPhone
真正品を改変して販売する行為について、千葉地判平成29年5月18日(判時2365号118頁)は、OSを改変したiPhone(いわゆる脱獄iPhone)の販売につき、品質が真正品と実質的に差異がなく商標の機能が害されない場合には実質的違法性を欠くが、そうでない場合には商標権侵害罪が成立するとし、本件では成立を認めました。
並行輸入は「3要件」を満たせば適法
海外で正規に販売された真正品を輸入して販売する並行輸入は、常に適法なわけではありません。最判平成15年2月27日(民集57巻2号125頁〔フレッド・ペリー事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)は、①当該商標が外国の商標権者またはその使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、②外国の商標権者と日本の商標権者が同一人または法律的・経済的に同一視できる関係にあり、③日本の商標権者が品質管理を行い得る立場にあることから品質に実質的な差異がないと評価される場合に限り、「いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く」としました。同事件では、ライセンス契約で禁じられた地域の工場で下請製造された商品について、出所表示機能・品質保証機能を害するとして侵害が認められています。
「知らなかった」はどこまで通るか——故意と違法性の意識

商標権侵害罪は故意犯です。他人の登録商標の存在と、それと同一・類似の商標を同一・類似の商品に使用することの認識が必要ですが、「出所の混同を生じさせよう」という意思や、不正の利益を得る意図までは不要とされています。混同のおそれの認識まで要求すると、商標法に詳しい専門家にしか故意犯が成立しないことになってしまう、と指摘されています。
さらに、判例上は未必の故意で足ります。登録商標の存在を確定的に知らなくても、「他人の登録商標を無断で使用することになるかもしれない」という程度の認識があれば故意が認められた例があります(大阪地判平成5年1月13日判タ840号244頁〔ウォーリー事件〕)。フリマで「本物かどうか怪しいが、安いから仕入れて売ろう」という態度は、まさにこの未必の故意にあたり得ます。
「違法だと知らなかった」という主張(違法性の錯誤)も、原則として故意を否定しません。裁判例は、違法性の意識を欠いたことに相当の理由がない限り犯罪は成立するとし、相当の理由の例として、確立した判例や所管官庁の責任ある回答に従った場合を挙げています(大阪高判昭和63年9月20日判時1306号135頁〔SUNTORY事件〕)。
リメイク品・ハンドメイド品の落とし穴
偽ブランド品の製造販売が犯罪であることは多くの人が当然と考えていますが、見落とされやすいのがリメイク品です。正規品を購入するときにラッピングしてもらったブランドのマーク入りのリボンをあしらったバッグを製作して販売する、ブランドのロゴが含まれるスカーフをリメイクしてヘアアクセサリーを製作して販売するといった行為も、商標権侵害罪の構成要件に該当する場合があることに注意が必要です。個人で楽しむ限りは問題にならなかったものが、オンラインショップやSNSで販売する者が現れたことで、実際に逮捕に至る事例も見られるようになったと指摘されています。
ブランドのロゴが付いたリメイク品は、ロゴが商品の出所を示すものとして需要者に認識される限り「商標の使用」にあたり、品質保証機能を害するおそれがあるからです。
登録商標がなくても——不正競争防止法上の罪
偽ブランド品の事案では、商標法と並んで不正競争防止法の罰則も用いられます。同法21条3項は、次の2類型を5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金(併科あり)で処罰し、法人には3億円以下の罰金が科されます(22条1項3号)。
| 罪名 | 条文 | 要件の骨子 |
|---|---|---|
| 周知表示混同惹起罪 | 不競法21条3項1号(2条1項1号) | 需要者の間に広く認識されている他人の商品等表示と同一・類似の表示を使用等して混同を生じさせる行為を、不正の目的で行うこと |
| 著名表示冒用罪 | 不競法21条3項2号(2条1項2号) | 他人の著名な商品等表示と同一・類似の表示を自己の商品等表示として使用等する行為を、その信用・名声を利用して不正の利益を得る目的、またはその信用・名声を害する目的で行うこと(混同は不要) |
「不正の目的」について、最高裁は旧法の「不正ノ競争ノ目的」を「公序良俗、信義衡平に反する手段によつて、他人の営業と同種または類似の行為をなし、その者と営業上の競争をする意図」と解しています(最大判昭和35年4月6日・刑集14巻5号525頁〔菊屋事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。著名表示冒用罪は、著名ブランドへの「ただ乗り」(フリーライド)と、ブランド価値を薄める「希釈化」を防ぐために平成17年改正で新設されたもので、混同や実際の信用低下の発生は要件ではありません。
商標法との違いは、主観的要件にあります。商標権侵害罪は民事上の侵害があれば直ちに構成要件を満たすのに対し、不競法上の罪は「不正の目的」等の目的要件が加わります。他方、不競法は登録の有無を問わないため、未登録でも周知・著名な表示(商品の形態、キャラクターの柄など)を保護できます。同じ行為が両罪にあたる場合は観念的競合となり、重い方の刑で処断されます。
なお、他人の商品を「偽物だ」と虚偽の事実を述べて信用を害する行為は、刑法の信用毀損罪の問題です。YouTuberが洋服店で買ったTシャツを根拠なく偽ブランド品だと主張して動画を公開した事案で信用毀損罪・威力業務妨害罪が認められた裁判例があります(名古屋地判令和3年8月27日〔岡崎支部〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)。
