不正競争防止法
2026/08/02

靴底の赤は誰のものか――ルブタン「レッドソール」事件(知財高判令和4年12月26日・令和5年1月31日)にみる色彩商標のハードル

はじめに

赤い靴底のハイヒールと聞けば、多くのファッション愛好家が「クリスチャン・ルブタン」を思い浮かべるでしょう。では、その「赤い靴底」自体を、法律で独占することはできるのでしょうか。

この問いをめぐって、ルブタン側は日本で二つの法的ルートに挑みました。一つは、「女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色」を、付する位置を靴底部分に特定した色彩のみからなる商標として商標登録するルート。もう一つは、赤い靴底を不正競争防止法上の商品等表示として、赤色ゴム底のハイヒールを販売する日本企業を訴えるルートです。結論からいえば、どちらもルブタン側の敗訴に終わりました。

  • 色彩商標の登録:拒絶審決が維持されたルブタン色彩商標事件(レッドソール)(知財高判令和5年1月31日・令和4年(行ケ)第10089号)判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • 不正競争防止法に基づく差止め等:請求棄却が維持されたルブタン対エイゾーコレクション事件(東京地判令和4年3月11日・平成31年(ワ)第11108号、控訴審・知財高判令和4年12月26日・令和4年(ネ)第10051号)判決文PDF・裁判所ウェブサイト(控訴審)

単一の色彩をブランドの目印として独占することが、日本法上いかに高いハードルなのか。二つの判決は、その理由を丁寧に説明しています。この記事では、両判決の判断枠組みを整理し、色彩ブランディングの実務への示唆を解説します。

前提知識の整理

  • 新しいタイプの商標:平成26年改正商標法(平成27年4月施行)により、従来の文字・図形等に加えて、色彩のみからなる商標・音商標・動き商標・ホログラム商標・位置商標が登録できるようになりました。
  • 色彩のみからなる商標:文字や図形を含まない、色彩だけで構成される商標です。ルブタンの出願は、「赤色(PANTONE 18-1663TP)」を付する位置を「女性用ハイヒール靴の靴底部分」に特定した色彩のみからなる商標でした(文字や図形等の標章と位置の組合せである「位置商標」とは別の類型です。本判決も、本願商標を「輪郭のない単一の色彩」のみからなる商標として扱っています)。
  • 商標法3条1項3号:商品の形状・品質等を普通に用いられる方法で表示するだけの商標は、識別力がないため登録できないとする規定です。商品の色彩はこれに該当し得ます。
  • 商標法3条2項:本来識別力のない商標でも、使用の結果、需要者が特定の事業者の商品と認識できるようになった場合には登録を認める規定です。立体商標では、マグライト事件(知財高判平成19年6月27日・平成18年(行ケ)第10555号・判例時報1984号3頁)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトなどで適用が認められてきました。
  • 不正競争防止法2条1項1号・2号:他人の周知な商品等表示と類似の表示を使用して混同を生じさせる行為(1号)、他人の著名な商品等表示と類似の表示を使用する行為(2号)を不正競争とする規定です。商標登録がなくても、表示が出所表示として周知・著名であれば保護され得ます。

判例の紹介と分析

事案の概要――二つのルート

色彩商標事件の原告は、ブランド創設者である個人(判決上は「X」と表記)です。平成27年、「女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色(PANTONE 18-1663TP)」を色彩のみからなる商標として出願しましたが(商願2015-29921)、特許庁は3条1項3号に該当し3条2項の適用もないとして拒絶。不服審判でも拒絶審決となり、その取消しを求めて提訴しました。

判決の別紙には、出願された商標そのものの図が添付されています。破線のハイヒールの輪郭は「商標がどのように使用されるのかの一例」であって商標の構成要素ではなく、靴底部分の赤色だけが商標です。

本願商標(靴底部分の赤色。破線は使用例であり商標の構成要素ではない)
本願商標(靴底部分の赤色。破線は使用例であり商標の構成要素ではない)(出典:知的財産高等裁判所ウェブサイト掲載の知財高判令和5年1月31日(令和4年(行ケ)第10089号)判決別紙1)

不正競争事件の原告は、X氏と、ルブタンブランドを展開するクリスチャン ルブタン エス アー エス。被告は、赤色のゴム底を用いた女性用ハイヒールを販売する株式会社エイゾーコレクションです。原告らは、「女性用ハイヒールの靴底に付した赤色(PANTONE 18-1663TPG)」が周知・著名な商品等表示に当たるとして、販売差止め・廃棄と総額4000万円超の損害賠償を求めました。

一審判決の別紙には、両当事者の商品の写真が添付されています。ルブタンの商品(光沢のあるラッカーレッドの革底)と、被告商品(光沢のない赤色ゴム底)の質感の違いは、判決の理解に欠かせないポイントです。

原告商品(ルブタンのハイヒールと赤い靴底)
原告商品(ルブタンのハイヒールと赤い靴底)(出典:裁判所ウェブサイト掲載の東京地判令和4年3月11日(平成31年(ワ)第11108号)判決別紙・原告商品目録)
被告商品の外観(赤色ゴム底のハイヒール)
被告商品の外観(赤色ゴム底のハイヒール)(出典:同判決別紙・被告商品目録)
図1 「赤い靴底」をめぐる二つの手続の全体像
図1 「赤い靴底」をめぐる二つの手続の全体像

