はじめに
Googleで自社の登録商標を検索すると、検索結果の広告枠に「【楽天】○○大特集」と表示され、クリックすると楽天市場の商品一覧ページに飛ぶ――。自社商標が巨大ECモールの集客に使われているように見えるこの状況で、モール運営者の責任を問えるのでしょうか。
石けん・化粧品の通販サイト「石けん百貨」を運営する会社が、楽天株式会社を相手に約1593万円の損害賠償を求めた事件で、大阪高判平成29年4月20日(平成28年(ネ)第1737号・不正競争行為差止等請求控訴事件)・判決文PDF・裁判所ウェブサイトは、請求を棄却した原判決を維持しました。
ポイントは2つ。リンク先に何が表示されるかは加盟店のページ記述次第であり、運営者が「標章を付した」とは直ちにいえないこと。そして、侵害状態を認識した後、合理的期間内に是正すれば責任を負わないという判断枠組みです。プラットフォーム時代の商標実務の重要判例として解説します。
前提知識の整理
- 検索連動型広告:検索キーワードに応じて検索結果画面に表示される広告。広告主は表示のトリガーとなるキーワードを登録します。
- 商標の「使用」(2条3項8号):商品・役務に関する広告に標章を付して展示・頒布し、または電磁的方法により提供する行為は商標の使用に当たります(IKEA事件参照)。問題は、モールの検索結果ページに表示される商品を「誰が」表示させたのかです。
- プラットフォーム運営者の責任:商標権侵害品がモールで販売された場合の運営者の責任については、チュッパチャップス事件(知財高判平成24年2月14日)が、侵害を知ったとき等から合理的期間内に是正すれば責任を負わないという枠組みを示しています。
事案の概要
控訴人・生活と科学社は、「石けん百貨」等の登録商標を保有し、同名の通販サイトを運営しています。平成24年8月から平成26年9月にかけて、Google等で「石けん百貨」「石鹸百科」等を検索すると、「【楽天】石けん百貨大特集」「石けん 百貨は楽天市場」「石鹸 百貨 楽天が格安」といった広告(本件広告)が表示され、リンク先は楽天市場の検索結果一覧(リスト表示画面)でした。そしてそこには、加盟店の販売する石けん商品が陳列表示されることがありました。
重要なのは楽天市場の仕組みです。リスト表示画面に何が並ぶかは、加盟店が自分で作る出店ページにそのキーワードが含まれているかどうかで自動的に決まります。実際、訴状を受けて楽天が調査したところ、ある加盟店の出店ページに「石けん百貨」等が隠れ文字(背景色と同色の文字等)として仕込まれていたことが判明しました。楽天は訴状受領の当日にその店のページを検索非表示にし、隠れ文字の削除を求めています(隠れ文字は楽天のガイドラインで禁止されています)。
控訴人は、商標権侵害(選択的に不正競争防止法2条1項1号)に基づき損害賠償を請求しましたが、原審大阪地裁は棄却。控訴審が本判決です。

争点と裁判所の判断
「標章を付した」のは誰か――運営者の直接侵害を否定
裁判所はまず、リスト表示画面に何が表示されるかは「専ら被控訴人が制作に関与していない加盟店の出店ページ中の記述によって決まり」、楽天は「判断も関与も認識もしていない」と認定したうえで、次のとおり判示しました。
「加盟店が,出店ページのコンテンツを制作することにより,被控訴人の広告と検索の仕組みを利用して,当該石けん商品に「石けん百貨」という標章を付したといえる場合があることはともかくとして,それについて判断も認識もしていない被控訴人が,当該石けん商品に「石けん百貨」という標章を付したと直ちにいうことはできない」
標章を「付した」主体は隠れ文字を仕込んだ加盟店であり得ても、仕組みを提供しただけの運営者ではない――という整理です。
「合理的期間内の是正」の枠組み――認識後に放置すれば侵害
ただし裁判所は、運営者が常に免責されるとはしていません。重要な規範がこちらです。
