スナックシャネル事件(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決)

X(原告・被控訴人=附帯被控訴人・上告人)は世界的に有名な高級服飾グループの「シャネル・グループ」に属し「シャネル」の表示について商標権等の知的財産権を有し、その管理をおこなっているスイス法人です。
Y(被告・被控訴人=附帯控訴人・被上告人)は千葉県松戸市内の賃借店舗において「スナックシャネル」の営業表示を使用し、サインボードにこれを表示して飲食店を開店しました。
Xは「Yは、その営業上の施設又は活動に『シャネル』又は『シャレル』その他『シャネル』に類似する表示を使用してはならない」とする差止請求及び損害賠償を請求しました。一審の松戸地裁ではXの差止請求と損害賠償請求の一部を認めましたが、Xが控訴、Yが附帯控訴しました。二審の東京高裁では、Yの営業の種類、内容及び規模等に照らすとYが本件営業表示を使用してもシャネル社の営業上の施設等と混同を生じるおそれはないとしてXの請求を棄却し、Yの付帯控訴を容れた為、Xは上告しました。

最高裁は、「新法二条一項一号に規定する『混同を生じさせる行為』は、右判例が旧法一条一項二号の『混同ヲ生ゼシムル行為』について判示するのと同様、広義の混同惹起行為をも包含するものと解するのが相当である。けだし、(一)旧法一条一項二号の規定と新法二条一項一号の規定は、いずれも他人の周知の営業表示と同一又は類似の営業表示が無断で使用されることにより周知の営業表示を使用する他人の利益が不当に害されることを防止するという点において、その趣旨を同じくする規定であり、(二)右判例は、企業経営の多角化、同一の表示の商品化事業により結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業を取り巻く経済、社会環境の変化に応して、周知の営業表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同惹起行為をも禁止することが必要であるというものであると解されるところ、このような周知の営業表示を保護する必要性は、新法の下においても変わりはなく、(三)新たに設けられた新法二条一項二号の規定は、他人の著名な営業表示の保護を旧法よりも徹底しようとするもので、この規定が新設されたからといって、周知の営業表示が保護されるべき場合を限定的に解すべき理由とはならないからである。これを本件についてみると、被上告人の営業の内容は、その種類、規模等において現にシャネル・グループの営む営業とは異なるものの、「シャネル」の表示の周知性が極めて高いこと、シャネル・グループの属するファッション関連業界の企業においてもその経営が多角化する傾向にあること等、本件事実関係の下においては、被上告営業表示の使用により、一般の消費者が、被上告人とシャネル・グループの企業との間に緊密な営業上の関係又は同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信するおそれがあるものということができる。したがって、被上告人が上告人の営業表示である「シャネル」と類似する被上告人営業表示を使用する行為は、新法二条一項一号に規定する「混同を生じさせる行為」に当たり、上告人の営業上の利益を侵害するものというべきである。」として破棄戻しとしました。

本判決は2条1項1号の「混同」に「広義の混同」が含まれることを明確にしている点で注目すべき判決と言えるでしょう。

お気軽にお問合せください!

お問合せ・ご相談

主な業務地域
日本全国

連絡先 お問合せフォーム