はじめに——「店の雰囲気が似ている」は法的な問題になるか
繁盛している飲食店と似た看板、似た内装、似たメニューの見せ方の店が近くにできる。個々の要素を取り出せばありふれたものでも、全体の雰囲気が似ていると、客が店を取り違えることはあり得ます。こうした「店舗の外観」を、不正競争防止法の商品等表示として保護できるのでしょうか。 本記事で取り上げるめしや食堂事件(大阪地判平成19年7月3日・平成18年(ワ)第10470号、判決文PDF・裁判所ウェブサイト)は、「まいどおおきに食堂」を展開する会社が、「めしや食堂」を展開する会社に対し、店名の類似と店舗外観の類似を理由に差止めと損害賠償を求めた事件です。店舗外観が営業表示になり得るかについて裁判所が初めて判断を示した判決として知られています。 この記事では、①店舗外観と商品等表示の枠組み、②事件の経緯と争点、③裁判所の判断、④コメダ珈琲店事件との対比と実務上のポイント、を解説します。前提知識——商品等表示と店舗外観
- 商品等表示(不正競争防止法2条1項1号):人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器・包装その他の商品または営業を表示するものです。他人の周知な商品等表示と同一・類似の表示を使用して混同を生じさせる行為は不正競争になります。著名な表示については、混同を要件とせずに冒用が規制されます(同項2号)。
- 表示の類否:商品等表示の類否は、取引の実情のもとで需要者が両表示の外観・称呼・観念に基づく印象・記憶・連想等から全体的に受ける印象で判断します。商品や役務の普通名称や、役務提供の場所を普通に用いられる方法で表示した部分は識別力が弱く、要部にはなりにくいと考えられます。
- 店舗外観(トレードドレス):米国では、店舗の外観や商品の全体的な見た目を「トレードドレス」として保護する判例法が確立しています。日本の不正競争防止法には明文はなく、店舗外観が「その他の商品又は営業を表示するもの」に当たるかが解釈に委ねられています。
事案の概要
原告は「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」(○○には店舗の所在地名が入る)という表示で食堂チェーンを展開する会社です。被告は昭和61年に設立され、「ザめしや」ブランドの店舗を長年運営し、平成17年9月から「めしや食堂」ブランドの店舗を出店し始めた会社です。訴え提起までに「めしや食堂」は17店舗に達していました。 原告は、主位的に、「めしや食堂」の表示が「まいどおおきに食堂」の表示と類似するとして、「食堂」の表示や看板等の使用差止め・廃棄を求めました。予備的に、原告店舗の外観が全体として原告の営業表示として周知・著名であり、被告店舗の外観がこれに類似するとして、看板・メニュー看板・蛍光灯・ポスターの使用差止め等を求め、あわせて1億1463万9000円の損害賠償を請求しました。 原告が営業表示として主張した店舗外観の構成要素は、①白地に黒の墨文字(毛筆体)で店名を書いた店舗看板、②木目調の看板に墨文字でメニュー数品目を書いた店外メニュー看板、③黒板に白字の毛筆体でメニュー数十品目を書いた店外メニュー看板、④上部が円形で白地に黒の墨文字のポール看板、⑤木の色・黒・白を基調に赤を用いた外装の配色、⑥店内の木目調メニュー看板、⑦玉子焼きだけ注文後に焼くコーナーを設けて名物と表記していること、⑧木の色で統一した内装と暖色系の照明、の8点です。
争点
- 「めしや食堂」の表示は「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」の表示に類似するか
- 原告店舗の外観は営業表示に当たるか
- 被告店舗の外観は原告店舗の外観に類似するか
- 被告による店舗外観の使用は不法行為を構成するか
裁判所の判断
争点1:「食堂」は要部にならない
