ポパイ・マフラー事件(最高裁平成2年7月20日第二小法廷判決)

本判決は商標権の権利濫用についての重要な判例です。
事例について簡単に説明すると上部に「POPEYE」の文字、下部に「ポパイ」の文字を横書きし、その間に力こぶを作った水平の図形について、指定商品「マフラー」等について商標登録を受けた者がいて、その後本商標権は移転されるのですが、その商標権者が全世界的に有名なポパイ漫画のライセンシーである製造業者からマフラーを仕入れて販売している者に対して商標権に基づき差止請求と損害賠償請求をしたという事件です。

最高裁は「本件商標登録出願当時既に、連載漫画の主人公『ポパイ』は、一貫した性格を持つ架空の人物像として、広く大衆の人気を得て世界に知られており、『ポパイ』の人物像は、日本国内を含む全世界に定着していたものということができる。そして、漫画の主人公『ポパイ』が想像上の人物であって、『POPEYE』ないし『ポパイ』なる語は、右主人公以外の何ものをも意味しない点を併せ考えると、『ポパイ』の名称は、漫画に描かれた主人公として想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれてきたものというべきである。したがって、乙標章がそれのみで成り立っている『POPEYE』の文字からは、『ポパイ』の人物像を直ちに連想するというのが、現在においてはもちろん、本件商標登録出願当時においても一般の理解であったのであり、本件商標も、『ポパイ』の漫画の主人公の人物像の観念、称呼を生じさせる以外の何ものでもないといわなければならない。以上によれば、本件商標は右人物像の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきであり、客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと、被上告人が、『ポパイ』の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章を付した商品を販売している者に対して本件商標権の侵害を主張するのは、客観的に公正な競業秩序を乱すものとして、正に権利の濫用というほかない。」として商標権の行使を認めませんでした。

本判決がでるまでは登録主義を採用している我が国においては、特許庁が審査をして商標権を付与した以上、商標権に瑕疵があるとしても裁判所は商標権の権利行使を権利濫用とすることはできないのではないかという意見が強くありました。
本判決は、商標権者が著名著作物にただ乗りして商標権を権利行使するのは権利の濫用にあたると判断したという点で意義があり、とても重要な判決です。

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