色彩商標事件の判断――「独占適応性」という高いハードル

知財高裁(令和5年1月31日判決)は、まず、商品の色彩の自由使用の要請を強調しました。

商品の色彩は,古来存在し,通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択されるものであり,……取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,原則として何人も自由に選択して使用できるものとすべきであり,特に,単一の色彩のみからなる商標については,同号の上記趣旨が強く妥当する

そのうえで、単一の色彩からなる商標の3条2項該当性について、次の規範を立てました。

単一の色彩のみからなる商標が同条同項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に当たるというためには,当該商標が使用をされた結果,特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること(独占適応性)を要する

通常の商標よりも一段高い「高度の識別力」を要求する、単一色彩特有の枠組みです。

あてはめでは、①赤色はファッション分野で広く用いられるありふれた色彩であること、②ルブタンの靴の中敷きには「Christian Louboutin」のロゴがあり、出所はロゴからも認識され得ること、③他の複数の事業者も赤い靴底のハイヒールを販売していたこと、④アンケート調査で示された認知度が「限定的」であることが指摘されました。

アンケートについては、主要都市在住のファッションに関心のある女性を対象としてもなお認知度が51.6%程度にとどまった点を捉えて、次のように評価しています。

本件アンケートは,ファッション関係にそれなりに関心のある主要都市に居住し,特定エリアでファッションアイテム等を購入する女性を調査対象としたにもかかわらず,本願商標の認知度は半数程度にとどまっており,全国の需要者層にまで調査対象を広げると,本願商標の認知度はこれよりも下回ることは容易に推認される

結論として、独占適応性を認めることはできないとして請求を棄却しました(拒絶審決の維持)。

不正競争事件の判断――「商品等表示」にすら当たらない

一審の東京地裁(令和4年3月11日判決・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)は、商品の形態(色彩を含む)が商品等表示に該当するための要件として、①特別顕著性(客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴)と②周知性(長期間の独占的利用または極めて強力な宣伝広告等による出所表示としての周知)という「出所表示要件」を要求する判断枠組みを示しました。

あてはめでは、赤い靴底自体の特別顕著性を否定したうえ、日本での販売期間が約20年にとどまり、自ら広告宣伝費を投じたテレビ・雑誌等の宣伝も行っていないことから周知性も否定。さらに、ルブタンの靴底が光沢のあるラッカーレッド(革底に赤色ラッカー塗装)であるのに対し、被告商品は光沢のない赤色ゴム底であるという質感の違いも指摘して、商品等表示該当性を否定しました。

控訴審の知財高裁(令和4年12月26日判決)は、判断の順序を変え、仮に類似するとしても混同のおそれがないことを先に認定しました。

被告商品と原告商品は,価格帯が大きく異なるものであって市場種別が異なる。また,女性用ハイヒールの需要者の多くは,実店舗で靴を手に取り,試着の上で購入している……それぞれの靴の中敷きにはブランドロゴが付されていることから,仮に,被告商品の靴底に付されている赤色が原告表示と類似するものであるとしても,……被告商品を「ルブタン」ブランドの商品であると誤認混同するおそれがあるといえないことは明らか

また、著名表示冒用(2条1項2号)についても、アンケートの認知度51.6%程度では「一定程度の需要者に商品出所を認識されているとはいえるが、それが著名なものに至っているとまでは評価することができない」として否定し、控訴を棄却しました。

図2 各判決の判断構造
図2 各判決の判断構造

判決の意義・射程

単一の色彩の独占に対する一貫した慎重姿勢

二つのルートの判決は、いずれも「色彩は本来誰もが自由に使えるもの」という出発点を共有しています。商標ルートでは「独占適応性」という高度の識別力要求として、不競法ルートでは特別顕著性・周知性という厳格な出所表示要件として現れました。付する位置を靴底に特定しても、色彩そのものの独占であることには変わりがない、というのが裁判所の基本姿勢です。

この姿勢は、新しいタイプの商標が導入される以前の裁判例とも連続しています。ジーンズのバックポケット上部の赤いタブの商品等表示性が否定されたリーバイス赤タブ事件(東京地判平成12年6月28日・平成8年(ワ)第12929号・判例時報1713号115頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト、控訴審・東京高判平成13年12月26日・平成12年(ネ)第3882号・判例時報1788号103頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)では、色彩的特徴自体の識別力が否定され、「LEVI’S」の文字部分が要部とされました。単色の標章からなる位置の商標について「色彩+位置の組合せの方が識別力獲得は認められやすい」との学説上の指摘(宮川・後掲888頁参照)もありましたが、ルブタン事件はその期待に対して厳しい現実を示したことになります。

ロゴ併用の「両刃の剣」

両判決とも、靴の中敷きの「Christian Louboutin」ロゴから出所が認識され得ることを、色彩自体の識別力を否定する方向で考慮しました。ブランドロゴの存在が、色彩単独の出所表示機能の立証を妨げるという構造は、色彩ブランディングを目指す事業者にとって悩ましい「両刃の剣」です。