裁判所は、原告表示のうち「ごはんや」「○○食堂」の部分は役務提供の場所や提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものにすぎず、識別力を有しないとし、「まいどおおきに(食堂)」の部分が原告の食堂チェーンのメインブランドとして高い識別性を有するとしました。被告表示についても同様に、次のように述べています。「「食堂」は,役務提供の場所,役務提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものにすぎないから,上記「食堂」のみから営業主体の識別標識としての称呼,観念を生ずるとはいえない。」被告は設立以来「ザめしや」等のブランドで店舗を運営してきたことから、被告表示は「めしや食堂」だけでなく「めしや」の称呼も生じます。「まいどおおきに(しょくどう)」と「めしや」を対比すれば両者は類似せず、「食堂」の部分が共通するからといって類似するとはいえない、として主位的請求は棄却されました。
争点2・3:店舗外観は営業表示になり得るが、類似性の判断は厳格
裁判所は、原告が店舗外観の個々の構成要素の共通点を挙げるだけで、全体としての店舗外観を十分に特定していないと指摘したうえで、店舗外観の保護可能性について次のように述べました。「店舗外観は,それ自体は営業主体を識別させるために選択されるものではないが,特徴的な店舗外観の長年にわたる使用等により,第二次的に店舗外観全体も特定の営業主体を識別する営業表示性を取得する場合もあり得ないではないとも解され,原告店舗外観全体もかかる営業表示性を取得し得る余地があること自体は否定することができない。」そのうえで、原告店舗外観が周知の営業表示に当たるかどうかの判断には立ち入らず、仮にそうだとしても類似しないという理由で結論を出しました。類否の判断基準は次のとおりです。
「単に,店舗外観を全体として見た場合の漠然とした印象,雰囲気や,当該店舗外観に関するコンセプトに似ている点があるというだけでは足りず,少なくとも需要者の目を惹く特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており,その結果,飲食店の利用者たる需要者において,当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきである。」あてはめでは、両店舗の外観で最も特徴があり主要な構成要素として需要者の目を惹くのは店舗看板とポール看板であるとし、そこに書かれた店名が類似しない以上、両看板は類似しないとしました。この相違が全体の印象・雰囲気に及ぼす影響は大きく、さらに木目調メニュー看板や黒板メニュー看板、外装の配色にも軽視できない相違があると認定しています。配色については、使われている色の種類は共通するものの、それぞれの色が用いられている箇所は全く異なっており、原告店舗が黒・白を基調とした古くからある町の食堂を思わせる素朴な印象であるのに対し、被告店舗はより近代的で華やかな印象を与えると評価しました。玉子焼きコーナーは役務提供の方法そのものであって原告に独占を認めることはできず、暖色系の照明は飲食店として極めてありふれたものだとされています。 原告は、営業表示に無関心な需要者層は個々の要素が似ていなくても全体の印象で店を取り違えると主張しましたが、裁判所は、そうした需要者は表示に信用を置いているから混同するのではなく、無関心だから相違に気づかないだけであるとして、この主張を退けました。
争点4:不法行為も成立しない
店舗外観が類似しない以上、被告による店舗外観の使用は原告の法律上保護される利益を侵害するものではなく、不法行為も構成しないとされました。原告の請求はすべて棄却され、控訴審(大阪高判平成19年12月4日・平成19年(ネ)第2261号、判決文PDF・裁判所ウェブサイト)も控訴を棄却しています。
判決の意義とコメダ珈琲店事件との対比
本判決の意義は、店舗外観が営業表示として保護される可能性を初めて正面から認めた点にあります。店舗外観は本来営業主体を示すために選ばれるものではないという出発点に立ちつつ、特徴的な外観の長年の使用「等」により二次的に営業表示性を取得し得るとしました。学説では、「等により」とある以上、使用期間が短くても外観が相当に奇抜で識別力が高ければ営業表示性を取得する場合があり得るとの指摘もあります。 同時に、本判決は保護の範囲を限定する基準も示しました。抽象的なコンセプトや営業上のテーマまで保護すれば競業者の選択肢を狭めるため、需要者の目を惹く主要な構成部分の同一性・著しい類似性を要求したのです。 