実務への影響——フリマ転売・個人輸入・事業者
フリマアプリで転売する人へ。 商標の「使用」は「業として」行われることが前提ですが(商標法2条1項)、反復継続して転売すれば「業として」にあたり得ます。仕入れ先が海外の格安サイトで、正規品との価格差が極端であれば、「偽物かもしれない」という未必の故意が認定されるリスクは高まります。真贋が不明な商品を出品しないことが唯一の対策です。
個人輸入をする人へ。 自分で使う目的で偽ブランド品を1点購入すること自体は「業として」の使用ではないため、購入者が商標権侵害罪に問われることは通常ありません。しかし、令和3年改正により、海外の事業者が日本国内の個人に商品を送付する行為も、その事業者による「輸入」に含まれることになりました(商標法2条7項)。改正前は、事業者が介在する輸入は侵害となる一方で、個人使用目的の輸入は侵害にならないという不均衡がありました。越境ECにより海外事業者から国内の個人宛に偽ブランド品が直接販売・送付される状況が急増したことに対応した改正だと説明されています。偽ブランド品は関税法により税関で没収等の対象となり、手元に届きません。
事業者へ。 従業員が業務に関して侵害品を販売すれば、法人にも最大3億円の罰金が科されます(両罰規定)。仕入れ時の真贋確認、並行輸入品についての3要件の確認、ブランドロゴを含む素材の二次利用の管理が必要です。権利者の側では、非親告罪であることを踏まえ、税関への輸入差止申立て、フリマ運営者への削除要請、警察への情報提供を組み合わせた対応が考えられます。
まとめ
- 偽ブランド品の販売・所持・輸入は商標権侵害罪(最長10年・1000万円)またはみなし侵害罪(最長5年・500万円)にあたり、非親告罪である
- 中身が本物でも無断の詰め替え・再包装は犯罪(ハイ・ミー事件)。改造品は品質に実質的差異があれば侵害。並行輸入はフレッド・ペリー事件の3要件を満たす場合に限り適法
- 故意は未必で足り、「違法と知らなかった」は相当の理由がない限り通用しない。ブランド素材のリメイク品の販売も構成要件に該当し得る
- 登録商標がなくても、周知・著名表示を不正の目的で使えば不正競争防止法違反(最長5年・500万円、法人3億円)
自社のブランドが模倣されている方、仕入れた商品の真贋や並行輸入の適法性に不安のある方は、早めに弁護士にご相談ください。
警察から連絡が来た・示談を検討している方へ
フリマアプリでの転売や仕入れについて警察から任意の事情聴取を求められた、権利者側から示談の連絡があった――こうした場面では、取調べにどう答えるか、示談をいつ・いくらで行うかは、その後の処分(不起訴・略式・公判)に直結します。当事務所は商標法・不正競争防止法の民事事件に加え、知的財産に関わる刑事事件の弁護活動にも対応しています。連絡を受けた段階で、供述や示談の前にご相談ください。
法律相談は60分1万1000円(税込)。東京・虎ノ門でのご来所のほか、全国からのウェブ面談・電話・LINEに対応しています。
出典・参考判例
- 最決昭和46年7月20日・刑集25巻5号739頁〔ハイ・ミー事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判平成15年2月27日・民集57巻2号125頁〔フレッド・ペリー事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判昭和43年2月27日・民集22巻2号399頁〔氷山印事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判平成9年3月11日・民集51巻3号1055頁〔小僧寿し事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最大判昭和35年4月6日・刑集14巻5号525頁〔菊屋事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 名古屋地判令和3年8月27日(岡崎支部)・令和2年(わ)第360号ほか・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 千葉地判平成29年5月18日・判時2365号118頁(脱獄iPhone事件)、大阪地判平成5年1月13日・判タ840号244頁(ウォーリー事件)、大阪高判昭和63年9月20日・判時1306号135頁(SUNTORY事件)(いずれも裁判所ウェブサイト未登載)
- 商標法2条・25条・37条・78条・78条の2・82条、不正競争防止法2条1項1号・2号・21条3項・22条
参考文献
- 深町晋也・西貝吉晃・金子敏哉編『情報刑法Ⅱ コンテンツ関連犯罪』(弘文堂、2026年)第6章「商標権侵害罪・不正競争防止法上の商品等表示に関する罪」178〜207頁
- 小野昌延・三山峻司『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院、2025年)377〜384頁
- 経済産業省知的財産政策室編『逐条解説 不正競争防止法』(令和6年4月1日施行版)272〜273頁、301〜302頁
免責事項
本記事は、裁判所ウェブサイトで公開されている判決情報および一般的な法律情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。実際の対応にあたっては、必ず弁護士にご相談ください。

この記事の執筆・監修
虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司
第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。