青山学院事件 東京地裁平成13年7月19日判決

本件の原告は「青山学院大学」「青山学院中等部」等の学校を設置運営する学校法人で、被告が設置運営する中学校に「呉青山学院中学校」、ローマ字表記、英語表記として「Kure Aoyama Gakuin」、「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の名称を用いる行為は、不正競争行為に当たり、同時に「青山学院」「AOYAMA GAKUIN」等の原告の商標権を侵害するとして、被告に対し、選択的に、不正競争防止法2条1項1号、2号又は商標法36条1項に基づき上記各名称等の使用差止めを求めるとともに、被告の不正競争行為又は商標権侵害を理由とする損害賠償を求めたという事件です。
東京地裁は、「原告『青山学院』は、明治時代に米国メソジスト監督教会から派遣された宣教師によって開校された『女子小学校』、『耕教学舎』及び『美會神学校』の3校に端を発し、以来125年余の歴史を有するもので、私学として我が国有数の総合的教育機関を運営するものである。...青山学院大学の入学志願者は北海道から沖縄まで全国にわたっており、これに応じるべく、原告は、例年、受験生、保護者を対象とする進学相談会や入試に関する広報を、全国規模で実施している。...原告は、全国放送、雑誌、新聞を通じて建学の精神、総合的な教育事業の内容、キャンパス紹介等について積極的に広報活動を行い、その名声を高める努力を行っている。また、原告名称について商標登録を行い、これを管理して、原告名称が冒用されることのないように努めている。...原告名称は、遅くとも平成11年3月までには、原告が行う教育事業及び原告が運営する各学校を表す名称として、学校教育及びこれと関連する分野において著名なものになっていたものと認めることができる。...『青山学院』の表示が著名であることからすれば、被告漢字名称からは『青山学院と何らかの関連を有する呉所在の中学校』という観念が想起されるのであって、両者は観念において類似するというべきである。...被告が設置する中学校につき被告名称を用いる行為は、不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争行為に該当する。」と判断しました。

ヤンマーラーメン事件 大阪高裁昭和47年2月29日判決

控訴人(原告)は、農業用や船舶用等の各種ディーゼルエンジンの製造販売メーカーとして国内で周知なヤンマーディーゼルです。控訴人は、被控訴人がインスタントラーメンに、「ヤンマーラーメン」等の表示を使用し、宣伝広告しているのは不正競争行為に該当するとして使用の差止を請求しました。
大阪高裁は、「不正競争防止法(旧)一条一号、二号の『混同』については、単に文字的、数学的な基準によることなく、当該表示の使用方法、態様等諸般の事情に照らし、かつ、取引界の実情、並びに常識ある普通人の取引上における客観的注意を標準として、具体的に評価判断すべきものである(それは単なる事実問題ではなく法律問題である。)こと前記のとおりであるから、たとえ前記各調査の結果、『事実上の混同』を肯定する比較的多数人の回答ないし統計的数値が得られたとしても、直ちに右法条の『混同』を認めうるものでない。」として本件控訴を棄却しました。

J-PHONE事件 東京高裁平成13年10月25日判決

控訴人(被告)は、日本におけるドメイン名の割当てを統括している社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)から「j-phone.co.jp」のドメイン名(以下「本件ドメイン名」という。)の割当てを受け、「http://www.j-phone.co.jp」をインターネット上のアドレスとして、インターネット上のウェブサイトを開設し、「J-PHONE」等の表示を用いて商品の宣伝等をしていました。

被控訴人(原告)は、「J-PHONE」の表示を用いて、移動体通信事業(携帯電話による通信サービス)を行っており、被控訴人は控訴人の行為は、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該当するとして、表示の使用中止及びウェブサイトからの抹消並びに損害賠償請求を行いました。原判決では中止及び抹消の各請求が認容され、損害賠償の請求も一部認容された為、控訴人がこれを不服として控訴したのが本件訴訟にあたります。
東京高裁は、「控訴人は、被控訴人が本件サービス名称の使用を開始したのは、控訴人が本件ドメイン名の割当てを受けた後のことである旨主張する。しかしながら、被控訴人が本件サービス名称の使用を開始したのは平成9年2月7日であり、同名称は、全国的な広告宣伝活動の結果、遅くとも、控訴人が本件ドメイン名の割当てを受けた平成9年8月29日の時点では既に被控訴人及びその関連会社の営業を示す表示として全国規模で広く認識されるに到っていたことは、上に引用した原判決が正当に認定するところである。控訴人の上記主張は、その前提において既に誤っており、採用することができない。控訴人は、原判決が、主文第2項において、控訴人に対し、ウェブサイト上からの本件表示の抹消を命じたのは、控訴人の表現の自由を侵害するものであって許されない旨主張する。しかしながら、不正競争行為を現にしているもの、あるいは、不正競争行為をするおそれがある者に対し、当該不正競争行為を禁止することが許されるのは当然であり、仮に、そのことによって表現の自由が制約を受けることになったとしても、そのことは何ら憲法に違反するものではないというべきである。控訴人の主張は、採用することができない。」として本件控訴を棄却しました。