アンケート調査の設計と評価

認知度約50%という数字は、直感的には相当高いようにも見えますが、裁判所は調査対象の限定(主要都市・ファッション関心層)を理由に割り引いて評価しました。色彩の識別力立証におけるアンケートの設計(対象者の範囲、質問方法、補正の方法)と、それがどこまで評価されるかは、今後の同種事案でも中心的な争点になるでしょう。

なお、米国では、ルブタンのレッドソールは連邦商標登録を得ており、単一色彩の商標保護を否定しないとする判例法理(Qualitex判決等)の下で、コントラストをなす赤い靴底の保護が認められています(宮川・後掲886頁以下参照)。同じ「赤い靴底」をめぐって日米で結論が分かれていることは、色彩商標の保護水準の国際的な違いを示す好例です。

実務への影響・ポイント

色彩ブランディングを目指す事業者へ

  • 単一の色彩の商標登録は、「高度の」識別力=独占適応性の立証を要し、きわめてハードルが高いのが現状です。
  • 現実的な戦略としては、①色彩とロゴ・文字を組み合わせた商標の登録、②商品形態としての意匠登録、③発売から3年以内であれば不正競争防止法2条1項3号(形態模倣)――といった重層的な保護設計が考えられます。
  • 将来の立証に備え、色彩を単独で出所表示として訴求する広告(色だけで自社を想起させるキャンペーン等)や、その効果測定資料を蓄積しておくことが重要です。

他社の「シグネチャーカラー」との関係

  • 逆の立場からは、他社が事実上シグネチャーカラーとして使う色彩であっても、商標登録や周知・著名な商品等表示として確立していない限り、直ちに使用が違法となるわけではありません。ただし、色彩に加えて形状・ロゴ・全体の商品イメージまで近づけると、混同惹起や形態模倣の問題が生じ得るため、個別の検討が必要です。

知財法を学ぶ方への視点

色彩商標事件の「独占適応性」は、3条2項の一般的な判断(使用による識別力獲得)に、単一色彩特有の公益調整を上乗せした概念です。立体商標の先例(マグライト事件等)との比較で、商標のタイプごとに3条2項のハードルがどう変わるかを整理しておくと、理解が深まります。また、不競法事件の一審(出所表示要件で処理)と控訴審(混同のおそれで処理)の判断構造の違いは、要件論の組み立ての好素材です。

まとめ

  • ルブタンの「レッドソール」は、日本では色彩のみからなる商標としての登録も、不正競争防止法上の保護も認められなかった
  • 単一の色彩の商標登録には、通常の識別力を超える「独占適応性」(高度の自他商品識別力)が要求される
  • 商品の色彩が商品等表示と認められるには特別顕著性と周知性が必要で、ロゴの存在や販売態様が色彩単独の識別力を否定する方向に働き得る
  • 認知度約50%のアンケート結果も、調査設計の限定を理由に「限定的」と評価された
  • 色彩ブランディングの法的保護は、色彩単独ではなく、ロゴ・意匠・形態模倣規制を組み合わせた重層的な設計が現実的である

「色」は最も強力なブランド要素の一つですが、法が単独での独占を認めることには、なお強い抑制が働いています。ブランド保護の設計は、この現実を踏まえて組み立てる必要があります。

出典・参考判例

本件(レッドソール2事件)

  • ルブタン色彩商標事件(レッドソール):知財高判令和5年1月31日・令和4年(行ケ)第10089号 審決取消請求事件・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • ルブタン対エイゾーコレクション事件(不正競争)

– 一審:東京地判令和4年3月11日・平成31年(ワ)第11108号 不正競争行為差止等請求事件・判決文PDF・裁判所ウェブサイト

– 控訴審:知財高判令和4年12月26日・令和4年(ネ)第10051号 不正競争行為差止等請求控訴事件・判決文PDF・裁判所ウェブサイト

本文で言及した関連裁判例

  • リーバイス赤タブ事件:東京地判平成12年6月28日・平成8年(ワ)第12929号(判例時報1713号115頁)・判決文PDF・裁判所ウェブサイト/控訴審・東京高判平成13年12月26日・平成12年(ネ)第3882号(判例時報1788号103頁)・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • マグライト事件:知財高判平成19年6月27日・平成18年(行ケ)第10555号(判例時報1984号3頁)・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • Christian Louboutin S.A. v. Yves Saint Laurent Am., Inc., 778 F. Supp. 2d 445 (S.D.N.Y. 2011)(米国・控訴審は連邦第2巡回区控訴裁判所2012年9月判決)
  • Qualitex Co. v. Jacobson Products Co., Inc., 514 U.S. 159 (1995)(米国)

参考文献

  • 宮川美津子「赤タブとレッド・ソール〜『新しいタイプの商標』保護の時代における判例再考」877頁以下(飯村敏明判事退官記念論文集所収)

本記事は法的アドバイスを提供するものではなく、一般的な情報提供を目的としています。具体的な法律問題については、弁護士にご相談ください。

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