ミシュラン社名差止請求事件 東京地裁平成10年3月30日判決 

 本件の原告は、自動車用タイヤの製造販売を主たる業務とし、地図やレストランガイドの提供でも有名なフランス企業であるミシュラン社です。
 本件の被告らは、「株式会社ミシュラン」の商号を被告会社の営業を示す表示として使用し、サンドイッチ、弁当等の製造販売等を行っていたため、原告が「株式会社ミシュラン」の商号の使用の差止請求等を求めて起こしたのが本件訴訟です。
 主な争点は、①原告の営業表示及びその周知性、著名性、②混同のおそれの2点です。
 東京地裁は、原告の周知性、誤認混同のおそれがあることを認め、商号の使用差止、商号の抹消登記手続、損害賠償の請求について認めました。
 東京地裁の判断は以下の通りです。

争点①原告の営業表示及びその周知性、著名性について
「原告は、一八六三年に設立されたフランスの会社である。...原告は、昭和四〇年代以降、アメリカ合衆国の市場への本格的進出、高性能タイヤの開発などにより、タイヤの販売量を伸ばし、昭和五三年ころには、ラジアルタイヤでは世界最大規模となり、現在、タイヤメーカーであるグッドイヤー、プリヂストンと、世界のタイヤの市場占有率を競っており、最近の数年間は、世界第一位であった。...原告は、明治三三年(一九〇〇年)から、地図及びレストランガイドの提供を始めた。原告のレストランガイドは、『ミシュラン』という名称で知られており、表紙が赤色であることから、『ミシュラン』の『レッドガイド』と呼ばれ、毎年三月に一八〇万部出版されるが、六月ころにはほとんど売り切れてしまう状態である。...我が国においては、昭和五二年、洋書店の丸善から、原告のレッドガイド及びグリーンガイドの英語版、フランス語版、ドイツ語版等並びにフランス、ヨーロッパなどの地図について、宣伝パンフレットが発行された。...経済誌である『日経ビジネス』の平成八年七月二二日号には、アメリカ合衆国の経済誌『フィナンシャル・ワールド』が同月に発表したデータをもとにした代表的なブランドの資産価値が掲載されており、原告のブランドである『ミシュラン』の資産価値は、五三億四五〇〇万ドルで世界第二三位であり、ハイテク分野の『マイクロソフト』、食品分野の『ナビスコ』などのブランドと同程度の価値があることが記載されている。右認定の事実によれば、『ミシュラン』の表示は、我が国において、遅くとも昭和五二年ころには、原告の商品及び営業を示す表示として広く認識されており、それ以後、現在に至るまで、広く認識されているものと認められる。」

争点②混同のおそれについて
「企業の経営が多角化した今日においては、当該企業自体はもとより、当該企業と親会社、子会社の関係にある企業や系列企業が、当該企業が本業としていた分野以外の事業に携わることが少なくないため、周知表示の主体と類似表示の使用者との間に直接の競業関係が存在せず、周知表示の主体の本業と異なる分野の事業に類似表示が用いられた場合にも、類似表示の使用者と周知表示の主体との間に営業上の密接な関係があると誤信される可能性が高く、このような誤解が生じることにより、周知表示の主体について、売上げの減少や周知表示の顧客吸引力の減殺など有形無形の損害が生じ又は生じるおそれがある。不正競争防止法は、周知表示を保護する観点から、周知表示に対するこのような侵害行為を防止しようとしているものであるから、同法二条一項一号の『混同を生じさせる行為』とは、他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が、自己と右他人とを同一営業主体と誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係ないしは同一の商品化事業を営むグループに属する関係などの密接な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をも包含するものと解するのが相当である。これを本件についてみると、前記一1認定の原告の事業内容、前記一2認定の原告の営業表示の周知性、前記二認定の被告らの事業内容、前記三認定の原告の営業表示と被告会社の営業表示の類似性に照らせば、被告らが、「株式会社ミシュラン」の商号を、被告会社の営業表示として使用し、サンドイッチ、弁当等の製造販売、居酒屋の経営を行っていることは、被告らが、原告の営業表示と類似の営業表示を使用し、被告会社と原告とを同一営業主体と誤信させるか、若しくは、原告と被告会社の間に、いわゆる親会社、子会社の関係ないしは同一の商品化事業を営むグループに属する関係などの密接な営業上の関係が存するものと誤信させる行為であり、不正競争防止法二条一項一号の『混同を生じさせる行為』に該当するものと認められる。」

お気軽にお問合せください!

お問合せ・ご相談

主な業務地域
日本全国

連絡先 お問合せフォーム