フイゴ履事件 東京地裁昭和47年3月17日判決

原告Aはフイゴを業として製造販売しており、 原告Aを除くその余の原告らは、「フイゴ履」その他の履物の製造販売を業とするものです。被告は、「履物台」に関する登録実用新案の専用実施権者で、原告らは被告の専用実施権を侵害しているとして、週刊誌や月刊誌に原告の商品は被告の実用新案に抵触するものであるから注意されたい旨の広告を掲載したり、原告らの取引先に対して販売停止等を求める旨の書面などを送付していました。
原告らは、原告らの製品は被告の考案の技術的範囲に属するものではなく、被告は虚偽の事実を陳述し、流布したとして本件訴訟を提起しました。
東京地裁は、原告らの「フイゴ履」は被告の考案の技術的範囲に属するものではないと認定しました。そして、被告が原告らの取引先に対して販売停止等を求める旨の書面などを送付していたことについては、「被告が、...原告らが主張するような行為をしたことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実によれば、右行為は、原告らの『営業上ノ信用ヲ害スル......事実ヲ陳述シ又ハ之ヲ流布スル行為』であることは明らかであり、また、前説明のところから、右行為は、『虚偽ノ事実』を陳述しまたはこれを流布する行為であることもまた明らかである。しかして、右行為によつて原告らがその営業上の利益を害せられる虞れのあることは容易に推定することができるから、原告らは、被告に対してそのような行為を止むべきことを請求できるものといわなければならない。」と判断しました。

アメックス事件 最高裁平成5年12月16日判決

原告であるアメリカの法人は、クレジットカードサービス事業などを世界的に行っているアメリカン・エキスプレスグループの一員です。昭和51年頃から原告の略称表示として「アメックス」の表示が新聞記事等で使われ始めました。原告は、被告が商号「アメックス・インターナショナル」を使用する行為や、「アメックス・インターナショナル」、「アメックス」の表示を使用するのは不正競争行為に該当するとして、使用の差止等を請求ました。
最高裁は、「不正競争防止法1条1項2号にいう広く認識された他人の営業であることを示す表示には、営業主体がこれを使用ないし宣伝した結果、当該営業主体の営業であることを示す表示として広く認識されるに至った表示だけでなく、第三者により特定の営業主体の営業であることを示す表示として用いられ、右表示として広く認識されるに至ったものも含まれるものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原審の確定したところによれば、上告人が第一審判決主文第一項記載の各表示(以下『上告人表示』という )及び上告人の商号の使用を開始したのは昭 。和五五年一月九日以降であるが、同五四年末までには 『A』の語が、新聞記事等において被 、上告人の略称として使用されたことにより、被上告人の営業を示す表示として我が国において広く認識されていたものである、というのであって、右認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。右表示と上告人表示及び上告人の商号とが類似することは明らかであるから、上告人が上告人表示及び上告人の商号を使用する行為が不正競争防止法1条1項2号所定の他人の営業活動と混同を生じさせる行為に該当するとした原審の判断は、これを是認することができる。」として本件上告を棄却しました。

2色カプセル事件 知財高裁平成18年9月28日判決

本件訴訟の控訴人、被控訴人は、いずれも医薬品・医薬部外品等の製造・販売等を業とする株式会社です。控訴人は、蓋をする部分が概ね緑色で、蓋をされる部分が概ね白色のカプセルに薬剤を入れて、このカプセルをPTPシートに収納して販売しています。被控訴人は控訴人のカプセルと色彩構成が類似しているカプセルをPTPシートに収納して販売しています。控訴人は、被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号に該当するとして差止請求及び損害賠償請求等をしました。
 知財高裁は、「色彩自体は本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではなく、一定の場合に特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合があるにすぎないものであり、しかも、色彩は本来何人も自由に使用することのできるものであるから、原告カプセル及び原告PTPシートの色彩構成について、商品を他から識別して特定の出所を表示する機能を備えているものとして、その独占を認めるためには、少なくともそれがありふれたものではない顕著な特徴を有していることが必要であると解すべきであり、このことは医療用医薬品についても何ら異なるところはないというべきである。...原告色彩構成は、ありふれたもので、特異性はなく、他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできないから、出所表示機能を有するものではなく、不正競争防止法2条1項1号にいう『商品等表示』であるということはできない。」として本件控訴を棄却しました。