「被控訴人が当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか,又はそれが可能になったといえるに至ったときは,その時点から合理的期間が経過するまでの間に……状態を解消しない限り,被控訴人は,「石けん百貨」という標章が付されたことについても自らの行為として認容したものとして,商標法2条3項8号所定の要件が充足され,被控訴人について商標権侵害が成立すると解すべきである。」
チュッパチャップス事件の枠組みを、検索連動型広告とリスト表示の場面に展開したものといえます。そして本件では、楽天が訴状受領の当日に問題の出店ページを検索非表示にし隠れ文字の削除を求めたこと等から、合理的期間内に状態は解消されたと認定されました。過去(平成17年)の通知の際も、キーワード登録の削除により対応済みとされています。
共同不法行為・不正競争防止法も否定
加盟店との共同不法行為の主張については、「被控訴人と販売業者に,それぞれ自己の行為でない部分について,他方の行為を利用する意思がなければならない」としたうえで、意思の連絡を認める証拠はないとして否定。不正競争防止法2条1項1号についても、本件広告には広告である旨が明記され「必ず「楽天」の語が使用されており,楽天がインターネットショッピングモールとして周知であることからすると,控訴人の主張する誤認混同のおそれは認められない」として退けました。

実務への影響・ポイント
第1に、モール運営者に対する権利行使は「通知→是正されない」の立証が鍵になることです。運営者の責任は、侵害状態の認識(可能性)と合理的期間内の不作為によって基礎づけられます。権利者側は、いきなり訴訟に進むのではなく、具体的な侵害状態を特定した通知を行い、その後の対応(是正の有無・速度)を記録することが、責任追及の前提になります。本件では楽天の「即日対応」が決め手となって免責されました。
第2に、真の標的は加盟店の隠れ文字だったことです。他人の商標をHTML上に見えない形で仕込み検索流入を得る隠れ文字は、IKEA事件のメタタグと同種の問題であり、仕込んだ加盟店自身の商標的使用と評価される余地は本判決も否定していません。権利者としては、モール運営者だけでなく、出店者本人への直接の権利行使を第一の選択肢とすべきです。
第3に、プラットフォーム側のコンプライアンス設計への示唆です。楽天の免責を支えたのは、出店規約による知財侵害の禁止・隠れ文字の禁止、通報への即日対応という体制でした。EC事業者にとって、通報窓口と迅速な是正フローの整備は、法的責任を画する実質的な防壁になります。
第4に、広告表示の態様の重要性です。不正競争の否定では、「【楽天】」の明示と広告表記が誤認混同を否定する方向に働きました。検索連動型広告で第三者の商標をキーワード・広告文に用いる場面の適法性は事案によりますが、自社名の明示は誤認リスクを下げる要素になります。
まとめ
- 楽天市場リスト表示画面の表示内容は加盟店のページ記述で自動的に決まるため、運営者が「標章を付した」とは直ちにいえないとされた
- ただし、出所表示機能を害する状態を具体的に認識し(またはそれが可能となり)、合理的期間内に是正しない場合には、運営者にも商標権侵害が成立するという枠組みが示された
- 本件では訴状受領当日の検索非表示措置等により合理的期間内の是正が認められ、責任は否定された
- 権利者は運営者への通知と是正状況の記録、出店者本人への権利行使を軸に対応を組み立てるべきであり、モール側は通報対応体制が責任の分水嶺になる
出典・参考判例
- 大阪高判平成29年4月20日(平成28年(ネ)第1737号・不正競争行為差止等請求控訴事件) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
参考文献
- 小林十四雄編集代表/末吉亙・西村雅子・大塚一貴・三山峻司編著『商標の法律実務――重要判例分析』(中央経済社・2023年)303〜310頁〔大塚一〕
- 小野昌延原著・三山峻司改訂『新・商標法概説〔第4版〕』(青林書院・2025年)26頁
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。