この判決と対比されるのが、コメダ珈琲店事件(東京地決平成28年12月19日・平成27年(ヨ)第22042号、決定文PDF・裁判所ウェブサイト)です。コメダ珈琲店の運営会社が、郊外型店舗の外観を模した喫茶店に対して仮処分を申し立て、裁判所は店舗外観の構成要素を特定したうえで営業表示性を認め、使用の差止めを命じました。めしや食堂事件では原告が構成要素の共通点を列挙するにとどまり、全体としての店舗外観を特定できていないと指摘されたのに対し、コメダ珈琲店事件では保護を求める外観の範囲を特定したことが、営業表示性の判断に進めた要因と分析されています。| 観点 | めしや食堂事件(大阪地判平成19年7月3日) | コメダ珈琲店事件(東京地決平成28年12月19日) |
|---|---|---|
| 外観の特定 | 構成要素の共通点を列挙。全体としての特定が不十分と指摘 | 保護を求める外観の構成要素を特定 |
| 営業表示性 | 取得し得る余地は認めたが判断せず | 認定 |
| 類似性 | 主要構成部分(看板)が非類似 | 類似と判断 |
| 結論 | 請求棄却 | 差止めの仮処分認容 |
実務への影響・ポイント
- 店舗外観の保護を求める側:どの構成要素の組合せを「営業表示」として主張するのかを、写真や図面で具体的に特定することが出発点です。ありふれた要素(暖色系照明、定番メニューの提供方法など)を含めると独占適応性の観点から不利になるため、他店にない顕著な特徴に絞り込む必要があります。そのうえで、その外観を継続的・独占的に使用してきた期間や宣伝の状況を立証します。
- 出店する側:既存の有名店と業態が同じであっても、看板やポール看板など需要者の目を惹く主要部分が明確に異なっていれば、類似とは判断されにくいのが本判決の示すところです。逆に、看板のデザインや配置まで似せると危険です。
- 店名の選択:「食堂」「珈琲店」のような普通名称部分は要部にならず、ブランド部分どうしで類否が判断されます。店名の中核となる部分が既存店と紛らわしくないかを確認しましょう。
まとめ
めしや食堂事件は、店舗の外観が二次的に営業表示性を取得し得ることを認めつつ、類似性の判断は主要な構成部分の同一性・著しい類似性を要するという厳格な基準を示した判決です。原告の請求は棄却されましたが、この判断枠組みは後のコメダ珈琲店事件で店舗外観の保護が認められる際の前提になりました。店舗外観をブランドとして守りたい事業者にも、既存店と似た業態で出店する事業者にも、保護の要件と限界を知るうえで重要な判決です。出典・参考判例
- 大阪地判平成19年7月3日・平成18年(ワ)第10470号〔めしや食堂事件〕・判時2003号130頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 大阪高判平成19年12月4日・平成19年(ネ)第2261号〔同控訴審〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 東京地決平成28年12月19日・平成27年(ヨ)第22042号〔コメダ珈琲店事件〕・決定文PDF・裁判所ウェブサイト
- 不正競争防止法2条1項1号・2号、3条、4条(e-Gov法令検索の現行法で照合)
参考文献
- 大阪弁護士会友新会編『最新 不正競争関係判例と実務〔第3版〕』(民事法研究会、2016年)316〜321頁
- 小野昌延・松村信夫『最新 不正競争防止法概説【上巻】』(青林書院、2025年)229〜231頁
- 井口加奈子「店舗外観保護の戦略的法務——大阪地判平成19・7・3不正競争行為差止等請求事件を手がかりに」NBL892号(2008年)8頁
- 特許庁委託『店舗の外観等(トレードドレス)に関する制度・運用についての調査研究報告書』(平成31年3月)
免責事項
本記事は、裁判所ウェブサイトで公開されている判決情報および一般的な法律情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。実際の対応にあたっては、必ず弁護士にご相談ください。
この記事の執筆・監修
虎ノ門法律特許事務所 代表
弁護士・弁理士 大熊 裕司
第一東京弁護士会所属(登録番号:37803)・日本弁理士会所属。商標・不正競争防止法をはじめとする知的財産紛争に注力し、警告書対応から審判・訴訟まで一貫して取り扱う。