天理教事件 最高裁平成18年1月20日判決

上告人は、宗教法人であり「天理教・・・大教会」又は「天理教・・・分教会」の名称で活動しています。被上告人は、上告人との間で被包括関係を設定していましたが、上告人の教義は教祖の教えとは異なるものであると考えるようになり、被包括関係を廃止する旨の通知書を上告人に送付しました。
被上告人は、上告人との被包括関係の廃止後も、教祖の教典に基づいて、朝夕の勤行、月次例祭等の年中行事などの宗教活動を継続的に行っており、その宗教活動につき、「天理教豊文教会」の名称を使用していました。被上告人は、現在収益事業を行っておらず、近い将来これを行う予定もないとのことです。
最高裁は、「宗教法人の活動についてみるに、宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動に関しては、営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提とするものではなく、不正競争防止法の対象とする競争秩序の維持を観念することはできないものであるから、取引社会における事業活動と評価することはできず、同法の適用の対象外であると解するのが相当である。また、それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても、教義の普及伝道のために行われる出版、講演等本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業についても、本来的な宗教活動と切り離してこれと別異に取り扱うことは適切でないから、同法の適用の対象外であると解するのが相当である。...不正競争防止法2条1項1号、2号は、他人の商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡するなどの行為を不正競争に該当するものと規定しているが、不正競争防止法についての上記理解によれば、ここでいう『営業』の意義は、取引社会における競争関係を前提とするものとして解釈されるべきであり、したがって、上記『営業』は宗、教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まないと解するのが相当である。」として、本件上告を棄却しました。

超時空要塞マクロス事件 東京地裁平成16年7月1日判決

原告は、テレビ映画「超時空要塞マクロス」及び劇場用映画「超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか」の製作者です。被告らは、「マクロスⅡ」、「マクロスセブン」、「マクロスプラス」、「マクロスダイナマイト7」などと題する映画を製作販売しました。原告は、「マクロス」という表示は原告の商品等表示として需要者に広く認識されているとして、被告に対して不正競争防止法2条1項1号及び2号を理由として不当利得返還請求を行いました。
東京地裁は、「本件において、原告は、本件テレビアニメの題名『超時空要塞マクロス』及び本件劇場版アニメの題名『超時空要塞/マクロス』が周知ないし著名となり、その結果、本件表示が原告の商品等表示として周知ないし著名となったと主張するが、これらの題名は、著作物であるアニメーション映画自体を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体としての映画製作者等を識別する機能を有するものではないから、不正競争防止法2条1項1号、号にいう『商品等表示』に該当しない。したがって、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメの題名が一般に広く知られていたとしても、それによってなにびとかの商品ないし営業が周知ないし著名となったということはできない。」として原告の請求を棄却しました。

JACCS事件 富山地裁平成12年12月6日判決

本件は、インターネット上「jaccs」の文字を含むドメイン名を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をする被告に対し、「JACCS」という営業表示を有する原告が、被告による右ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号、2号)に当たるとして、右ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における右表示の使用の差止を求めた事案です。(このころにはまだ2条1項12号の規定が無かった為、2条1項1号、2号に基づき差止請求がなされています。)
富山地裁は、「ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があることからすれば、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当であり、ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法2条1項1号、二号所定の『商品等表示』の『使用』に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。被告は、本件ドメイン名の登録を受けた後、ホームページを開設し、右画面には、『ようこそJACCSのホームページへ』というタイトルの下に、『取扱い商品』、『デジタルツーカー携帯電話』及び『NIPPON KAISYO,INC.』のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた(争いのない事実)。右ホームページの表示内容(リンク先も含む。)は、携帯電話等の商品の販売宣伝をするものであり、右ホームページの画面には大きく『JACCS』と表示されていて、ホームページの開設主体であることを示しており、ドメイン名も『jaccs』で、『JACCS』のアルファベットが小文字になっているにすぎないことからすれば、この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の『JACCS』の表示と共に、ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、『商品等表示』の『使用』と認めるのが相当である。」と判断しました。

ルービックキューブ事件 東京高裁平成13年12月19日判決

原告は、回転式立体組合せ玩具を製造販売しています。被告は、原告商品と形態の類似する回転式立体組合せ玩具(被告商品)を輸入、販売していました。

原告は、原告の回転式立体組合せ玩具は、原告の商品等表示として周知・著名なので被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するとして差止請求及び損害賠償請求をしました。
東京高裁は、「不正競争防止法2条1項1号は、周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するため、実質的に競合する複数の商品の自由な競争関係の存在を前提に、商品の出所について混同を生じさせる出所表示の使用等を禁ずるものと解される。そうすると、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない商品形態にまで商品等表示としての保護を与えた場合、同号が商品等表示の例として掲げる『人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装』のように、商品そのものとは別の媒体に出所識別機能を委ねる場合とは異なり、同号が目的とする出所表示機能の保護を超えて、共通の機能及び効用を奏する同種の商品の市場への参入を阻害することとなってしまうが、このような事態は、実質的に競合する複数の商品の自由な競争の下における出所の混同の防止を図る同号の趣旨に反するものといわざるを得ない。したがって、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態は、同号にいう『商品等表示』に該当しないと解すべきである。...本件商品形態は、同種の商品に共通する機能及び効用に由来する数少ない選択肢である上、本件商品形態を避けて他の商品形態を採用した場合、一般需要者にとって代替可能な商品として市場において原告商品とは競合し得ない商品となってしまい、そのようなものはもはや同種の商品ということはできない。そうすると、本件商品形態は、原告商品と同種の商品に共通してその機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ないものと解するのが相当であり、したがって、商品等表示に該当しないものというべきである。」として不正競争行為にあたらないと判断しました。

お気軽にお問合せください!

お問合せ・ご相談

主な業務地域
日本全国

連絡先 お問合せフォーム